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第40話 兄、水のダンジョンに挑む(前編)

【異世界生活18日目 朝】


 今日は先に朝食を食べてから、冒険用の装備に着替える。

 何故かって?

 今日から、水のダンジョンに挑むため、泳げる格好、要は水着もどきの装備になる為、さすがにその格好で食堂でご飯を食べるのは恥ずかしいと先に朝食を食べた訳だ。


 とりあえず、先にカミラ達が部屋で着替え、俺は廊下で待つ。


「着替え終わったよ、お兄ちゃん」

カミラがそう言うので、着替えを代わろうと部屋に入る。


「じゃーん、どうよ、私の水着姿」

カミラが自慢げに水にも入れる服を見せる。

 要はワンピースの水着だな。いつもの魔法使いっぽい色を意識しているのか布製の紺色のワンピースの水着だ。

 そして、頭には、皮とガラスで作られた水中メガネっぽいなにか。水中眼鏡っていうより、第二次大戦とかで、飛行機パイロットがつけていたパイロット用のゴーグルっぽい。


「ああ、魔導石が所々に付いているんだな。それで防御力を補っているのか。高そうな装備だな」

俺はカミラの胸元に着いた大きな宝石を見てそう言う。


 ちなみに手足の防御力を上げるためなのか、なぜか、二の腕まである布の手袋と太ももまであるニーソックスを履いている。それらにも魔導石が付いていて防御力を上げているのだろう。

 

 オタクが喜びそうなスクミズニーソってやつに似ている。俺は興味ないが。

 しかもニーソも手袋も白。一部のマニアが喜びそうな格好だな。


 そんな格好に、スニーカーっぽいテント生地の靴。これも水の中を泳いでも脱げにくいようになっている水中専用の靴だ。


「私の水着はどうですか? 似合っていますか?」

エリーが恥ずかし気にそう聞きながら俺に見せてくる。

 

「ああ、似合っているぞ。防御力もそこそこありそうだし、泳ぎやすそうだな」

俺はそう言って褒める。


「もう、そういうことじゃないのに」

エリーがそう言って頬を膨らます。


 エリーの水着は、カミラと違って低価格でなるべく防御力を上げるという事で、見かけは似ているが、水着の部分は皮製で、水着というよりウエットスーツの様にも見える。スクール水着の形をしたウエットスーツって感じか。こちらは黒く着色されていて、革製の手袋と同じく革製のニーソは白色だ。

 そして、革製の胸板鎧ブレストプレートを水着の上から着けている。

 あと、水着の格好は恥ずかしいのか、水着の上からテント生地のショートパンツを履いている。


 ちなみに、フブキもエリーと同じ格好。水着の部分は白く脱色されている色違いだ。

 

 みんな、カミラと同じような水中眼鏡を頭につけている。


「とりあえず、武器は、いつもの武器を持っていって、水に入る時に私がマジックバックに預かる感じにするね。水中用の武器を預かっておいて、そこて持ち替える感じかな?」

カミラがそういう。


「だったら、洋服とか装備も全部入れてくればいいのに。ギリギリまでいつもの装備で戦えるし」

フブキがそういう。

 フブキは普段、結構しっかりした鉄の防具をつけているからな。かなりの防御力低下って感じだ。エリーもなんだかんだ言って、神官服の下には皮の鎧を着込んでいるらしいし。


「そう言われてもねぇ。マジックバックも容量制限があるし、重量軽減の魔法もそんなにいいものがかかっている訳じゃないから、武器だけで精一杯かな?」

カミラがそういう。


 嘘をつけ。こいつのマジックバックは自称マジックバックで、本当はマジックボックスというスキルらしい。それがバレると色々と大変らしいので、もっともらしい事をいって、マジックバックと誤魔化している。多分、全員分の装備を入れても余裕があるはずだ。

 

「それに、魔物が溢れる森の中ですっぽんぽんになって着替えるのは嫌でしょ?」

カミラがそう言って笑う。


「確かにそれは嫌よね」

エリーがそう言って微妙な顔をする。フブキもうんうんと首を振る。


「とりあえず、町中ではマントを羽織って移動かな? さすがにこの格好は恥ずかしいし」

フブキがそう言って布製のマントを羽織る。

 エリーも頷き、俺に水着を見せて満足したのかマントを羽織る。

 カミラはいつもの日よけマントを羽織る。


「そろそろいいか? 俺も着替えたいんだが」

俺はそう言って、3人を部屋から追い出し急いで着替える。


 俺の装備は水中用に仕立て直した貫頭衣のような皮の服と革製の半ズボン、肘まである皮手袋と、泳ぎやすい設計の革のショートブーツ。あまりにも脛の辺りが無防備なので、皮の脛あても防具屋のおっさんがサービスしてくれた。ちょっと見かけは格好悪いがな。

 そして皮の服の上から、エリー同様革製の胸板鎧ブレスプレートをつけている。

 俺の場合、太ももと二の腕が丸出しでちょっと防御力に不安が残る。

 最後にカミラ達同様、水中眼鏡というより、戦時中の皮製のパイロットゴーグルもどきをつける。


 そして、女の子達同様、俺もフード付きのマントを羽織り、いつも使っている両刃斧と小盾バックラーを持って部屋の外に出る。


「もう! タイヨウお兄ちゃんは、最初から水中用の槍を使ってね。両刃斧とか、マジックバッグに入れると重そうだし」

カミラがそう言ってマジックバックから水中でも使える槍というか銛? を渡してくる。

 こいつ、マジックバックの事をばらしてやろうか? どうせ両刃斧だって入れても重さ変わらないんだろ?


「お兄ちゃんは槍を使うのは初めてでしょ? ダンジョンに入る前から慣れとかないとね」

カミラが俺の不満に気づいたようでそう言って誤魔化す。

 まあ、そういう理由にしておこう。

 エリーは神官の修行で杖術も習っているらしいし、フブキも少しだけ母親から槍の使い方を習っているそうだ。

 カミラについては謎だ。というか、水精霊(トライデント)の三叉槍(オブウンディーネ)とかいう、高そうな魔法の武器を持っている時点で母親から訓練を受けているのかもしれないな。


 俺は渋々、両刃の斧を部屋に置いていく。小盾バックラーは特別サービスでカミラが預かってくれるらしい。面倒臭い女だな。

 

 そんな感じで、水に潜れる装備に着替え、宿を出ると、道案内のテミスと合流する。

 テミスも自分の部屋で着替えてきたらしい。


「テミスも水着なのか?」

俺はそう聞いてみる。


「ああ、そうだ。鎧も皮製の錆びないものに変えてある」

テミスがそういう。

 彼女もフード付きマントで全身を隠しているので装備は分からない。

 そして、テミスもなんか、仰々しい三つ又の鉾を持っている。


「テミスも魔法の武器って感じか?」

俺はそれが気になって聞いてみる。

 

「私の物はそこまで大層なものではない。風属性の魔導石がついていて、武器が水に濡れにくくなっているだけだ」

テミスが興味なさそうにそういう。

 少なくとも俺の使っている木製の柄に鉄の穂先のついた槍よりは格段に上等そうだ。


「それじゃあ、行くか」

俺はそう言い、西の門に向かって歩き出す。



「テミスはいつまでダンジョンの案内をしてくれるんだ?」

俺は町中を歩きながら気になって聞いてみる。


「とりあえず、様子見だ。なにか、お前と一緒に戦うと経験値効率はいいみたいだしな」

テミスが前を向いたまま、俺にそう答える。

 彼女は兄のかたき討ちの為に魔王を倒したい。その為に一人黙々とレベルを上げていると元執事のシュナウズは言っていたな。


「テミスさん、タイヨウお兄ちゃんの事を本当のお兄さんだと思って、『お兄様』って呼ぶと、もっと経験値効率よくなるよ」

カミラがからかう様にそう言う。


「そ、そうなのか?」

テミスが疑う様に俺を見る。


「よくわからないが、そうらしい。お互い、兄妹きょうだいのつもりになると、お互いの経験値が上乗せで入るようになる。だから、カミラもフブキも、そしてエリーも俺の事を兄と呼んでいる」

俺はよく分からないが、カミラに以前説明されたことをそのまま伝える。

 俺の特殊スキル、『妹のためなら』でもらえる経験値が増えたり、バフがかかったりするのは本当だし、実際俺の経験値も異常に増えている。


「私は妹じゃなくて婚約者なんですけどね」

エリーが不機嫌そうにいつものどうでもいい主張をする。


 テミスもよく見ると、この世界に来る直前、大学を卒業したあてなに似ている気がするな。性格もツンツンで俺への対応の仕方が似ている気がする。俺はあてなの事を可愛い妹として愛しているのに、あてな自身は最近、俺への当たりが冷たかったな。 


 そんなことを考えて、俺は笑ってしまう。


「何がおかしい?」

不機嫌そうに俺にそう聞いてくるテミス。


「いやな、俺の本当の妹のあてなが、反抗期で、テミスと口調やしぐさがよく似ているんだよ」

俺はそう言ってもう一度笑う。

 

「私は反抗期になどなったことはない」

テミスがそう言って不機嫌そうにする。

 そうそう、この感じが大人になったあてなとよく似ている。


 俺がにやけると、さらに怒ったのか、口を噤んでしまうテミス。

 そこからは無言のまま、町を出て、いつもの西に流れる川の橋を渡り、そこから北西に川に沿って歩き出す。


「町から離れたし、そろそろ、マント脱いでいいかな? 動きにくくて戦えないしね」

フブキがそう言って、マントを脱ぐ。

 スクミズニーソ姿にいつもの双剣をベルトで腰にぶら下げている。違和感満載だな。

 エリーはエリーでいつもの棘のついた篭手ガンドレットを装備。違和感満載だ。

 

「マントも預かるよ」

カミラがそう言って、フブキのマントを自称マジックバッグに入れていく。


「テミスさんもマント預かる?」

カミラがテミスにそう聞く。


「私は自分のマジックバッグがある」

そう言って、マントを脱ぐと、腰の後ろに付けたウエストポーチのような物にマントを丸めて放り込む。

 さすが元貴族。没落したとはいえ、多分、先祖代々継がれてきた魔法のアイテムみたいなものを多少は残してあるんだろうな。


「なんか、テミスさんの装備、エッチだねぇ」

カミラがそう言って冷やかす。


 俺もその言葉に釣られてテミスをガン見してしまう。

 乳房の部分だけ鉄の装備で覆われている。ビキニアーマーってやつか!?


 さすがに裸にビキニアーマー、ゲームの中でしかないようなありえないエロい格好ではなかったが、エリー達と同じような革製のワンピース水着に、ビキニの形をした鉄の胸当て、下半身はミニスカートをはき、その上から鉄の前垂れ。なんかいやらしいデザインだ。

 しかも前々から気づいていたんだが、テミスはスタイルがいい。出るところは出ているし、締まるところは締まっている。それがぴっちりした水着とビキニアーマーであらわになる。


「あまり重い装備だと水中で泳げなくなるからな。致命傷になる部分だけ守るデザインになっているだけだ」

テミスが顔を真っ赤にしてそう言う。

 

 手足もエリー達と同じように二の腕まで伸びる皮手袋に、ニーソのような皮のソックス? そして脛あてと腕当ては鉄製のようだ。

 額には鉢金のような防具を装備、首には俺達と同じ水中眼鏡というか皮製のパイロットゴーグルもどきをぶら下げている。


「脛あてとか結構重そうだが大丈夫なのか?」

俺は気になって聞いてみる。

 

「防具も魔導石が付けてあって風の精霊の魔法が掛かっている。空気の膜を纏うから、その浮力で水中での重さは相殺される」

テミスが恥ずかしがるように体をひねってビキニアーマーを隠す。

 いやいや、俺、そんなエロい気持ちで見てないぞ。


 俺は、逆にそういう目で見られて、がっくり肩を落とす。

 なるべくテミスから目を逸らすようにして歩くようにした。 


「なにか、すまない」

テミスが小さい声でそう謝る。

 俺は軽く手を振って対応する。


 そんな感じで、少し気まずい空気でダンジョンへの道を進んでいく。

 3日間、魔物の駆除をおこなったので、だいぶ魔物との遭遇も減った。


 俺も慣れない槍を駆使しつつ、巨大なザリガニやカニやワニ、それとカエルを倒していく。

 まあ、前に、最初の町の鍛冶屋のおっさんが槍も比較的初心者向けだとは言っていたし、攻撃する分には特にミスもなく対応できた。

 ただし、防御は難しい。槍の間合いの内側に入られると対応に困る。

 テミスは上手い事、柄の部分や柄の方の先、石鎚を使って魔物を殴ったり、引きはがしたり、距離をとったりして攻撃に転じるが、俺にはそれが難しい。

 とりあえず、小盾バックラーで持ちこたえながら、短く持ち直して短剣のように使ったり、足を使ったりして逃げて、槍の間合いを保ち続けるしかない感じだ。

 俺が間合いを取りそこない逃げていると、エリーが途中で援護してくれるので何とかなっているが、1人だけで槍を使って戦えと言われても、今の時点では難しいかもしれない。

 時間がある時にテミスに槍術や剣術を習いたいものだ。


「今日は、ザリガニとか放置なんだね。あれで、結構いいお金になったから残念」

カミラが名残惜しそうにそう言い、魔法石だけ回収して、ザリガニの死骸は放置する。

 魔物の死骸は解体せずに放っておくと、女神様なのか精霊なのか知らないが、きらきらと光に還って跡形もなくしてくれるらしい。


「今日は町の人達を連れてくるほど魔物が出ないだろうし、町の人達をダンジョンの中まで連れていくわけにはいかないしな」

俺はそう言ってカミラをなだめる。


「その分、魔物は数を狩ればいい。魔法石が増えるからそれで収入は補えるだろう」

テミスが誰に言うでもなくそう呟く。 

 まあ、確かにそうだな。解体や積み込み時間が減る分、魔物を狩る時間は増えている。 


 魔物の数も多くないので、たまに雑談しつつ、周りを警戒しつつ、ダンジョンに向けて歩き続け、たまに休憩。

 俺とカミラは『危険感知』のスキルというのを使いながら移動しているので、精神的に疲れるのだ。

 まあそのスキルのおかげで不意打ちとかもないんだけどな。


 少し時間はかかってしまったが、お昼前にはダンジョンの入り口に到着する。


 巨大な洞窟から川が流れだしている。

 傭兵ギルドで聞いた情報の通り、洞窟の中を流れる川を上っていく形のダンジョンらしい。そして、途中には水に入らないと先に進めない場所もあると。


 俺は、洞窟の先の暗闇とその暗闇からこんこんと流れ出る水脈に、予想のつかないダンジョン攻略に不安を感じるのだった。


 次話に続く。

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