第5話 兄、レベル上げをする。
俺は装備を固め、町の外をめざして移動する。魔物を倒してレベルを上げるためだ。
とにかく妹と会う為にはレベルが必要と分かったからな。
ギルドは町の西の方にあるらしいので、俺は西の出口に向かって歩く。
王城を中心に大通りが東西南北に広がりそれに合わせて徐々に広がっていったような十字の形をした町だ。四角く区切られた区画が幾つか集まってできたような大きな町だ。
いくつかの門をくぐって一番外の西門を出る。振り返ると、町の周りにさらに農地や牧場が広がっていて魔物から畑を守るように小さな石垣が広がっている。
町の南には大きな川が流れていて、そこから町を囲むように防壁に沿って堀が張り巡らされている。
「町の観察はほどほどにしていくか」
俺は心の中でそう呟き、畑を囲む石垣に沿ってぐるっと時計回りに町を巡回することにする。
武器屋のおっちゃん曰く、初心者は町の周りで魔物退治。畑を荒らしに来たり、牧場の家畜を襲って食べたりする魔物を退治してレベルを上げるのがお勧めだそうだ。
石垣に沿って歩いていると、さっそく魔物に遭遇。スライムだ。
なんか透明な水まんじゅうに蛍光色がついた生き物で、今まで見た動物では表現できない。しいて言うなら陸上を刎ねるクラゲ? 触手のないクラゲって感じか?
典型的な雑魚魔物だが、人が近づくのを感じると飛び掛かってきて、体にとりつくと、体の下にあるらしい口から酸を出して皮膚をただれさせる。なので飛びついてきたら叩き落す。飛びついてくる前に斬り捨てるか叩き潰す感じらしい。ギルドの受付嬢のアイナさんから買った魔物一覧にはそう書いてある。
俺は魔物一覧を鞄にしまい、こん棒を構える。
スライムがプルンと震える。俺を認識したようだ。
スライムは大きく跳ねて俺に近づき、もうひと飛びで俺の頭上から襲い掛かる。
俺は冷静にこん棒を上段に構えると、フルスイングでスライムを叩き落す。
グチャっと嫌な感覚がして、スライムが体液を垂れ流して地面の上で動かなくなる。
表面の皮を大きく損傷すると、体液が流れ出て死ぬようだ。
俺は一応、ぐりぐりと、スライムの死骸をこん棒でえぐり、潰し、死んでいることを確認する。
そして、死骸の中から、小さな石。魔核と呼ばれる魔法石を取り出す。
スライムは最弱の魔物なので魔法石の大きさも小さい。
だが、これでも、懐中電灯に入れる電池のように魔力を吸い出すことができるらしい。
懐中電灯といえば、武器屋に行ったときに、魔法石で光るランタンも買った。それがこの魔法石をエネルギーにして光るのだ。
ぶっちゃけ、夜も戦わないと妹の強さには追い付けそうにないからな。夜は危険らしいがそんなことは言ってられない。俺は24時間でも戦い続ける。妹の為なら戦える。
心の中でそんなことを考えていると、首からぶら下げていたギルドカードがなんかブルブルと震える。
慌てて、とり出すと、淡く光っている。そして、下の方の空白に、「経験値獲得」「新スキル獲得」と字が表示され光っていたのだ。
実際、ステータス表示の下、経験値と書いてあるところを見ると『0/100』という表示が『9/100』と更新されていた。
なるほど。昔やったRPGっぽいな。そして、後ろの100というのが次のレベルに上がるまでに必要な経験値っぽいな。
「それと、なんだ? 新スキル獲得って?」
俺は独り言をつぶやき、カードケースからギルドカードを出し、裏側を確認する。
スキル
妹の為なら
→24時間戦える
新しいスキルというか枝が伸びていた。
よく分からないが24時間戦い続けられるという事か?
まあ、俺としては都合がいい。このスキルで昼夜問わず戦い続けてレベルアップができるのならな。
俺はそんなことを考え、ギルドカードをしまうと魔物をもう一度探す。
というか、ギルドカード多機能な上にバイブ機能付きなのか?
また少し歩くとスライムがいる。2戦目なので落ち着いて対応できる俺。
飛び掛かってきたスライムを今度は野球でもするようにフルスイングでこん棒を横に振り、スライムを跳ね飛ばす。
ビチャっと嫌な音がして、地面にスライムの体液が放射線状に広がる。そしてコロコロと転がる魔法石。
「ああ、やべえ」
俺はそう呟き、魔法石を追いかける。
すると草むらから、別のスライムが出てくる。しかも3匹だ。
俺は魔法石の追跡を一時諦めスライムと距離をとる。
スライムは知能がないようで、連携など取れるはずもなく、自分勝手に俺に向かって飛び跳ねてくる。
距離をとり続けることで、跳ねる距離がずれ、スライム同士の距離も離れていく。
俺はそれを確認し、今度は魔法石を飛ばさないように最初のように上段にこん棒を振り上げ、振り下ろし、地面にほぼ垂直に叩きつける。
2匹目も遅れて飛び掛かってくるので、一度避け、こん棒を上段に構え直して、同じように叩き潰す。
3匹目も叩き潰す。
3つの小さな魔法石が手に入った。
そしてさっき拾いそこなった魔法石も拾い。戦闘終了。
そのまま、畑を囲む石垣に沿って歩いていく。
スライムが草むらから出てくるのでこん棒で叩いて倒す。
そんな単調な作業をしていると、別の魔物が現れる。
カエル? 人の大きさくらいあるカエルだ。
俺は一度距離をとり、魔物一覧を確認する。
フロッグという魔物らしい。
大中小いるらしく、今見たフロッグは人間の大きさくらいなのでスモールフロッグ。
人の1.5倍くらいになるとミディアムフロッグ、3倍近いものはラージフロッグと分けられるらしい。スモールフロッグはニワトリなど家畜を食べるので害獣扱い、ミディアムフロッグはヒツジやヤギなども食べるし、ラージになると人間も食べるらしい。
色違いの毒のあるポイズンフロッグという危険な魔物もいるらしいが今回は普通のフロッグだ。
害獣指定の魔物なので積極的駆除対象だ。
まあ、スモールフロッグは攻撃手段がないそうなのでスライムより弱い。追っかけまわして叩き潰す。
耐久力があるようで、一発ではしないので脳天をもう一度叩いてとどめを刺す。
スライムより弱いのに経験値は少し高い。美味しい魔物のようだ。
そして、またギルドカードがブルブルと震えだす。
首から下げたカードを確認すると、レベルが上がったと表示されていて、レベルが11になり、ステータスが少しずつだが上昇していた。
この調子なら結構順調にレベルが上がりそうだな。
そんな感じで町の周りをぐるっと時計回りで回り、西門から東門まで歩いたところで日が暮れだす。
そこで、ギルドカードが震え、レベル13に。3時間程度でレベルが3上がったぞ
そして経験値表示は2/169。徐々にだがレベル上げが難しくなってきた。
暗くなってきたので、腰に着けた魔法石で光るランタン、マジックランタンにスライムから手に入れた魔法石を入れてみる。
微妙に薄暗いが、目の前数メートルを確認できるくらいには明かりが確保できる。
まあ銀貨3枚のマジックアイテムだ。能力は御察しだ。
「おーい、キミ」
町の方から声がする。
声の方向を向くと門の衛兵らしき人が手を振っている。
俺は気になったのでそばに行く。
「おい、君、夜になると夜行性の魔物も増えて危険だから町に入った方がいいぞ」
衛兵らしい人がそうアドバイスをくれる。
まあ、へんなおっさんが、ランタン片手に暗くなり出した町の外をうろちょろしているんだ。気にはなるだろうし、声をかけたくなるだろう。
「死ぬほどヤバいのか? レベル13くらいだと死ぬ?」
俺は一応聞いてみる。
「ま、まあ、昼間に比べて少し強い魔物が出るくらいだが、真っ暗で視界も確保しにくくなるし、なるべく夜の魔物狩りは避けた方がいいと思うぞ」
衛兵は少ししどろもどろにそう言う。レベル13なら何とかなる感じか?
夜になると出てくる魔物が強くなるのは本当のようだが、あくまでも少し強くなる程度。それなら俺は行く。妹に追いつき、助ける為にも。
「それと、南に流れる川にかかった橋は渡るなよ。その先はレベル13くらいじゃ倒せない敵が増える。あくまでも町の周りから離れないようにな」
親切な衛兵さんだ。
俺は衛兵に挨拶して、さっきとは逆方向に歩き出す。これ以上時計回りに町の周りをまわるとさっき言っていた南に流れる川の橋を渡ってしまうことになるからだ。
当分の間はこの道を往復しながらレベルを上げて、強くなったら少しずつ町を離れて歩いていく感じかな?
そんなことを考えながら歩きだす。
日が暮れ、真っ暗になると、フロッグの姿が無くなる。スライムは昼夜関係なく活動するようだ。
そして、フロッグの代わりに出てくるのがラット。巨大な鼠だ。
ラットもフロッグ同様大中小いて小さいものは小型犬くらい、中ぐらいのものは中型犬くらい、大きいものは大型犬くらいで、大きいものだと人間くらいの大きさのラージラットがいるらしい。
今日戦っているのはスモールラット。小型犬の大きさだ。
ただし、凶暴で積極に襲い掛かってくるし噛みついてこようとする。しかも結構素早い。皮の手袋と革のブーツがなければ結構危なかった。避けられなかったラットの噛みつき攻撃は手袋で受けて地面に叩きつける感じだ。
俺はマジックランタンの弱い光をあてに、スライムやスモールラット、そして夜行性のヘビ、スモールスネークと戦う。視界が暗く、魔物は夜目で素早く動け、昼間の魔物よりより好戦的だ。
ちなみに、スモールスネークという名前だがデカい。デカいヘビの魔物の中でも小さい方という意味だけらしい。
そして、そんな好戦的な魔物とギリギリの戦いをしながら北の門のそばまで来たところで、スモールラットの群れに襲われ苦戦している時、俺は彼女に出会った。
「おじさん、何してるの?」
声の方をちらりと振り向くと、ひときわ明るい光に包まれた、濃紺の服を着て、服と同じような髪色の、紺碧のショートカットの少女。
いや、幼女?
10歳少々の小さい子供が真夜中に町の外、魔物が溢れる世界をうろちょろしているのだ。違和感しかない。
そして、俺の中にもう一つ気づかない違和感が潜んでいるのだった。
次話に続く。
とりあえず、最初はよわよわなのでモタモタしますが、少しずつペース上がっていきます。
そして、やっと最初の仲間?らしき幼女が登場しました。
次回辺りから盛り上がる予定なのでゆっくり生暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。次回もぜひお読みください。
感想、ご意見お待ちしております。ブックマークや☆もらえると作者かなり喜びます。