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第36話 兄、新しいダンジョンに向かう準備。

【異世界生活15日目 朝】


「少し寝不足気味だな」

俺は教会の6時の鐘の音で目を覚ます。


 昨日はあの後、みんな湯あみをして、カエルの唾液と疲れを洗い流した。

 もちろん湯あみをする土間みたいな部屋は男女別だ。そして俺はお金が勿体ないので、井戸で水浴びした。

 さっぱりしたところで、酒場で夕ご飯を食べて作戦会議。

 その後、俺だけ、町の周辺で魔物狩りをしてレベル上げをした。

 カミラはダンジョンに通うようになってから朝型の生活になったので夜の魔物狩りには付き合ってくれなくなった。

 そして、俺自身、レベル60越えているので、レベル30台の魔物では大してレベルアップにはつながらないのだが、時間があるだけやれることはやっておきたいという事で夜も魔物狩り。前にカミラから借りた光の霊獣とかいう光るニワトリを借りる。ニワトリの光が弱まりだしたら夜の0時というタイマー機能付きという。


 そんな感じで夜の0時近くまで町のまわりで魔物狩りをし、現在寝不足気味といった感じだ。

 『24時間戦える』のスキルがあるとはいえ眠いものは眠い。まあ、スキルのおかげでそのうち眠気も忘れるのだが。


「タイヨウお兄さん、洗い物出してくださいね。今日は湯あみする時間がいらないので、洗濯しちゃいます」

そう言って、エリーは全員の洗濯をしてくれる。

 カミラはギリギリまで寝る気満々だ。


 俺は、井戸で顔を洗って、ダンジョンに向かう準備をして、ギルドの窓口で魔法石の換金をする。昨日の昼間の換金もしてなかったしな。ついでに昨日聞きそびれたダンジョンの情報も色々聞いておく。


 その後、酒場に戻り、今日の宿代を払い朝食を注文する。朝食を食べていると、カミラとエリーとフブキも準備を整え降りてくる。

 4人で朝食を食べながら、昨日の女騎士、テミスが来るのを待つ。それと、昨日の警備中に倒した敵の魔法石を換金した分配、銀貨1枚ずつをエリーとフブキに渡す。大勢で移動したから魔法石はそんなに手に入らなかった感じだ。


「もうすぐ8時だね」

カミラがそう言う。こいつは『鑑定スキル』っぽい何かで正確な時間が分かるらしい。


「騙されたっぽい?」

フブキがそう言う。

 まあ、この世界、時計がないからな。日の出の6時から3時間おきに鳴る教会の鐘でしか時間が分からないから分単位、下手したら1時間近い遅刻も当たり前だ。

  

「まあ、9時の鐘まで待ってみよう」

俺はそう言う。


「というか、あそこにいるね。テミスさん」

カミラがそう言って指をさす。鑑定スキルっぽいなにかで見つけたっぽいな。


 離れた机に1人で茶を飲んでいる女騎士が一人。昨日ダンジョンの道案内を約束した女騎士、テミスだ。


 俺は慌ててテミスに声をかける。


「もしかしてずっとここにいたのか?」

俺は気になって聞いてみる。


「お前が声をかけてくるのを待っていた」

不機嫌そうにそう言う女騎士。

 なにこのコミュ障?


「来ていたなら声を掛けてくれればいいのに」

カミラがテミスそう言う。


「とりあえず、仕立屋に行くぞ。この町のダンジョンは特殊だ」

テミスは俺をちらりと見るとそう言って立ち上がる。

 

 そんな感じで、訳も分からぬまま、テミスを先頭に、町の繁華街にある仕立屋に5人で向かう。



「テミスお嬢様ではないですか。今日はどのような御用で?」

俺達が仕立屋に入ると慌てて接客する店長らしきおっさん。


「私はただのテミスだ。こいつらに水のダンジョンに必要な装備を一通り頼む」

口数少なくそう言うテミス。

 そして、店長の視線がこっちに向く。  


「どういうことだ?」

俺は仕立屋の店長に聞く。


「テミスお嬢様の言葉の通りです。水のダンジョンは水に入る事も多いので普通の服では挑めません。水で重くならない服、要は水着風の鎧が必要になります」

仕立屋の店長がそう教えてくれる。

 そう言えば傭兵ギルドの受付嬢もそんなことを言っていたな。


「とりあえず、あなたは男性なので装備にそんなに変更はありません。ジャケットとズボンを脱いで、皮製の半ズボンを新調し、今着ている皮の貫頭衣と皮手袋を防水加工すればそれで充分でしょう。 鉄の防具は水の中で沈んで浮かんでこられなくなるので着られませんよ」

そんな話をされ、俺はとりあえず、採寸してもらい、皮製の半ズボンというより海パン風の防具を作ってもらう。


「これって、ダンジョン攻略に絶対必要なんだよな?」

俺は店長に確認をとる。


「ダンジョンの最深部をめざすなら絶対必要です。道中水中に潜ります。無理に今の装備でも行けないことはないとは思いますが、鉄は錆びるのでその毎日のメンテナンス代金で防具を新調するより割高になりますよ」

店長がそう言う。


「あとは靴と武器の新調も必要ですね。普通のブーツでは水が入って脱げたり、泳ぎにくかったりしますし、武器は水中でも使える槍というより水中用の銛をお勧めします」

店長がそう付け加える。


「妹達の採寸は時間がかかる。その間にタイヨウは靴屋と武器屋に行くぞ」

テミスはそう言い、仕立屋を出る。

 初めて彼女に自分の名前を呼ばれて少し驚く。


 そんな感じでカミラやエリー、フブキたちが採寸する間に俺はテミスと一緒に靴屋と武器屋を回る。

 

「テミスはダンジョン用の装備を準備しなくていいのか?」

俺は気になって聞いてみる。

 

「私は以前作った装備が一式ある。今日はどうせ、全員の装備が揃わないから、ダンジョンも途中までしか行けない。だから通常の装備を着ているだけだ」

テミスが俺にそう答える。

 徐々にだが、会話の数も増えている気がする。


「それと、お嬢様って呼ばれていたけど、テミスはもしかして貴族か何かか?」

俺は仕立屋の店長の反応が気になり聞いてみる。


「いや、私はただの冒険者だ。両親も宿屋をやっているただの平民だ」

テミスがそう言う。

 その割には、なんか騎士っぽいし、身なりはしっかりしていて平民ぽくないんだよな。


「というか、ご両親は宿屋をやっているのか?」

俺はそこが気になって聞き返す。


「ああ、あくまでも経営者だがな。値段はギルド直営宿と変わらないがサービスはいいと思う。食堂もやっているのでよかったら使うといい」

テミスが両親のやっている宿を使って欲しいのか欲しくないのか良く分からない反応でそう言う。


 そんなつたない会話をしながら靴屋に向かい、靴屋では靴を履いたまま泳げる、ぴったりして水の入りにくい革靴、スニーカーのようなショートブーツを作らされる。

 確かに水が入り難そうだし、足首が自由に動くので靴を履いたままでもある程度泳げそうな気がする、そんなデザインの靴だ。


 その後、武器屋にも行き、銛と槍の中間みたいなデザインの木の槍を買う。水中では水の抵抗を受けにくそうだし、陸上では普通の槍として使えそうなそんな銛だ。これは今日から使って武器に慣れるそうだ。両刃の斧はカミラの自称アイテムバッグとアイテムバッグのふりをしているアイテムボックスにでもあとで入れておいてもらおう。

 そして、貫頭衣風の皮の服と手袋だが、防水加工の依頼をしたが、防水加工をしても皮の劣化が進むのであまりお勧めしないとのことだったので、使い捨て感覚で新しい貫頭衣風の皮の服と手袋を注文する。もちろん防水加工もお願いする。


 俺の装備が一通り注文し終わったので、仕立屋に戻り、カミラ達と合流し、先ほどと同じように、靴屋に行きカミラ達の分の水中でも履ける靴を作る。この世界は基本、服も靴もオーダーメイドだ。

 最後に武器屋に行き、3人分の銛を買う。


「え~、私、いつも使っている双剣がいいなぁ」

フブキがそう言って駄々をこねる。


「水のダンジョンでは水に濡れることが多いから、武器が錆びるぞ。だから、毎日砥がないといけなくなるから、1週間もあのダンジョンに入ればその双剣も砥ぎ過ぎて薄くて細い、サーベルみたいになっちまうぞ」

鍛冶屋のおっさんがそう言って笑う。


「それは嫌だよ」

フブキが困った顔でそう言う。 


「私も修道僧(モンク)ですから、槍はちょっと使い慣れないんですけどね。まあ、杖術も習っているので何とかなると思いますけど」

エリーがそう言う。


 そして、水着だけでは防御が心もとないので、全員、革製の胸鎧(ブレスプレート)と革製の額当ても注文しておく。 

 

 水着も靴も、皮の防具も明日には出来上がるそうだ。

 

 そして今日用意した水のダンジョン対応の装備だが、


 水着 3人分 銀貨9枚

 水中用の革靴 3人分 銀貨6枚

 皮の胸鎧(ブレスプレート) 3人分 銀貨15枚

 皮の額当て 3人分 銀貨6枚

 皮の手袋 3人分 銀貨6枚

 鉄の銛 3人分 銀貨12枚

 貫頭衣風の皮の服 俺用 銀貨5枚


 総額 銀貨59枚

 ちなみに皮は全て防水加工されているやつだ。

 

「凄い出費だな。これはダンジョン攻略して、褒賞を貰わないと割に合わないな」

俺はこの間攻略した土の精霊のダンジョン、通称、北東のダンジョンをクリアしたときにもたった金貨と銀貨、そして宝石を思い出す。

 

「タイヨウお兄さん、私もお金出しますよ?」

エリーがそう言い、フブキもうんうんと頷く。


「大丈夫だ。エリー達を巻き込んでいるのは俺だしな。レベルを上げて故郷に帰るにしても、ダンジョンにわざわざ行く理由はないからな」

俺はそう言ってエリー達の申し出を断る。


「まあ、この間のダンジョン攻略の褒賞があるから問題ないでしょ?」

カミラがあっけらかんとそう言う。


「というか、カミラは何も準備しなかったらしいけど大丈夫なのか?」

俺はカミラにそう聞き返す。

 カミラだけ水着はもちろん、武器も鎧も買わなかったらしい。


「ああ、私は、アイテムバッグの中に風火土水、4属性の魔物と戦うことになっても対応できるような装備を一通り持っているからね」

カミラはそう言って、自称アイテムバックという名のアイテムボックスから今まで見たことのない武器を出す。

 三つ又の鉾に魔導石のついたなんか水色に装飾されたそれっぽい武器を出す。


水精霊(トライデント)の三叉槍(オブウンディーネ)。水の精霊の加護を受けた三叉槍さんさそうだね。水中でも魔法が使えるし、物理攻撃もできる。これもお母さんのお古だけど」

カミラがそう付け足す。

 なんか明らかに素人が持ってはいけない武器のオーラを放っている。ラスボス前に勇者パーティの仲間が持つみたいなレア度を放っているんだが。

  

 それ以外にも魔力付与された水着や水中用のブーツなんかも持っているらしい。こいつの母ちゃんは何者だよ?


 とりあえず、突っ込みどころ満載なので、スルーすることにする。

 

「今日は装備がないからダンジョンまでの魔物の掃除をする。ダンジョンの道案内が約束だからな。明日までは付き合ってやる。それじゃあ、さっそくいくぞ」

気難しい女騎士のテミスは誰とも目を合わさずにそう言う。


 とりあえず、武器屋で買った水中でも使える銛3本はまとめてカミラの自称アイテムバックに入れておいてもらい、そのままついて行く。

 東の商店街にいた俺達は、町を横断し西の門に向かうようだ。ダンジョンはこの町の北西の位置にあるらしい。


「そういえば、この町も、ダンジョンがほったらかしで魔物が溢れているらしいな」

俺はテミスにそう聞く。


「ああ」

テミスからそっけない返事が返ってくる。

 傭兵ギルドの受付嬢の話ではダンジョンの魔物狩りに王国からの報酬がつかなくなってダンジョンに潜る冒険者がいなくなり、ダンジョンの中は魔物が溢れ、その周りにまであふれ出てしまっているそうだ。北東のダンジョンと同じ状況っぽいな。

 北東のダンジョンを攻略した時みたいにまずは道中の魔物狩りをしてダンジョンに着くまでの道を確保しないといけないようだ。


「そういえば、テミス、報酬の話をしていないが、いくら払えばいい? 申し訳ないが俺達はあまり持ち合わせがない上に、2週間近くダンジョンに通う予定なんだ」

俺はそう答える。

 

「特別な報酬はいらない。魔法石を5等分、それと経験値が目的だ。ある程度ダンジョンが案内出来たら契約終了だ」

テミスが不機嫌そうにそう言う。


「そうか、無料は助かる。できれば長く案内して欲しかったけどな。ちなみにテミスのレベルは幾つだ?」

俺は今後の戦略の為にレベルも聞いておく

 

「80だ」

言葉少なくそう答える。


「レベル80!? それって凄くないか?」

俺はテミスのレベルを聞いて驚く。


「普通だ。毎日魔物を狩っていればそれくらい行く」

謙遜している様子もなく、無表情でそう答える。


「テミスさんはそんなにレベル上げて何をするの?」

カミラが興味本位でそう聞いてくる。


「・・・・」

テミスは答えない。

 コミュ障かよ。


「お兄ちゃんとしかお話できないみたいね」

カミラが呆れ顔でそう言い、エリーとフブキの方に戻っていく。

 そうなのか? 言われてみると俺としか話していない。


「それと、言い忘れたが、さっきの妹、カミラは肌が弱くて日中、日差しのあるところでは戦えない。日差しのないダンジョンの中なら活躍できるんだがな。そこらへん配慮を頼む」

俺は言い忘れていたことをテミスに伝える。


「配慮はしないが分かった」

テミスがそう答える。

 パーティの都合はパーティで何とかしろという方針のようだ。


 そんな会話をしながら西の門を抜ける。


「畑の中にもまれに魔物がいるから気を付けろよ。まあ、弱い魔物だがな」

門を守っていた兵士がそうアドバイスしてくれる。

 

 この町は、ひとつ前の町の冒険者の町と違い、町のまわりに広がる広大な畑のまわりにも強靭な防壁が張り巡らされ、魔物に襲われる危険性が少ないようだ。

 ただ、兵士の話では、稀に防壁の中でもスモールラットやスライムといった、野良雑魚魔物はいるみたいだが、一般人でも束になってかかれば苦戦しないレベルの魔物だ。門を守る兵士の監視を抜けて街に入ってきて住みついてしまったらしい。


 畑の中の大きな道を西に向かって歩き、もう一つの門、2つ目の防壁に設けられた門をくぐり町の外に出る俺達。


「カミラ、エリー、フブキ。とりあえず、今日はダンジョンまでの道のりに巣食う魔物の数を減らす作業をするぞ」

俺は仲間達にそう言い、エリーとフブキが頷く。


「私はいつも通り、昼間は戦闘できないからね」

カミラはサボる気満々だ。


「またカエルがいっぱい出るかな?」

フブキが変にワクワクしている。戦闘狂め。


「か、カエルとの戦闘は遠慮したいですね」

エリーが少し青ざめる。本当にカエルが嫌いみたいだな。


 そんな感じで新しい町での魔物狩りとダンジョン攻略が始まる。


 次話に続く。 

 ブックマーク1名様ありがとうございます。

 それと誤字脱字報告もいつもありがとうございます。

 ブックマークや☆もらえるとやる気が出ます。ご意見、ご感想もお待ちしております。

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