第7話 兄、妹幼女とレベル上げをする。
昼夜問わず魔物狩りをしていたら、夜の魔物狩りを専門にしているカミラという幼女に出会い、そして仲間になった。
「どうする? これから? 私、レベル21だし、もっと強い魔物が出るエリアでお兄ちゃんのレベルを強制的に上げるみたいなことできるよ?」
その幼女、カミラがそう聞いてくる。
「うーん、今日はやめておこう。わざとじゃなくても、強い敵をカミラが仕留めそこなって、事故で俺が大ケガするかもしれないしな。最初の狩りでそんなことになったら関係が悪くなる、最悪パーティ解散なんて事になりそうだろ?」
俺はそう答え、通常の狩りを希望する。
カミラには物足りないだろうけどな。
「お兄ちゃん、意外と冷静だね。妹の為に早くレベルを上げたい。とかって、私の提案に乗ってくると思ったのに」
カミラがそう言って笑う。
まあ、確かに妹のあてなの為に、あてなに追いつくためにも早くレベルを上げたいが、無理をしてケガして動けなくなったらこの先困るしな。
「いいよ。とりあえず、今日明日くらいはこのあたりでレベル10以下の魔物を二人で狩ろ? お兄ちゃんが私と同じくらいのレベルになったらもっと魔物が強いところに行けばいいし、二人なら雑魚魔物倒してもあっという間だよ」
カミラがそう言って同意してくれる。
言っては悪いが、まだ完全に信用してないしな。多分お互いに。
そんな感じで、今いる街の北門の辺りから西門に向けて、来た道を戻る感じで魔物を倒す。
たくさんの魔物に囲まれてもカミラがレベル21のおかげで囲まれることなく、お互いターゲットにした魔物を倒すことができる。
といっても、俺が1匹魔物を倒す間にカミラが3匹倒し、どんどん先に進んでいくので、1人で魔物狩りしていた時より、倍、いや3倍のペースで進んでいく。
カミラは魔法使いだといっていたが、格下には魔法を使わないようで、魔法の杖に槍をつけたような独特の武器で魔物を突き刺し、切り裂き倒していく。
長い杖のような金属の棒の先に丸い輪っかが付いていて、その輪っかの中心に魔法石が光っている。そして輪っかの周りには槍の穂先のようなものや斧のようなものが付いている。
「ああ、この武器、気になる? 槍斧魔法杖っていって、魔法の杖にもなる長柄槍斧だよ。で、ここに、魔法石を入れておくと、MPを消費せずに魔法が使えるの」
そう言って、武器の事を教えてくれ、輪っかの中心にある大き目な魔法石の入った透明な容器のようなものを指さす。
「まあ、補充しないと無くなっちゃうんだけどね。魔法石」
カミラはそう付け足す。
「それって、俺にも使えるのか?」
俺は興味本位で聞いてみる。
「今のところ無理だね。魔法適性ないみたいだし。もしかしたら、『妹の為に』スキルで魔法も追加されるかもしれないけどかなりレベル上げないとダメだろうね。というか諦めた方がいいよ」
カミラがあっさり俺の希望を蹴散らす。
この世界、魔法は才能がないと使えないそうだ。しかも魔法使いの数自体も少ないらしい。
所詮、俺が使えるのはマジックランタン程度、自動で動く魔法の生活道具ぐらいしか使えないと。
そしてカミラの協力もあり、あっという間に西門まで歩いてしまう。
「どうする、もう少し街から離れて歩いてみる? 少し離れると森があるから、森に沿って歩くともっと魔物が出るよ」
カミラがそう勧めてくる。
「そうだな。町のそばは往復してだいぶ魔物も狩りつくしただろうしな。ちなみに森のそばってレッサーウルフとか出ないよな?」
俺は傭兵ギルドで受付のアイナさんから買った魔物一覧を思い出す。それに、レッサーウルフ、レッサークーガ、レッサーボア。初心者では相手にならない魔物も書かれていた。
「大丈夫だよ。そのあたりはもっと街から離れるか、南の川を渡らないと出てこないし」
カミラがそう教えてくれる。
東の門でアドバイスをくれた兵士も同じようなこと言っていたな。
「じゃあ、町を中心にもう少し離れたところをぐるっと回る感じで魔物狩りするか」
俺はそう言ってカミラの提案にのる。
確かに街を少し離れると森があって、魔物の出てくる頻度が上がる。結構休みなしで戦わされている感じだ。まあ、レベル上げ的に悪くない。
出てくる魔物は一緒で数が増えた感じだ。
そんな感じで、俺のレベルが14になり、北門のあたりまで、森に沿って歩くと、レベル15になる。
ヤバい。この幼女、結構スパルタだ。
「カミラ、悪い、ちょっと休憩だ」
俺はそう言って、少し森から離れる。
「いいよ。魔物が近づかないように私が狩っておいてあげるね」
カミラはそう言って森から離れずに槍斧魔法杖とかいう武器をくるくる回し、振り回して魔物を狩っていく。
スライム、スモールラットの死体の山がどんどん増えていく。
俺は、手ごろな岩に腰掛け、少し休憩して、息を整え、水筒から水を飲む。
そして、休憩している間に、俺のギルドカードがブルブル震える。レベルが16になったようだ。
『妹の為に一緒に戦う』のスキル効果でカミラの倒した敵の経験値が俺にもダブルカウントされるし、俺の倒した敵の経験値もカミラにダブルカウントされる。ぶっちゃけ、俺が何もしなくても経験値が増えていくのだ。
いいのか? これで?
おれはそんな、罪悪感から、腰掛けていた岩から立ち上がるとこん棒を構え直す。
「あ、お兄ちゃん、ちょっと面倒臭い魔物が来たから近づかない方がいいかも?」
俺の方を少し振り返るとカミラがそう言う。
なにが来たんだ?
キィキィとなんか聞いたことのある鳴き声だ。夜に外を歩いているとたまに聞こえる動物の鳴き声。それを少し大きくした感じ。
そして、それは俺の頭上から襲ってくる。
「コウモリか! スモールバットだな」
俺は慌てて躱し、魔物一覧表に書いてあったデカいコウモリの魔物の事を思い出す。
こいつもスモールバットという名前だが、馬鹿でかいコウモリの中でも小さい方という意味で、スモールでも馬鹿でかい。
チワワやヨークシャテリアくらいの大きさの小型犬にコウモリの羽根がついたような巨大なコウモリだ。羽の長さは俺が両腕を伸ばしたくらいの長さがあるかもしれない。
俺は落ち着いて距離をとり、スモールバットが襲い掛かってきたところをこん棒で叩き落とそうとする。
ヒョイ
巨大なコウモリがこん棒が当たる前にヒラっと体をひるがえし、こん棒を避ける。
「こいつらは、超音波で物の動きを探知するから、遅い攻撃だとかわされるよ」
カミラがそう言いつつ、自分は素早い攻撃でコウモリたちを斬り捨てていく。
ああ、くそっ、こん棒だと相性が悪すぎる。
これが、ゴルフクラブとかだったらもっと早く振れるんだが。
俺は無我夢中でこん棒を振り回すが、巨大コウモリに避けられ続ける。
しかも空中で距離とられるとこちらから攻撃する手段がないな。
俺はこん棒をすて、護身用のナイフを左手に持つ。
そして右手には、足元に落ちていた手頃の石を拾って握る。
「元、高校球児を舐めるな!」
俺はそう言って手に持った石をコウモリに投げつける。
まあ、高校球児っていっても、最高でも県予選初戦負け。基本、地区大会止まりだったけどな。しかもピッチャーではなく、外野手だったしな。
そんな俺の投球、もとい、投石だが、異世界のステータスのおかげか、威力も方向もいい。
巨大なコウモリの羽根に当たり、コウモリが地面に落ちる。
俺は慌てて、足でコウモリを踏みつけ、動けないようにして、心臓の辺りをナイフで一突き、そして何度も刺し、とどめを刺す。
うん、コウモリ相手にはこっちの方が正解だな。
俺はもう一度、手ごろな石を拾い、近づいてくるコウモリに投げつけ、同じように地面に落ちてきたところを押さえつけ、ナイフでとどめを刺す。
それにしても凄い数だ。コウモリの大群に襲われてしまったようだ。
「カミラ、大丈夫か?」
俺はカミラが心配になって声をかける。
「私は大丈夫。お兄ちゃんは囲まれないように気を付けてね。3匹同時とか、たぶん、今のお兄ちゃんじゃ捌き切れないから」
カミラがそう言って4~5匹に囲まれながらも囲いを潜り抜け、ながら同時に2匹以上を相手にし、武器をぐるぐる振り回して、コウモリを叩き斬っていく。
だいぶレベルも近づいたのに全然追いつける気がしない。こいつ本当にレベル21か? 強すぎるぞ。
俺は言われた通り、カミラから少し離れたところで、1匹ずつ相手にして、石を投げ、ナイフでとどめを刺す。
そんな感じで、名前はスモールバットだが巨大なコウモリたちを何とか撃退し、魔核を魔物の腹を開いて回収していく。
俺の首にぶら下げたギルドカードがブルブル震え、確認するとレベル16になっていた。しかももうすぐ17になりそうだ。
「カミラはこれだけ倒してもレベルが上がらないのか?」
俺は疑るようにそう聞いてみる。こいつ絶対レベル21じゃないよな?
「ああ、レベル20からレベル21になる時に、ランクアップと言って、急に必要な経験値が増えるからね。今までの5倍くらいになるかな? ちなみにレベル21からレベル22になるには経験値が2205必要なんだよ」
カミラがそう言う。
2205? 俺が今レベル16から17に上がるのに必要な経験値が256だから10倍近いじゃないか。レベル21になるのがまず第1の難関ってところか。
「ちなみに、レベル41になる時やレベル61になる時も、20ごとにランクアップがあって必要経験値は跳ね上がるからね」
カミラが俺をからかう様にそう言い笑う。
「先は長そうだな」
俺はそう言って、俺は大きくため息を吐くしかなかった。
「まあ、レベル20までは比較的楽に上がるから安心して。下手したら、私がいるし、今日中にレベル20になっちゃうかもね。まあ、そこからが大変なんだけど」
カミラがそう言ってもう一度笑う。
なんか、こいつの笑顔を見てると何とかなりそうな気がしてくるな。
本当の妹ではないが、兄妹のような親近感がわいてきた。
そんな感じで、北の門から少し離れたところから、さらに東門に向かって森のそばを歩いていく。
街の周りに丸く草原が広がっていて、その周りを丸く森が囲んでいるような景色だ。
東の門に着く前に、川にぶつかって森が途切れてしまう。これが、南の川ってやつか。町の南を流れたあとは北東に流れを変えて進んでいく感じ。それで、こんなところ川にぶつかってしまうのか。
そこからは川に沿って歩き、東門から伸びる大きな街道に出る。
「今何時くらいだ? というか、この世界も1日が24時間でいいのか? スキルに24時間とか書いてあったからそのつもりでいたが」
俺は独り言のようにそう呟く。
川の横を歩くようになって急に魔物の数が減ってしまい余裕が出たせいかもしれない。
「お兄ちゃんがいた世界がどうだか知らないけど、こっちの世界も1日24時間で区切られているね。ちなみに今は、夜の10時くらいだね」
カミラがそう教えてくれる。
夜の10時か。夕方4時ごろから魔物狩りをしていたから6時間くらい魔物狩りをしていたのか。まあ体感的にそのくらいだろうな。という事は時間の流れも向こうの世界と同じくらいと考えていいのかもしれないな。
「というか、なんで、カミラは時間が分かるんだ? 時計でもあるのか?」
俺はカミラの腕や持ち物を持ってないか確認する。というか、今気づいたが、こいつ、水筒と小さなポーチくらいしか持ってない。ほぼ手ぶらだ。
「ああ、鑑定スキルの親戚みたいなスキルがあって、それで時間も分かるんだよ。時計のスキルって言ったら大げさだけど、時計が見たくなったら頭の中に今の時間が浮かぶ、みたいな?」
カミラがそう言って舌を出す。
「なんか便利なスキルいっぱい持ってるな。俺が無能呼ばわりされる理由が分かった気がする」
俺はそう言って、ぐったり肩を落とす。
「お兄ちゃんは別に無能ってほどじゃないよ。あくまでも普通なだけ。それに、お兄ちゃんの、『妹の為に』ってスキルは完全オリジナルだし、仲間になる人によっては結構凄い方なスキルだよ」
カミラがそう言って慰めてくれる。
あくまでも凄いスキルではなく、凄い方なスキルって言い方が微妙だけどな。
まあ、王様が言った通り平民並ってとこなんだろう。
そのあと、街道のそばにいたスライムやスモールラットを倒し、俺のレベルが17になる。
「お兄ちゃん、ちょっとだけ南の川を渡ってみない? 街道から離れなければ推奨レベルは17前後だから今のお兄ちゃんなら行けると思うよ」
東の門のそばまで来てしまい、カミラがそう提案してくる。
街道をこのまま東に進むと川を渡る大きな橋があって、その先は魔物のレベルが少し上がるらしい。
俺は今日中にレベル20になれるかもしれないという可能性に期待してしまう。
「ちょっとだけ行ってみるか?」
俺は少し無理して、少し難易度の高い狩場に足を踏み入れてしまうのだった。
次話に続く。
幼女との魔物狩り、1話で終わりませんでした。
とりあえず、『妹の為に一緒に戦う』のスキルのおかげで今のところはサクサクレベルが上がります。