第41話 兄、水のダンジョンに挑む(後編)
【異世界生活18日目 昼前】
「そろそろいいか? ダンジョンに入るぞ」
案内役の女騎士、テミスがそう言う。
「ああ」
俺はそう言ってテミスに続く。
今のテミスは偉そうな口調だが、格好はビキニアーマー。エロいアニメに出てきそうな女騎士の格好をしている。
もともと金髪碧眼の美女で目のやり場に困るのだが、さらに、スクール水着のようなぴっちりした皮の服の上から最小限の鉄の防具、下着のようなビキニアーマー。出るところはでているし、締まっているところはしっかり締まっている。本当に目のやり場に困るのだ。
「お兄ちゃん、テミスさんを見る目がいやらしいよ」
カミラがそう言って冷やかす。
「私だって、もう少し成長したら、凄い事になるんですからね」
エリーが対抗意識を燃やす。
そして、フブキは予想外に出ているところは出ていた。着やせするタイプなのか? まあ、お互いどうでもいい話なのだが。
そんな感じで、変な空気のまま、ダンジョンに突入、さっそく魔物の登場だ。
最初はラージフロッグの大群。
ただ、ダンジョンの中は真ん中に川が流れていて、その両脇に通路になる川岸が少しある程度で人が2~3人並ぶと狭く感じるような川岸だ。ラージフロッグも2体ずつしか襲ってこられない。あとは川から直接襲ってくる奴に気を付ければいい。
俺達は川の左側の川岸を歩いている感じ。
レベルがダントツで高く、ダンジョンの事をよく知っているテミスが川沿いに陣取り、俺はその左横、ダンジョンの壁沿いで武器を構える。
「カミラ、川から顔を出している奴は魔法で頼む。エリーとフブキは川を使って後ろに回り込んで攻撃してくる奴等を倒してくれ。カミラ、なるべく後ろ優先でな。退路を断たれると困る」
俺はそう指示をし、テミスと並び、前から襲ってくるラージフロッグに対して身構える。
「土の精霊よ魔法石の力を使い、魔法の力とせよ。『石の槍』!」
カミラが魔法を詠唱し、槍のように尖った石が現れ、川から顔をのぞかせているカエルの顔面に高速で飛んでいき、刺さる。
そして川に沈みながら流されていくカエルの死骸。
「ああ、これ、魔法石取れないじゃん。赤字になるよ。囲まれない程度には援護するけど、なるべく陸の上で倒してよ、みんな」
そう言って、カミラが魔法攻撃に消極的になる。
「どうせ5等分するんだ。どんどん魔法使っていけ」
俺は呆れつつもそう指示する。
「魔法で使った分の魔法石、お兄ちゃんに請求するからね?」
カミラがそう言って、もう一度魔法を唱え始める。
面倒臭い幼女だ。
「タイヨウ、遅れているぞ。私が囲まれる。急いで倒せ」
テミスがそう言って俺を急かす。
おっと、俺が周りを見ている間にテミスがラージフロッグ2体を相手してしまっている。俺は慌てて、テミスが相手にしている向かって左側のラージフロッグに飛び掛かる。
水陸両用の木の銛にまだ慣れないが、何とか小盾と両方使い分けながらラージフロッグを倒していく。
「テミスさん、タイヨウお兄さん、一度前後、入れ替わってください。後ろにカエルが溢れて大変なことになりそうです」
かなりダンジョンを進んだところでエリーが悲鳴じみた声でそういう。
振り返ると、今まで進んできた道にラージフロッグが溢れている。
俺と、テミスが調子よく狩りながら前に進み過ぎたせいで、後ろの殲滅力が足りなくなってしまったようだ。
ようは先行し過ぎた俺達にエリーとフブキはついて行くのが精いっぱいになり、ラージフロッグを倒す余裕がなくなってしまったのかもしれない。
「タイヨウ、一度、反転、後ろに溢れたラージフロッグを殲滅するぞ」
「了解」
テミスがそう言い、反転し、駆け出すので、俺も承諾し、横を走る。
「エリーとフブキは前を頼む」
俺はそう言い、二人とポジションを入れ替え後ろに溢れたラージフロッグに飛び掛かる。
カミラは元々後ろ向きに魔法を撃ちまくっていたので、そのまま継続する。
川の中でカエルの舌が届くか届かないかの嫌な距離を保っているラージフロッグをカミラが魔法で倒してくれるので戦闘が楽になって助かる。
そんな感じで、今度は入り口に戻りながら退路の確保をする。
このダンジョンは川や向こう岸を使って魔物が俺達を迂回し、回り込んで退路を断つという戦術を魔物達が使えるのが面倒臭い。
「これは結構攻略に時間がかかりそうだね」
カミラが面倒臭そうにそう言う。
「退路を無視してひたすら先に進むって手もあるけどな」
俺はカミラを冷やかすようにそう言う。
「疲れ切った状態で退路を切り開ける自信があるならな」
テミスがさらに俺を冷やかすようにそう言う。
「冗談だ、冗談。地道に退路を確保しつつ、最初は魔物の数を減らす作業に専念しよう」
俺は慌ててテミスにそう言う。
こいつは今の言葉を本気に取って、ダンジョン攻略片道切符の弾丸ツアーとかやりかねないしな。
そんな感じで、ダンジョン初日はダンジョンを行ったり来たり、行き止まりになる分岐も進んで魔物を減らす作業をする。
とにかくこのダンジョンの魔物の濃度を減らさないと、気づいた時には前後から挟まれる状況が続いてしまう。
「タイヨウ兄貴! なんか変なのが来るよ」
フブキが楽しそうにそう叫ぶ。
「なんか、コウモリの羽根の生えた魚です」
エリーがそう説明してくれる。
獣人族の二人の視力がいいから見えるのだろう。俺の視力ではカミラが出してくれた明かりの魔法で明るくなっているとはいえ確認できなかった。
「ウォーターリーパーだ。水も泳ぐし空も飛ぶ面倒臭い魔物だ。飛んでいるウォーターリーパーと戦え。水辺から離れてラージバットと戦う感覚で戦えば問題ない」
テミスが誰に向かってでもなくそう言う。
「水辺で戦うとヤバイのか?」
俺はそう聞く。
「水中から飛び出すことがある。水中の見えない状態から不意打ちを食らうと対応が遅れる」
テミスが俺の問いにそう答える。よく聞くと、なんか水辺ではトビウオとダツを足して2で割ったような攻撃をするらしい。
そして、コウモリのように飛んでいる時は大きな口と尖った歯で噛みつくらしい。うん、確かに面倒臭そうな魔物だ。
しかも後ろにはラージフロッグ、前にはウォーターリーパーと状況も最悪だ。
「カミラは川から飛び出すウォーターリーパーに警戒、エリーとフブキは水辺から離れて、飛んでいるウォーターリーパーの対応を、俺とテミスがラージフロッグを倒すまで耐えてくれ」
俺はそう言い、退路を断っているラージフロッグの排除から始める。
「お兄ちゃん、川の中をウォーターリーパーが移動してきているよ。ちょっと魔法石使うけど、先に蹴散らしちゃっていい?」
カミラがそう聞いてくる。
「何をするのか知らんが、危険じゃないならやっていいぞ」
俺はカミラに許可を出す。
「テミスさん、川には入らないようにね」
カミラが、一番川のそばにいるテミスにそう言い、テミスが慌てて川から少し離れる。
「風の精霊よ。魔法石の力を雷の力に変えたまえ。『雷の壁』!!」
カミラはテミスが川から離れたことを確認すると、魔法を詠唱し、川の上に雷の壁、というより、川に沿って何本もの稲妻がカーテンのように隙間なく刺さりまくる。
そして、水面にぷかぷかと浮かび上がる羽の生えた魚。
「もう一丁、『雷の壁』!! おまけで、『雷の壁』!!」
追い打ちとばかりにカミラが魔法を詠唱し、さらに魚が浮かび上がる。
ラージフロッグも何匹か水面に浮かび上がる。
「うわー、カミラの姉貴、エグイ魔法使うなぁ」
フブキがドン引きしている。
というか、魔法の詠唱って適当でいいのか?
「これで、当分の間は、空を飛んでくるウォーターリーパーだけ相手にすれば大丈夫だよ」
フブキの突っ込みに動じることなくそう言うカミラ。
雷の魔法でやられた魚の魔物が川を流されていく。川の下流で問題にならなければいいけどな。
エリーとフブキが残ったウォーターリーパーを倒し、俺とテミスは退路を断とうとするラージフロッグを倒していく。
テミスが言った通り、飛んでいるウォーターリーパーの動きはコウモリとほぼ一緒で、エリーもフブキも特に苦戦する様子はなかった。
戦闘が落ち着いたところで、一度休憩をする。お昼ご飯を食べるのを忘れていたしな。
「カミラ、昼御飯出してくれ」
俺はカミラにそう言い、カミラは自称マジックバッグから焼き固めたパンとベーコンを出す。
「テミスも食べるか?」
俺は固いパンをナイフで切り分けながらそう聞く。
「大丈夫だ。自分で持って来た」
テミスがそう言って自分のマジックバッグからおしゃれなバスケットに入ったサンドイッチを出す。
そういえば、昨日までは町の商人たちと一緒に元執事のシュナウズさんがついてきていて似たようなお弁当のバスケット持ってきていたもんな。
「なんかズルい」
カミラがそう言って不貞腐れる。
「食堂で頼んでおけば作ってくれるぞ。小銀貨1枚だ」
テミスが誰に答えるわけでもなくそう呟く。
「がーん、その手があったか。確かにマジックバッグに入れるんだし、今日食べる分なら保存食じゃなくてもいいもんね」
カミラがそう言ってがっくりうなだれる。
「たしかに、保存食は割高だしな。うまくて安いのなら食堂でお昼の弁当頼んだ方がいいかもな」
俺もちょっと残念な気持ちになる。
まあ、保存食は保存食として、何かあった時の為に入れとくとして、今日食べる分は普通のサンドイッチで充分だもんな。
「明日からはサンドイッチにしましょうね」
エリーがそう言ってカミラをなだめる。
その横で黙々とサンドイッチを食べ始めるテミス。新鮮そうな野菜とハムとチーズの入ったサンドイッチ、タマゴサンドまである。うまそうだな。
ちなみに、サンドイッチは俺がこの世界に来た時に自然に身についた翻訳スキルっぽいものがそう翻訳しているだけで、こっちの世界の言葉で別の料理名があるようだ。サンドイッチ伯爵は関係ない。サンドイッチによく似た別の料理だ。まあ、よく似ているから、もしかしたら昔の勇者が広めたのかもしれないが俺にしてみればどうでもいい話だな。
とりあえず、見張り役としてカミラとフブキに警戒してもらいながら俺はみんなのお昼の準備をし、エリーと先に昼食を食べ、食べ終わると俺とエリーが見張りのカミラとフブキと代わる。
テミスも見張りをすると言ってくれたが、俺とカミラは『危険感知』のスキルがあるので、敵が出た時に手伝ってくれればいいと休憩させる。
テミスは仲間というより、まだ道案内をお願いしている他人って距離感があるしな。
というか、テミスはいつまで道案内を続けてくれるのだろう?
そんな感じで、昼食と休憩を終え、先に進む。
昔の歌じゃないが、3歩進んで2歩下がるみたいなダンジョン探索を続け、途中の分岐は行き止まりや第二階層につながる道ではない方にも進み、魔物狩りをして、メインの道に戻ってまた先に進む。
そんな事を続けていると、カミラが日暮れを教えてくれる。
カミラは、「自分の体内時計に自信がある」とかわけのわからない言い訳をテミスにしていたが、なんか鑑定スキルっぽいなにかで時間が分かるとか前に言っていたな。よくわからないが。
とにかく隠し事が多いカミラは新しい仲間が入ってくることに説明するのが面倒臭い。
「とりあえず、もう少し進むと第二階層に行くために水中を泳がなくてはいけない場所につくのだが、今日はキリが悪いから、また明日にするか?」
テミスが俺にそう聞いてくる。
なるほど、第二階層に行くためにこの水着が必要だし、鉄製の重装備を着たまま第二階層に行けない。そんなギミックになってるんだな。
「そうだな。どうせ、その前にはボス部屋みたいなのがあるんだろ?」
俺はテミスに聞いてみる。
「ああ、多分、少し強い魔物はいると思う。ただ、本当のボス部屋と呼ばれるものは第二階層の奥と第4階層の奥にあるそうだ。昔このダンジョンを一緒に攻略していたアレン兄様がそう言っていた」
テミスがそう教えてくれる。
テミスがこのダンジョンの事を良く知っているのはお兄さんが存命の間に一緒に潜っていたからみたいだな。まあ、そのあたり詳しく聞けるほど、俺は無神経ではなかったが。
テミスから聞いた感じ、大雑把な構造、ボスの配置や階層は最初のダンジョン北東のダンジョンと一緒のようだな。まあ、北東のダンジョンよりは迷路の要素は少ないが。
とりあえず、小ボスを倒して、水中を泳いで次の第二階層に着くころにはさらに日が暮れて、折角の苦労が水の泡になりそうだし、今日はここで帰ることにする。
「お兄ちゃん、明日のお昼は絶対サンドイッチだからね」
「はいはい」
俺は何度かカミラにそう言われながら、魔物を狩りつつ帰路に着くのだった。
次話に続く。




