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やわらかな光景 (金木犀のジャム)

本編、第六章途中ぐらいのお話。シルバーに会ったちょっと後ぐらい。


 窓を開ければ、やっと秋めいてきた少し冷たい風が吹き込んできた。

カーテンを揺らし、部屋の中の空気が入れ替わる。

ふわりと鼻孔を擽る柔らかな香りに、私は窓の外を見る。

あぁ、今年もこの季節だね。こんもりとした濃い緑色の葉の陰に、柔らかな橙色。金木犀のつぼみが開いたようだ。


「エマと二人でやれば、なんとかなるかな」


 私は、今日やることになりそうな作業を思い、苦笑する。

毎年ついついやってしまうけれど、地味に手間のかかる作業。今年は一人でやらなくても良いと思うとちょっと嬉しい。きっと二人でやれば楽しく過ごせるはずだ。




「エマ、それぐらいでもういいよー? あまり多くするとこの後が大変だよ」

「はーい!」


 リンのところから借りてきた脚立に上り、小さな花を籠に摘んでいる少女に、下から声をかける。

去年までは私が手の届く範囲で摘んでいたけれど、今年はエマが上の方から摘んでくれる。

なんとなくお日様をしっかり浴びた木の上の方が、花も大きく香りが強いように思うのだ。

身軽に脚立の一番上に腰かけて綺麗な花を籠に集めていたエマが、器用に籠を抱えて降りてくる。

その籠を覗きこめば、考えていた三倍ぐらいの量の金木犀の花が入っていた。


「いっぱい摘んだねぇ。ありがとう。あぁ、やっぱり下の方より花が立派だね」

「いい香りだったから、ついたくさん摘んじゃいました」


 籠を受け取れば、とりあえず脚立を返してくる、と、エマがてきぱき動き出す。

確かにそのまま置いておくと、チビたちが勝手に登りそうで危ない。リチェ辺りは大喜びでやりそうだ。

妹の世話に慣れているエマはその辺りの勘が働くらしく、危なそうなものはさっさと片付けてくれる。頼もしい。

 私は預かった籠を持って、裏口から厨房に入っていく。

浅いバットを三つ出して作業台に置く。その一つに籠の中身をあければ、ふわっと良い香りが厨房に広がる。

早速、作業台前に丸椅子を持ってきて、ぷちぷちと小さな花をがくから外す作業を始めていると、エマが帰ってきた。


「ありがとう。手を洗ってから手伝ってね。しっかり拭いた方が良いよ」


 濡れた手でやろうとすると、花弁が貼り付いてしまってやりづらいから。そう教えるとエマは分かったと頷いて、念入りに手を洗った後、私と同じことを始めた。


「お花もジャムやシロップになるなんて、モーゲンで初めて知った。グレンダさん、すごいねぇ」

「……私も教わっただけだよ。バラのジャムも優雅で良いけど、これもなんだか可愛い感じになりそうでしょ?」

「うん!」


 細かくて面倒くさい花の下処理を、エマはきらきらした目で楽しそうにやっている。

その様子を見ている私まで、なんだか楽しい気分になってくるのだから不思議だね。

料理のことや、学校での様子、リチェの話などをとめどなく話しながら、二人一緒にぷちぷちやる。

窓から差し込む優しい秋の日光や、金木犀の柔らかな香り、それにエマのくすくす笑う声。

穏やかな午後の空気の中、そうか、娘がいるってこんな感じなのか、と改めて思う。

もっともエマは私の娘にしては良い子過ぎて、養母としてはちょっと申し訳ないぐらいなのだけども。


「最後の一個、できました!」

「お疲れ様。それじゃあ、シロップにしようね」


 先に立ち上がっていた私は、鍋に水と砂糖を入れ、火にかける。

鍋底につけるようにしてヘラでゆっくりゆっくりかき混ぜると、砂糖が溶けていく。

そこに、エマがレモンを持ってきて、一つずつ鍋に絞っていく。


「これぐらい……?」

「うん、それぐらいにしよう」


 レモンの皮を器にまとめて、手を洗ったエマがわくわくした顔で私を見る。

そうだね、これは私もわくわくしてしまう。

私は鍋の中身をゆっくりとヘラで混ぜてから、顔を上げる。


「それじゃぁ、お花を入れようか」

「はい!」


 さっき二人で時間をかけて花びらだけにした金木犀を、エマは先に教えていた通り、軽くだけ洗ってから鍋にぱらぱらと落とし入れていく。

私がヘラでかき混ぜれば、金木犀の小さな花は、中で輪になって踊るように揺れる。


「かわいい……」


 いつになくうっとりと言う様子が可愛らしく、少しおかしくて、私はつい笑いたくなるのをぐっと我慢する。ここで笑ったり揶揄ったりすると言わなくなっちゃうものらしいからね。

この先も素直に感動して声に出していて欲しいから、ここは耐える時だ。


 ほんの一瞬だけ火を強くしてから止めて鍋を作業台に移すと、ここからは瓶詰の時間だ。

予め煮沸消毒しておいた瓶に、お花ごとシロップを流し込んでいく。

透明な瓶に入った金木犀のシロップは、軽く揺らすと中でお花がゆらゆら揺れた。

エマが窓の方に透かして見るのを、私は幸せな気分で見守った。




 「グレンダさん、これ、売れるっ!!!!」


 夕食時にミルクプリンに金木犀のシロップをかけて出したら、それを見たリンが叫んだ。

彼女は最近、村にお洒落カフェとやらを作ろうと計画しているからね。

しかしそのアイデアの元がすべて私の料理なのは大丈夫なのだろうか。


「可愛いですよねぇ」


 作ったエマが、ちょっと照れながら笑っている。

そんなエマにリンが何度も頷いている。


「グレンダ、リンのカフェはともかく、これ、何本か小瓶で出せますか? 王都で売ってきます」


 横から声をかけてきたダグラスに、私は苦笑を浮かべた。

ふんわりと優しい金木犀の香りの中、今日もモーゲンはいつも通りだ。





本日より、一週間、次作連載開始までの間、こちらにて集中連載を開始します!

10月31日まで毎日21:40に一本ずつ番外編および予告編が上がりますので、もし良かったらお付き合いくださいませ♪


すごく久し振りにレシピ付きの日常を書かせていただきました♪

思えば、こういうのを書きたかったからこの番外編を始めたんだったっけ。

最近は次作との兼ね合いでレシピが関係ないお話多めだったので、なんだかちょっと懐かしいです。

ちょうど季節なので、もしまだ金木犀がお近くに咲いていたら是非試してください♪



★ 金木犀のジャム ★

1.金木犀のお花を収穫し、丁寧に花びらだけにする。

2.鍋に水、砂糖、アガーを入れ、火にかけしっかり溶かす。

3.軽く洗った金木犀の花びらとレモン汁を鍋に入れ、一瞬だけ沸騰させて火を止める。

4.瓶に詰めて出来上がり♪


煮たててしまうとどうしても香りが飛んでしまうので、沸騰させるのは本当に一瞬で。

(殺菌のためにしているだけな感じです)

出来上がったジャムは、牛乳プリンやヨーグルトにかけるとても綺麗です♪

作中はアガーを出せなかったので、シロップになりました(苦笑)

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