赤い宝石(いちごパフェ)
本編完結後の話ですが、本編を読んでなくても大丈夫だと思います。
いちごパフェをどうぞ♪
何を隠そう、私はベリー系の果物が大好きである。
普通のいちごや黒イチゴはもちろん、ブルーベリーもラズベリーもスグリの類も、大好物だ。
何も加工せずそのまま食べるのも良いし、ジャムにしても良い。
シロップ漬けにしてゼリーに入れるのも綺麗で美味しいし、保存用に干したのも凝縮された味わいが良い。
マリネにして料理として出すのも良いし、焼き菓子に混ぜ込むのだってとても美味しい。
もちろんお酒に漬け込んだのも好きだ。あまりお酒は強くないので、お酒にするよりは他の食べ方に分配が上がるけれども。
私のベリー好きはなぜか村では皆が知っていて、季節になると畑で収穫したものや森で採取したものをみんな笑顔で渡しにきてくれる。
美味しいベリーをくれるのは嬉しいのだけど、なんだろう、微笑ましいものを見たような顔で、ほら、美味しいよ、たくさんお食べ……なんて、やられると小動物か幼子になった気分になるのだけども。
それでも受け取ってしまうのはとても美味しいのだから仕方ないと思う。
……誰だい、食い意地が張ってるからとか言ってるのは!
食堂店主が美味しいものに反応できなかったら困るでしょ。あと、食い意地じゃないから。食べ物に対して真摯に向き合ってるだけだからね。……そこ、笑うんじゃないよ!
「まったく失礼しちゃうね」
リンから受け取ったいちごを大きな皿に盛りながら私は言う。
今日は午後一で収穫物を持ってきてくれた農家の娘は、はいはいと笑っている。ちなみに失礼なことを言ってたのはリンじゃなくて、さっきまでここでお昼を食べていた村人たちだ。
「グレンダさんなら、そのいちご、どうやって食べたい? 今年のは割といい出来だと思うんだけども」
「うん、とても美味しそう。良いいちごだと思うよ。ん-……そうだねぇ」
話題を変えようということらしいので乗っておく。いつまでもプリプリ怒っていても楽しくないからね。リンに言われて私はいちごを一粒持ち上げる。目の高さまで持ってきて眺める。やや小ぶりだが形もいいし、甘酸っぱい香りがしっかり漂ってくる。とても美味しそうだ。
「綺麗な形をしているから、このイチゴを飾りにするようなスイーツも良さげだね。ババロアとかケーキの上に飾ったりとかしても映えそうだ。あとはー……」
「あとはー?」
いちごを褒めれば作ったリンも嬉しそうな顔になる。そうだよね、料理も褒められたら嬉しいし、きっと農作物もそうだよね。
目を閉じ、思案しながらそれを口に出せば、楽しそうに続きを促された。
せっかくだからちょっと特別感のあるデザートとかにしたいと考えて、思いつく。
「……試作、食べていくかい?」
「もちろん! 待ってました!」
リンが満面の笑みで頷く。……誘導されたのだね、私は。まぁいいか。
ちょっと待ってて、と言えば、彼女はそのままカウンター席に腰を下ろした。さてはこうなることを狙ってこの時間にいちごを持ってきたね、この娘は。
「たしかこの辺に……」
厨房から貯蔵庫へと行き、温度を低く保っている棚から二つ容器を取り出す。
月に一度ほど氷系の魔法が得意な人に頼んで、その棚に置くものは凍るぐらいに冷えるよう魔法をかけてもらっている、便利な棚だ。
厨房横の貯蔵庫にあるのはそれほど大きくないものだが、村全体で共有している貯蔵庫には低温保存専用の部屋が作ってあり、冷凍室なんて呼んでいる。夏の暑い日にも中は凍えるほど寒くなっていて、食料品が悪くならないよう冷やした状態で保存できる。非常にありがたい。この冷凍室のおかげで長く食料品を保存できるので、季節と違うものもある程度は食べることが出来る。
「あとはー……」
ついでに貯蔵庫からジャム瓶を一つとって厨房に戻れば、持ってきたものを作業台に置き、次はカウンターに置いていた籠をごそごそ漁る。
籠は午前中にパン職人のボートンが持ってきてくれたものだ。食堂で出すパンの他、子どもたちが午後おやつを食べにくる時にと焼き菓子を入れといてくれることも増えた。
今日は確かちょうどいいのが入っていたのを見たような。
「リン、そこのグラス、二つとって」
「はーい。これ?」
「いや、そっちの足があるやつ」
リンが背丈の低い、足つきグラスを二つとってカウンター越しに渡してくれた。
私はそのグラスにさっき持ってきたジャム瓶からジャムを一さじずつ丁寧に入れる。
数日前に作った今年一番初めのいちごのジャム。その時は量が少なかったのでおやつ用にとっておいたものだ。遊び心で煮る時にローズマリーも一緒に入れていたので、ほんのりその香りがする。ちょっとおしゃれなジャムだ。
その上には籠からみつけた紅茶味のマドレーヌを一口サイズにちぎって盛る。
「……なんか、既に美味しそう」
私が作ってる様子を眺めていたリンが言う。私はちょっと嬉しくなりながら、次はいちごをいくつか洗う。洗ったいちごはヘタをとって、しっかり水気をきってから縦に四つに切った。
それをさっきのグラスにばらばらと入れる。
ちょっと濃い色の焼き菓子と、赤く鮮やかないちごの対比が綺麗だ。
そこにさっき持ってきた容器から凍ったブルーベリーを幾粒か取り出して散りばめた。さらに色が足されたグラスに私は自然と笑顔になる。
「あとは仕上げを……」
スプーンで、もう一つの容器からミルクや砂糖を合わせて凍らせていたアイスクリームを、グラスのベリーの上にぽんと乗せ。
ダメ押しのようにいちごをもう二つ。それに窓辺においてある鉢からミントの葉っぱを摘んで洗い、飾り付けた。
「こんな感じかね」
あるものを適当に盛っていっただけだけど、グラスのおかげで層になって見えるからなかなか綺麗だ。
はい、とリンに出してやったら、目をキラキラさせて受け取ってくれた。
「パフェ! あー、これ、なんか綺麗で食べるの勿体ない……! けど、食べる! いただきます!」
勿体ないなんて言いながら早速スプーンで食べ始めるリンの様子に、私は満足する。
やっぱり笑顔で食べてくれるのが一番嬉しいからね。
幸せそうに食べるリンの横で、私も自分のをのんびり試食し始めた。
その後……。
ついつい周りに言いふらしたリンのおかげで、私は翌日も同じものを数人分作ることになった。
出来たら違うものも試して食べたかったんだけどねぇ。
いちごの季節もそろそろ終わりかな、と、イチゴのデザートの話を書いてみました。
★ いちごのパフェ ★
材料:
いちごジャム、マドレーヌなど焼き菓子、いちご、冷凍ブルーベリー、バニラアイス
作り方:
グラスにお好みの順番で盛っていけば出来上がりです♪
色の差が大きいように順にすると綺麗に仕上がります。
現実では焼き菓子に無印良品のバームクーヘンなどを使っていました。
何層かにするとそれだけで幸せな気分になれるので是非お試しあれ!