第37話 兄、水のダンジョンへの道のり
【異世界生活15日目 昼前】
「この川を上っていけばダンジョンに着く。ただし、分岐を間違えば迷うぞ」
道案内役の女騎士のテミスがそう言い歩き出す。
俺達は、町の西門を出て西に伸びる道を行くと徒歩では渡れない大きさの川にぶつかり、その川にかかった橋を渡る。そして川に沿ってできた小道を北西に進んでいく。右手には川、左手には森が広がるちょっとした山道だ。
「カエルいたよ、カエル!!」
フブキが嬉しそうにそう言う。彼女は魔物狩りに夢中だ。
「エリーいくぞ。このままだとフブキが一人でカエルに囲まれそうだしな」
俺はエリーにそう言い、背負っていた斧を右手に持ち走り出す。
「テミスはどうする?」
俺は隣を走るテミスに聞く。
「もちろん、戦闘には参加する。経験値と魔法石が目的だからな」
そう言ってテミスは三角盾を構え、片手でも両手でもどっちでも使えそうな長剣を腰から抜く。
ラージフロッグが6匹、それに対しこちらは4人。カミラは日よけマントで動けないので戦闘不参加で後方支援、いざというときには魔法で援護してもらう。
「私も戦闘に参加しないと経験値もらえないからね」
カミラはそう言って、普段町中で持っている護身用の魔法杖を使い、火の魔法弾を撃つ。
右端にいたラージフロッグが炎に包まれる。
予想外のカミラの戦闘参加。戦闘に全く参加しないと経験値が分配されないそうで今日はカミラも積極的に魔法で戦闘参加しだす。
「魔法使いまくっても魔法石は余計にはやらないからな」
俺はカミラにそう言うと、
「分かっているわよ。ただし、ピンチの時の魔法は別料金だからね」
カミラがしらけ顔でそう言う。
ラージフロッグが1体倒れ、5体に。
5対4ならなんとかなるな。そんなことを考えていると、テミスが三角盾を上手く使い、ラージフロッグの舌を避けつつ、近接。あっという間に1体倒し、2体目に対峙する。
さすがレベル80超えの騎士だ。うかうかしていると俺の取り分まで狩られてしまう。
俺は慌てて、ラージフロッグ1体と対峙し、カエルの舌による攻撃をバックステップでギリギリかわし、舌を切断、そのまま接近し、ラージフロッグの首を刎ねる。
フブキとエリーも問題なく対峙したラージフロッグを倒す。
水属性の精霊が管理するダンジョンか。この先も水生生物が多そうだな。
俺はそんな事を考えながら、ラージフロッグを解体し、魔法石を取り出す。
「タイヨウの兄貴、次はカニだよ。カニが出た!!」
フブキの楽しそうな声が聞こえる。
「おいおい、カニって、うぉ!! でけえ!!!」
俺がフブキの方を振り返ると、軽トラくらいあるワタリガニみたいなカニが川から上がってくる。
俺は慌てて小盾と斧を構える。
「グレーターキャンサー、レベル35だけど、レベル以上に厄介だよ。甲羅が固いし、はさみに挟まれると胴体真っ二つだからね」
カミラがさすがにヤバそうと感じたか魔法杖を構えながらそう言う。
そして、その巨大なカニの後ろからやや小さいカニも数体現れる。レッサーキャンサーってところか?
「甲殻類は腹の部分と関節部分が柔らかい。まずはハサミの根元に剣を刺して切り落とすか、斧を使って力ずくで叩き斬るしかない」
テミスがそう言って三角盾と長剣を構え直す。
「関節の白いところかな?」
フブキがそう言って巨大なカニの右手に回るとハサミの付け根に一突き。右手に持った方の双剣がカニのハサミに深々と刺さる。
その瞬間、
「にゃ~~~~~」
カニがハサミを振り回し、フブキが吹っ飛ばされる。
そして空中でくるりと回り、着地するが、そのままゴロゴロと転がる。
「大丈夫か?」
俺はフブキに呼びかける。
「体は大丈夫だけど、双剣、片方持っていかれた」
フブキが立ち上がり構え直すとそう言う。
カニの右のハサミの根元に双剣が刺さったままだ。
「私は小さい方を倒します。大きい方はお願いしますね」
エリーがそう言い、後ろに控える少し小さいカニ2匹の片方に飛び掛かる。
テミスが巨大なカニの右側から攻撃を仕掛けるので、俺は逆の左から仕掛ける。
ハサミの部分は甲羅が固そうなので、フブキと同じように、ハサミの根元、関節部分を狙って斧を全力で振り下ろす。
フブキのように武器を奪われると困るので急いで斧を引き抜き、バックステップ。
ハサミを振り回されると思ったが、振り回さず、代わりの俺の方に向くと、ハサミで挟もうと腕を伸ばしてくる。
「いやいや、これはヤバいって」
俺は慌ててハサミを避ける。
挟まれたらマジで死ぬ。
「いいぞ、カニの注意を引け」
テミスがそう言い、自分の剣を一度鞘に納めると、フブキのさした双剣の片割れを手に取り、引き抜きながら傷口を広げもう一度一突き、引き抜いてフブキに投げ渡す。
俺は必死にカニのハサミから逃げ、テミスとフブキはカニを追いかけながら関節にダメージを与えていく。
カニとかイカ、脊椎のない動物って、血の色が赤くないし、切っても溢れるほど血液が流れ出る、みたいなことがないみたいでダメージが通っているのか全く分からないな。
「火の精霊よ魔法石の力を火の魔法に変えよ。『火球』!!」
カミラが魔法詠唱をする。
ドーーーン!!!
大きな音を立てて、少し小さいカニの1匹が炎に包まれる。
エリーはもう1匹の少し小さいカニの甲羅の上にのって、両目を潰し、甲羅の上から何度も殴って、甲羅に穴が開く。あっちは大丈夫そうだな。
「そろそろ、いけるな」
テミスがそう言うと、
を人間の胴より太そうなハサミの部分を小脇に抱え、柔道の一本背負いでもするように、回転しながらハサミを持ってカニを投げ飛ばすような動きをする。
ただし、巨大なカニは投げ飛ばされず、代わりにカニのハサミが根元から千切れ飛ぶ。
そして、そこには巨大なハサミを小脇に抱えたテミスが立っている。
「なるほど。ああすればいいのね」
フブキがそれを見て感心し、カニの左のハサミ、俺の斧の攻撃とフブキの追撃で千切れかかったハサミをフブキも抱えると、テミスとはまた違った動き、ハサミをねじ切るようにぐるぐると高速回転して左のハサミをねじり切る。
「お兄様、とどめです。カニを裏返して腹に一撃を」
テミスがそう叫ぶ。なんか可愛らしい声で。
「お兄様?」
「お兄様?」
「お兄様?」
カミラ達が揃ってそう言いながら首をひねる。
というか、このデカいカニをどうやってひっくり返すんだ?
俺はそっちの方が気になって、悩んだ挙句、斧を下段に構えると、すくい上げるようにフルスイング。
カニの口の部分に斧が突き刺さり、斧の余力で、カニがふわっと浮き、いい感じでひっくり返る。
それを確認したテミスが抱えていたカニのハサミを放り投げ、長剣を腰から抜くと、カニに馬乗りになって、カニの腹の部分にある甲羅の切れ目のようなところに深々と長剣を突き刺し、引き抜きながら切れ目に沿って切り口を広げ、何度も突き刺しては引き抜き、最後は巨大なカニ、グレーターキャンサーが動かなくなる。
「なんか美味しそうな匂いがするね」
戦闘が落ち着き、フブキがそう言う。
カミラが魔法で焼いた小さい方のカニ、レッサーキャンサーがいい感じで赤く焼き上がっている。
「茹でたり焼いたりするとカニは美味い」
テミスがぼそっとそう言う。
「そう言えばお兄様って」
俺は思い出したようにテミスに聞く。
「忘れろ。それと、私は町の人間を呼んでくる。これだけ立派なカニを捨てるのはもったいないしな」
そう言って、テミスはカニのハサミを抱えて立ち上がる。
少し顔が赤く見える。こいつも兄さんがいるのか? その人と俺を間違えた?
学校の先生をお母さんと呼んじゃったみたいなやつか?
「おい、レベル上げと魔物退治はどうするんだ?」
俺は歩き出すテミスに慌てて聞く。
「このカニの死骸を守っていればいくらでも魔物は寄ってくるしそれを倒せる。解体する町民が来るまで死守しろ」
テミスがそう言い、そのまま町の方に向かって歩いて行ってしまう。
大きなカニのハサミを抱えて。
「マジか。ここで立ち往生か」
俺はそう言ってがっくりうなだれる。
「なんか、カニ、美味しそうだから食べてみる? 鑑定スキル的に美味しいし毒とかないみたいだよ?」
カミラがどうでもいい提案をする。
「お昼も近いし、ちょっと食べてみる?」
フブキも美味そうな匂いに釣られたのか、よく焼けたカニにフラフラと寄っていく。
「みなさん、その余裕はないみたいです」
エリーがそう言って川に向かって構える。
そして、川から上がってくる新たな魔物。
「って、今度はエビかよ!! いや、ザリガニか?」
俺はそう叫ぶ。
川から出てきたのは子供のころ沼とかでさきイカをエサに釣りをしたアメリカザリガニ、いや日本ザリガニっぽいエビっぽいなにか。
そして、デカい。
なんか人間よりでかいザリガニがわらわらと川から上がってくる。カニの死骸が目当てのようだ。
カミラの鑑定結果曰く、レベル31のレッサークレイフィッシュ。
クレイフィッシュ、ようはザリガニらしい。
「とりあえず、こいつも甲羅の隙間から刃を通せば倒せそうだな。いくぞ」
俺はそう言い、ザリガニに挑む。
さっきの巨大なカニに比べれば斧も通用しそうだしな。
俺はテレビで見た伊勢エビの調理法を参考にザリガニを真っ二つにしていく。
フブキは背中に乗って、体と尻尾の間にある甲羅のつなぎ目に刃を入れ、傷を広げて、何度も突き刺し、いい感じにザリガニを仕留めていく。
たまにザリガニがビチビチとはねて吹っ飛ばされるフブキ。
エリーも基本フブキと一緒、背中の切れ目に数か所、拳を突っ込み、動きが遅くなってきたところを力ずくで尻尾と胴体を引きはがす。
カミラは火魔法で丸焼きだ。
うん、こいつらも、焼くといい匂いがするな。
「タイヨウお兄ちゃん、こいつらも食用、美味しいらしいよ」
カミラがどうでもいい鑑定結果を叫ぶ。
そんな感じで、カニを狙って、ザリガニやカニがどんどん上陸してくる。
そして最後にはワニまで。
「おいおい、ワニはヤバイだろ? ワニは。どうやって倒せばいいのか倒し方すらわからないぞ」
俺は迫りくる巨大なワニに後退りする。
「とりあえず、叩き斬るしかないんじゃない? 噛まれないように気を付けてねお兄ちゃん」
カミラがそう言って、ワニに魔法の氷の槍を大量に打ち込む。
「そういえば、カミラの姉貴は氷魔法が使える上に、火魔法も使えるんだね。それと光魔法もか。なんか凄いね」
フブキがそう言う。
いや、こいつは多分、全属性使えるぞ。最初会った時は闇属性の魔法っぽいの使っていたし。
「私もカミラちゃんがここまで魔法が使えるって知りませんでした。高名な魔導士でも3属性使うのがやっとですから、才能的にトップクラスの魔法使いですね」
エリーがそう言う。
そういうものなのか? たぶん、そのうち、全属性使うぞ、こいつはきっと。
「とりあえず、みんなもワニを倒す! これ以上魔法使わされたら特別料金追加するからね」
カミラが怒ってそう言う。
とりあえず、エリーとフブキがおとりになって俺が後ろからワニに近寄り、斧で首を叩き斬る。
陸上での動きは遅いみたいなので、3人いれば何とかなりそうだ。
そんな感じでワニも倒し、川岸が魔物の死骸だらけになって、さすがの魔物も本能的にヤバいと感じたのか、川の中から様子を伺って出てこなくなる。
というか、腹減ったな。昼過ぎても戦いっぱなしだったし。
「フブキ、カミラ、カニ食っていいぞ。交代で昼食にしよう」
俺は川にいる魔物を警戒しながらそう言う。
交代で休憩していればテミスもそろそろ帰ってくるだろうしな。
俺とエリーが魔物を警戒しながらカミラとフブキが良く焼けたカニを食べ始める。
カミラが、たき火を起こしてよく焼いてから食べている。寄生虫とかいたらヤバそうだしな。というか寄生虫もデカいのだろうか?
ワタリガニっぽいカニなので足とか肉があまりついていないようだが、カニ自体の大きさが、けた違いに大きいので、身のつきが悪いワタリガニっぽいカニでも足1本で人一人お腹いっぱいになる量のカニの身が食べられるみたいだ。
「タイヨウお兄ちゃん達の分も焼いておいたから、交代するよ」
カミラがそう言うので見張りを交代してもらいカニを食べる。
「本当に食べても大丈夫なんでしょうか?」
エリーがカニの足を見ながらそう言う。
「まあ、よく焼いてあるから大丈夫だろ?」
俺はそう言って、鞄の中から調理用のナイフを出して、カニの足から身をほじくり出して食べてみる。
美味いな。普通に美味い。
ちょっと、川蟹の臭みみたいなのはあるが、結構食える。タラバガニやズワイガニと比べると味は劣るが、カニを食べている感はあるな。
カニの足1本で満腹になってしまったので、ザリガニまでは手が出なかったが、カミラの魔法でよく焼けたザリガニもエビっぽい匂いがして結構美味そうだった。
そんな感じで遅いお昼ご飯を食べ終わるころ、テミスが町の人を連れて戻ってくる。エプロンをつけたおっさんや、執事っぽい格好をしたおじさんやメイドっぽい女性までいる。
「お嬢様、これは大漁ですな」
執事っぽい服を着た初老のおっさん、いや爺さんがそう言って大きな包丁を取り出す。
「お嬢様と呼ぶなシュナウズ。テミスと呼べ」
テミスが困った顔でそういう。
「旦那様や奥方様のお嬢様なのですから、お嬢様はお嬢様です」
綺麗にひげを整えた品のあるお爺さんがそう言って笑いながら、てきぱきとカニを解体していく。
エプロン姿の町の人も同じようにカニやザリガニの解体を始める。
町の肉屋? 魚屋? よく分からないがそんな感じの人達だろう。
「おお、ワニもいるじゃないか。皮とかいい素材になるぞ」
そう言って、肉屋?のおやじがワニも解体し始める。肉も食べるらしく、丁寧に部位ごとに分けていく。
「魔法石はすまないが、彼らに返して欲しい」
テミスがそう言い、みんなが笑顔で頷く。
「これだけのカニとザリガニの肉、それにワニの肉や素材が手に入るんだ。魔法石はもちろんお返ししますし、食材の買い取りのお金も払いますよ」
肉屋のおっさんがそう言って笑う。
「すまないな。本当なら、タダで譲りたいんだが」
テミスがそう言い謝る。
なんかこう見るとテミスも普通に喋れるんだな。俺以外には喋れないのかと思っていたが。
しかも結構町の人には好かれている?
まあ、知らない人には人見知りが激しいって感じか?
そんな感じで、魔物の解体が始まり、人が集まり過ぎたせいか、魔物達も興奮しだし、もう1戦、そして、そこからまたキリなく戦闘が続いてしまい、さらにワニやザリガニ、カニの死骸が増える。
魔物の解体が終わり、魔物の襲撃も収まるころには日が暮れ始めていた。
「お嬢様、そろそろ、帰りましょう。日が暮れてしまいます。よかったら、お仲間の皆さんもご夕飯にご招待してはいかがですか?」
ダンディな執事っぽいお爺さんがテミスにそう言う。そして、メイドっぽい女性たちも頷く。
「そういうことで、このシュナウズがやっている食堂によっていかないか? もちろん代金はいらない」
テミスがそう言う。
そして改めて、シュナウズさんから挨拶される。テミスのご両親が経営している宿屋兼、食堂の料理長兼、宿の総支配人みたいな事を任されている人らしい。宿の支配人というよりホテルの支配人って感じの品のあるおじいさんだ。メイドっぽい人たちはホテルや食堂のお手伝いをしている人らしい。
俺達はテミスとシュナウズさんの言葉に甘えさせてもらうことにする。
町の人達と町の人達が持って来た荷車いっぱいの食材を護衛しながら町に向かって帰路に着く。
カニのおかげでだいぶ魔物をおびき出して退治することができたが、ダンジョンへの道のり的にはまだまだ入り口のようだ。こんな感じで魔物狩りを数日繰り返す必要がありそうだな。
次話に続く。




