金平糖(恋人の日)
本編完結直後のお話。ただただ甘いです。
バケツ、ここに置いておきますね。
神樹がこの身からなくなって。
私は、またベッドの上での生活を余儀なくされていた。
まあ、仕方ないよね。
あれだけ魔力ポーションをばかすか飲んだし、そもそも、その前だって魔力は底をついてるような有様だったわけだし。神樹を無理やり引き抜いたことによるダメージもかなりある。
リドルフィに背負われて村に帰った後、気絶するようにして眠りこけ、目が覚めたのは数日後だった。
むしろ、よくそれだけで目覚めることが出来たと思う。それぐらいに私は弱っていた。
実は私が知らなかっただけで、かなり前から、私が聖女だったことや今回起きたことをしっかり把握していた村の人たちは、それはもう甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれた。
あまりにも皆が優しいので、私は逆に居た堪れなくなって、困った末に狸寝入りを何度もしていたぐらいだ。
「グレンダ、起きてるんだろ?」
「……」
狸寝入りを決め込んでいたら、容赦なく上掛けを剥がれた。
仕方なく顔を上げれば、にんまりと笑う壮年マッチョがそこにいた。
「やっぱり起きてたな。ほれ、口開けろ。いいもの、やる」
「……今の、あなたので起きたのよ。……何?」
もそもそと体を起こそうとすれば、ごく当たり前のように大きな手が伸びてきて体を支えてくれる。枕の位置をうつして、もたれやすくしてくれた。
そのままその手は私の頬に伸びてきて、何?と見上げた私の口に、もう片方の手が何かを押し付けた。
「……んむ。ちょ、ちょっと!?」
「確かこれ好きだっただろ。王都に行ったついでに買ってきたんだ」
口に入れられたのは大きめの金平糖。確かに子どもの頃好きで、よく瓶に入ったものを買って持っていた。
リドルフィはサイドテーブルに金平糖入りの瓶を置き、ベッドの縁に腰かける。
私は口の中の金平糖を転がしながら、何故?という視線を彼に向ける。
「エマとリンから、お前が食べてる量が少ない、痩せこけてしまったって相談されてな。食事もだが、暇な時にそれも少しずつ食べとけ。少しでも肉増やさないと、そのうち二人が食卓ごとここに持ってくるぞ」
「やっと痩せたと思ったのに……」
「少しふっくらしてる方が好みなんだがな。」
なぜか自分の好みを言う相手を、私は一度軽く小突いてため息をつく。
心配させてしまっているのは分かるのだけど、このままベッドの上で皆に甘やかされていたらいつか丸々と太ってしまいそうだ。
「それに金平糖ばかり食べてたら口の中が甘くなってしまうよ」
「……そんなに甘いのか?」
「食べたことないの?」
なら、そこのを一つ食べてみたら?と瓶の方を目で示せば、彼はふむ、と一度考え込む顔になって。
にまりと笑った。
「なら、頂こうか」
手がもう一度私の方に伸びてくる。頬を包んで、そのまま顔まで近づいてきて私は失言した事に気が付いた。……が、遅かった。
重ねられた唇、ゆっくりと歯をなぞる舌に、思わず抵抗して口をぎゅっと閉じる。
そのまま耐えていたけれど、いつまで経っても男の唇が離れて行かない。
段々息苦しくなって、思わず息継ぎをするように口を開ければ、口づけを深められた。
慌てて両手で分厚い胸を押せば、満足したようでやっと解放された。
「……な、何するのよ」
「確かに甘いな」
すっかりご満悦といった顔で男は舌を出す。その上に乗っていた金平糖を見つけ、私は思わず枕でべちべちと男を叩く。
「ちょっ、グレンダ落ち着け! 恋人同士のちょっとしたふれあいだろ!」
「……こ、恋人、とかっ!!?」
「いや、恋人だろ。まだ結婚前だし」
「……っ!! もういいから出てってちょうだいっ!」
あれこれ言ってリドルフィを部屋から追い出した後、私は枕に顔をうずめる。
恋人とか、この歳で本当、何を言っているんだか。
真っ赤な顔のまま、うぅぅと唸る。
こんなされたら、困ってしまう。困ってしまうんだよ、本当に。
いい歳して、嬉しいとか、本当にどうしたらいいか分からないじゃないか。
恋人の日、なんだそうです。
でも、恋人らしいことをしているグレンダが全く想像がつかなかったんですよね。
そうしたら、よし、俺に任せておけ!と壮年マッチョがやってきて、勝手にいちゃついていきました……
書いた私が恥ずかしいです。本当、勘弁してください。(泣)
うちのキャラたちは勝手に動き過ぎです……




