第47話 兄、悪い虫を追い払う。
【異世界生活21日目 夕方】
俺達はダンジョン第三階層の最深部巣食った中ボス級の魔物を駆除し、第四階層の前半を軽く覗いた後、町に帰ってきた。
「タイヨウ様、お客様がお待ちです」
宿屋に帰ると、困惑顔のシュナウズさん、テミスの家の元執事で宿屋の支配人が俺に声を掛けてきた。
シュナウズさんに案内されて、食堂の端の方の円卓に向かうとバンダナを頭に巻いた一人の若い男が座っていた。
そして、シュナウズさんが、その男に俺の紹介をしてくれる。
向こうは俺の事を知っているようだが、俺は全く記憶にない。というより、こっちの世界に来て知り合いなど作ったこともない。俺が知っているのは自称妹のパーティメンバーと傭兵ギルドの受付や買い物に行った先の店主くらいか。
「どちら様で?」
俺は見も知らずの男にそう聞く。
「私は、シオン。勇者アテナのパーティで前衛をしている」
バンダナの男はそう答える。
バンダナで眉毛のあたりまで隠していて、胡散臭い匂いがする。
というか、俺も十分胡散臭いがな。そして、ダンジョンから帰ってきたばかりで薄汚れていて、魚臭い。
俺は自分の身の回りを気にするしぐさをする。
「とりあえず、シオン様、タイヨウ様達はダンジョン攻略から帰ってきたばかりで、汚れが気になる様子。積もる話も、皆さんが着替えてからでいかがでしょうか?」
シュナウズさんがそう助け舟を出してくれる。
実際、マーマンの体液などで、結構魚臭いからな。周りのお客さんにも迷惑だし。
シオンという客に許可を貰い、俺は井戸で水浴びをし、部屋で着替えてから食堂に戻る。
女の子達は湯浴みに時間がかかっているのだろう。今は俺とシオンの二人だけだ。
「で、あてなのパーティメンバーが何の用だ? あてなの件で俺を訪ねてきたということは俺の事を知っているんだよな?」
俺は警戒心を強め、威圧的にそう聞く。下手をしたら、妹の言う通り、国王の刺客かもしれない。
「ああ、知っている。勇者アテナの兄で、妹同様転生者。しかし、勇者の適正はなく、国王に放逐されたところまでは」
シオンがそう言う。
「そこまで知っていて、俺に会いに来たという事は特別な用事だよな?」
俺はそう言い、護身用に身に着けていたナイフに手を伸ばす。
勇者のパーティというからには相当の手練れだろう。いや、もしかしたらパーティメンバーという言葉自体嘘かもしれない。そうなるとそれ以上に手練れな人殺しの専門家という線もありえる。
「お待たせ、お兄ちゃん。早くご飯たべよ?」
そんな空気の中、カミラが慌てて走り寄り、円卓に座る。
俺とシオンが向かい合って座っている間に挟まるように俺の横に。
「妹なのか?」
シオンが疑うようなまなざしでカミラを見る。
「ああ、ただのパーティメンバーだよ。名前で呼ぶのが面倒臭かったから、お兄ちゃん?」
カミラが適当な事を言う。
そして、マントの下から、「ゴトン」と重い音をさせて、禍々しい装飾のついた、魔法の武器らしい長剣を取り出し、円卓に立てかける。見たことない武器だ。
「腕に自身がありそうだな」
シオンがそう言って、円卓に立てかけた長剣を見る。
「シオンさん、だっけ? レベル60ちょっと、純粋な剣士さんってところかな? 私も結構強いけど、剣だけじゃ苦戦しそうかな?」
カミラがそう言って笑う。
魔法なら楽勝とでも言う様に。
そして俺に鑑定結果を教えてくれたのか。
「目もいいようだな」
シオンがそう言って笑う。
鑑定スキルはレアスキルらしいので、鑑定スキルとは思っていない口ぶりだ。
鑑定スキル持ちとバレたくないカミラもそれを踏まえて雰囲気で俺に伝えるふりをしたのだろう。
そんな鍔迫り合いをしていると、テミスが当たり前のように合流し、俺の横、カミラの反対側に座る。その後、慌てるように湯浴みから上がったエリーも合流し、何も考えていないフブキも最後に席に着く。
テミスはシオンと知り合いなのだろうか? お互い目配せをしてテミスが一礼して座っていた。貴族ってことか?
そして、注文もしていないのに食事が配膳されてくる。よく分からないが、今日はテミスの奢り? すこし豪華な食事が並ぶ。
改めてシオンを観察するが、頭のほとんどと顔の一部を隠すように頭に巻かれた大きなバンダナ。服装は貴族というより、小綺麗な冒険者といった感じか。
テミスの反応からして、貴族が変装しているといったところか? シュナウズさんもよそよそしいところを見ると多分貴族だろう。外見はあてにならないと。
服装以外に関してはよく分からない。肌の露出も少なく、服の盛り上がりからは多分鍛え上げられているであろう筋肉質な体が推測できる。カミラが言った通り手練れの剣士、いや、騎士といったところか。
「ねえ? 食べていい?」
フブキが空気を読まずにみんなにそう聞く。
「そうだな、食事をしながら話をしよう」
シオンがそう言い、フブキが嬉しそうに料理にかぶりつく。
エリーも困った顔で回りを伺いながら食事に手を付け、テミスもゆっくりだが食事に手を付ける。
そして、カミラは警戒しているのか、いつものように夕食にかぶりつくようなことはなく、常に手元に置いた剣を意識しながら少しずつ食事をとる。
というか、カミラは魔法使いだったよな? 剣を振るうなんて初めて聞いたぞ。魔法剣士ってところか?
そんな感じで、6人掛けの円卓に、俺の対面に座るのがシオン。俺の横を固めるように、俺に右側にカミラ、左側にテミスが座り、状況が分からず、対応に困っているエリーがテミスとシオンの間に、何も考えてないフブキはカミラとシオンの間に座った感じだ。
「ずいぶん、警戒されているな」
シオンが食事をとりながらそう言って笑う。
「国王がやったことを考えれば当たり前だろ?」
俺はそう答える。
「違いない。だが、今日は国王の考えとは無関係だ。必要ならこちらが提供できる情報はできる限り提供することもできるぞ。妹の状況とか知りたいだろ?」
シオンが俺の反応を楽しむようにそう提案してくる。
「そうだな。知りたいことは山ほどある。あてなは元気か? 今何をしている?」
俺はあえて、シオンの提案にのることにする。話をするうちにシオンがボロを出すかもしれないしな。
そんな感じで食事をとりながらあてなの近況を根掘り葉掘り聞く。
予定通り、あてなはキッシュの町に着き、ダンジョンを攻略したこと。
予想外にダンジョン攻略が順調に進み、2週間近く余裕をもって攻略計画を立てていたが、それが2日で終わり、残り時間で町の復興、特に魔物を減らす作業と外壁の修復を護衛の兵士とともに行っていること。
そして予定通り、さらに15日後にはこの町に移動して同じように魔物狩りとダンジョン攻略を始めるとの事だった。
ちなみにシオンは予想外にダンジョン攻略が早く終わった為、やる事が無くなり、休みを取って俺に会いに来たらしい。
「ダンジョン攻略が予想外に簡単だったのはそういう事だったんだな」
シオンが俺を見てそう言う。
「アテナには言うなよ。兄が影でこそこそ動いていたなんて知ると機嫌悪くなるからな」
俺はそう答える。
「まあ、気づいているだろうけどな」
シオンがそう言って笑う。
話をしてみたが、こいつ、悪い奴ではなさそうだな。
まあ、イケメンでナルシストっぽいところがあるから、あてなの趣味からはかなり外れているけどな。そして、俺もイケメンは嫌いだ。
そんな感じで、今まで欲しかったあてなの近況を色々聞きだすことができ、俺もシオンという男に気を許しつつあった。
「で、シオン王子。ご用件は?」
食事も終わり、話が一段落ついたところで、テミスがそう聞く。
「王子!? 王子様なのですか」
エリーが慌てて立ち上がろうとする。
俺も内心驚いた。王子ってことはあの国王の息子ってことだよな。まあ、国王の事もよく知らないが。
「今日はお忍びだ。というより、身分や肩書は置いてきた。普通に平民として、冒険者のシオンとでも思って、名前で呼んでくれ」
シオンがそう言い、エリーが立ち上がるのを制する。
「で、シオンさんが、お兄ちゃんに何の用?」
カミラが不機嫌そうにそう聞く。
まあ、俺の今の状況を一番よく知っているのはカミラだしな。敵対心も強い。そして、テミスも自分の家族の身分、貴族の地位を奪い、実の兄の命を奪った可能性もある国王の息子だ。内心、穏やかではないだろう。
エリーがあわあわとしているのに対し、カミラは強気だ。まあ、カミラはこの王国の人間じゃないらしいしな。それにしても肝が据わっている。
そして俺も、王族と言われてもピンとこない。元の世界で王族と呼ばれる人間に会ったことないしな。
「率直に言おう。勇者アテナに魔王討伐後に私との結婚を提案したのだが、断られた。どうしてもというなら兄に許可を貰ってこいとアテナに言われたのだ」
シオンがそう言う。
そして俺以外の4人は「何言ってるんだ? この人」って顔になる。突拍子もない話だったのと、王族らしい空気の読めない話の振り方、もう少し言うタイミングや話の流れっていうものがあるだろ?
そして、どこか他人事のような口ぶりも何か腹が立つ。
だが、俺は気を取り直し、こう答える。
「ああ、それ、脈なしってことだな。あいつは自分が好きになった男なら、俺の意見なんか聞かずに勝手に付き合うしな。俺が気に入らない相手だったとしても聞く耳もたない。そんな妹だ。俺の許可を貰えっていうのは、あてなにしてみたら要は、その男に興味ないっていう断り文句だ。そして、俺はそんな男を認める理由もないし意味もない」
俺はそう言い放つ。
それに対し、シオンは目を丸くして驚く。こいつ、イケメンだし、王子の立場に胡坐をかいて、女にフラれたことないのだろうな。
実際、あてなは元の世界でそんな感じだったしな。
なにより、あてなに俺が本命の彼氏を紹介されたことがないし、たまにこいつみたいに勘違いした男が単身で俺に挨拶に来たことはあったが。
そう言う場合は決まって俺はこう言う。
「妹のあてなを守れないような男に妹を任せるつもりはない」
とな。
大抵の男はここまで言えばあきらめて帰るのだが、売り言葉に買い言葉、俺に挑んでくるオラオラ系の人の話を聞かないダメ男はボコボコにして撃退する。もちろん、喧嘩ではない。お互い同意の手合わせだ。漢を賭けた戦いだ。
「それは願ってもない。手合わせをお願いする」
シオンがそう言って立ち上がる。
「それでいいのお兄ちゃん?」
カミラが心底嫌そうな顔をする。心配してくれての事だろう。
「ちなみにテミス。こういう場合の手合わせってどういうルールが普通なんだ?」
俺はこっちの世界のルールを知らないのでそう聞いてみる。
「場合にもよるな。男二人が一人の女性を争っての果し合いなら、真剣での命をかけた戦い。もしくは寸止めのルールで圧倒的な力を見せつけるか、武器を落とすなど、明らかな勝敗を見せつける。あとは普通に手合わせなら木刀だな。木刀でも一緒だ。動けなくなるまで叩く方式か、寸止めで圧倒的な力の差を見せつけるかってところだな」
テミスがそう言う。真剣での果し合いはちょっと勘弁してほしいところだ。
俺の希望としては木刀での殴り合いだな。あてなを口説こうなんて二度と思わなくなるまでボコボコにする。それが俺の、あてなに対する兄の使命だと思っている。
愛すべき妹に寄りつこうとする悪い虫を駆除するのは兄の仕事だ。
レベルは近いようだが、剣術のレベルは雲泥の差だろう。そこは気力と精神論で悪い虫を叩き潰す。
そんなことを考えていると、傭兵ギルドのギルドカードがブルブルと震えだす。
レベルアップをした時や、スキルを新しく覚えた時に教えてくれる魔法のバイブ機能だ。
俺は気になってギルドカードを取り出し、レベルを確認するが変わりなし、誰にも見えないように隠しながらスキルの書いてあるカードの裏を確認する。
すると、カードの裏、俺の固有スキル『妹の為に』には、新しい枝分かれができていた。
新しいスキルは『妹の為に悪い虫は叩きのめす』だそうだ。
なんだそりゃ?
カミラも気づいたのかちらっと俺の方を向く。
多分、鑑定スキルで俺の新しいスキルの内容を調べてくれているのだろう。
「ああ、そういうことね」
カミラが満足そうにそう呟く。
「とりあえず、武器は木刀。寸止めなしで、相手が降参するか動けなくなるまで叩き合う。そんなルールの手合わせでどう?」
カミラがテミスとシオンを交互に見ながらそう言う。
「私はいいが、アテナの兄君はいいのか? 言っては悪いが、私は幼少のころから剣技の鍛錬は欠かしたことがない。少しぐらい鍛錬した程度では勝ち目がないぞ」
シオンが微妙な顔をしてそう言う。
同情というか、俺を舐めている顔だ。
多分、王族の立場を利用して、傭兵ギルドから俺のレベルや実力くらいは調べたのだろう。
レベルは同等だが、剣術は素人。そのあたりはバレていそうだ。
「お兄ちゃん、やっちゃいな」
カミラがシオンの態度にイラっとしつつ、俺のギルドカードをチラ見してそう言う。
新しいスキル『妹の為に悪い虫は叩きのめす』はこの為に現われたのか?
まあ、この世界ではスキルも実力のうち。有効活用させてもらおう。
そんな感じで、カミラと作戦会議をしてから、庭に出る。いつもテミスから槍や剣の指導を受けている庭だ。今日も急いでシュナウズさんが火をつけてくれたのだろう。かがり火が並べられている。
「兄君よ、鎧は着けなくていいのか? それぐらいのハンデは必要だろ?」
シオンが余裕の表情でそう言う。
「いや、相手が軽装なのに俺だけ鎧を着るわけにはいかないだろ?」
俺はそう言って、木刀を構える。
「それでは、申し訳ないが、兄君を倒して、私はアテナとの結婚の権利を得る!」
そう言うとシオンも木刀を構える。
「ああ、俺を倒しても結婚はできないぞ。あてながその気ないだろうからな。あくまでも、あてなの断り文句が一つ減るだけだ」
俺はそう言って笑い、シオンに木刀で殴りかかる。
数分後。
地面に転がり動けなくなるシオン。
話をしてみていい奴だとは思ったが、それとこれは別だ。愛しの妹あてなに集る虫は徹底的に駆除する。
「ズルいぞ。何かスキルを使ったな」
ボコボコになった、シオンが立ち上がろうともがきながら悔しそうにそう言い捨てる。
「俺の妹への愛の力だ」
俺はそう言い捨てる。
実際そうだしな。
直前に手に入れたスキル『妹の為に悪い虫は叩きのめす』はこういう奴を叩きのめすスキルらしい。
要は妹への愛情に相対して、バフがかかる。俺の愛情は無限大だからな。上限なしにバフがかかる。ただし、マナを大量消費するので、やり過ぎると、戦闘終了後、MP不足でぶっ倒れたり、最悪、反作用で戦闘後レベルが下がったりする可能性もあるので、バフの加減が必要だ。
そのバフを活用し、ステータスがシオンを上回り、剣術の不利を上回るくらい、さらにステータスが上がり、蝶のように舞い、蜂のように刺し、シオンをボコボコにした。
しかも、殴るときに相手の体力を低下させる効果、しかも殺さない程度に手加減効果も付いているらしい。思う存分殴らせてもらった。
「とりあえず、あてなが欲しかったらレベル100になって出直してこい」
俺はそう言い捨てる。
まあ、その時には俺もレベル100になっているだろうし、最悪、さっきのスキルでバフをかければいい。
「その言葉忘れるなよ。強くなってまた来る」
シオンはそう言い捨てると、シュナウズさんが気を利かせて呼んだ馬車にフラフラの状態で乗り込む。
テミス、回復魔法が使えるなら回復してやれよ。
どや顔でシオンを追い出すテミスの横顔を見ながらそう思った。
そして、シオンがいなくなったところで、俺もぶっ倒れる。
バフをギリギリのところで抑えたので俺もかなりのダメージを受けたし、なにより、スキル『妹の為に悪い虫は叩きのめす』の反動でMPはゼロ、しかも副作用の筋肉痛で動けなくなるというおまけつきらしい。
「このスキルを使えば、魔王も楽勝なんじゃないか?」
俺は地面に大の字に転がりながらそう呟く。
「まあ、ダメだろうね。格の違う魔王相手じゃ、バフのかけ過ぎで、即、ぶっ倒れると思うよ。MP切れと筋肉痛、そしてレベルダウンのおまけつき。戦闘後、半年は寝込むんじゃないかな?」
カミラがそう言って笑う。
このスキル、万能ってわけじゃないみたいだな。あくまでも今回のように強さが均衡した相手に対し、妹の為にもう少し力が欲しい。そんな気持ちに答えてくれる捨て身のスキルってところか。
「手加減スキルっていうのは便利そうだよね。人間に襲われることもゼロではないだろうから、相手を殺さずに制圧できるスキル?」
カミラがそう付け足す。
まあ、人間に襲われるなんていう状況にはなりたくないけどな。
最悪、俺が邪魔になったら、国王が刺客を送ってくる可能性もゼロじゃないしな。その時には有効活用させてもらおう。
テミスに回復魔法をかけてもらいながら筋肉痛で動けない俺は、地面に寝ころびながらそんな事を考えるのだった。
次話に続く。
ブックマーク1名様ありがとうございます。
最近、リアルの方が忙しくて更新が遅くなりすみません。




