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残った記憶を忘れぬように

作者: P4rn0s
掲載日:2026/02/01

君の名前を呼ばなくなってから、

もうどれくらいの季節が通りすぎたのか思い出せない。


春の花が咲いていたこと。

夏が焦げつくようだったこと。

秋の風が寂しさを連れてきたこと。

冬の雪が胸の奥まで染みたこと。


そのすべてをどこかに置き忘れてきた気がする。


最初からちゃんと覚えていなかったみたいに。

僕はただいつかの記憶を慰めたかっただけなんだ。

あのとき、言えなかったことを、

今さらになって、

胸の奥で何度も反芻している。


君にじゃない。

あの日の君に。


僕の目をまっすぐ見て、

何も言わずに頷いた、

あの夏の終わりの君に。


声は届かなかった。

もう、届かない。


それでも意味がなかったとは思っていない。


伝えようとしたことが無意味になるのは、

伝えないことを選んだときだけだって、

今でもどこかで信じてる。


だから僕は、

何も書かずに、

ただ口を開いてしまう。


夜道を歩いているとき。

風の音に紛れて。

誰もいない部屋で。


「また、会いたいな」


気づいたときには、もう声に出ていた。


相手がいるわけでもないのに。

返事が返ってくるはずもないのに。


それでも言葉にしないよりはましだった。


あの河原の風景は今でも夢に出てくる。


君が空を見上げて、

「雲の形が誰かに似てる気がする」

なんて呟いた、あの午後。


夕日が君の横顔を金色に染めて、

僕は一瞬だけ、

世界が静かになったような気がして、

何も言えなかった。


あのとき、君は笑ってくれたね。


その笑い方をもう思い出せないことがある。


それが、何より怖い。


誰かを想うってたぶん、こういうことなんだろう。


今はもう届かない相手に、

届かないと分かっている言葉を、

それでも、

つい口に出してしまう。


君が好きだった歌は今でもときどき耳に入る。


コンビニの店内。

車の中。

街角のスピーカー。


そんな偶然に僕の心はまだ揺れてしまう。


そんなはずじゃなかったのに。

もう、終わったはずなのに。


それでも、

何かの拍子に呼吸が浅くなって、

胸の奥が、少しだけ痛む。


ねえ、君。


僕は君を、

ちゃんと愛せてたのかな。


今でもときどきわからなくなる。


優しくすることと、

我慢することを、

取り違えていたのかもしれない。


それでも、

あの時間が嘘じゃなかったって、

胸を張って言える日が来ると信じたい。


君がいない世界は、思っていたよりも静かだった。


朝起きて、

カーテンを開けて、

味気ないパンを食べて、

また一日が始まる。


日々は続く。

僕が望んでも、望まなくても。


それはきっと、生きているってことなんだろう。


生きている以上、

君の記憶も、

どこかでずっと、僕と一緒にいる。


そう信じたい。

そうじゃなきゃ、苦しすぎる。


今日も僕は、

誰にも向けていない言葉を、

小さく零してしまう。


忘れてしまわないように。

忘れてしまっても、

君に出会えたことだけは、

確かだったと信じられるように。

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