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謎の聖女と…… (あとがきにお知らせがあります!)

本編終了から数年後のお話。

あとがきにちょっとしたお知らせがあります。


 その青年が村にやってきたのは、少し日差しがきつくなってきた初夏のある日のことだった。


「……そんなわけで、このモーゲンの村の取材をさせて下さい!」

「……えぇっと」


 カウンター越しに、きらきらした目を向けられて私は思わず後退る。

年齢的にはクリスと同じぐらいか。まだ若い。シャツにベストとズボン、ハンチング帽なんて軽装で、自ら馬に跨ってやってきた青年は記者だと言う。確かに冒険者にも商人にも見えない。左手にはメモ帳、右手にはペンを構え、カウンターに乗り出してきている。

私の横ではエマが「すごーい!」なんて、こっちもきらきらした目をしている。


「……エマ、とりあえずジョイス連れてきてちょうだい」

「はーい!」


 本当ならリドルフィを呼びたいところだが、生憎今日は王都に行ってしまっている。

それに村長の仕事も徐々にジョイスに引き継いでいることを考えると、この記者とやらの相手はジョイスに任せるのが良いだろう。

私が頼むと、エマがちょっと名残惜しげにこちらを見てから勝手口から出て行った。

それを見送ってから私は青年に向き直る。


「……えぇっと、それで、なんだってこの村なの? 他にも王都の周りにはいくつか村はあったと思うんだけど」

「グレンダさん、知らないんですか? 今、王都ではモーゲンブランドがひそかなブームを迎えているんですよ……!」

「えぇぇぇぇっ」


 確かに、リンとダグラスを中心に、モーゲン村をブランドとして売り込みを始めたとは聞いていたけれど、そんなブームが来てるなんて初めて知った。


「農産物そのものも美味しいし、加工品も丁寧に処理されている。ジャムなどについているタグも人気の理由の一つですね。素朴で可愛い上に分かりやすい。最近王都で発刊されたレシピ本はここの食堂のものだと聞きました。あれも中々の売れ行きですよ」

「そ、そうなの」

「えぇ!」


 青年がずい、ともう一段階乗り出してくる。


「ですから、このブームに乗って更に知名度を上げてみてはいかがでしょう! この食堂も有名になってお客さんが増えますし、村に観光に来る人も増えます。村の収益もきっと増えます!」


 にこにこと人当たりが良さそうな顔をしているけれど、さりげなく押しが強い。

正直こういうのは得意じゃない。困って苦笑を浮かべていれば、手招きされた。どうやら内緒話があるらしい。仕方ないので近づけば小声で囁かれる。


「この村は謎に包まれている聖女と縁があるところだという噂についても是非お聞きしたいです。グレンダさん、何かご存じですよね……?」

「……」

「あー、あー、そういう取材は村長の俺、ジョイスを通して貰っていいですかね?」


 私が思わず口をへの字にしたところで、食堂の入り口からジョイスが入ってきた。

どうやら走ってきたらしく、少し遅れてエマが戻ってくる。なぜかリンまでついてきた。さっきのエマと同じように目をキラキラさせているところを見ると……いや、何も言うまい。


「やぁ、二代目村長のジョイスさんですよね!」


 青年がくるりとジョイスの方を向く。私はふぅぅと息を吐きだした。助かった。

ジョイスがぱちっと器用にウインクする。なんとなく、「俺も頼れるでしょ?」と言っているように思えて、私は、うん、と頷いてみせた。


「折角だから村の名所を巡りながら話しましょう。えぇっと、お名前は?」

「おぉ、助かります。来た時にも見ましたがこの村は本当に景色も良いし、素敵なところですね……! あぁ、申し遅れまして……」


 ジョイスが記者の肩を抱いて食堂から連れ出していく。リンが楽しそうにそれについていく。

エマは一瞬ついていきそうになってから、私を振り返り、戻ってきた。


「……グレンダさん、大丈夫?」

「あ、あぁ、うん。ジョイスを呼んできてくれてありがとうね」

「はい!」


 私を助けてくれた小さな救世主はにっこり優しい顔で笑った。



 そんな出来事があった、しばらく後。

王都から雑誌が一冊送られてきた。なんと王都近辺をターゲットにした情報誌の創刊号らしい。

その特集に数ページに渡ってモーゲンの村が取り上げられていた。

あの時の記者の言葉を思い出し、ドキドキして捲ってみたが書いてあるのは、いかに景色の綺麗なところなのかと、農産物などの紹介、そして村にある新しい聖騎士の養成校についてだった。


 雑誌を一緒に覗き込んでいたリドルフィが、私の顔を見てから、ぽんぽんと頭を撫でていく。

……この人、またきっと何かやらかしたね?

何をやらかしたかは、怖いから訊かない方が良いように思う。

その様子を見ていたジョイスが、なははと力なく笑っていた。




きっとリンたちがノリノリで取材を受けた後、なんだかんだと裏でリドが情報操作していそうだなぁと思ったところからのお話でした。

グレンダの正体は一応関係者以外内緒ですし、ね。

村長になったジョイスだけは、リドが裏でやってたことをしっかり把握していそうです。(苦笑)



さて、お知らせです!

===================

来週、2025年08月23日(土)20:30より、

池袋FMのラジオ番組「書架の扉」にて、

「食堂の聖女」を紹介して頂けることになりました。

===================


落ち着いた良いお声のパーソナリティさんが、物語のあらすじなどについて語って下さります。

もし良ければこちらから聞いてみて下さいませ!

 http://ikebukurofm.com/concept.html

また、放送後はアーカイブとしてこちらのページからも聞くことができるそうです。

 https://note.com/amulet_books

素敵な機会を下さった、アミュレット出版さん、ありがとうございました。

私も当日初めて聞くことになるので、今から楽しみです♪

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