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森のばら (シダーローズ)

本編から16年ほど前の話になります。



気が付けばすっかり秋も深まりそろそろ冬支度も本番だ。

ここ、モーゲンの村は冬は深くまでならないものの雪に覆われる。

大人たちはこの村で冬を越すための準備に忙しい。

なにせ、この村はまだ出来て3年しか経っていない。

初めの年は村で冬を越すのは無理と判断して雪の降る期間は王都に皆で仮住まいだった。

村の中心部を囲む柵が完成したのが去年の夏。

それでやっと農家のミリムや炭焼きのダダンが越してきて、去年の冬は初めて村で冬を越した。

今年に入ってミリムが娘親子を呼び寄せて、モーゲンは子どものいる村になった。

村人はまだたったの11人。

それに必要に合わせて大工や土木師、時々魔法使いやその他が滞在してることも多いけど、ここ数日はいない。

大人たちの中で一番暇なのは私だ。

担当は調理。食堂なんて言えば聞こえがいいが村にいる人全員分の食事を賄う飯場の仕切りをやっている。

元々は神聖魔法使いだったりするのだけど、今はその仕事は少ない。

村に教会も建ててもらう予定だがこの村にいる限り、そちらでの仕事は村で誰かが怪我した時に治癒魔法を唱えたり村の結界を補修するぐらいだ。そんな月に何度あるか分からない仕事だけじゃなく、毎日みんなのごはんを作るなんて大事な役割を貰えたことはちょっと嬉しかったりする。

……とは言え、11人分のごはんを作るだけの私は結構暇である。

結果、ハンナがみていられない時の子どもたちの世話は自然と私の役割の一つとなった。


「今日は森に行ってみようか。おばちゃんと宝探しをしよう。」

「行く行く!!宝物、どんなの?リンでも見つけられる?」

「宝って言ったって大したものじゃないだろ?」

「さぁ、どんなものだろうね。一緒に探そう。」


秋の午前中はまだ空気が温まってなくて風が少し冷たい。

今年祝福を受けたばかりのリンと、ちょうどその倍の年で生意気盛りのジョイスにしっかり上着を着せ、ついでにマフラーも付けさせた。もしかしたら途中で暑くなるかもしれないけど、その時は脱がせばいい。

食堂に不在の札をかけ、リンと手を繋いで歩く。ジョイスは先に走っていってしまっている。

可愛くないことを言ったりもするけれど、あれでかなり楽しんでいるのは表情で分かる。

まだ真新しい門のところで、門番の青年に挨拶をすれば山側の方はリドルフィとイーブンが狩りをしてるはずだから、西側の森にいけと教えられた。

冬の食料貯蔵のために、イノシシや鹿を狩ってくれているとのことだ。明日はソーセージ作りとかで忙しいかもしれない。


紅葉に混ざって針葉樹も多い森を三人でかさかさ音を立てながら歩いていく。

地面を覆う枯葉は踏むと柔らかくて、音も鳴るし楽しい。

早速リンが走り回り、ジョイスがそれを追いかける。

私はのんびり歩きながら上を見上げたり、地面を見まわしたり。

やがて、地面に茶色い扇型のものがたくさん落ちている場所につけば二人を呼んだ。


「リンー、ジョイス、ちょっとこの辺探してみよう。」

「宝物!!?」

「えー、何、キノコか何か?」


見上げればローズマリーに似た短いとげとげの葉の針葉樹に、玉子のような形の何かがいっぱいついている。以前、旅先で教わった通りなら……

あっ!!とリンが大きな声を出した。


「グレンダおばちゃん、もしかしてこれ!?」


何かを拾ってパタパタと走ってくる。


「どれどれ、見せて。」

「これ!」


まだ小さな手に乗せられていたのは、茶色い花。

ばらの花のようにふんわり広がっていて、だけど本物の花とは違い、硬い。松ぼっくりに似た感触だ。


「そう、当たり!リンよく見つけたね!」

「え、どれ!!俺にも見せて!」

「ふふー、リン、いっちばーん!」

「これはね、雪松の松ぼっくりだよ。上を見てごらん、大きい丸いのがくっついてるでしょ?」


促せば素直に二人とも見上げてくれる。


「あれがね、だんだんばらけて落ちてきてるの。その一番先っぽがリンが見つけてくれたお花。」

「松ぼっくりのお花……」

「そう。シダーローズって言うんだよ。」

「お宝ってこれ?」

「そうよー。これがお宝。森がくれるお花、素敵でしょ。」

「えーー、お宝って言ったら宝石とかさー」

「兄ちゃん、これだってお宝だよ!!」


一番初めに拾えたからか、リンがふくれっ面で主張する。

そんな妹にあまり言って泣かれても困るからか、ジョイスはわかったよーとか割と早めに折れてくれた。


「それじゃあ、もっとないか探してみよう。これでね、聖夜の飾りを作るからね。拾ったら持ってきてね。松ぼっくりとかどんぐりとかも入れていいよ。」


私は持ってきた布の袋を二人に見せる。リンはうんうんと頷き、ジョイスはしょうがないなーとか言いながらも探し始めた。

私も一緒に探しつつ、ついでに落ちている雪松や樅の葉付きの枝や、小さな実のついた椹や檜の葉もたくさん拾って袋に詰めた。

二人が拾うのに飽きてどんぐりの投げ合いが始まった頃には、袋はパンパンになっていた。



「あら、可愛い。これ、グレンダが作ったの?」


そんな風に言ってくれたのは食堂に2人を迎えに来たハンナだ。

森で拾ってきた蔦をぐるぐる巻いて輪にし、そこに拾った葉や木の実をたくさん付けたリース。

いびつだし不格好だが、いかにも手作りらしい可愛い感じに仕上がった。

食堂の玄関に飾ったそれをハンナがいいなぁ、と見上げている。


「えぇ。リンとジョイスにも手伝ってもらってね。」

「リン、宝探し上手だったよ!」

「宝じゃなくて、まつぼっくりだろ。」

「お宝だもん!!」


帰り支度をしている兄妹がまた言い合いをしている。


「ハンナの家のも後で作るよ。」

「本当?うれしい。……どうせなら村全部に飾りたくなるわね。」

「そうかなって思って、いっぱい拾ってきたよ。」


村全部といっても、まだこの食堂とリドルフィの村長宅、宿屋、ダダン爺の炭焼き小屋とハンナ達家族の家しかない。全部で5軒。イーブンと門番はまだリドルフィの家に居候状態だ。

5つぐらいなら子どもたちの遊びついでに作ることができるだろう。


「もうすぐ冬がくるねぇ。今年は聖夜もグレンダと一緒ね。」

「そうだね。みんなでご馳走を食べようね。」

「俺、肉食べたい!」

「リンも!!」

「ご馳走はまだまだ先だよ……!」


みんなで冬を越えてこの村を大きくしていこう。

この子たちが大きくなるのを見守りながら、この場所で私は笑っていられたらいいと思う。

何年先も、ずっと、ずっと……





現実の季節に合わせたものが書きたくなってしまって、とうとう短編を出してしまいました。(汗)

本編の方が滞らない程度に時々書いていくつもりですので、良ければこちらもよろしくお願いします。


ジョイスが12歳、リンが6歳。二人の母親のハンナは34歳。グレンダは30歳。

おばちゃんと言うには若いけど、グレンダは自分をなんて呼ばせるか迷っておばちゃんにしたようです。


雪松=ヒマラヤスギです。

日本では公園などにたくさん植樹されている木で、秋になると中々きれいなシダーローズと呼ばれる松ぼっくりの欠片を落としてくれます。

木の下に松かさの欠片がいっぱい落ちているのが目印で、公園などでもうまくすると拾えます。

見つけられると結構嬉しいので、もし良かったら探してみてくださいね!

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