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第35話 兄、次の町に行く。

【異世界生活14日目 昼過ぎ】


「タイヨウ兄貴、敵だよ」

雪豹族のフブキがそう叫ぶ。


「マジか? この街道の魔物は容赦ないな。おい、みんな、右から敵だ」

俺はそう叫び、他の護衛のメンバーにも知らせる。

 獣人族のフブキとエリーは耳も鼻も目もいいので索敵が早いのが助かる。


 最初の町から冒険者の町までの街道は比較的弱い魔物が多かったせいか、護衛のついた馬車の集団、大量の人間を相手に戦いを挑むような魔物はほとんどいなかったみたいだが、冒険者の町のさらに北にある町に続く街道では、魔物も力に自信があるのか、または人間が常習的に餌という認識があるのか積極的に俺達を襲ってくる。


「ヒ、ヒィ~~。カエルですよ。おっきいカエルです」

エリーが素っ頓狂な声を上げる。


「エリーはカエル嫌いなのか?」

俺は前のダンジョンのラスボスから奪った両刃の斧を構えるとそう聞く。


「あまり、カエルとかヘビが好きな女の子はいないと思います。それに、大きすぎます」

エリーが遠くから俺達に向かって跳ねてくるカエルの集団を見てそう言う。


「あいつらは人間も丸飲みにして食うから気を付けろ。とりあえず飲み込まれたら、ナイフでどこでもいいから突き刺せ。痛がって吐き出す」

一緒に馬車の護衛をしている冒険者パーティのおっさんがそう教えてくれる。


「エリー、ナイフを用意しておけよ」

俺はそう忠告しておく。


「もう!! 飲み込まれる前提で話をしないでください」

エリーが真っ青な顔でそう言う。


「それと、奴らの舌には気を付けろ。予想以上に伸びるし、早いぞ。気づいた時には巻きつかれて、腹の中だ」

別パーティのおっさんがそう付け足す。


「タイヨウ兄貴、こっちからしかけていいかな? 突っ込んでいいかな?」

エリーとは対照的にフブキは太い尻尾をフリフリさせてカエルの群れに飛び込む気満々だ。


「ダメだ。カエルに飲み込まれたくなかったら隊列を崩すなよ。あっという間に囲まれて、胃の中だぞ」

俺はそう言ってフブキを窘める。


「飲み込まれたら、腹の中から掻っ捌いて開きにしちゃうよ」

そう言って、自慢の双剣を腰から抜く。

 こいつはコイツで飲まれる気満々だ。


「とりあえず、カエルの内容物まみれの姿は見たくないからやめてくれ」

俺は呆れ顔でそう言い、フブキを止める。


 そんな感じで俺達3人と他のパーティメンバーが9人、1人は馬車の反対側の警戒を続けるので8人か。合計11名が馬車の右側に横一列で並んで進み、馬車と距離を置き、隊列を組む。

 今回、魔法使いはいないようだ。


「お兄さん、補助魔法を使います。獣の王、そして獣の神、黒獅子王よ。我が聖なる力を供物とし、力をお貸したまえ! 『獣よ奮い立て(ブレイブビースト)』!!

エリーがそう言い、魔法詠唱。体の底から力が湧き上がってくる気がする。

 周りのパーティも「おおっ」って感じで感嘆の声が上がる。


「最初は防衛気味でいくぞ。カエルの舌の射程も威力も分からないからな」

俺はそう言い、エリーが頷く。

 フブキはカエルを斬ることで頭がいっぱいだ。カエルをガン見して、尻尾をフリフリしている。


 まあ、飲み込まれたら助けてやればいいか。


 徐々にラージフロッグが近づいてきてその大きさと数が分かる。

 こちらが11人に対し、ラージフロッグは20体以上、若干不利か? まあ、他の護衛のメンバーの平均レベルは40くらいだし、他の護衛のメンバーの話ではラージフロッグはレベル31~33くらいらしい。他のメンバーが1体ずつ抑えてくれれば俺達3人が残りは蹴散らせられるだろう。 

 俺達は一番左端を担当させられる。ラージフロッグに囲まれないように殲滅力が必要になる隊列のなかでも要所な部分だ。


 ちなみに俺達のレベルは昨日のダンジョンクリアでかなりレベルが上がり、


タイヨウ レベル63

カミラ  レベル58

エリー  レベル60

フブキ  レベル56

 

 まあ、カミラが俺のおかしなスキルの使い方を教えてくれたおかげで順調にレベルが上がっている。

 俺のスキルの正体がわからなかったら一般人のように戦って苦戦して、ここまでうまくいかなかっただろう。カミラとカミラの『鑑定』スキルとかいうやつに感謝だな。


 ぶっちゃけ、午前中もラージラットやラージリザードというレベル31越えの魔物と戦ったんだが、俺達に関しては結構楽勝だった。


 そして、徐々にラージフロッグが近づいてきて、隊列の右、俺達の反対側が騒がしくなる。

 ラージフロッグとの闘いが始まったようだ。


「エリー、フブキ、向こうの戦闘見ておけよ。ラージフロッグの舌の間合いの参考になる」

俺はそう言い、遠くで、舌を伸ばすラージフロッグを観察する。

 

「あれ? カエルの舌ってそんなに長くないのか?」

俺が想像していたより近距離で戦っている護衛の戦士達を見て違和感がする。

 俺のイメージだとカエル自体が3メートル近い大さなので、舌はその3~4倍、10メートル以上伸びるのかと思っていたら、全長と同じくらい、いや、若干短いくらいの距離で戦っている。


「ああ、カエルの舌はその速さと柔軟性で長いと錯覚するんだよ。気づいたら巻きつかれている。この距離で? みたいにね。実際は体長と同じくらいしかないらしいわよ」

俺達の隣で構えている女戦士がそう教えてくれる。

 俺はカメレオンかなにかと混同していたのかもしれないな。カエルの舌は思ったより短い。勉強になった。


「タイヨウお兄さん、来ますよ」

エリーがそう言い、彼女の主武器ビーストクロ―、両手の拳に棘のついた篭手を構える。

 俺も斧を構え、目の前に迫るラージフロッグを睨む。


 1ランク下のミディアムフロッグまでは攻撃手段を持たない、人に無害な魔物だったのにラージフロッグになった途端こんなに好戦的になるのか。多分、巨大になって人間もエサの対象になったからだろう。

 

「エリー、無理はするな。囲まれないように下がりながら1体ずつ相手にしろ。フブキは端のカエルから順番に倒せ」

「承知しました」

「了解!」

俺は二人にそう指示し、二人も答える。

 たぶん、ラージフロッグは2方向から舌で攻撃されるとマズい。まあ、ウルフやゴブリンと違って連携能力は皆無みたいだがな。


 エリーがさっそく1体目と対峙する。

 ラージフロッグの攻撃する兆しを読んで、舌を出す直前にバックステップで射程外に。

 ラージフロッグの舌が伸び切ったところで棘のついた篭手で地面に舌を縫い付けるように地面に叩きつける。


「タイヨウお兄さん、お願いします」

エリーがそう叫ぶ。

 なるほど。


 俺はすぐにエリーの意図に気づき、エリーが地面に舌を縫い付けたラージフロッグに飛び掛かり、両刃の斧で3メートル以上あるラージフロッグを袈裟切りにする。

 首を両断するには至らないが致命傷だろう。というか、首が太いし、全体的にデカすぎる。


「お兄さん、左から来ます」

エリーが慌てて叫ぶので、俺も慌てて左を向くと、目にもとまらぬ速さでピンク色の何かが飛んでくる。すんでのところで左手に持ったバックラーで受ける。カエルの舌だ。

 いや見えていたんじゃない、気づいた時には左腕が舌に巻かれていた。あまりの一瞬の出来事に飛んできたと錯覚しただけだ。それくらい速い。

 左手を巨大な舌で包まれて、3メートル近いラージフロッグとの引っ張り合いになる。

 

 カエルの舌、速すぎるだろ。瞬きする間に飛んでくる。そんなスピードだ。野球の球どころじゃない。ピストルの弾だ。見て避けられるものじゃないぞ、これは。

 しかも引っ張る力が凄い。体重70キロ+鎧の重さの俺がずるずる引きずられる。地面に足を踏ん張ってもだ。

 

 さっき、戦士のおっさんが言っていた、気づいたら腹の中。まんざら嘘じゃないかもしれない。


 俺は慌てて、右手に持った斧で、絡みついた舌を根元の方から断ち切り、そのまま、返し刀で、カエルの口に斧を叩き込む。

 ラージフロッグの顔半分が口から裂ける。

 

 俺は一度距離を置き、左手に絡みついたラージフロッグの舌をはぎ取る。

 うん、粘着質の唾液が気持ち悪い。


 フブキは大丈夫なのか?

 俺は、一番端っこで戦っているフブキが気になって見ると、予想外に楽しそうに戦っていた。

 左に持つ双剣を前に突きのように構え、舌の攻撃を警戒しつつ、エリーのように、舌が飛んでくる兆しを読んでバックステップ、舌が伸び切ったところで、右手の双剣で舌を地面に釘打ち状態にし、左、右、左と舌の釘打ちを繰り返しながら接近していき、舌を根元から叩き切って、そのままもう片方の剣で喉元を掻き切り、さらに反対の剣で腹を縦に裂く。

 

 一見、ふざけて戦っているように見えるが、洗練された剣技と素早さ、そして的確に標的を狙う剣筋。

 多分、剣士だった母親からかなり剣術を習っていたのだろう。最初のころはレベルが低く頼りない女の子だったが、レベルも上がり、元々持っていた高い練度の剣術が花開いた。そんな感じだろう。


「タイヨウお兄さん、大丈夫ですか? 次が来ますよ」

エリーが俺の横でそう声をかける。


「ああ、すまない。フブキが心配だったんだが問題ないようだ」

俺はそう言い、左手のバックラーを構え直す。

 ラージフロッグが攻撃してくる兆しを読む。うーん、俺にできるのか?


 俺はそんなことを考えながら次に迫ってくるラージフロッグに対峙する。

 俺はラージフロッグと睨みあい、顔色を伺う。

 そして、なんとなくラージフロッグが瞬きを(したような錯覚が)して覚悟を決めたような雰囲気が伝わってくる。

 これか! 兆しっていうのは。

 

 そして、バックステップを踏もうとしたときにはすでに左腕にピンクの物体が巻きついている。

 バックステップのタイミングが悪く、俺は尻もちをつき、そのままずるずる引きずられる。

 マジか! あれでは遅いのか!?


 俺は水上スキーでもするように、地面をずるずる両足で引きずられながら立ち上がるタイミングを計り、立ち上がると同時に、ラージフロッグの舌を根元から右手の斧で切り裂く。

 そして返し刀(斧?)でラージフロッグの喉元を掻き斬り、もう一度一閃、腹にも一撃を食らわし、腹がばっくりと開く。


 隣で、エリーは先ほど同様、ラージフロッグの舌をギリギリで避け、篭手についた棘で舌を地面に縫い付け、かかとで舌を思い切り踏みつぶしながら進んでいき、ある程度近づいたところで、ジャンプして一回転、3メートル近い、ラージフロッグの脳天にかかと落としを食らわせ、地面にはいつくばらせたところで棘付きの篭手で左右のワンツーパンチを3連打。カエルの頭の形が歪になる。


 エリーの戦い方はいつ見てもエグイな。見かけは美少女なのにな。


 俺は、あきらめずに次の1体に挑む。俺達以外が苦戦し過ぎて、敵の数が減らないのだ。 

 兆しよりさらに先に動かなくてはいけない。ぶっちゃけ、勘だな。


 俺は先ほどと同様、ラージフロッグと睨み合い、兆しが来るかなって思った瞬間、一瞬早めにバックステップで距離をとる。そして、さっきまで俺がいたところにピンクの舌が伸びる。

 なるほど、これか! 


 運がよかったのか良く分からないが、なんとなくラージフロッグとの戦い方を覚え、伸びた舌を斧で叩き斬り、ラージフロッグに走り寄り、両刃斧で滅多斬りにする。


 俺の後ろをエリーが横切り、次のラージフロッグに対峙し、その隣のラージフロッグにはフブキが飛び掛かる。左は落ち着いたな。


 俺は大きく息を吐き、右を見ると、右側もバタバタしつつもカエルの数より戦士の数が上回るようになり2対1で戦える場面が増えていき、形勢逆転、ラージフロッグが敗走していく。


「うーん、篭手や脛あてがべたべたです。お水で洗いたいです」

エリーが本当に嫌そうな顔でそう言う。

 俺の左手と小盾バックラーもべたべただ。


「ふーっ、大満足。面白かったね。今の戦いは」

フブキは満足げな笑顔でそう言う。


「落ち着いたら魔法石を回収するぞ。終わったら馬車に積んである水を少しもらおう」

俺はそう言って、倒したラージフロッグの腹を開き、魔法石を回収する。


 今回はカミラが出るほどじゃなかったな。まあ、出たら出たで魔法石総取りとか言い出すからよほどのことがないと呼ばないけどな。


 俺たち以外のパーティはさらに苦戦したようで、全身カエルの唾液や内容物まみれの戦士が点々といた。まあ、あの舌を避けるのはかなりのセンスと経験がいると思う。

 普通に戦っていたエリーやフブキのセンスが凄いのだ。たぶん。


 そんな感じで魔物に何度も魔物に襲われながら、何とか陽が落ちる前に次の街、このあたりを収める領主の町で、魔人族との戦いに備えるための兵糧と兵員を備えた大きな町に到着するのだった。


 次話に続く。

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