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32話

「ガレット卿の意見にも俺も同意だ、エヴァン少領」


「おい侯爵閣下! 今すぐ外で罪のない領民がバタバタ死んどるばい! それなのに部屋に閉じこもって、指くわえて見とるだけなんですかばい!」


『責任とか大層な使命とか、できるだけ遠ざかりたかったのに……』


目の前で繰り広げられるこの光景を無視して通り過ぎたら、

後でどんな業火となって俺を焼きに来るか、想像するだけでゾッとする。

俺だって所詮は凡人だ。

だが、そんな壮大な視点で物事を見るより――


『ただ見ているだけじゃ、心が痛すぎる』


「ガレット卿」


「なんや、デミアン坊ちゃん」


「一刻を争う状況で、互いに折衷案を見つけるのが、みんなにとっても事態収拾にとっても得じゃないですか……どうでしょう?」


「そらその通りや」


俺の提案を、信じられんくらいあっさり受け入れてくれたガレット卿とエヴァン少領。

俺は二人の意見が割れた本当の理由を詳しく聞くことができた。


「うむ……そんな裏事情があったとは……」


これまではガレット卿の立場しか知らなかった。

エヴァン少領の本心を知ったフェリックスは、深く胸を痛めてうめいた。


『こりゃあ……』


安楽な暮らしから遠ざかり、責任と危険に近づくのは前世で十分味わったからごめんだと思っていたのに……

いつの間にか俺は、俺は二人に手を差し伸べていた。

状況そのものが、俺に深く関われと言わんばかりに転がり込んできた。

これ以上スムーズに解決する見込みはなかった。


『俺の手に負える範疇を超えてるのは勘弁なのに……』


エヴァン少領が、あれほど要塞から一日離れた村にこだわる理由。

それは、確信もなく自分についてきてくれた部下たちと、不慮の事故で退役した戦友とその家族への、強い責任感と申し訳なさだった。


「おい侯爵閣下! 俺を信じてこんな辺境までついてきてくれた連中ばい! せめて骨でも拾わんと、俺の心が収まらんばい!」


『確かに間違ったことは言ってない……』


だがそれとは別に、エヴァン少領は要塞でガレットに次ぐ重要人物であり、指揮権を持つ高級将校だ。

そんな人材を軽率に扱うわけにはいかないが、ガレットが同行するわけにもいかない。


『指揮官二人が同時に抜けたら、敵は大喜びだろうな』


エヴァン少領と長く時間を共にしてきたガレットは、正式な将校課程は修了していないが、経験と年輪に裏打ちされた知識を持つ人物だった。

『騎士とは全く違う指揮系統と戦術を持つ兵士たちから、これだけの信頼を集める逸材だ』


だからこそ補完関係にある二人を、フェリックスはエヴァンと共にガレットを要塞総責任者兼総司令官に任命したのだ。


「ううむ……」


フェリックスは二人の意見がどちらも正論であることに苦悩した。いや、苦悩しているふりをしながら……


『ん?』


一瞬だけだが、フェリックスの目が俺に向かって光った。

その視線から、俺は一つの事実を読み取った。

俺に何かを期待しているということだ。


「侯爵はん、俺も行きたい気持ちは山々やけど、こうなってしもうたらどうしようもあらへん!」


「おい兄貴、侯爵閣下! どんなに言われても俺は絶対行かんといかんばい!」


「話聞いとらんのか! ダメやて何度も言うとるやろが!」


「おい兄貴、兄貴が何と言おうと俺は行くばい!」


またしても二人の間に火花が散りかけた。

分野は違うが鍛え上げられた武人同士。

抑えていた鋭い気を解放しながら激論を交わす。

少し離れたところで見ているだけで、俺の肌が針で刺されるようにピリピリした。


『逃げた先に楽園なんてない』


俺に期待を込めた視線をチラチラ送り続けるフェリックス。

このまま無意味な会議を繰り返すのは俺も望まない。


『ククン』


覚悟を決めた俺は、フェリックスに向かって言った。


「父上、俺がガレット卿の代わりに行ってもいいですか?」


「ガレットと一緒に騎士としての経験を積んだわけでもないお前がか?」


「はい」


俺は固い決意を込めて答えた。


「昔ならいざ知らず……デミアン、お前はまだ……」


言葉を濁したが、意図は顔に表れていた。

俺もよくわかっていた。今の俺がどんな状態か。


『前世では大人だったけど、今は子供の体だからな……当然だ』


激論の最中も俺とフェリックスの会話を聞いていた二人は、急にこちらを振り返った。


「坊ちゃん! いくらなんでもそれはあきまへん!」


「その通りや! 坊ちゃん」


さっきまで意見が対立していたのが嘘のように、二人は完全に一致団結して反対した。


実父であるフェリックスは極めて冷静な顔で俺に聞いた。


「そのために三日間、寝る間も惜しんで改造してたんだな?」


「全部お見通しだったんですか?」


「ハハハハハハ! 見た目はこうでも一応はお前の親だぞ」


これまで大人らしいところをほとんど見せなかった彼を、俺はこの瞬間から新しい目で見ることになった。


俺の成長が嬉しいのか、それとも別の何かが楽しいのか、しばらく腹を抱えて笑っていたフェリックスは、ふと真顔になり言った。


「お前の祖父、そしてその祖父の時代では、お前くらいの歳なら戦場を経験して余裕あった頃だ」


それを聞いてエヴァン少領とガレットは信じられないという顔をした。

そして二人は主であるフェリックスに一言言おうと口を開いた。

次回の話は12月6日(土)午後8時にアップロードされる予定です。

ぜひご覧ください!

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