16話
-カチカチ-
-キリキリ-
俺は父さんの下で働く技術者たちの力を少し借りて作った装備を、二足歩行の建設機械に取り付けていた。
その様子を静かに見守るアルドリックに、視線を向けず俺は言った。
「アルドリック、ちょっと聞いてもいいか?」
「珍しいな、親分。」
「俺だって知らないことはたくさんあるさ。人間だし、子供なんだからな。」
「親分の役に立つかわからんが、知ってる範囲で答えるぜ。」
アルフレッドやフェリックス、ロウェナ、乳母に聞いても、気まずい笑みを浮かべて答えをはぐらかされたこと。
俺は護衛であり剣術師範のソードマスターに尋ねることにした。
知りたいことを我慢するのは毒になり、ひいては病になるからな。
「獣人族の尻尾を触ることに、どんな意味があるか教えてくれ。」
「は? 本気で知らないで聞いてるのか、親分?」
俺はしっかり固定するためにネジを締めていた手を止め、アルドリックに視線を向けた。
頷くと、彼は少し困った顔で後頭部をガシガシ掻いた。
「獣人同士の風習だと聞いたことがあるぜ、親分。」
「詳しく話してくれ。」
「うーん、奥様に後で怒られたくないんだけどな。」
「そんなことにはならないって保証するよ。」
アルドリックは気まずそうな表情を消せないまま、説明を始めた。
「自分の子を産むと決めた獣人の女性の尻尾を漏らす…いや、溢れるまで触り続けると、その人が自分のパートナーだと証明する風習があるらしいぜ。」
「ふむ…」
-なるほど…だからガリンドがあんな過敏な反応をしたのか…-
ガリンドの鋭い反応の理由がはっきりわかったことで、胸に溜まっていたモヤモヤが消えたのを感じた。
スッキリした気分で作業を再開しようとした時、アルドリックが言った。
「それにしても、念のため聞くけど…もう手を出したのか、親分?」
「何を?」
「知らないふりするなよ、ちょっと話してみろよ。噂にはしないからさ。」
アルドリックが何の話をしろってのか、さっぱりわからなかった。
-あ…!-
少し時間を置いて、俺は彼がガリンドの娘との一件を知ったことに気づいた。
-アルドリックは信頼できる男だ。-
軽薄なくらい口が軽い奴じゃないから、俺はあの時の状況を話すことにした。
その事件の経緯を聞いたアルドリックは、目尻に涙が浮かぶほど大笑いした。
「うはははは!さすがフェリックス卿の息子だな、そんな突拍子もないことをやらかすなんて!やっぱり親分だ、クハハハハ!」
「本当に何も知らなかったんだって!」
「そうか…フフッ!でも、相手もそう受け取るかな?」
「…」
苛立つ気持ちで反論したくなったが、今の状況じゃどんな言い訳も詰みだったから、俺はひとまず作業に集中することにした。
「よし、できた!」
「それ、俺が使う装備か?」
「いや、これは建設用の機体だ。お前のは別に用意してある。」
「そうか…」
俺の言葉を聞いて、なんとかこの状況を抜け出そうとしていたアルドリックの表情が和らいだ。
次回の話は9月19日(金)午後8時にアップロードされる予定です。
ぜひご覧ください!