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第42話 兄、テミスとの距離

【異世界生活18日目 夜】


 水のダンジョン最初の挑戦は第一階層最奥手前で撤退、ただし、かなりの数の魔物を倒せたので、明日はもう少し進めるはずだ。

 

 町に戻り、宿に戻り、各自、カエルの体液で汚れた体を湯あみや水浴びで洗い流し、着替えて夕食を食べる。

 食堂は味がいいだけあって、結構客でいっぱいだ。宿を借りている冒険者だけでなく、町の住人も食べに来ているみたいだな。


「なんで、テミスまでいるんだ? 自宅で食べればいいんじゃないのか?」

俺は宿屋の食堂の席に座り、あとから相席してきた女性にそう聞く。

 なぜか、テミスも宿屋の食堂で夕食を俺達と食べてようとしている。


「私の家族がやっている宿と食堂だ。どこで食べようと私の勝手だろ。それに魔法石の分配と明日の打ち合わせもしていない。明日は今日より早く出るぞ」

テミスは言いたい事だけ言って夕食を食べだす。こいつ先に注文していたな。

 

 そして、遅れて俺達の食事もやってきたのでみんなで食べ始める。

 

「明日のお昼のお弁当注文しておいてよね」

カミラがそう言って念を押す。

 

「しょうがないなぁ」

俺は呆れ顔でそう言いい、食事を持ってきてくれた給仕さんに明日の朝、お弁当を作ってもらう様にお願いし、お金を渡す。

 そういえば、この給仕さん、最初に魔物狩りしたときに、カニとエビの解体を手伝いに来ていたメイド服の女の人だ。


「そう言えば魔法石、部屋に置きっぱなしだな。分配は明日でいいか?」

俺は思い出したようにテミスに言う。

 エリーやフブキも着替えた時に部屋に置いてきてしまったようだ。


「ああ、構わない。どうせ、換金しに行く時間もないしな。それと、明日は7時に出発だ。朝食を済ませておけ」

テミスがそう言い、持って来た魔法石を俺に預ける、分けておけという事らしい。そしてまた食事を食べだす。


「そういえば、魔法石を取れずに流れていっちゃった魔物多かったね。3分の1ぐらい流れちゃったかな? 勿体ないね」

カミラがそう言う。 30個くらい流されたみたいだな。銀貨3枚分か。


「その分、先に進んで、多くの魔物を倒せばいい。魔法を出し惜しんで、進軍が遅れる方が損だ」

テミスがそう言う。


「テミスさんも私と少し話してくれるようになったよね。顔は合わせてくれないけど」

カミラがそう言って笑う。


「ふん」

それに対しテミスは鼻を鳴らして聞き流す。

 少しは打ち解けたってことか?


「それと、テミス、もしよかったらでいいんだが、時間がある時に俺に槍の使い方と剣の使い方を教えてくれないか? 剣も槍も使えない素人が魔王退治とかデカい口叩くのも笑えるしな」

俺はテミスにそう聞いてみる。


「そうだな。今から2時間ほど付き合ってやる。私を倒せないようじゃ、魔王どころではないからな」

テミスがそう言う。


「今からか?」

俺は意外な答えに素っ頓狂な声を上げる。


「ああ、今からだ。毎日、夕食後2時間、槍と剣の稽古をつけてやる。夕食を食べ終わったら、普段の装備で庭に降りてこい」

テミスがそう言い、夕食をいち早く終え、立ち上がる。


 俺も慌てて夕食をかき込み、自分の部屋に戻り、水のダンジョン用ではない普通の鎧を着て庭に降りる。


「タイヨウお兄さん、汚れた服を出しておいてくださいね。一緒に洗っておきますんで」

慌てて帰ってきたエリーがそう言ってくれるので、カエルの体液で汚れた服の洗濯をお願いする。


「いつも悪いな、エリー」

俺はそう言ってお礼を言って、急いで庭に出る。



「遅いぞ、タイヨウ」

庭にはすでにテミスが待っていた。鎧を着ていない。さっき食堂に来たままの騎士風の中綿入りの服だ。


「テミス、鎧は?」

俺は気になって聞いてみる。


「レベルが低い上に剣も槍も素人のお前が私に当てられると思っているのか?」

テミスがそう言って鼻で笑う。


「確かに違いない」

俺も笑う。


 庭にはかがり火が焚かれていて、薄暗いがお互いの姿を確認できるくらいの明るさは確保されている。

 元執事のシュナウズさんが急いで準備してくれたようだ。テミスの横に控えている。


「とりあえず、最初は型と素振りだ。私が横でやる事を見て真似をしろ」

そう言ってテミスは俺に長い棒を放り投げるので受け取る。

  

 テミスが長い棒を振り回すので、俺も見様見真似で振り回す。

 上段に振り上げて振り下ろす、下段に構えて振り上げる。

 下段から足を払う様に横薙ぎ、棒を腹の前に構えて後ろに引いて、前に突く。

 ぐるりと回して、柄の方、石突の方で敵の攻撃を受ける。

 一歩下がりながらの上段、後ろに振り返りながら上段に振り上げ、振り向きざまに振り下ろす。

 そんな基本的な動きを何度も繰り返す。   


「ふふっ、私が子供のころを思い出す。こうやって、アレンお兄様に基礎を叩き込まれたんだったな」

テミスが独り言のようにそう言い、笑う。

 テミスは楽しそうだが、俺は必至だ。やったこともない動きをひとの動きを見て真似して覚える。いわば、ダンス経験のないおっさんが「いきなり踊ってみろ」と言われるようなものだ。ステップすらおぼつかない。

 手足はバラバラ、上半身も下半身もばらばら。足の動きを真似しようとすると、棒を振り下ろす動きが散漫になる。逆に棒の動きに集中すれば足の動きが分からなくなる。


「とりあえず、ダメだと思ったところを意識して真似をしろ。それをいろんな部位で何度も繰り返しているうちに全体がまとまってくる。ダメだと思ったらまずは足から。足が形になったら腕の真似。それを交互に繰り返しているうちに同時にできるようになる。最終的には全身の連動が一番大事だが、最初は仕方ない」

テミスがそう言って何度も見本を見せてくれる。

 

「テミスは教えるのが上手いな。素人の俺でもできるような気になってくる」

俺はテミスの分かりやすい指導を褒める。


「アレンお兄様が私にやったことをまねしているだけだ。私もあの頃は、今のタイヨウみたいに見られたものじゃなかったのだろうな」

テミスがそう言ってもう一度笑う。

 笑いながら軽くディスられた。素人なんだから仕方ないだろ。


「槍の柄や石突で防御できるようになれば、今の敵と間合いを取って槍で突くだけの単純な戦闘ではなくなる。そうなると、もっとスムーズに戦えるようになるし、殲滅力も上がるし、何より命の危険が減る」

テミスはそう言って、棒をくるくる回して、シャドーボクシングのように敵の攻撃を想定して、受けるしぐさをする。

 敵の攻撃を柄で捌いてそのまま攻撃に転じる姿が手に取るようにわかる。実際敵がいるわけでもないし、攻撃されているのでもないのに。

 そして、これを習得できればかなり戦いが楽になることも分かる。


 そんな感じで、ひたすら槍に見立てた長い棒をひたすら振り回し、型を覚える練習を2時間近くやり、最後に、寸止めの組手のようなものを15分ほどする。

 寸止めというくせに、テミスは俺の体中をボコボコに殴ってくる。

 そして俺の攻撃は全く当たらない。


「ははははっ、タイヨウはまだまだだな」

そう言ってテミスが嬉しそうに俺の隙を突いて、軽くひっぱたく。

 手加減はしてくれているのだが、それでも痛い。


「いまので、10回は死んだぞ」

テミスが楽しそうに俺にそう言う。


 そんな感じで、結局、剣の修行はせずに、槍の修行だけで2時間以上費やしてしまう。


「とりあえず、今必要なのは槍の鍛錬だからな。槍がある程度形になったら、剣の使い方も教えてやろう」

テミスがそう言って笑い、今日の稽古は終わる。

 

 俺はそのまま、深夜近くまで、一人でおさらいをしながら棒を振るう。

 俺の特有スキルで24時間寝ずに動けるらしい。

 俺は疲れることも眠くなることもなくひたすら槍の型を体に覚えさせる。まあ、スキルがあるとはいえ、1日6時間くらいは寝ておかないと、スキルが切れたとたん眠気が出だすからな。12時くらいまで自主練を続けなったら寝る。かがり火が燃え尽きた時点で部屋に戻り寝ることにする。


 テミスが手伝ってくれる間は夜の魔物狩りはお休みして槍と剣の鍛錬を続けようと思う。


 次話に続く。

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