第34話 妹、ダンジョンに挑む。(妹あてな目線)
私はあてな。義理の兄と飛行機事故に合い、異世界転生してしまったベタな女子大生(卒業済み)よ。
何故か知らないけど若返ってしまって女子大生っていうより女子高生って感じだけど、これもお約束? まあ、体が軽くなったし、お肌の調子も良くなったのでありといえばありなんだけどね。
とりあえず今は、勇者の威光、というより王様の威光を示す為に、そしてレベルアップも兼ねてダンジョンや魔物の森をめぐって魔物を倒し、国を平和にして回る冒険が始まったところね。
【異世界生活14日目朝】
今日は午前中、広場で勇者のお披露目会、前に王城の城壁の上でやった自己紹介と決意表明みたいなものね。まあ、お付きの文官さんが書いた台本を暗記して喋るだけだけどね。
新調されたきらびやかな鎧を身にまとい、騎士が着るような中綿の入った服にその下には鎖帷子も。完全防備で町の住人の前に立ち演説をしたわ。そして、宴会芸のような聖剣召喚も見せて拍手喝采。勇者ってこんな仕事だっけ?
そして、午後は近隣の様子を見る為に街の外、そして、魔物が溢れだした北東にある森の調査にいくわ。
とりあえず、町の防壁にある東の門を抜けて、北東に伸びる農道を歩いていく。
青々と茂った小麦畑の風景が広がるのどかな農村風景。このあたりは3重に建てられた石垣に守られて、魔物はほとんどいないらしいわね。
そんな石垣を2つ越えたところで、風景が変わる。
明らかにほったらかしにされた小麦畑、半年、一年、人の手が咥えられていない荒れた畑が広がる。
警戒しながら歩くと、荒れた畑の中からスライムやスモールラットといった、弱い魔物が現れ、護衛の騎士さん達に蹴散らされていく。
たまに出てくる少し強い魔物、レッサーウルフは私に回されるので、私が倒して経験値にしていく。
ぶっちゃけ、私一人でも戦えそうなくらい魔物の数が少ないし、魔物の強さも大したことがないわね。
冒険のメンバー5人に加え数十人の騎士さん達による護衛。完全にオーバーキルね。
「サトゥルスさん、とりあえず護衛の騎士さん達にはこのあたり、荒れた畑の中の魔物の駆除をしてもらいましょ? その方が町の人達も喜びそうだし」
私はそう提案し、サトゥルスさんも了承する。
騎士さん達が3人ずつ組みになって畑の中に散っていく。私達の側には3人だけ騎士が残る。一応、何かあった時の為の護衛らしい。
そこから6人で進み、少し後ろを3人の騎士がついて来る感じ。騎士さん達にあまり出てこられると私のレベル上げに支障がでると薄々気づいたんでしょうね。
そんな感じで勇者パーティ6人プラス護衛騎士3人を加え、鬱蒼と生い茂った森に足を踏み入れる。なんか魔物が溢れていそうな薄暗い森。
「なんか、聞いていたのと違うわね」
私は森の違和感にそう呟いてしまう。
「そうですな。町長や王都への報告を聞いた感じでは、ダンジョンや森の魔物が放置されて増え過ぎてしまい、町も襲われていると聞いていたのですが、その割には魔物が少ないですな」
騎士のサトゥルスさんが私の呟きに答える。
確かに、街の周り、3層ある石垣のうち、最外周の石垣が破壊されて、小麦畑も荒らされ、弱い魔物は点々としていたけど、いざ森に入ってみると、たまにレッサーウルフやミディアムラットやミディアムリザード、弱い魔獣が少し現れるくらいと、ゴブリンの小さな群れがちょっかいを出してくるくらい。明らかに数が少ない。
「なんか、森の中の小道も、人が通った気配がありますし、かなり大規模な戦闘が繰り返された跡がありますね」
レンジャーのスーさんが地面を撫でながらそう言う。
言われてみると確かに大量の足跡で踏み固められたような小道。大量のゴブリンが通ったような雰囲気は素人の私でもわかるわね。
「木や藪の倒れ方、地面の荒れ方など見ても、魔法が使われた気配が所々に感じられますね」
魔法使いのソミーちゃんがそう言って、何かになぎ倒されたような藪を指さす。
そんな感じで、違和感だらけの森を歩いていると、敵の気配を感じる。スーさんに教わった『危険感知』のスキルで藪の奥に複数の魔物の気配を感じる。
「勇者様」
スーさんがそう声をかけてくる。
「ええ、いるわね。倒すわよ。聖剣召喚!」
私はそう言って、右手に聖剣を呼び出し右の藪に飛び込む。護衛もかねてスーさんも私の後ろに続く。
騎士のサトゥルスさんは小道を進み、藪から出てきたゴブリンという魔物の弓矢や投石を盾で受ける。
シオン王子は私と反対左の藪に飛び込む。
魔法使いのソミーちゃんはサトゥルスさんの後ろで風魔法を唱え、藪の中にいるゴブリンを1体ずつ確実に仕留めていく。
私も負けずと、藪の中に隠れていたゴブリンの群れに斬りかかり、凄い切れ味の聖剣でゴブリンを皮鎧ごと袈裟切り、溶けたバターのように両断する。
サトゥルスさんの指導のおかげで、何とか剣もそれらしく振れている。向こうの世界では剣を振るったことなんて一度もないし、生き物を殺すこと自体したこともなかったし。
最初は怖かったけど、相手は魔物。やらなければこっちがやられる。そんな気持ちで襲ってくる魔物を切っているうちに、怖さや命を奪うことに対する忌諱感も薄れていったわね。
あくまでも襲ってくる魔物だから。という条件付きだけどね。
将来的には、魔人族という人間に近い存在も斬らなくてはいけない。魔王との戦争にも参加しなくてはいけなくなるらしいわ。そうなったときに、私は敵を斬れるのかしらね?
「勇者さま、危ない!」
スーさんの叫びに慌てて、戦闘に集中する私。
ゴブリンが味方も気にせずに矢を放ってきたようね。私は少し体をずらして、鎧の肩当部分で矢をはじく。
私のステータスは他の人の3倍らしいので、体の動きも動体視力も凄い事になっているようで、矢がゆっくり飛んでくるのが見えて、紙一重で避けたり、剣で叩き落としたりするのも、剣の素人なのに簡単にできてしまうみたい。
冷静にゴブリンの矢や投石を避けたり、盾で受け流したりして、どんどんゴブリンに近づき斬り捨てていく。近距離から矢を放たれても、放つ瞬間の射角で軌道が読めてしまい、すばやい剣の一撃で矢を叩き落す。
うん、転生勇者ってやっぱりチートってやつなのね。今の段階でこれなら、レベルが上がったらもっと凄い事になりそう。
そんな感じで何の苦も無く、右の藪に隠れたゴブリンを全滅させ、左の藪も一段落ついたようで、シオン王子が藪から出てくる。
なんか、服が汚れたとか不満を漏らしているけどとりあえずスルーね。というよりこの人の存在自体スルーよ。恋愛ゲームルートには進みたくないからね。
レンジャーのスーさんが地図をみながら森を進み、ゴブリンが待ち伏せしていれば斬り捨て、目的地の北東のダンジョンに到着する。土の精霊が管理するダンジョンらしいわ。
ちなみに、この世界にはここみたいなダンジョン、洞窟に魔物が溢れているみたいな場所がいくつもあり、それを神様の眷属である精霊が管理しているそうよ。
なんか、この世界に別の世界から送られてくる悪い魂がこの世界で命を持つと悪い魔物になってしまうそうで、その悪い魔物を閉じ込め管理する場所がダンジョン。なので、管理するのも良い神様の眷属である精霊がしているらしい。
神様が魔物を倒してもその魂はまた別の姿で魔物が生まれかわるだけらしいので神様は何もできず、人が倒して悪い魂を浄化させる必要があるそうよ。それがこの世界のダンジョンの仕組み。
お城の座学で散々教わった話ね。
「勇者様、今日はもう日が暮れますので、一度町まで戻って休みましょう。本格的なダンジョン攻略は明日からになります」
騎士のサトゥルスさんがそう言うので、ここでUターンして町に帰ることになった。
ちょっとダンジョンの最初だけでも味わってみたかったんだけどな。
【異世界生活15日目昼】
「やっぱり何かおかしいわよね」
私はそう呟く。
その日は朝からダンジョン攻略。町長家族や町の住人の人達に見送られて、ダンジョンに向かった私達。
ダンジョンまでの道のりもたまにゴブリンに襲われても大した数ではないので、一方的に倒して先に進む感じ。
そして、実際にダンジョンに入ってみても、言われたような、魔物が溢れるような状態ではなく、第一階層はレッサーラットやレッサーバット、そのほかトカゲやカエルのような魔物が点々と存在するだけ。
たまにゴブリンも出てくるが、あくまでもネズミやトカゲなどエサになる魔物を狩りに来た下っ端みたいな感じ。魔物が溢れていると言われても違和感しかない。
スーさんが傭兵ギルドというところで高額のお金で買い取ったダンジョンの地図を片手にダンジョンを進んでいく。うーん、魔獣が少し出る初心者ダンジョンって感じ?
第二階層に降りると少し雰囲気は変わって、ゴブリンの居住区といった感じ。ダンジョンで生まれた魔物がそのまま居ついてしまった感じで、ゴブリンの存在もまばらで、ダンジョンの所々にある広い空間も空っぽの事も多い。
うーん、どこが魔物の溢れているダンジョンなの?
「やっぱりおかしいですね。魔物が少ないというより、最近駆除されたみたいな違和感がします」
レンジャーのスーさんがそう呟く。
「やはりそうか。魔物の死骸こそないが、床や壁に所々血のりが付いていたり、魔物と争ったような形跡は残ったりしているしな」
シオン王子が彼女の呟きに答える。
確かに、床に拭き残した血のりみたいなものや、明らかに投げられた石や岩の残骸、数日前に戦闘があった気配は感じる。
「ダンジョンは光の女神様の眷属の精霊様が管理していらっしゃいますから、死体や武器などは定期的にマナに還されているのでしょうが、血のりや自然の物は後回しにされて残っているのでしょう」
神官のセインさんがそう言う。
魔物を倒した死骸は定期的にダンジョンを管理している精霊、もしくはその精霊の作ったダンジョンコアという魔道具が掃除してしまうらしいわね。
そして掃除が間に合わなかった部分が違和感として残っている。
「誰かが先にダンジョンの魔物を駆除してくれたってことでしょうか?」
魔法使いのソミーちゃんがそう呟く。
「その可能性はあるな」
シオン王子はそう言って頷く。
「金にうるさい冒険者がやりもしなかったダンジョンの掃除を誰かが無償でやった。おかしな話ですな」
サトゥルスさんがシオン王子にそう言って笑う。
シオン王子もはにかむように笑い、その変わり者の存在を笑う。
なんか嫌な予感しかしないわね。そんな余計な事を好んでする人間を一人知っているわ。
「とりあえず、先に進みましょう。どっちにしろダンジョンを攻略したという功績は必要なんですし」
スーさんが冷めた顔でそう言う。
そうね。王様にしてみたら、誰がやったっていい。結果的に私の功績になって、それが王様の功績になれば。私は釈然としないけどね。
そして、第二階層の奥、まるで誰かが準備したようなボス部屋に、準備したような魔物が現れる。レベル40のゴブリンキングにレベル35のゴブリンナイト。数を合わせたように6体で襲ってくる。
こっちは近接戦闘ができない魔法使いがいるんだから配慮してよね。
そして、神官のセインさんも防御一辺倒。レベルが高いから魔物に倒されることはないけど、戦うのは苦手みたいよね。
結局、サトゥルスさんが3体を相手にしつつ、私が順番に倒していき、魔法使いのソミーちゃんも魔法で1体倒し、最後に私がボスのゴブリンキングを倒して戦闘終了。第三階層に続く扉が開き、その先に階段がつながっていた。
レンジャーのスーさんは遠距離攻撃も近接戦闘も得意みたいで、その上レベル自体も高いので問題なく対峙するゴブリンナイトを倒せたそうね。もちろん、シオン王子もレベルは高いので苦戦すらしなかったそうよ。
というか、みんなのレベルが高すぎたせいで、強いボスが出ちゃっただけなんじゃないの? これ? レベル20台の冒険者が挑戦するダンジョンって言ってた気がするけど、今のボス、レベル20じゃ倒せないよね?
その後、第三階層は第一階層と同じ魔物の食糧庫って感じ、ミディアムラットやミディアムバット、トカゲにカエルにヘビ。少し強くなった魔獣が徘徊する階層に、エサを求めてやってきたオークという二足歩行の豚のような魔物とたまに遭遇するような緩いダンジョンが続き、第四階層はそのオークの居住区。
そして町長さんが言っていたような魔物が溢れるダンジョンではなかった。逆に過疎気味でオークたちが争うことなく広く、部屋の余ったダンジョンで洞窟生活を謳歌していた。
とりあえず、脂肪たっぷりで肉厚なオークだったけど、私の聖剣の前ではお歳暮のロースハムにも劣ったわ。聖剣で一刀両断、着ていた鎧や持っていた盾ごと真っ二つね。
なんか拍子抜けしたまま、第四階層も進んでいき、第四階層のボス。このダンジョンのラスボスの部屋につく。
出てきたのは巨大なオーク。オークロードとその取り巻きのオークジェネラル。巨体で、レベルも高いので1体1体は強いのだけど、やはりレベル80越えの騎士、サトゥルスさんには相手にもならないわね。
また、3体相手に足止めをしてもらい、私と魔法使いのソミーちゃんで倒させてもらう。
第四階層のボスも無事に倒し、ダンジョンコアという魔道具と対面する。
魔道具だけど喋るんだね。
なんか茶色いローブの精霊らしい存在が現れて、褒賞をくれた。金貨や銀貨、宝石の入った布の袋。
シオン王子やサトゥルスさんは、はした金だと鼻で笑い、私も、王様からいくらでも援助がくるし、神官のセインさんは教会のお金でこの仕事しているので無関心。
結局、スーさんとソミーさんの二人で山分けとなったようだ。
私も女の子として、宝石には興味があったので、宝石だけは3等分してもらったわ。小粒だけど綺麗なダイヤモンドと真っ赤なルビー。元の世界だったらこんなものタダでもらえたら最高にうれしいんだろうけどね。
元の世界に戻れたら、この宝石も持って帰れるのかな?
そんな感じで違和感だらけで誰かが攻略した後の、ぬるいダンジョン攻略はたった1日で完了してしまったの。
次話に続く。
本当に勇者が期待されているならこうなっちゃいますよねw
サトゥルスさん強すぎです。そして聖剣強すぎ。
そして遠回しにスルーされる王子様ちょっと可哀想です。強いのに。




