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第6話 兄、謎の幼女が妹になる。

 夜も無理して魔物狩りをする俺。

 そして、複数の魔物、スモールラットという、小型犬ぐらいあるネズミに囲まれる。ちっともスモールじゃねえ。

 腰に付けたマジックランタンの薄暗い明かりでの戦いだ。数が増えると苦戦する。


「おじさん、何してるの?」

後ろから突然声をかけられる。

 スモールラットを警戒しつつ、ちらりと振り向くと、紺色にも見える紺碧の黒髪、ショートカットの少女が首をかしげている。

 そして魔法だろうか? 彼女の周りはやたら明るい。

 そう考えると格好も魔法使いっぽい紺色のワンピースを着ている。


「何って、魔物を倒してるんだよ」

俺はそう答えて、襲ってきた1匹のスモールラッドを避けると横からこん棒で地面に叩きつける。

 スモールラッドは素早いし、噛みつき攻撃もしてくるので厄介な魔物だが、耐久力は低い。こん棒で殴れば動かなくなる。


「こんな夜遅くに?」

少女は俺が戦っているのを気にせずにそう聞いてくる。

 少女というより幼女だな。10歳前後か?


「昼夜関係ない、俺は、妹より強くならないといけないんだよ。少しでも早くな」

俺はそう答え、スモールラットから距離をとりこん棒を構え直す。



「妹がいるんだ。何歳?」

悪びれる様子もなく、質問を続ける幼女。


「知らん。この世界に来た時に若返った」

俺はそう答え、もう1匹、スモールラットを叩き潰す。


「って、あ、今の会話忘れろ」

俺は慌ててそう追加する。話の流れで余計な事を離しちまった。


「ああ、妹って転生者なんだ。ってことは、あなたも転生者?」

幼女がそう聞いてきて、俺は慌てて振り返る。

 勇者や転生者という言葉は庶民にも知れ渡っているようだが、いきなり転生者かと聞かれ俺はドキッとする。


「おじさん、よそ見したら危ないよ。闇の精霊よ、魔法石の力を精霊の力に変えたまえ。『闇弾(ダークバレット)』!」

幼女がそう言って、杖っぽい、いや槍か? よく分からない魔法石のついた長柄の武器をスモールラットに向けると、黒い球状の何かがスモールラットに飛んでいきスモールラットに穴が空く。


 くそっ、色々喋り過ぎた。俺は王様から役立たずと追い出された身だ。あまり他人には素性を知られたくない。

 俺はそんな後悔をしながら、最後に残ったラットを倒す。


 ふう。

 俺は戦いが落ち着き、大きく息を吐くと、スモールラットの腹を割いて魔核、魔法石を取り出して回る。


「ほら、お前が倒した分だ」

俺はそう言って、大穴の空いたスモールラットからとり出した魔法石を投げ渡す。


「もう、助けてあげたんだからもう少しくれてもいいのに」

幼女がそう言って不貞腐れる。


「助けた? 邪魔したの間違いだろ? で、お前こそこんな夜中になにしてるんだ?」

俺はさっき聞かれたことをそのまま聞き返す。


「私も魔物狩りだよ。私も強くならないといけないの」

幼女がそう答える。


「昼間やればいいだろ? 訳ありか? 俺も人の事は言えないが」

色々聞かれた仕返しとばかりに俺は幼女に聞き返す。


「そ、訳ありだよ。訳ありで、レベルも上げたいんだよ」

幼女がしれっとそう答える。


「そうか、気を付けて魔物狩りするんだな」

俺はそう言って、西門に向かってまた歩き出す。


「面白いスキル持ってるね、おじさん。ううん、お兄ちゃん」

幼女が俺の背中越しにそう言う。


「なんで、俺のスキルが分かる? そして、職業も見たな?」

俺は慌てて振り返り、胸元のギルドカードが盗られてないか確認する。うん、あるな。


「なんで、って、私、鑑定スキル持ちだから。大抵のことは分かるよ」

幼女がそう言って、俺をからかう様に笑う。


「スキルの意味分かってないでしょ? 教えてあげようか?」

幼女がそう言って俺に寄ってくる。


「見られたものはしょうがない。スキルの意味が分かるのか? 鑑定スキルってやつの効果か?」

どうせ、スキルを見られたんだから、どうせなら意味というやつを知りたい。


「教えてあげてもいいけど、その代わり、私とパーティ組んでよ。で、夜の間、魔物狩りするの。一人じゃ効率悪いし限界もあるしね。それに、お兄ちゃんのスキル、役に立ちそうだし」

幼女が俺を値踏みするようにつま先から頭の先までみる。

 なんか色々調べられているような気がして嫌な気分だ。

 そして、パーティを組む? RPGでよくある奴か?


「私、魔法使えるし、鑑定スキルも持ってるし、この世界の事色々知ってるし、役に立つと思うよ。しかもレベル21だし」

幼女が胸をはって自慢げに自分を売り込みに来る。


「まあ、パーティを組むのはいいとしてなんで俺なんだ? 魔法が使えるなら、他にも強い奴とかとパーティ組めるんじゃないか?」

俺はそう聞き返す。

 

「まあ、そこは訳あり同士ってことで。それと、今からするスキルの説明を聞けばわかるよ」 

幼女がもったいぶったようにそう言う。


「とりあえず、パーティは組んでやる。だから俺のスキルの説明をしろ。ただし、適当だったり、嘘くさかったらパーティの話は無しだからな」

俺はそう答え、スキルの説明を求める。


「商談成立。じゃあ、教えてあげるね。お兄ちゃんのスキル、『妹の為なら』は要するに、お兄ちゃんが妹の為になる事で、努力で何とかなるレベルの事象を引き出すスキルだってさ。『妹の為なら24時間戦える』は名前のとおり、妹さんの為に努力して眠気を押さえるスキルだね。でも、24時間たつと倒れるらしいから、まあ、18時間くらいで抑えておいてちゃんと寝た方がいいよ」

幼女がそう説明する。


「なんだそりゃ? というか、そんな説明なら大体予測できた内容だ」

俺はそう言い返し、少しがっかりする。


「じゃあ、もう少しおまけしてあげる。私にはお兄ちゃんがこれからとれるスキルも見えるの。手始めに、私を妹と認識しなさい。そして、妹と一緒に戦いたいと願いなさい」

幼女が自慢げにそう言う。


「なんだそりゃ? お前を妹と認識する? 俺の妹はあてなだけだ」

俺は呆れて、そう言い返す。


「もう、なんとなくでいいの! 自分より小さいから、妹っぽいなとか、少し本当の妹と似ているなとか、妹みたいにか弱そうだから助けてあげたいな、みたいに、少し私の事を妹っぽいと思えばいいの!」

幼女がそう言って少し怒る。


 妹っぽい? 確かに小さいし、妹のあてなと初めて会ったのも9歳のとき。似てなくもないが、って、まあ少し似ている気もするか? まあ、こんな小さい子供を一人で戦わせるのはちょっと可哀想な気もするな。

 俺はそんなことを考える。


「よーし。いい感じ。妹認定されたよ。あと、スキルも追加されたからみてみなよ」

幼女が突然、嬉しそうに騒ぎだす。


 スキルを確認しろ? なんか罠か? 俺は少し幼女から離れてギルドカードを胸元から出す。言われてみるとブルブル震えて光っている。

 俺はカードケースからカードを取り出し、幼女に覗かれないように隠しながらカードの裏を見る。


スキル


妹の為なら

 →24時間戦える

 →助けてあげる(NEW)

 →一緒に戦う(NEW)


「何だこりゃ?」

俺はギルドカードの裏を見てがっかりする。

 また意味の分からない枝スキルが増えている。 


「それがさっき説明したスキルだよ。お兄ちゃんのレベルとやる気と努力次第で、妹の為になるスキルが身に着く。『妹の為なら助けてあげる』はバフ効果。妹認定された私のステータスが10%ほど上がったよ。それと、『妹の為なら一緒に戦う』は経験値の共有。お兄ちゃんの手に入れた経験値が私にも入るし、私が手に入れた経験値もお兄ちゃんに入る。私と魔物を取り合うような狩場じゃ意味ないけど、魔物が大量にいるようなバラバラに戦って経験値が手に入るような狩場なら経験値が2倍手に入ることになるね」

幼女がそう言って喜ぶ。

 確かに経験値が二倍手に入るのは美味しいな。


「というか、お兄ちゃんってなんだよ?」

俺はお前のお兄ちゃんになったつもりはない


「雰囲気だよ雰囲気。お互いが兄妹(きょうだい)って意識しないと、お兄ちゃんのスキルが機能しないから。ね、お兄ちゃん」

そう言って俺を冷やかすように笑う幼女。


 そんな雑談をしていると、お腹が減ってくる。

 そういえば、この世界に来てからまだ一度も食事を取ってないな。


「それで、これからどうするんだ? 俺はちょっと腹が減ったから、パンでも食おうと思うんだが」

俺は腹が減ったし、パーティを組んだがいいが何をしたらいいか分からないのでそう提案する。


「そうだね。ちょっと休憩しながらお話する? 折角パーティ組んだんだし、私に聞きたい事もあるでしょ?」

幼女がそう答える。 


「そうだな。名前も知らない怪しい子供とパーティを組むのも怖いしな」

俺は嫌味を込めてそういう。さんざんスキルを覗かれたしな。


「名前? 私の名前は、みら、じゃなくてカミラ。カミラだよ。そして魔法使い」

幼女がそう自己紹介する。

 まあ、偽名だろうな。俺は自己紹介を聞きながら、背負っていたバックパックから水筒を出し、水筒の水で軽く手を洗い、口をゆすぎ、一口飲んでから。同じくバックパックから昼間に酒場で買ったパンとベーコンを出す。


「食べるか?」

俺は一応、カミラに聞く。


「食べる!!」

カミラが嬉しそうに飛びついてくるので、半分に千切って分けてやる。


「なんか切り方きたないなあ」

カミラがそう言って嫌そうな顔をする。


「スライムやラットの腹を捌いたナイフで切っても良かったんだぞ?」

俺はそう言って、残りのパンにベーコンを乗せて食べる。日持ちのするように少し硬く焼いたパンだ。


「それは嫌。っていうか、生活用のナイフも買いなよ」

カミラはそう文句を言いつつ俺と同じようにしてパンとベーコンをかじる。

 確かに護身用や作業用とは別に綺麗に使うミニナイフみたいのは欲しいな。


「お前、飯、食べてないのか?」

俺は少し心配になって聞いてみる。


「ん? 食べてるけど、節約している感じかな? 私、訳ありで傭兵ギルドのカード持ってないし、魔法石をお金に替えられないんだよね。それもあって、お兄ちゃんにパーティ組んで欲しかったの。私の分の魔法石も換金できるでしょ?」

カミラが残念そうな顔でそういう。


「もしかして、身分証明書みたいなのもないのか?」

俺は驚いて聞き返す。


「あー、私魔法使いで、薬もちょっと作れるから、工房ギルドのカードは作ったんだよ。だけど、工房ギルドじゃ魔法石は買取してくれないし、薬で稼ぐにしてもそこらへんに生えている薬草で作った薬じゃ高く売れないからね。なんとか宿代と食事代を稼げるくらい?」

カミラがそう言って首から下げた工房ギルドのカードを見せてくれる。

 傭兵ギルドのカードと比べてシンプルだな。素材も羊皮紙だし、手書きで名前や職業、住所や所属国だけ書いてあってステータスなんかもない。まさに身分証明書って感じだ。

 書いてある名前は『カミラ』。偽名でも工房ギルドのカードは作れるのか。


「お前、親はいないのか? 帰る家とかもないのか?」

俺は宿暮らしと聞いてさらに心配になって聞く。


「親もいるし、家もあるんだけど、遠くて帰れないんだよね。実は、それもあってお兄ちゃんを頼ったんだよ。実は私の家、北にある森、凄く強い魔物が出る森の先にあるんだよね。その『魔物の樹海』と呼ばれる森を抜けた先にある魔人族の国にお父さんもお母さんも住んでるんだ」

カミラがそう言う。


「魔人族の国!? お前、魔人族? 魔王と同じ国の出身か?」

俺は慌てて、立ち上がる。昼間に町民に聞いた知識をフル回転させる。王様が倒したいのは魔王で魔王の国には魔人族という亜人種が住んでいるらしいという事を思い出す。


「落ち着いてよお兄ちゃん。私のお父さんもお母さんも人間だし、魔王もそんなに悪い人じゃないんだよ」

カミラが慌ててそう言う。

 

「魔人族の国にも人間が住んでいるのか?」

俺は気を取り直しそう聞く。


「うん、まあ、稀にだけどね。魔王も喧嘩さえ売ってこなければ人間にも寛容なんだよ」

カミラがそう答える。

 魔王がどんな存在なのか知らないといけなそうだな。少しずつでもカミラから聞くか。


「で、友達の家に遊びに行ったときに、ちょうど大きな戦争があって、この国の兵士さんに避難民と間違って連れてこられちゃった感じ? で、家のそばの強い魔物が出る森を越えられなくて、帰れなくなっちゃったの」

カミラがあっけらかんと言う。


「とにかく私は家に帰りたい。だけど、帰るには強い魔物がいる北の樹海を抜けないといけない。だから、こんな夜まで頑張ってレベルを上げてるお兄ちゃんを見つけて、パーティを組んで私もレベルを上げたいなって思ったの。なんか、お兄ちゃん、面白そうなスキル持ってたしね。一人で戦うより絶対効率いいよ? それに、私、明かりの魔法使えるしね」

そう言って、光る杖を自慢げに見せる。


「というか、何で夜に魔物狩りしているんだ?」

俺は気になって聞いてみる。


「うーん、私、朝弱いんだよね。陽の光浴びると貧血起こしちゃうみたいな? だから日が落ちてから魔物狩り。昼間寝てるのも気持ちいいしね」

この子は小さいのにダメな子みたいだ。


「こんな妹だけど大丈夫かな?」

カミラがそう言って上目使いに俺の表情をうかがう。


「逆に、俺みたいなおっさんを信用していいのか? さっき会ったばかりだし、訳ありだし、正体も不明、昼夜問わず魔物狩りしている奴だぞ?」

俺は逆に俺でいいのかと心配になる。


「まあ、私も訳ありだし。お兄ちゃんって、妹大好き過ぎて、困っている小さい女の子とかもほっとけない感じじゃないの?」

カミラが俺をからかうようにそう言って笑う。


「まあ、そこまで言われて、可哀想な幼女を放っとく訳にはいかないな。それにレベル上げの効率が上がるならギブアンドテイクだ」

俺はそう言って頭を撫でる。

 なんかあてなの小さいころを思い出すな。


「まあ、今のところ私の方がレベル高いし、魔法も使えるし、役に立つと思うから、これからよろしくね、お兄ちゃん」

そう言ってカミラが笑う。


 こうして訳ありの押しかけ妹カミラが仲間になった。


 次話に続く。


 謎の幼女が妹になりました。まさに謎ですw

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