第43話 兄、水のダンジョン攻略の日々
(24年7月15日)
前々回倒した魔物の数を間違えました。
実際倒した数の半分くらいしか計算していなかったので経験値と銀貨を倍に修正しました。
【異世界生活19日目 朝】
教会の鐘の音で目を覚ます。朝の6時か。
俺は急いで着替える。
「おはようございます。タイヨウお兄さん。今日は急いでどうしたんですか?」
エリーも目を覚ましたようで、ベッドに腰掛けるとそう聞いてくる。さすが神官の修行をしていただけあって朝が早いな。
「おはよう、エリー。悪いんだが、カミラとフブキを起こすのを任せていいか? ギルドに行って魔法石の換金をしてくる」
俺はそう言って、昨日まとめておいた全員分の魔法石を持って部屋を出る。
早歩きで傭兵ギルドと宿を往復し、ギルドの受付で魔法石を銀貨に換金して帰ってくる。
テミスの実家の宿だが、魔法石の換金に関しては面倒臭いな。直営の宿なら下に降りればすぐギルドだしな。
まあ、それを差し引いても、飯が美味いし、部屋の掃除が行き届いているので宿を替えたのは正解だったと思う。
宿に戻ると、エリー達も食堂に降りてきていた。
さすがに水着姿で朝食を食べるわけにはいかないので私服のままだ。
「早く食べて着替えないと。着替えの時間も必要だしな」
俺はそう言って、朝食を注文する。
そして、換金してきた銀貨を全員に渡す。
魔法石は3分の1ほど川に流されてしまってランク2の魔法石が132個。銀貨に換金すると銀貨13枚と小銀貨1枚だ。130個分だけ銀貨10枚と小銀貨15枚に換金してきた。
1人銀貨2枚と小銀貨3枚を全員に配り、前回の端数を含め、魔法3個はカミラに渡す。魔法で使った分の補充だ。
「そういえば、魔法って、魔法石を使わないと使えないのか?」
俺は前から気になっていたことをカミラに聞いてみる。
「んー? 使えないことはないよ。MPを使って魔法を使うことができるね。本当はそっちの方が無詠唱で魔法が使えるから便利といえば便利なんだけど、MPを回復するのに経験値が必要なんだよね。MP使うとレベル上げが遅れる。だから魔法石でMPの代用をしている感じ? あと、MP使って魔法を使うと、体内のマナが乱れて、吐き気がして連続で魔法が使えないのもネックだね」
カミラがそう教えてくれる。
「経験値とMPが一緒の扱いか。それは使いにくいな」
俺はそう呟く。
「ちなみに、魔法石は魔物のMPが固まった物だからMPの代わりに使えたり、燃料の代用品として使えたりするんだよ」
カミラが魔法石についても教えてくれる。
そして、燃料の代用品として売れるからギルドが買い取ってくれると。
「ちなみに、私の聖魔法は、魔法石では使えません。神様に自分のMPを捧げて魔法の発現をお願いする感じです。原初魔法と違い、体内でマナを練る感じではないので、気持ち悪くなることもないですし、何度も使うことができます」
エリーも自分の魔法の事を教えてくれる。
体内のMPを練って自分で魔法を放つのが原初魔法。
魔法石を媒介に精霊に力を借りるのが精霊魔法。
神様に自分のMPを捧げて神様に魔法を借りるのが聖魔法。
系統が違うらしい。
ちなみに、マナの操り方が分からない俺はそのどれも使えないそうだ。というか、魔法を使える人自体が多くないらしい。
あと、スキルを使うのにMPが必要な物もあるそうで、俺のスキルの一つ、死にそうになると自動治癒が働きだす『妹の為に死ねない』はその類で、体が勝手にMPを使って体を直している。魔法とはちょっと違うそうだ。
そんな雑談をしていると、朝食ができて配膳されてくるので俺は急いで朝食を食べる。早食いはサラリーマン時代の必須スキルだからな。
エリー達と着替えの時間が被ってしまうとタイムロスになるので、急いで食べて部屋に上がり着替える算段だ。
「俺は、一足先に部屋に上がって着替えるから、ゆっくり食べていていいからな」
俺は朝食を食べ終わるとそう言って、急いで部屋に行って水にも潜れる防具を身に着ける。
水のダンジョンに行く間は俺も女の子達も水着みたいなちょっと街中を歩けない装備をつけるので、着替えるタイミングが面倒くさいな。
着替え終わると俺はマントを纏って食堂に降りる。
エリーの食事が終わり全員食べ終わったところのようだ。
そして、テミスもフード付きマント姿で食堂に来ていた。
そして入れ替わるようにエリーやフブキが部屋に上がっていく。
「それじゃあ、急いで着替えてきますね。テミスお姉様」
カミラがテミスをからかう様にそう言う。
「お姉様?」
俺は首をかしげる。
「私がテミスさんをお姉様って呼んだ方が、テミスお姉様もタイヨウお兄ちゃんをお兄様って呼びやすくなるかなって」
カミラがそう言ってぺろっと舌を出し、そのまま部屋に上がっていく。
「やはり、私もタイヨウの事をお兄様と呼ばないとダメなのだろうか?」
テミスが困った顔でそう言う。
「まあ、今のままでも大丈夫なんじゃないか? 経験値の上りもいいんだろ?」
俺はテミスにそう聞く。
「ああ、実際倒した魔物の数の倍くらいの経験値が入っている。多分、タイヨウの得た経験値も重複して入っているのだろう。カミラの言う通りにな」
テミスがそう言う。
始めてテミスの口からカミラの名前が出た気がする。
ここに俺だけしかいない状態だからかもしれないが、テミスと他の子達の関係も少しは進展したのかな?
「やっぱり知らない人間は苦手か?」
俺は周りに聞こえないように小声で聞いてみる。
「・・・・」
「嫌いとかそう言うものではないのだが、どうしても、警戒してしまう。色々あったからな」
テミスが少し戸惑いながらそう答える。
忠誠を尽くしてきた王様に虐げられ、謀略で兄を失い、家族は貴族の身分を失った。他人を信じろと言ってもそれは酷か。
昔から知っていてよくしてくれる人間と俺だけはなぜか話せるらしい。『妹の為に』スキルのおかげか、謎の職業『お兄ちゃん』の効果かはわからないが。
「まあ、それはいいとして、昨日はありがとうな。槍の使い方を教えてくれて」
俺は話題を変える。
「まあ、あれも気分転換にいいかもしれないな。今日も付き合ってやる」
テミスがそう言って、今日の鍛錬も約束してくれる。
結構本人も楽しんでいるんじゃないのか?
そんな感じで雑談をしていると、カミラ達が着替えて下りてくる。
そして、彼女たちを見て思い出して、テミスに銀貨2枚と小銀貨3枚を渡す。
「昨日の魔法石の取り分だ。だいぶ川に流れてしまったみたいで少なくて悪いけどな」
俺はテミスにそう謝る。
「まあ、ダンジョンを攻略すれば元は取れるだろう」
テミスがそう言う。
「そうだな。最奥までの案内を頼む」
俺はそう答える。テミスが最後まで付き合ってくれると言ってくれた気がしたからだ。
全員揃ったので、食堂でお昼のお弁当を受け取り、カミラの自称マジックバッグに入れてダンジョンに出発。
昨日同様、西の門から町の外に出て、西に流れる川に沿って魔物を倒しながら北西に歩き、ダンジョンに到着。
ダンジョン内の魔物を倒しながら先に進む。
昨日かなりの数の魔物を倒したので、今日はだいぶスムーズに進める。
昨日同様、ビッグフロッグが中心で、時々空飛ぶ魚、ウォーターリーパーが出たり、中ぐらいのカニのレッサーキャンサー、ザリガニもどきのクレイフィッシュなんかも出たりする。
魔物の濃度が低くなったこともあり昨日撤退したところまでは昼前に到着できた。
「とりあえず、昼休憩にしよう」
魔物の討伐も落ち着いたので一度休憩する。この先に少し強い魔物がいるらしいしな。
カミラがさっそく、昨日注文したお弁当のサンドイッチを自称マジックバッグから取り出す。
木の蔓のような物を編んで作った小さい籠のようなお弁当箱にバケットに切れ目を入れて作った大き目のサンドイッチが4個入っている。ちなみに弁当箱は要返却だ。
テミスのバスケットに入ったサンドイッチより見かけは粗末だが、入っているサンドイッチはほぼ一緒のようだ。まあ、テミスのバスケットにはデザートやら、飲み物やら余計なものも入っているみたいだが。
「美味しそうだね」
フブキがお弁当を受け取りそう言う。
カミラも待ってましたとばかりにタマゴサンドにかぶりつく。
「見張りをしておくから先に食べてくれ」
俺はそう言い、カミラとフブキに先に食べさせる。エリーと俺は先に見張りをしてカミラたちが食べ終わった後に交代して食べる感じだ。
「私も見張りを代わるぞ?」
テミスが俺にそう声を掛けてくる。
「まあ、俺とカミラは危険感知のスキルを持っているから、任せてくれ。何かあった時には真っ先に戦ってくれればいい」
俺はそう答える。
「テミスさんは最強だし、最終兵器だしね」
フブキがそう言って笑う。
確かに、何かあった時の為に体力を温存して欲しい部分はあるな。あと、道案内に何かあったり、バテられたりしても困るしな。
そんな感じで昼御飯を交代で食べ、休憩をして体力を回復させる。
「いるな」
「うん、いるね」
俺の呟きにカミラが答える。
休憩した通路からさらに先に進むと、ひらけた場所があり、そこから魔物の気配が溢れる。
俺は岩場に隠れながら、その部屋を覗く。
カミラも俺の腹の下からひょこっと顔をのぞかせて部屋を覗く。
なんか人型のカエルがいる。ラージフロッグと比べると明らかに小さいので拍子抜けだが、なんか嫌な雰囲気は感じる。ラージフロッグより強そうだという嫌な雰囲気だ。
手には武器を持っていて、木の棒に石の穂先をつけた槍を持っているワーフロッグや、粗悪な木の盾と石を削って作ったナイフや石斧を持っているワーフロッグがいる。最初のダンジョンのゴブリンやオークたちより明らかに装備は貧相だ。
それでもゴブリンより強そうだとわかる。何か嫌な気配がするのだ。
「ワーフロッグだね。カエル人間って感じ? レベルは35前後? 動体視力もいいし結構強いらしいよ。あと、舌攻撃も健在。腕が3本あると考えて戦った方がいいだって」
カミラがそう教えてくれる。
「それって、鑑定スキルの結果なのか?」
俺はあまりにも詳しい説明に聞き返す。
「うーん、内緒? 絵本とか昔読んだ本の知識かもね」
カミラが適当な事を言って誤魔化す。
こいつは色々謎が多すぎる。
「まあ、そんな感じだ。とにかく、動体視力がいいから守りが固い。そして近づき過ぎると舌が飛んでくる。あまりレベル差に胡坐をかくなよ」
俺の後ろから同じように覗いていたテミスがそう言う。
そんなに強いのか?
ちなみに俺達のレベルは
タイヨウ レベル 63
カミラ レベル 59
エリー レベル 60
フブキ レベル 57
テミス レベル 80
テミスがダントツで強いが、俺達だって決してレベルは低くない。
レベル35の魔物に苦戦するか?
そんなことを考えていると、テミスが動く。
「いくぞ」
そう言ってテミスが部屋に飛び出し、俺も後に続く。
俺の後にカミラ、エリー、フブキも続く。
「そんな強いなら楽しみだね」
フブキが嬉しそうにそう言い、そこから散開、それぞれのターゲットに向かって走る。
ワーフロッグは10体。戦場も広く、1対1で戦っていたら、2対1の状態に持ち込まれてしまうかもしれない。
「エリーとフブキはペアで戦え。2対1の有利な状況で少しでも数を減らせ」
俺はそう言い、テミスのもとに走る。
「私は魔法を使うからね」
カミラはそう言って、魔法詠唱を始める。
「賢い判断だ」
テミスに追いついたところで、彼女がそう言う。
「私がワーフロッグの気を引くから横からどんどんとどめを刺せ」
そう言って、最初のワーフロッグに飛び掛かるテミス。
「ガガッ!!」
テミスの鋭い突きがワーフロッグの粗悪な盾で防がれる。
速い!?
「こいつらは動体視力と武器さばきだけが異常に発達している。こちらも手数を出さないと致命傷は与えられないぞ」
テミスがそう叫び、俺は慌てて、テミスが攻撃したワーフロッグに攻撃する。
「ガツッ!」
俺の槍も素早い盾の動きで受け流される。
「それでいい」
テミスがそう言い、その隙を突いてワーフロッグの心臓に三つ又の鉾を突き刺す。
そしてワーフロッグを足蹴りして矛を引き抜くと次のワーフロッグに飛び掛かる。
「土の精霊よ、魔法石の力を使い、魔法の力とせよ。『石の槍』!」
カミラが後ろで魔法詠唱を終え、ワーフロッグの1体に石の槍を飛ばす。
「ゲゲッ」
ワーフロッグがひと鳴きすると素早く盾を構えて魔法を受ける。
しかし威力を殺し切れず、粗悪な盾は砕け散り、胸のあたりに深々と石の槍が突き刺さる。
「マジ? 魔法のスピードに盾で対応された!?」
カミラがそう言って驚く。
「こいつら、楽しいよ。私の攻撃、全部受けられちゃう」
カミラのさらに向こうではフブキが楽しそうに悲鳴を上げている。
動体視力のいいワーフロッグがいいおもちゃに見えるのだろう。
「フブキちゃん、遊んでないで倒さないと、そのうち囲まれますよ」
エリーがそう言い、フブキの戦っていたワーフロッグの死角から横腹に向けて右手で全力のボディブローを浴びせる。 棘のついた篭手がワーフロッグにめり込み、そのまま、左手で、ワーフロッグのあごに向けて強烈なアッパーを食らわせ、ワーフロッグが吹っ飛ぶ。
「この敵、正面に集中していると、横からの攻撃に弱いみたいです」
エリーがそう言う。
正面に対する動体視力は優れているようだが、それ以外の視界は見えているが対応が遅れる、視点を移さないと攻撃に対応できないのかもしれない。
テミスが2体目のワーフロッグに斬りかかり、俺はワーフロッグの視線を注意しながら、ワーフロッグの左から攻撃を仕掛けたテミスとは反対側、右に回り込み横腹に槍を突き刺す。
慌てて、ワーフロッグがこちらを向こうとするが、それより早く俺の槍がワーフロッグのわき腹に深く突き刺さる。
その隙をついて、テミスが三つ又の鉾を一回転、ワーフロッグの首を跳ね飛ばす。
「よし、いい感じだ」
テミスはひとことだけいうと、さらに次の敵に走っていく。
残り6体。
次のワーフロッグに飛び掛かった時にはカミラの魔法で5体に減る。これで負けはなくなったな。
俺も負けずに、ワーフロッグに攻撃をするが、槍を持ったワーフロッグに槍で受け流される。
しかし、テミスが左の死角に回りあっという間に心臓を一突き、残り4体に。そしてエリーとフブキのペアももう1体倒し、残り3体。
「逃がさないぞ」
テミスがそう言い、部屋の左側に流れる川を塞ぐように立ち、俺もその横を守る。そして、そこから徐々に進んでワーフロッグを川とは反対方向に追い込んでいく。
そしてじりじりと部屋の隅に追いやられる3体のワーフロッグ。
「あとは楽勝だね」
カミラがそう言って魔法を詠唱、『雷の壁』を発動し、ワーフロッグを囲むように雷のカーテンが広がり、徐々にワーフロッグ達に迫り、最後は3体のワーフロッグに雷の矢が降り注ぎ、ワーフロッグがけいれんを起こしながら地面に倒れる。
「お兄ちゃん、とどめを。お兄ちゃんが倒すのが一番経験値効率いいからね」
カミラがそう言うので俺は慌てて、動けなくなったワーフロッグに走り寄り、心臓を一突き、とどめを刺していく。
全てのワーフロッグにとどめを刺したところで、戦闘終了。魔法石を回収する。その後、テミスが熱心に川を覗いているのでそこにみんな集まる。
「道が行き止まりだが、どうする? 戻るか?」
俺はテミスの視線の先を見て彼女にそう聞く。
「いや、この道で問題ない。この川を潜って、次の階層に行く。それが正式なルートだ」
そう言って、岩の壁から流れ出す川を指さす。
「あそこを潜って隣の部屋にいくのかぁ。何秒ぐらい息止めれば向こうに行けるの?」
カミラがそう聞く。
確かに潜る時間が分からないと溺れかねないしな。
「1分も息を止めれば岩の向こうに着く。ただ、泳ぎに自信がなければもう少し時間がかかるかもな」
テミスが俺に向かってそう言う。
「1分以上息を止めるのは厳しくないか? しかも魔物に襲われる可能性がある」
俺は慌ててそう聞き返す。
「しかし、道はここしかない」
テミスが無情にもそう答える。
これがこの水のダンジョンの攻略を難しくしているギミックってところか。ここを潜って通る為に、重い鉄の鎧は着てこられないし、濡れても泳げる水着のような服や防具を準備しないといけないと。しかもある程度の防御力が維持できる水中用の防具だ。
「しょうがないな、お兄ちゃんは。私が魔法で何とかしてあげる。とりあえず、エリーちゃんとフブキちゃんは武器を持ち替えよ? 鉄の武器は錆びちゃうだろうから」
カミラは少しどや顔でそう言い、いつも使っている槍斧魔法杖を自称マジックバッグににゅ~っとしまうと代わりに水色に装飾された三つ又の魔法の鉾を出す。
エリーもいつも使っている棘のついた篭手、『ビーストファング』を脱ぎカミラに渡し、代わりに俺の使っている武器と同じ、木の柄に鉄の穂先のついた銛を受け取る。
フブキも同様、いつもの双剣を鞘に納め、鞘と鞘についたベルトごとカミラに渡し、銛を受け取る。
「なんか、いつも使っている武器じゃないと不安だなぁ」
フブキが銛を見つめながら気弱な事を言う。
「とりあえず、この川を潜る間だけだ。向こうに渡ったらまた持ち替えればいい」
テミスがそっぽを向きつつそうフブキに言う。
テミスも仲間達には話せるようにはなってきたな。目は合わせないけど。
カミラが預かった武器を自称マジックバッグに収め終わり、俺達の方を向く。
何か始まりそうなので、とりあえず、俺は水中眼鏡というより、革でできた戦時中のパイロットのゴーグルみたいなものを装着し、水が入らないようにサイズを調整する。
「とりあえず、その前に、風の精霊よ、魔法石の力を魔法の力に変えたまえ。『雷の壁かける3回」
カミラがそう言い、魔法詠唱、川の流れだす岩壁のあたりに雷の魔法を集中して打ち込む。
そして、ぷかぷかとラージラッドやクレイフィッシュ、巨大なザリガニがぷかぷかと浮いてくる。
「それじゃあ、次ね。まあ、水中眼鏡も要らないといえば要らないんだけどね。風の精霊よ、魔法石の力を魔法の力に変えたまえ。『風を操る』!」
カミラがそう唱えると俺の顔のまわりに風が旋回し何かが起きる。
「とりあえず、顔のまわりに空気の層を作ったから、水に潜っても顔のまわりには空気が残るから安心してね。ただし、長い時間そのままだと空気がよどんで窒息しちゃうから、3分ってところかな? 水に潜れるの」
カミラがそう言い、急いで他のメンバーにも同じ魔法をかける。
「それと、水中だと魔法の詠唱ができないから、魔法が使えるのは無詠唱の原初魔法が1発だけだから魔法はあてにしないでね。じゃあ、行くよ」
カミラがそう言い、カミラが川に飛び込む。
それを見て慌ててテミスも飛び込み、俺も飛び込む。とりあえず、空気を吸えるだけ吸って。
水中に潜ると、俺の顔のまわりは金魚鉢を被った様に空気の膜で覆われていた。
後ろを振り向くと、エリーとフブキも川に飛び込み、同じように顔のまわりに丸い空気の層ができている。水中なのに視界が良好だし息もできる。これは便利だな。
カミラがどや顔で俺の方を見ているので、とりあえず、グッドのサインを送っておく。この世界にこのサインが通じるのか知らないが。
とりあえず、声は伝わらないみたいなので、そのまま川の流れに逆らう様に泳いでいく。
カミラの最初の雷の魔法が効いたのか、付近に敵の気配はない。
カミラが魔法を使えたから助かったが、魔法が使えないパーティだったらかなり苦労しそうなダンジョンだな。
そんなことを考えながら必死に泳ぎ、周りを警戒し、テミスの後を追いかける。テミスの泳ぐ先に、淡い光が見えるので多分そこが出口だろう。
テミスが言った通り、1分弱泳いだところで、テミスが川から顔を出し、俺も続き、急いで岸から上がる。
敵が待ち伏せしていなくて助かったな。
カミラ、エリー、フブキも後に続いて川から上がる。
「とりあえず、俺とテミスで警戒するから、武器の装備をつけ直せ」
俺はそう言い、ダンジョンの少し先を警戒しながら銛を構える。
エリーとフブキが武器を持ち替え終わったところで、ダンジョンを先に進む。
ここからはワーフロッグが溢れるエリアになるようだ。
2~3人が横に並んで歩くのがやっとの川岸を進み、ワーフロッグも2列になって襲ってくる。
動体視力がめちゃくちゃいいワーフロッグと1対1で戦う。
なかなか厳しい戦いだが、テミスが何とか道を拓いてくれて、少しずつだが前に進むことができる。
川を潜って接近してくるワーフロッグもいるので、第一階層と同じように、時々戻って後ろに回り込んだ敵を倒す作業をしつつ、3歩進んで2歩戻るようなダンジョン攻略を続ける。
ときどき、巨大なクロコダイルも襲ってきて、敵のレベルが上がっていることが分かる。
テミスは三つ又の鉾の穂先と柄、穂先とは逆の石突を上手く使ってワーフロッグを倒していくが、俺はワーフロッグの気を引いてテミスの邪魔をさせないくらいの働きしかできない。俺の攻撃がワーフロッグの動体視力で全て受け流されてしまうのだ。
これは、俺がもっと槍を上手く使えるようにならないと、ワーフロッグに対処できないな。
そんな厳しい状況で、カミラの魔法の補助もあり、第二階層の半分あたりまで進めたが、そこで時間切れ。
そこから折り返して町に帰ることにする。
うーん、帰りも川を潜らないといけないのか。
この作業が面倒すぎるな。
地味に嫌がらせのキツいダンジョンだ。
次話に続く。




