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硝子の中のやさしさ(パフェの日)

パフェの日、ということで書かせて頂きました♪

戦乱期直後、グレンダが王城で保護されていた頃の話。


 目が覚めてから、何日経っただろうか。

豪華なベッドの上でうとうとしながら過ごし、付いてくれているメイドさんに世話を焼かれる日々。

私自身は元々は庶民だから、こんな暮らしは慣れていなくて申し訳なさばかりが募る。

それでも世話を焼かれているのは、碌に歩くことも出来ないような有様だったからだ。

聞けば、私は半年も眠り続けていたらしい。

すっかり体中の筋肉が萎えていて、ほんの少しの間、体を起こしているだけでも疲れ切る。

毎日、司祭と医者両方の診察を受け、人の手を借りながら少しずつ部屋の中を歩く練習をする。

少し前からやっと食事も固形物になったが、それまではスープなどの液体ばかりだった。


「あぁ、グレンダ、起きていたか。ちょうどいい、ちょっと外に出よう」

「リド。……私、まだ……」


 ふかふかの枕に背を預け、借りた本を読んでいた私は、やってきた男の言葉に困惑する。

まだ、診てくれている医者からも司祭からも部屋の外に出る許可出ていなかったはずだ。

それに、行きたくてもこのやたら豪華な部屋の外がどうなってるのか、そもそもここがどこなのか、知らないのだ。おそらく王城内ではないかとは思うのだけども。


「許可なら貰ってきてる。大丈夫だ」


 そう言って、やってきた男は私の方に歩いてくる。

控えていたメイドさんがささっと寄ってきて、私に丈の長い上着を着せ、柔らかい履物を履かせてくれた。

リドルフィは身支度が終わったのを確認してから、ひょいと私を抱き上げた。




 連れてこられたのは、よく手入れされた庭園の東屋だった。

久しぶりの外に、私は目を瞬く。

風が頬を撫でていく。小鳥のさえずりが聞こえる。

ちょうど盛りだったらしい薔薇の香りが、ふんわりと漂っている。

庭園の向こうに見える、さっきまで自分が居た建物を眺め、私はやはり王城にいたのだと知った。

過去に何度か呼ばれてきたことがあるが、私自身は貴族ではない。聖女という肩書だけでそんなとんでもないところで世話になっていたのかと、改めて恐縮する。


「……なんとなく何を考えてるか分かるが、気にしなくて大丈夫だ。動けるようになるまで、しっかり休ませて貰え」

「……」


 綺麗な東屋のベンチに、しっかりクッションをいくつも置かれ、ついでに膝の上にはふかふかのひざ掛けまで用意された状態で縮こまっていたら、笑われた。

リドルフィの方は何故かこういう場所にも慣れている様子で、横に座り私がいつでも寄りかかれる場所で、寛いでいる。

恰好も白いシャツにズボンとシンプルだがこの場にまったく浮いていない。

そういえば無精髭もないし髪も整えられている。貴族だと言われても全く違和感がない。


「失礼します」


 すっと寄ってきたメイドが、目の前のテーブルにお茶の用意をしてくれた。

美しい茶器を扱い、丁寧な仕草で用意されるお茶に、自分がお姫様か何かになったような錯覚を受ける。


「ありがとう、ございます」


 お礼を言えば、メイドさんはにこっと微笑んで会釈して一度下がり、もう一度やってきた時には盆に違う物を持っていた。

刺繍の入ったテーブルクロスの上に更に一枚レースを置き、その上に白い皿、そして硝子の脚のあるグラスを置く。


「うわぁぁ、綺麗……」


 私は置かれた料理に、思わずため息をついた。


「果物とゼリーなどなので、今のグレンダさんでも全てお召し上がりになれると思います。多かったら遠慮なく残してくださいませ」

「あ、はい。ありがとうございます……」


 メイドさんの優しい微笑みに、自分が子どもみたいに声に出して言ってたことに気が付いた。頬が赤くなるのを感じる。恥ずかしさに小さくなっていれば、横からリドルフィにまで笑われた。


「食べさせるか?」

「……自分で食べられますっ」

「そうか。なら、しっかり食べろ」


 言って、自分は優雅にお茶を飲み始める。

……本当にこうしていると貴族だと言われても全く違和感がない。彼とは幼い頃から一緒にいたはずなのに、ふとした時に知らない人みたいに見える。普段の大雑把で気取らない雰囲気も、こちらも彼なのは間違いないのだろうけれども。

気が付けばメイドさんは離れていて、男と二人だけになっていた。

多分、その方が遠慮せずに食べられるだろうという気遣いなのかもしれない。なんとなくの知識はあっても、リドルフィみたいにごく自然に優雅にお茶を嗜むなんて出来そうになかったので助かる。


「……頂きます」

「あぁ、召し上がれ」


 おそるおそるスプーンを手に取り、グラスを覗き込む。

ゼリーやスポンジ、クリームなどが層になっている。飾り切りされた果物に、小さなメレンゲクッキー、きらきらときらめくジュレ、食用らしい小さな花。それらが丁寧に盛り付けされていて、とても綺麗だ。


「パフェだな。……なるほど」

「うん?」

「食が細いのを心配されていた。少しでも食べたくなるように工夫してくれたんだろう」

「……そうなの?」

「あぁ。これなら色んな種類が食べられるだろうしな」


 改めて自分が随分とありがたい環境にいることを思い知る。

そっか、と呟けば、横からぽんぽんと頭を撫でられた。


「お礼、言いたいな」

「わかった、伝えておく」


 スプーンで掬って食べるごとに違う食感や味。まだまだ本調子ではない私がお腹を壊さないようにと冷た過ぎず、でも、食べている間にぬるくもならないよう繊細に整えられた温度のスイーツは、とても優しい味がした。




 それから暫くして、私がもう少し自分で歩いたりできるようになった頃。

お礼を言う場として会食をリドルフィが設けてくれたのだが……

そこに現れたのが現国王と王妃で、緊張し過ぎた私はお礼の言葉は噛むし、食べたものもまったく味が分からなかった。



パフェが好きです。いや、甘いものなら大抵好きではあるのだけど。

お店で食べるパフェも好きだし、自宅で作るなんちゃってパフェも好きです。

大雑把でケーキなどは作れないのですが、パフェなら器に盛っていけば良いだけなので私でも作れる♪

少し前に脚付きグラスも買って、時々娘のおやつに作っては写真をパシャリ。

……そんな私なので、パフェの日と言われたら最大限に乗りたくなっちゃいまして。

久しぶりに投稿時間直前に書き始めちゃいました。(苦笑)


神樹を背負った直後から半年間、グレンダは眠り続けました。

今回のお話は目が覚めた直後の話。

リドルフィが王弟なんて立場だったからこそ、グレンダは背負った後もちゃんと保護され、普通の暮らしに戻るところまで回復できたんだろうなぁ、なんて思います。

こういうのも物語のご都合主義になるのかな。(汗)

リドルフィはあの通りなので、グレンダが王城に来る前には、王城内に既にグレンダのことを知っていた人がいっぱいいたのかもなぁ、なんて思っていたり。多分本人の自覚は全くないけれど、かなり甘やかされていたんじゃないかなと。

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