少女のゆめみるもの……?
本編後日談のその日の話。
「おばちゃん、きれいだったねぇ!」
「うん、リドおじさんもカッコよかった!」
「わたしもドレスきたーい!」
「わたしもーー!」
ハレの日の、広場の片隅。
いつもよりちょっとだけおめかしした子どもたちが集められていた。
式も終わり、後は宴会だけということもあって大人たちものんびりしている。
長年寄り添いながらじれったいまでに一緒にならなかった二人の結婚式ということもあり、村全体がほっとしたような和やかな雰囲気に包まれていた。
式でやらかした新郎に新婦がぷんすかと怒っているのも、すっかりネタ扱いである。
王都から駆け付けた来賓たちも含め、皆、良い笑顔だ。
「もう誰にもやらーーんっ!」
「きゃーーっ」
新郎のマネをして、握りこぶしを空に掲げるちびっ子に、同じくちびっ子たちが歓声をあげる。
それを見ながら母親たちがくすくす笑い、新婦が新郎に詰め寄っている。
神聖な結婚式で、誓いのキスの後に雄叫びよろしく嫁は自分のものだ宣言なんぞやらかした新郎は、それすらも嬉しいようで、わははと楽しそうに笑っている。
「ねぇ、トゥーレ」
「うん?」
用意されたクリームたっぷりのケーキを食べながら、少女が名を呼んだ。
呼ばれた少年は、何?とそちらを向く。
少女の鼻の頭についたクリームに笑って、それを指でとってやれば、その指をつかまえて少女がぺろりとクリームを舐めてしまった。少年は擽ったさに、くすくすと笑う。
「リドのおっちゃんと、おばちゃんっておさななじみ、だったんでしょ?」
「うん。そういってたよ」
「わたしと、トゥーレもおさななじみ?」
訊かれた少年は、少女の方を向いて、しばらく考えてから、うん、と頷いた。
「それじゃ、わたしとトゥーレもいつかけっこんするの?」
「……そう、なのかなぁ?」
少年は、こてんと首を傾げる。
「ちがうの?」
少女の方も同じように首を傾げた。
「リチェも、けっこんしきしたい?」
「うん!」
少年の質問に、少女は勢いよく頷く。
そっか、と、少年も頷いた。
「そしたら、ぼくがリチェにドレス、よういするね」
「ん-……」
そこでまた首を傾げる少女に、え、違うの?と少年はきょとんとする。
少女は手に持っていたケーキの欠片を口に放り込み、もぐもぐと食べながら考える。
そんな二人の様子を、近くの女性たちが気が付いて、微笑ましげに見守っている。
「……えっとね」
口の中身をしっかり味わって、ごくんと飲み込んでから少女は口を開いた。
「リチェ、ドレスよりおっちゃんのマントがいい!」
「えぇぇぇ……」
「……リチェはドレス着たくないの?」
思わず、横で聞いていた農家の娘が少女に訊いた。
少女は力強く頷く。
「ドレスもきれいだけど!」
「だけど? きっとリチェもドレス似合うよ?」
「……ドレスより、けんもって、びしーーってかっこうがいい!」
うわぁ、そっちかーと近くにいた何人かが苦笑する。
言われた農家の娘は引き攣った笑いをし、自分が少女をお嫁に貰うことになるんだろうと思っていた少年は、困惑の表情を浮かべる。
少女はそんな様子に気が付きもせず、小さな拳を握って力説する。
「リチェ、おっちゃんみたいにカッコいいのがいい。でね、おれのもんだーー!ってするの!」
少女の養父がやったように、少女もクリームにまみれた手を力強く掲げた。
その様子を見た新婦が、新郎をぽかぽかと叩いている。
「……そうしたら、ぼくがドレスきるのかな」
少年が、ものすごく困ったように、ぽつりと呟いた。
ありがちで、お約束なワンシーンでした(笑)
最後までお約束通りじゃない辺りがリチェなのですが。




