第35話 兄、次の町で活動する。
【異世界生活14日目 夕方】
「お前達、よく戦ってくれたな。少し給金を足しておいたぞ」
そう言って、乗合馬車と商人の馬車の集団を取り仕切るリーダーらしきおっさんがお金をくれる。
俺とエリーとフブキ3人分だ。一応中を確認すると銀貨が54枚入っていた
最初の契約で一人、銀貨15枚、多分元の世界で5万円弱くらいか? 危険手当を含めて日当5万円、あまり割のいい仕事ではないが、元々移動すること自体が目的だったので、それでお金も貰えるし、多人数で移動するので安全性も高くなるという事で護衛として参加した感じだ。
俺達は他の護衛の戦士達より毎回多めに倒していたので一人銀貨3枚ずつおまけしてくれたみたいだな。
そして、今回は苦戦するような戦いもなく、カミラは全く出番がなかったな。完全に乗合馬車の客だった。まあ、日焼けが苦手らしいからしかたないが。
「お前達、もしよかったら、帰りの護衛もしてくれないか?」
お金をくれたリーダーのおっさんがそう声をかけてくる。
「いや、俺達はこの先の町に用事があるから無理だな」
俺はそう言って断る。
「そうか。もしかして、魔人族との戦いの最前線で傭兵でもやるつもりか? 止めておいた方がいいぞ」
おっさんがそう教えてくれる。
「なんでだ?」
俺は戦争に参加するつもりはないが、気になったので聞いてみる。
「ああ、ぶっちゃけ、勝負になってない。魔人族の圧勝って感じだ。しかも、魔人族は戦う気がないらしく、国境を越えてくることはない。まあ、王様が勝手にちょっかい出して、傭兵を無駄死にさせているだけだって噂も流れている。まあ、内緒の話だけどな」
おっさんがこっそりとそう教えてくれる。
なんか、聞いたイメージと違うな。
あくまでも魔王が魔人族を引き連れて人間の国を侵略しようとしている。それを王様と王国の軍隊が必死に抑えていて、膠着状態。その現状を踏破するために勇者、妹のあてなが呼ばれたと解釈していた。
とりあえず、世話になった馬車団のリーダーのおっさんと、一緒に護衛をしていた冒険者のパーティ達に挨拶をして、分かれる。
ここは、昨日まで暮らしていた、キッシュの町、別名冒険者の町からさらに北に1日行った所にある町、ギルス。別名、領主の町と呼ばれている。
北に広がる巨大な密林、魔物の森を開拓してできた新しい領土を治めている貴族様がこの町に住んでいるらしい。そして、その貴族様は魔王との戦いの最前線の指揮者でもあるそうだ。
広場にあるかわら版、王国の情報が書かれる黒板には特に新しい情報は書かれていなかった。多分数日後に、「冒険者の町、キッシュの町に勇者が到着した」みたいな内容にはなるんだろうけどな。王国から離れるほどタイムラグがでるらしいしからな。
「特に新しい情報はなかったけど、どうするの?」
カミラがかわら版を見てそう聞いてくる。
「カミラの持っている勇者の絵本には順番にダンジョンを攻略する話が書かれていたよな? だったら、とりあえず、この町の近くにあるダンジョンを攻略しつつ、勇者の新しい情報が出るのを待つ感じだ」
俺はカミラにそう答える。今やれることといったらそれしかないしな。
「じゃあ、とりあえず、傭兵ギルドに行って宿を取ったら情報収集と作戦会議だね」
カミラがそう言うので俺は頷き、傭兵ギルドに向かう。場所は、一緒に警備した他のパーティが教えてくれたし、馬車が止まった中央広場からかなり近いので迷うこともなかった。
とりあえず、いつも通り、ツインの部屋を借りて荷物を下ろす。情報によっては、夜の魔物狩りをするかもしれないから鎧は着たままだ。
「あーん、早く湯あみがしたいです。なんか手足にカエルの臭いが付いている気がします」
エリーが嫌そうな顔でそう呟く。
「ギルドの受付で挨拶したら、夕食を食べる前に一度休憩時間にしよう。みんなさっぱりしたいだろうしな」
俺はそう言って部屋を出ると階段を降り、ギルド直営の酒場に降りて、そのままギルド窓口に向かう。
「こんにちは。見慣れない顔の方々ですね。この町は初めてですか?」
受付嬢が俺達を見てそう挨拶してくる。
前の町でも同じような事を聞かれたな。ただ、俺達もだいぶ冒険者らしい外見になったのか、警戒されるような顔はされなかったが。
「ああ、隣の町、キッシュの町から来た」
俺も似たような言葉を返し、傭兵ギルドのカードの表を見せる。
エリーとフブキも胸元からカードケースを引っ張り出し、俺のカードに並べる。
「エリーさんとフブキさん。レベル50台後半。お強いんですね。そして、タイヨウさん、レベル60越えですか」
そう言ってギルドの受付嬢が驚く。
「このあたりならレベル60台の冒険者も普通にいるだろ?」
俺はそう聞き返す。
カミラの持っている勇者の絵本の話ではこのあたりの町のまわりにはレベル30~40台の魔物がうようよいる。それを倒していればレベル60なんてすぐだ。
「まあ、いますけど、普通ではないですよ。結構稀です。というか、普通といえば皆さんのご関係をお聞きしてよろしいですか? 少し普通じゃないですよね?」
受付嬢がそう言って目つきが変わる。
おっさん1人に幼女が3人確かに怪しすぎるもんな。
「こいつ、カミラが俺の妹で、エリーはカミラの友達だ。フブキはキッシュの町で妹達が仲良くなってレベル上げに付き合うことになった。そんな感じだ。俺とカミラとエリーは北の故郷をめざしてレベルを上げながら旅をしている」
いつもの用意された嘘をしれっと言う俺。
カミラも妹であることを主張するように日よけのフードを脱ぐと顔を見せる。
「確かにカミラさんとタイヨウさんはよく似ていますね」
受付嬢がそう言って笑う。
本当の兄妹じゃないけどな。黒髪が珍しい世界なので髪の色でそう見えるのだろう。
「そうなると、ニネべの町まで行かれるのですが?」
受付嬢がそう聞いてくる。
町の名前を聞かれてもよく分からない。
「いえ、出身はそれよりさらに北のアラッタの町なんです。できればそこまで行きたいなって」
エリーそう言って助け舟を出してくれる。前もこんなことあったな。
「ああ、アラッタの町の方でしたか。残念ながら、魔人族の軍勢がニネべの町とアラッタの町の間に布陣してしまっていて交流が断たれてしまっている状況で情報がありません。正規軍もニネべの町まで撤退しているので、ニネべの町より先に行くのは難しいかもしれませんね」
受付嬢がそう教えてくれる。エリーの生まれ故郷は戦争の最前線の先にあるらしい。
「まあ、行けるところまで行ってみるよ。で、その為にも強くなる、レベルを上げたくてダンジョンを攻略したいんだが、何かダンジョン関連で仕事はないか?」
俺はダメもとで聞いてみる。
「そうですね。今は戦時中で、ダンジョンの魔物討伐の依頼は止まっている感じですね。えっと、申し遅れましたが、私はギルドの受付をしておりますミアと申します」
そう言って、現状を教えてくれた受付嬢は自己紹介してくれる。
「そうか。キッシュの町でもそうだったが、王国も戦争でお金がないってところか」
俺はそうミアさんに言う。
「スポンサー様でもある王国の事は悪く言えませんが、まあ、そんな感じです。この町も、町を守る衛兵の募集や最前線での傭兵の募集くらいしか王国からの依頼はないですね。それ以外は、魔物を狩って魔物からとれる魔法石を換金する魔物狩りのお仕事くらいですか」
ミアさんが申し訳なさそうにそう言う。
「ダンジョンで鉄集めとかもしていないのか?」
俺は前の町の事を思い出しそう聞く。
「ああ、この町の近くにあるダンジョン? ダンジョンといっていいのかわかりませんが、魔物が沸くエリアにいる魔物はあまり鉄の武器を使わないんです。鉄の回収率が低いので、この町では鉄製品は基本他の町から買う感じですね」
ミアさんがそう教えてくれる。
「ん? この町のダンジョンはダンジョンじゃないのか?」
俺はミアさんの反応が気になってそう聞く。
「えっと、ダンジョンはダンジョンなのですが、川と融合したダンジョンというか、ダンジョンの中を流れる川を上っていく感じのダンジョンなのです。水生生物のような魔物が多くて、二足歩行で道具を使うような魔物が少ないんですよ。ですから、鉄の入手率も低いと」
ミアさんがそう説明してくれる。
なんか登っていくタイプのダンジョンみたいだな。
「それと、水没した部分も多くて泳いで通る道も多いんですよ。なので、重い防具は着けられない。濡れてもいい服、泳げる服、要は水着が必要になるちょっと面倒くさいダンジョンですね」
ミアさんがそう付け足す。
「み、水着ですか?」
エリーがそう言って驚く。
「体が濡れるのはいやだなぁ」
フブキが猫っぽい事を言う。
「そうなると、ダンジョンに詳しい案内人みたいなのはいないか? できればなるべくお金のかからない方法がいいんだが」
俺は本題に入る。
ダンジョンの事が全く分からないと攻略のしようもないしな。
「うーん、難しいですね。先ほども言った通り、ダンジョンでの魔物減らしの仕事は打ち切られているので好んでダンジョンに潜る冒険者が今はほとんどいませんしね。高い報酬を払えば道案内してくれる人はいるかもしれませんがそうなると、タイヨウさんの利益がないというか、赤字になりますね」
ミアさんがそう言う。
「あとは、当ギルドが昔作った、冒険者の皆さんの情報を集めて書いた地図っていうのもあるんですが、手書きの地図で、羊皮紙も高いですし、地図自体の希少価値も高いのでかなりのお値段になりますね」
ミアさんはそう付け足し、地図の値段も教えてくれる。
うん、ダンジョンでの収入が軽く吹き飛ぶ値段だ。
「そうなると、お兄ちゃん、自分たちで地図を描きながら進むしかないかもね」
カミラがそう言う。
そうだな。時間がかかりそうだがそれしかないか。
「あと、一人、思い当たる人はいるんですが、その方はソロで魔物狩りをする冒険者の方で、確か昔にダンジョンでの魔物狩りもしていたかと。とにかく寡黙で、私も一言二言しか喋ったことがないくらい気難しいかたですね」
ミアさんが困り顔でそう言う。
一緒にダンジョン攻略してくれないのなら意味がない。あと意思疎通もできないような相手では厳しいな。
「どん!」
「換金を頼む」
俺達の話していた隣の受付からそんな声が聞こえる。
「ああ、あの方です」
ミアさんがこそっと教えてくれる。
俺は慌てて横を向くと、そこには気難しそうな顔をした全身鎧の騎士のような格好をした女性冒険者が立っていた。今の俺より若干若いくらいか? 20代半ばの女性だ。
気難しそうな顔をしていなければ結構な美女だが、周りのすべてを拒絶するようなオーラを放つ、面倒臭そうな女性だった。
しかも、フードを目深に被り、気難しそうな顔以外はよく見えない。
「なあ、あんた、このそばにあるダンジョンに詳しいのか? よかったら、俺達を案内して欲しいんだが。できれば無料で、魔法石やドロップ品は山分けの感じで」
俺は藁にも縋る気持ちでそう声をかける。
気難しい顔をした女騎士はちらりと俺の顔を見ると、興味なさそうに、受付に視線を戻し、換金を待つ。
やっぱり無料は都合がよすぎたか。せめて価格交渉から入ればよかったか。
「お兄ちゃん、ダメそうだよ。他の方法を考えよ?」
カミラがそう言って俺の袖を引く。
すると、気難しそうな女騎士は俺をちらりと見返し、カミラもちらりと見る。
「お前、この子の兄か?」
女騎士がドスの効いた威圧するような口調でそう聞いてくる。
「あ、ああ、そうだ」
俺も気圧されながらもなんとかそう答える。俺がカミラの兄というのは嘘だけどな。
「私にとっても兄貴だよ。心の兄貴だけどね」
フブキが余計な事を言う。
「心の兄か」
気難しそうな女騎士が遠い目をしてそう呟く。
「フブキに関しては弟分、いや妹分? 親分と子分みたいなもんだ。血はつながってないぞ」
俺はよく分からないフォローをする。これ以上怒らせたくないしな。
「そんな事は見ればわかる」
女騎士は不機嫌そうにそう言う。
まあ、フブキは銀髪に碧眼で俺とは髪の色も目の色も違うし、何より猫みたいな尻尾と耳が生えているしな。
「なぜ、ダンジョンに拘る?」
女騎士はさらにそう俺に問う。無関心層に俺に目を合わせずにだ。
まあ、確かに今、ダンジョン攻略は金にならないみたいだし、わざわざ冒険者が挑むのは不自然だろう。
「詳しくは言えないが妹の為だ。妹の為に、俺のレベルを上げたいし、ダンジョンの魔物を1匹でも多く減らしたい」
俺はそう力説した。実際、妹で勇者のあてながひどい目に合わないように先回りして魔物退治をしているしな。
「また妹か?」
苛立った声でそう聞き返し、俺をちらっと見たあと、カミラもちらっとを見る。
「その妹っていうのは私じゃないよ。別の妹」
カミラが余計な事を言う。カミラってことにしておけば、北の故郷に帰る為にレベルを上げたいとか、いつもの嘘につなげられたのに。
そして、気難しい女騎士の魔法石の換金が終わったようで、硬貨の入った布袋が受付から出てくる。
「1日だけ付き合ってやる。明日の8時に酒場で待っていろ」
気難しい女騎士はそう言うと踵を返し、傭兵ギルドを出ていってしまう。
「珍しいですね。あそこまでテミスさんが喋るの、初めてみました」
受付嬢のミアさんがそう言ってあっけにとられている。
あれで喋り過ぎなのか? そして今の女騎士の名前はテミスっていうのか。
「これって、今の女性がダンジョンの道案内を1日だけだけど引き受けてくれたってことだよな?」
俺はそう言ってみんなに確認をとるが、皆、首をかしげる。
「とりあえず、8時に酒場で待つしかないんじゃないでしょか?」
エリーがそう言う。
確かにそうするしかないよな。
そんな感じで急遽、明日、この町の側にあるダンジョン、水の精霊が管理しているという水のダンジョンに挑むことになった。
次話に続く。




