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もぐらの災難(つくし)

完結後1作目は季節ものになりました。(笑)

時期としては、本編の次に訪れた春の話になります。


 やっと雪も解けて少し暖かくなってきたと思ったら、一気に大地に色がつき始めた。

山のふもとにあるモーゲンは今、春だ。

冬の間中雪に覆われて白いか土肌が出ていて黒かった地面には小さな草がたくさん生え始めている。

葉っぱの様々な緑に小さな白や青、紫などの花がぽちぽちと咲いている。

ところどころにモグラ塚が出来てそこだけまた黒くなっているのもちょっと面白い。


「え、このなかにもぐらいるのっ!?」


 教えたら、捕まえる!!とリチェが早速泥だらけになりながら掘り始めた。

いやいや、モグラ塚があってもその真下にいるわけじゃなくてトンネルが繋がっているどこかにいるだけだよ。一応説明をしたけれどリチェは、ならそのトンネルも掘って行けばモグラがいるはずだ!とやる気満々。こうなってしまうともう何を言っても無駄だ。元気なリチェはやたらめったら行動力がある。やるって決めたらとりあえずやってみなければ気が済まない。まぁ放っておけばそのうち気が済むだろう。流石にモグラは見つからないだろうけれども。


「春だねぇ。」

「モーゲンの春ってなんかきれい。」


 なんとなく呟いたら一緒に散歩をしていたエマがしみじみ言う。彼女が以前いたフォーストンはここよりかなり南だ。生えてるものも違うし、どうやら雪もあまり降らないみたいだった。冬の間はリチェどころかエマまで雪をわくわくした表情で眺めていたっけ。


「山が近いからね、これから色々生えたと思ったら一気に伸びてってあっという間に夏が来るよ。」


 そっかー、とエマが言う。ちょっと楽しそうな表情をしている辺り、雪と同じでこの景色が面白いと思っているのだろう。

 エマとリチェがうちの子になってから随分とあれこれあったけれど、彼女たち自身の頑張りもあって気が付いたら村にすっかり馴染んだ。散歩する時や畑仕事を手伝う時はリンのお下がりのオーバーオール姿なのも今ではごく自然な感じで、来たばかりの頃の気負いも感じなくなってきた。


「おばちゃっ、これなにー?」


 のんびり野花を眺めている少女をすっかり母になった気持ちで眺めていたら、リチェに訊かれた。って、うわっ、顔まで泥だらけじゃないの!?

 差し出されたのは茶色と大豆色の棒みたいなもの。ちょっと筆みたいな形をしている。先っぽは丸みを帯びて尖っていて、振るとたくさん緑色の粉が舞い散るそれを、リチェはぶんぶん振り回して粉を出しまくっている。


「それはつくし。この時期だけ生えるものでね、食べられるんだよ。」

「つくし…… え。そうなの?たべてみる!!」

「ちょっ、リチェ、そのままじゃなくて料理してからだよっ!!」


 手に持ったつくしをそのまま口に入れようとする幼子を慌てて止める。泥だらけのリチェを慌てて抱き留めるようにして止めたから私まで泥だらけだ。エマが目を丸くしてこちらを見ていて……そのままけらけら笑い始めた。


「グレンダさんまで顔に泥ついちゃってる……!」


 拭いてあげるねと、手拭きでちょんちょんと拭いてくれた。ありがとうと言いながら私はリチェをそうっと放す。どうやら泥だらけつくしの踊り食いは阻止できたみたいだ。私は思わずふぅぅと息を吐いた。子どもって油断も隙もあったもんじゃないね。


「リチェ、たべたい。」

「はいはい、それじゃ少し摘んでいこう。エマも手伝っておくれ。……つくしでもね、先っぽがひらいてないのを摘むんだよ。土から出てるぐらいのあたりからね。」


 見つけちゃった以上こうなるよね。私は辺りを見渡してちょうど良さそうなつくしを一本摘んでみせる。こうやるんだよと教えるとリチェは分かった!!と元気に返事をし、早速ぷちぷち採り始めた。


「グレンダさん色々知ってるねぇ……」

「私も知らなかったんだよ。これはここに住むようになってからハンナが教えてくれたんだったかな。」


 すごい、と尊敬のまなざしを向けてくるエマに私は苦笑しながら教える。昔の私はこんな野草については本での知識はあっても実物は見た事もなかった。摘んで食べるなんてしたのは移り住んでからだ。ここでの暮らしを一個ずつハンナやミリムが教えてくれた。……その教わった私がこうやってエマに教えていて。エマもきっと次の子たちに教えていくんだろうね。

 私たちはのんびりとつくしを摘み、私のエプロンいっぱいにして食堂に帰った。




「それじゃぁ作ってみようかね。」


 厨房の作業台の前で私は丸椅子に腰かけて、ボウルに入ったつくしに向き合う。

ちなみにリチェは散歩後のお昼寝で、エマは食堂のカウンターで宿題中だ。手伝いたがっていたが、勉強の方が今のエマには大事だからね。作り方は後で教えてあげる約束をして今は私一人で下拵えと料理だ。


「まずはハカマをとらなきゃね。」


 先にボウルに入れて水に漬け、汚れや胞子を何度か洗いながらとったつくしを手に取り、ぷちぷちと節目のふさふさをとっていく。別に取らなくても食べられるのだけど、付いてると口当たりがよくなくてね。今回のはどれも小さいから下茹ではしなくても大丈夫だろう。太目のつくしの場合は軽くゆでるけどこれぐらいならお湯をかけるぐらいで良さそうだ。

 摘んできたつくしのハカマをぷちぷちぷちぷちと全部取って、熱湯をわっとかける。お湯が緑色になるのは見ててちょっと面白い。それをざるにあけて軽く水気を切る。


「よし、下拵え完了。」


 次に卵をいくつかボウルに割って溶き卵にする。フライパンは軽く油を引いて熱して、そこに下拵えしたつくしを入れて炒めた。少し土っぽい春の香りがする。そこに小魚の塩漬け(アンチョビ)を刻んだものを入れて軽くさらに炒めてから、それらをふんわりと溶き卵でとじた。さぁ、美味しくなーれ。


「よし、出来上がり。」


 こんな感じかな、と、軽くフライパンの中で混ぜてから皿に移す。

流石に食堂にくるみんなの分はない。夕食のはじめの方でビュッフェにあるのが気づいた人だけ食べられる量かな。リドルフィが馬鹿みたいな量とらないよう見張っておいた方がいいかも。




 夕食の時間。つくしの卵とじを見つけたリチェが大はしゃぎで自分のお皿に取り、あむあむと美味しそうに食べていた。多少えぐみや苦みがある野草なんだけどね、全然気にしてない様子でたくさん食べていたから、よっぽど嬉しかったのだろう。エマはその形にちょっと躊躇いつつもそれでも食べていた。確かにジーっと見ると色々連想してしまう形はしているものね。


 その日の晩、エマはレシピノートにまたしっかり絵を描いてレシピをメモをしていた。

そろそろノートも3冊目。1年経った頃には何冊ぐらいになってるだろうね。

エマのノートの内容が一冊の本になって王都で売られるようになるのはもうちょっと先の話。


 余談だけども……それから数日、やっぱりリチェはもぐらが気になるようでモグラ塚を見つけては掘りまくっていた。もぐらの災難はまだまだ続くみたいだ。



毎年娘とつくしを摘むのが恒例行事になっていて、今年も作っていたので皆さんにもお裾分けです。

作中では醤油や白だしなどがないのでアンチョビ味になりました(苦笑)


★ つくしの卵とじ ★

材料:

つくし、卵、酒、白だし、砂糖、ごま油

作り方:

1.つくしはしばらく水につけておく

2.つくしのハカマを丁寧にとり、熱湯をかける

3.フライパンにごま油をひき、つくしを炒める

4.酒・白だし・砂糖で味を調えて、溶き卵でとじれば出来上がり!


つくしは先がひらいていないものを選んで摘んでください。

はかまはとらなくても食べられるけれどカサカサして口に引っ掛かるので手間でもとった方がいいです。

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