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第50話 ミユキ、完成した鎧を届けに行く。

【異世界生活24日目 朝】


「それじゃあ、お祖父ちゃん、行ってくるね」

「ああ、頼む。それと、フブキをちゃんと連れ戻してこい」

「うん、そっちも大事だもんね」

私はお祖父ちゃんに挨拶をして隣町のギルスの町に向かう馬車に乗り込む。

 最近、鍛冶の修行に没頭し過ぎて無造作に伸びた、銀にも白にも見える髪を何とか見栄えよくしようと左右に編んだみつあみのおさげが少しうっとうしく揺れる。


 私はミユキ。キッシュの町で鍛冶師をしているお祖父ちゃんの家で鍛冶師の見習いをしながら暮らす雪豹族の女の子。

 今日は、1週間ほど前にお世話になったお兄さんからのお仕事、ダンジョンで拾った鎧に防御力を上げる魔導石を取り付ける加工が終わったのでそれを届けるお仕事にいくの。


 ついでに双子の妹、フブキちゃんの回収に行くわ。

 お兄さんに影響されて冒険者の修行がしたいと、お兄さん達について行ってしまったフブキちゃん。隣町までという条件付きでお祖父ちゃんが許可したから、鎧を届けるついでに妹を引き取りに行く感じね。


 そんな感じで、私は乗合馬車に1日ほど揺られて隣町に向かう。



【異世界生活24日目 夕方】 


 隣町に向かう道中は特に問題もなく順調に進んだけど、町に着く直前、私達は魔物に襲われる。


「ラージフロッグだ。舌の攻撃には気を付けろ」

護衛役の傭兵ギルドの人達が叫ぶ声が聞こえる。

 私も戦闘ができないわけではない。お兄さんと一緒にダンジョン攻略もしたし、レベルも50超え、何か手伝えないかと護身用に持って来た戦鎚ウォーハンマー小盾バックラーを手に持ち、馬車から降りる。


「お嬢ちゃん、危ないぞ。馬車に戻れ」

馬車から降りた私と目が合った傭兵ギルドの人がそう声を掛けてくる。


「私も傭兵ギルドに入っていますし、レベルは56。お役に立てると思います」

私はそう言って武器を構える。


「俺よりレベルが高いじゃないか。それじゃあ、俺達のパーティを手伝ってくれ」

声を掛けてきた男性が呆れ顔でそう言うと気を取り直して私を彼の仲間達に紹介してくれる。

 彼らの邪魔をしない程度に手伝わせてもらおう。



 最初は軽くお手伝いする気持ちで飛び出したけど、そんなに甘い状況ではなかったみたい。

 魔物の数が多く、護衛の人がラージフロッグ2体以上を1人で対応しなくてはいけない状況になっている。しかもラージフロッグの舌のスピードが尋常じゃない。見て避けられるスピードじゃない。


 私は魔物の攻撃する瞬間、その気配を察知し、いち早く小盾バックラーで舌を受け、引きづり込まれる前に右手に持った戦鎚ウォーハンマーでカエルの舌を地面に打ち込み、足で踏みつけて動けなくしてから、戦鎚ウォーハンマーでラージフロッグの脳天に一撃を食らわせる。それを次のラージフロッグが襲い掛かってくる前に済ませないといけない。休む暇もなく、魔物の全体の動きをみながら左右に移動する。


「護衛がラージフロッグに飲み込まれたぞ!! 誰か助けに行ってやれ」

「こっちも手が回らない、誰か援護を」

「弓、弾幕が薄いよ。左の魔物を狙え」

傭兵ギルドの護衛の人達の怒号が響く。かなり不利な状況のようで、私も自分の安全を確保するので精一杯になりつつある。

 レベル56の私が大量のラージフロッグに囲まれてこんな状況なのだから、私よりレベルの低い人たちは自分の命を守る事すら危うくなってくる。


「とにかく、前だ! 前方を塞ごうとする魔物を倒して馬車を進めろ! このままじゃジリ貧になるぞ」

護衛のリーダーらしき男性がそう叫び移動しだす。


「仲間がラージフロッグに飲まれたままなんだ。助けてくれ!」

護衛の一人が悲壮感を漂わせてそう叫ぶ。


「すまん、このままじゃ、隊商キャラバンも全滅してしまう。お前達も仲間よりも自分が生き残る事を優先しろ」

護衛のリーダーらしき人がそう答え、前に前に走り出す。


 私も遅れるとラージフロッグに囲まれてしまう。可哀想だけど、私も他人を助ける余裕が全くない。私の命も危ない状況だし。

 私は心の中で、ラージフロッグに飲まれた人に謝り、急いで馬車の前方に走る。



「凄いよ、大量だよ、ラージフロッグ狩りまくりだよ」 

そんな悲壮感が漂う中に楽しそうな声が響き渡る。どこかで聞いたことある声だ。


「囲まれないように気を付けろよ。丸呑みされても助けないからな」

さらに聞き覚えのある男の人の声だ。


「あ、ミユキちゃん、久しぶり」

その人の事を思い出していると、咄嗟に楽しそうな声が帰ってくる。妹のフブキちゃんの声だ。

 私によく似た白銀の髪を背中まで伸ばしている双剣の剣士。私の妹、フブキちゃんだ。

 フブキちゃんは大量のラージフロッグを物ともせずに、飛んでくる舌を双剣でなます切りにし、そのまま、ラージフロッグに駆け寄り喉元を掻き切り、次のラージフロッグに飛び掛かる。

 その後ろを守るようにタイヨウお兄さんとエリーさんがフブキちゃんを囲もうと左右から迫るラージフロッグをなぎ倒していく。

 私は懐かしい気持ちになり、そして安心感も沸いてくる。


 そして、馬車の前の方からは別の一陣も。

 火魔法でラージフロッグを焼き払う全身マント姿のカミラちゃん、そして、騎士盾ヒーターシールド長剣ロングソードを装備した女騎士さんがフブキちゃん以上に猛烈な勢いでラージフロッグを右に左に斬り捨てていく。


「フブキ、気を付けろ。そのラージフロッグ腹が膨れている。人が入っているぞ」

お兄さんがそう叫び、


「分かってるよ。お腹は傷つけないように倒すね」

フブキちゃんがそう言っていつもより慎重に魔物を倒していく。

 私もみんなに合流するように、ラージフロッグの群れを切り開いていく。



「大丈夫か? ミユキ?」

懐かしい声でお兄さんが私に声を掛けてきてくれる。


「危ないところでした。数が多すぎて護衛の人達も逃げるのもままならない状況で凄く助かりました。それにしてもなぜここに?」

私は感謝の気持ちを伝えつつ疑問も伝える。


「いやな、フブキが暇だから魔物狩りをしようって。ミユキが鎧を届けに来てくれるまでやる事がないからって町の周りや街道の掃除をしていたら偶然な」

お兄さんが恥ずかしそうにそう言う。

 フブキちゃんに振り回されていたのだろうな。


「でも、本当に助かりました。ありがとうございます」

私はもう一度、そう言ってお礼を言う。


 あのままでも、私自身は逃げきれたかもしれないが、その代わり見捨てる人が何人も出たかもしれない。

 私はそんなことを考えながら、フブキちゃんが倒したラージフロッグから助け出された護衛の人を見る。


「兄貴、ミユキちゃん、遊んでいる暇ないよ。ラージフロッグに囲まれちゃうよ?」

フブキちゃんはラージフロッグの腹を開き、飲み込まれた人の呼吸を確保できた時点で彼を放置し、集まってきたラージフロッグに斬りかかる。エリーさんも必死にフブキちゃんが襲われないように周りを守っていた。


「おっと、そうだな」

タイヨウお兄さんがそう呟き、集まってくるラージフロッグに斬りかかる。

 私も慌てて、お兄さんを追う様にラージフロッグに挑みかかる。


 そうだよね。とりあえず、この大量の魔物をまずはなんとかしないとダメだよね。積もる話はそれからね。



 そして30分ほどそんな戦いを続けると徐々にラージフロッグの勢いが削がれていき、最後は、散り散りになって逃げだす。何とか撃退できたようだ。


 隊商キャラバンの前の方も、カミラちゃんともう一人の女騎士さんのおかげでカタがつき、護衛の人達も落ち着きを取り戻したようだ。

 戦闘終了後、前方で戦っていた護衛の人達も戻ってきて、フブキちゃんが中途半端に助けたラージフロッグの腹の中にいた人たちも救い出される。まあ、フブキちゃんも完全に助け出す余裕はなかったんだけどね。


「君たちのおかげで助かったよ」

護衛のリーダーらしき人が一番活躍していた女騎士さんにそう声を掛けるが、女騎士さんは無視をする。


「お礼はいいよ。魔法石目的で魔物を狩っていたら偶然遭遇しただけだし。その代わり、魔法石は貰うからね。手持ちの魔法石を媒介にして魔法も結構使っちゃったし」

女騎士さんの代わりに隣にいたカミラちゃんがいつもの調子で護衛のリーダーにそう答える。

 慌てて、本当のパーティのリーダーであるお兄さんが護衛のリーダーと交渉に入る。

 カミラちゃんに任せると大変な事になりそうなのは私にも分かる。


「ミユキちゃんもタイミングがいいのか悪いのか散々な目にあったね」

フブキちゃんがそう声を掛けてくる。


「そうだね。私はもう少し楽に隣町まで来られるものかと思っていたし、お兄さん達とレベル上げしてなかったらもっと大変な事になっていたかもしれないわ」

私はフブキちゃんにそう答える。


「まあ、レベル上げしてなかったら、ラージフロッグと戦おうなんて気も起きなかったと思うけどね」

そう言ってフブキちゃんが笑う。

 確かにそうね。私も納得して笑う。なによりレベル上げをしない、つまりお兄さんと会ってなかったら、私がこの町に来ることもなかっただろうし、もしかしたらお祖父ちゃんが鍛冶師を続けることもできなかったかもしれない。

 私の心の中に色々な思いが溢れる。


 その後、タイヨウお兄さんやフブキちゃんも護衛に加わってくれて、安全にギルスの町に着くことができた。

 そして、そのまま、タイヨウお兄さん達が泊まっているという宿屋に向かうことになる。


「ミユキちゃんも泊まっていくんでしょ? 私のベッドがもう一人寝られるから、私と一緒に寝よ?」

フブキちゃんがそう誘ってくれるので、お兄さんの借りている部屋でお世話になることにする。

 ちなみに、初めて会った女騎士さんはこの町でお兄さん達の仲間になったテミスさんという人らしい。まっすぐ伸びた金髪とすらっと伸びた手足、所作に無駄がなくまさに女騎士と呼ぶにふさわしい美しい女性。ただ、彼女は人見知りが激しいらしく、私とも話はしてくれなかったけど。


 とりあえず、フブキちゃん達と宿の浴場で湯あみをしてさっぱりしてから食堂でみんなと夕食を食べる。その際に頼まれていた調整と魔導石の取り付けを終わらせた鎧をタイヨウお兄さんに渡す。これで私の仕事の一つは終了だ。


「わざわざ届けさせてしまって悪かったな。さっきは危ない目に会わせてしまったみたいだしな」

お兄さんが申し訳なさそうにそう言って私に謝る。


「鎧もいい感じだね。この町のダンジョンで拾った鱗鎧スケールメイルの上から着たら完璧じゃない?」

カミラちゃんがそう言って鎧を褒めてくれる。

 まあ、鎧自体は土のダンジョンで拾ったボス部屋の報酬だし、私やお祖父ちゃんが作った物じゃないけどね。それでもお祖父ちゃんや自分が手を加えた、手伝った作品を人に褒められると嬉しくなる。


「そういえば、タイヨウお兄さんは、この町のダンジョン攻略も済んだのですか?」

私は気になって聞いてみる。


「そうだよ。昨日、ダンジョン攻略が済んだところ。ミユキちゃんが鎧を届けに来てくれるまで、適当に魔物狩りでもして待っていようってことになったんだけど、まさかミユキちゃんに会うとはね」

フブキちゃんが会話を遮るように私にそう説明してくれる。


「まあ、そういう事だ。目的のダンジョン攻略も済んだし、ミユキに頼んだ鎧が届いたら、馬車の手配など準備して、次の町に移動しようかと思っていたところだ」

お兄さんがフブキちゃんの言葉にそう付け足す。


「そうなると、明日、傭兵ギルドに行って馬車の護衛の仕事がないか確認して、馬車があれば明後日って感じですかね?」

エリーちゃんがお兄さんにそう確認する。


「そうしたら、明日の残り時間はミユキちゃんのレベル上げしようよ。私もこの町での最後の魔物狩りになりそうだし、ね?」

フブキちゃんがそう言って身を乗り出す。


「まあ、いいが、移動の準備、買い物など済ませてからだぞ」

お兄さんが優しくフブキをそう窘める。


「ミユキちゃんはいいの?」

カミラちゃんがそう聞いてくる。


「そうですね。1~2泊はゆっくりしてから戻ろうと思っていたのでちょうどいいです。馬車代も稼げますしね」

私はそう答える。


「帰りは私と馬車の護衛をしながら帰ろうよ。馬車に乗って帰るだけじゃつまらなそうだし」

フブキちゃんがそう言って護衛の仕事を誘ってくる。


「というか、楽しかった冒険も、もう終わりだもんね」

フブキちゃんがそう付け足し、寂しそうな顔になる。


「町に戻ったら、爺さんの為に鉄を集めなきゃダメなんだろ? ミユキと二人でダンジョン攻略、結構大変そうだぞ?」

お兄さんがフブキちゃんを慰めるようにそう声を掛けてくれる。


「そうだね。暇になったら、ゴブリン倒しまくって鉄を集めればいいか。今なら一人でも土のダンジョンの最深部まで行ける自信があるよ」

フブキちゃんがそう言って笑う。

 それに付き合わされる私はたまらないけどね。


 そんな感じで、久しぶりにお兄さん達と楽しい夕食を囲み、寝相の悪いフブキちゃんに悩まされつつも何とか同じ部屋で一晩明かして、次の日は、午前中、お兄さん達の買い物に付き合って、午後はお兄さん達が次に向かう町に続く街道に沿って魔物狩りをして私のレベル上げを手伝ってもらった。


 みんなさらに強くなっていたし、フブキちゃんもレベル60越え、テミスさんに関してはレベル80で地道に魔物狩りを続けているけど最近はほとんどレベルが上がらない。そんな格上の冒険者さんだった。

 私も今日1日でレベルが1上がってレベル57、今日1日魔物狩りをして分かったのは、私にはこれ以上ついて行ける世界ではないこと。命の危険や怖さが先行してしまう、自分が庶民、ただの鍛冶見習いだってことを痛感させられたわ。

 フブキちゃんはどんな気持ちなんだろう?


 私はフブキちゃんに本当の気持ちを聞けないまま、夜を明かし、朝、馬車に乗る。

 私たちはお祖父ちゃんの待つ南に向かう馬車に。

 お兄さん達は次の町、ニナの町に向かう、北に向かう馬車に。


 私もフブキちゃんもちゃんとお兄さん達にお別れが言えたし、ちょっと泣いちゃったけど、これでいいんだと思う。私もこれ以上は危険になる。命のかかった冒険になるって体で感じたから。

 私は、馬車を護衛しながら、珍しく言葉数少ないフブキちゃんの、寂しそうなフブキちゃんの隣を歩きながらお祖父ちゃんの待つキッシュの町に向かって歩くのでした。


 次話に続く。

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