第32話 兄、ダンジョンの攻略と次の町へ
【異世界生活13日目 夕方頃】
俺達は苦戦をしつつも初めて挑戦したダンジョン、北東のダンジョンの第四階層のボス、ラスボスを倒し、ダンジョンの攻略に成功した。
ボス部屋の魔物は倒すと光になって消え、代わりに武器や防具、そして魔導石と呼ばれる魔道具の原動力になるような宝石がドロップする。
ボスのオークロードは両刃の斧を、取り巻きのオークジェネラルは使っていた武器、長柄槍斧や防具をドロップしていた。
長柄槍斧も何かあった時に持ち替えられたら便利そうだな。あと、オークロードの両刃斧は俺が今使っている両刃斧より少し作りが立派で切れ味もよさそうだ。
「タイヨウお兄さん、両刃斧とか長柄槍斧、必要だったら持っていってくださいね。私たちは鉄くずいっぱい手に入れてますし」
ミユキがそう言ってくれるので両刃斧とハルバードを貰っておく。帰り道邪魔になりそうだけどな。
あと、古い方の両刃斧は要らなくなるので、鉄くずとしてミユキ達に再利用してもらう。
「それじゃあ、ダンジョンコアに会いに行こうか?」
ドロップアイテムの回収が終わったところで、カミラがそう言う。
「ダンジョンコアって、会えるのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「一応、会えるらしいね。でも攻撃しようとすると、地面に潜って逃げるらしいから喧嘩売らないようにね」
カミラがそう答える。
カミラが持っている勇者のHOWTO本、『勇者の冒険』とかいう絵本にかいてあったっぽいな。
そんな注意を受けつつ、ボス部屋の奥にある大きな扉を開けて隣の部屋に入ってみる。
部屋の中は先ほどのきらびやかな雰囲気と違って重々しい、遺跡とか神殿を思わせるような重厚な石造りの部屋だった。
そして、その中央には腰の高さほどの丸い大理石の柱の上にのった巨大な水晶玉のようなもの。
これがダンジョンコアってやつか?
なにかがフブキの琴線に触れたのか楽しそうに戦闘態勢に入る。
「フブキ、ステイ!!」
犬をしつけるようにフブキを止める俺。
ダンジョンコア、試しに攻撃してみるのも面白そうだが、最初くらい普通にクリアしてみたいしな。
そんな押し問答をしていると、ダンジョンコアが強く光り、その上に茶色いローブを着た人影が現れる。
「光の女神を信仰する人の子等よ。この空間に閉じ込めし、悪しき者達の魂の浄化への協力に感謝を示し、褒賞を送る」
人影がそう告げる。
「多分、土の精霊だと思います。このダンジョンを管理する精霊の断片的なもの、分身みたいなものじゃないかと」
エリーがそう教えてくれる。
「というか、俺、光の女神を信仰してないし、エリーも黒獅子王とか言う獣神を信仰していたよな?」
俺は気になってエリーに聞いてみる。
「兄貴は何も知らないんだね。獣神様は光の女神様の眷属神、光の女神様の部下みたいな位置づけなんだよ」
フブキがどや顔でそう言う。
フブキやミユキもケモミミなので獣神を信仰しているっぽいな。
「獣神教の信者は間接的に光の女神様も信仰しているってことか」
俺はそう理解した。
「というか、この世界は精霊神とか色々神様がいるからね。大抵、光の女神様の眷属神だから、神様に祈る習慣のある人はみんな光の女神様を信仰していることになるんだよ。あと、お兄ちゃんも、女神様の存在を認識していることで、自然と信仰していることになっているから安心して」
カミラがそう言って笑う。
「なんだそりゃ?」
俺は呆れる。
そして精霊も神様扱いなのか?
「逆に、神様を認識できない、信仰心のない、希望や願い、夢がない魂はこの世界に生まれる時に魔物になってしまいます。タイヨウお兄さんが魔物として生まれていないってことは夢とか希望とか明るい気持ちを持っているってことです。それが信仰心みたいなものですね」
エリーが神官っぽい説法のような説明をしてくれる。
まあ、この世界の信仰心という考えは元の世界とはちょっと違うみたいだな。
「それでは褒賞を与える。受け取るがいい」
茶色いローブの人影がそう言う。律儀に俺達の会話を待っていてくれたのか?
そのセリフが終わると、ダンジョンコア、丸い水晶のような物から、うにょん、と、布のきんちゃく袋のような物が出てきて俺の方にふわふわ飛んでくる。
俺がそれを受け取ると、
「引き続き、お前たちが魔物の浄化を続けることを願う」
そう言って、茶色いローブの人影、土の精霊(の分身?)とかいう存在が消え、ダンジョンコアの光が少し弱くなる。
「兄貴、そろそろ、攻撃してみていいか? ダンジョンコアが地面に潜って逃げるところが見てみたい」
フブキがそう言ってワクワクしている。
「ダメだよフブキちゃん。最悪、ダンジョンコアがどこか遠くに逃げちゃうと、ダンジョンが別の場所になっちゃうことだってあるんだからね。そうなると新しくダンジョンができるまで鉄が取れなくなってお祖父ちゃんが困っちゃうよ」
ミユキがそう言ってフブキを止める。
フブキがダンジョンコアを攻撃してもしなくても、俺的にはどっちでもいいと思っていたが、鉄が取れなくなるのはちょっと双子と爺さんには可哀想だな。
フブキも困った顔で攻撃するのを諦める。
「というか、ダンジョンクリアの褒賞ってけち臭いな。宝箱とかに宝石や金貨がいっぱいとか期待していたんだけどな」
俺はダンジョンコアに聞こえないようにそう呟く。
そして、受け取った布袋を開けてみると、金貨が5枚と銀貨が100枚、少し小粒な宝石が5つ入っていた。
「ぶっちゃけ、ダンジョンを攻略するたびに宝箱いっぱいの金貨とか手に入ったら、そこら中、金持ちだらけになっちゃうし、そんな稼げる商売だったら、冒険者だらけになっちゃうよ。金貨1枚で普通の人の給料3か月分、宝箱いっぱいとかいったら、多分、そこら辺の下っ端貴族の財産くらいいっちゃうんじゃない?」
カミラが呆れ顔でそう言う。
まあ、そう言われるとそうだな。そんなもうかる商売、みんな冒険者になってしまうな。
「分配はどうするか。金貨は5人で分けていいし、宝石の価値は俺には分からないから困ったな。あと、魔導石か。結構価値あるんだよな?これ?」
俺はそう言って分配で悩む。
「宝石は種類が違うけど、大きさで同じくらいの価値に調整しているみたいだね。どれも金貨1枚くらいの価値かな? 魔導石は銀貨30枚くらい?」
カミラが鑑定スキルで鑑定してくれる。
というか、鑑定スキルって値段もわかるのかよ。
「というか、私達は鉄くず目的でついてきたので金貨や宝石なんてもらえないですよ」
ミユキが慌ててそう言う。
「まあ、記念みたいなもんだ。もらっておけ」
俺はそう言って、ミユキとフブキに金貨を1枚ずつ渡す。
ミユキは慌てているし、フブキは何も考えずに嬉しそうだ。
「あとは宝石をどうする? 魔導石はちょっと魅力的だな」
俺はみんなに聞く。
「宝石も5個あるから一人ずつ欲しいのとっていけばいいんじゃない? 魔導石はお兄ちゃんが防具につければいいよ。その分、銀貨は減らすけどね」
カミラがそう言って笑う。
「わ、私は、透明な宝石貰っていいですか? タイヨウお兄さんとの結婚式の指輪にしたいです」
エリーがそう言う。
俺は反応に困る。結婚するのはもう確定なのか?
「ダイヤの指輪はいいね。大きさも値段もちょっとした貴族の結婚式並の指輪だよ」
カミラがそう言い、みんなも譲る。
「じゃあ、私、この青いのがいい。私の目の色に似ているし」
フブキがそう言ってサファイアらしい宝石を手に取る。
確かにフブキの綺麗な碧眼に似合いそうな青色だ。
「わ、私は、貰えるなら、赤い宝石かな? 火の色みたいで縁起いいし」
ミユキが鍛冶師らしい事を言いもじもじするので、俺が赤い宝石、ルビーらしい宝石を手渡してやる。
「じゃあ、私はこれ貰うね」
カミラがそう言って紫色の宝石を手に取る。なんか色が変わる宝石らしい。
そして、俺は残った緑色の宝石、エメラルドらしい宝石を貰う。
「まあ、男の俺に、宝石は不要だけどな。お金に困ったら売ろう。というか、持っているのが怖いな。ギルドとかに預けられるのか?」
俺は残った宝石を手に取り悩む。
「私が預かっておこうか? マジックバッグは盗られないように防犯魔法かかってるし」
カミラがそう言ってくれる。
というか、あくまでもダミーのバッグが盗まれないように魔法が掛かっている。そして、本当はマジックバックではなくマジックボックスというスキルで人に盗まれることは絶対にないとか言っていたな。
「保証金を貰うぞ。持ち逃げされそうだしな」
俺がそう言うとカミラが呆れる。
「ここまで苦楽を共にして、宝石一つくらいで逃げないよ。まあ、金貨1枚と交換ってことで預かっておいてあげる」
カミラがそう言って、さっき分配した金貨を渡してくるので、俺は宝石をカミラに渡す。宝石が必要になったら金貨1枚と交換だそうだ。
というか、宝石を返して欲しい時って、お金が欲しい時ってことだから、このまま金貨を貰えばいいって話でもあるが。
最後に銀貨だが、さすがに双子が貰いすぎだと慌てだしたので、銀貨は3人で分ける。
一人33枚になるが、俺はボスがドロップした魔導石を貰うので、銀貨33枚はエリーとカミラで分けてもらうことにし、二人が銀貨50枚ずつ受け取る。結構な重さだ。
ダンジョンをクリアして金貨と宝石を獲得、金貨に換算すると1人あたり金貨2枚分ちょい、一般人の半年分の収入か。まあ、ちょうどいいと言われるとちょうどいいのかもしれないな。
「というか、ダンジョンで金貨がもらえるとか、この金貨ってどこから持って来たんだろうな?」
俺は、元の世界でいつも悩む、魔物が持っているお金やダンジョンの宝箱に入っている金貨の出どころについてぼそっとつぶやく。
「何言ってるの? お兄ちゃん。もともとこの世界の金貨も銀貨も女神様や精霊が人々に公平に分けたのが始まりで、ダンジョンで今貰った金貨も精霊や女神様が作った神貨と呼ばれる貨幣だよ。そして、それを真似て王国が作ったのが王国の貨幣。どっちも同じ価値で普通に流通してるから気づかないだろうけど」
カミラが呆れ顔でそう言う。
まじか? この世界の貨幣は神様が作ったのが始まりとか神話すぎるだろ?
言われてみると、今貰った金貨と、前に王様らしいおっさんたちから貰った金貨とでは大きさや重さは一緒だが、デザインが少し違うな。
この世界では基本、金貨は神様が作る物。軽くカルチャーショックを受けてしまった。
彼女たちとの雑談で、いろいろな情報を得つつ、ダンジョン攻略の褒賞の分配も終わり、町に戻ることにする。
ダンジョンの中も、周りの森も、かなり魔物が減ったので妹で勇者のあてなも危険な目に遭うことは少ないだろう。
帰りも残った魔物を狩りながらダンジョンを来た道を戻っていく。
入り口に着くころには周りも暗くなっていた。いつもの町に帰ったら夜の9時コースだな。
帰り道は気持ち、達成感に満たされ、みんな楽しそうだった。
【異世界生活13日目 21時頃】
5人が町につくと、いつもと違って町が明るく、かがり火や魔法のランプに明かりが灯され、通りを中心に町全体が賑わっている。
「何かあったのか?」
俺は街の門を守っている衛兵に聞いてみる。
「ああ、夕方ごろ、勇者様がこの町に来たんでお祭りが始まったんだよ。これで魔物の脅威も減るし、将来的には魔王を倒して、魔人族の戦争も終わるっていうんだから、みんな大喜びだよ」
衛兵のおっさんがそう言って笑う。
俺としては微妙な気分だ。あてなが魔王と戦い倒し、戦争を終わらせる?
そんな危険な事に俺は妹を巻き込みたくないんだよ。
そんな感じで少しイライラしてしまうが、フブキやミユキは町の雰囲気に飲まれて楽しそうだ。
急な祭りなので、酒場や食堂が夜遅くまでやっていたり、店頭で酒やつまみを売ったりして、町の人が大通りで騒いでいる。そんな感じの祭りだが、確かにいつもより町の人達も明るい気がする。
ダンジョンがほったらかしで、森に魔物が溢れて、溢れた魔物が町のまわりにある畑を襲っている。
そんな状況が改善されるのならみんなありがたいのだろう。
妹のあてながみんなに希望を与えているのはうれしいが、その為にあてなが犠牲になる部分もあるのだ。俺は複雑な気持ちになる。
「というか、ダンジョンも森も、お兄ちゃんが綺麗にしちゃったんだけどね」
カミラがそう言って笑う。
そういえばそうだな。
「まあ、もう少し綺麗にして街の周りの石垣、最外周の石垣とかも直して、畑で農作業が再開できれば農作物の生産も回復して、町の人達ももっと幸せになれるだろうしな。俺はそこまではできないし、妹のあてなと取り巻き達にそのあたりは期待したいな」
俺はそう言う。
「そうだね。みんなが幸せになれるといいね」
カミラがそう言って寂しそうに笑う。
この町での慈善事業はとにかく、この先には魔人族と人間族の戦争という問題もあるしな。カミラは魔人族の国で暮らす人間族という微妙な位置づけらしいから素直には勇者を歓迎できない。
そんな感じで街の賑わいを見ながら、双子を鍛冶屋、彼女たちの家に送る。
「ただいま、お祖父ちゃん」
ミユキとフブキが元気に挨拶して鍛冶屋に入っていく。
「今日でダンジョンに潜るのは最後だったな。なんとかなったか?」
鍛冶屋の爺さんがカウンター越しに迎えてくれて、ぶっきらぼうに俺に聞いてくる。
「ああ、第四階層のボスも倒して、ダンジョン攻略の褒賞も貰ったぞ」
俺は店にお邪魔し、そう言って、魔導石を鍛冶屋のカウンターに置き、見せる。
フブキも嬉しそうに青い宝石を自慢げに爺さんに見せる。
「そういえば、その魔導石はどうするんですか? 時間があればお祖父ちゃんに胸鎧にでもつけてもらえばよかったけど、さすがに一晩じゃ作業できないですしね」
ミユキがそう言って魔導石を覗き込む。
「大きさ的にも属性的にも胸鎧に付けるのがちょうどよさそうじゃがな。さすがにわし一人で作業してできるものではないしな。せめて1日欲しいところじゃ」
鍛冶師の爺さんが魔導石を覗きながらそう言う。
魔導石の調整はその道の魔法使いに頼まないとできないみたいだな。
「というか、属性ってなんだ?」
俺は首をかしげる。
「知らなかったのか? あのダンジョンは別名、土の精霊のダンジョン。土属性の魔導石が手に入る。そして土属性の魔導石は防具の防御力を上げるような使い方に特に向いているんじゃ」
呆れ顔で爺さんがそう言う。
だから、今まで魔導石を額当てに付けたり、胸鎧に付けたり、という話になっていたのか。
「風火土水、管理する精霊ごとにドロップする魔導石の属性は違うし、属性ごとに得手不得手があるんだよ」
カミラがそう付け足す。
「そうだ、魔導石を預かっておいて、完成したら隣の街に私が届けてあげますよ。お金いっぱい貰っちゃったし、今日ボス部屋でドロップした胸鎧を手直しすればもっといい鎧作れるし、それに魔導石をつけて届けてあげます」
ミユキがそう提案してくれる。
「いいのか? なんか悪いし、爺さんの答えを聞かないとな」
俺はそう言ってミユキと爺さんを見比べる。
「そのくらいなら、暇な時にでもやって仕上げてやる」
不機嫌そうにそう言う爺さん。
「お兄さん、半月ぐらい、次の町にもいるんだよね?」
ミユキがそう聞いてくる。
「ああ、多分な」
俺はそう答える。
多分、妹のあてながこの町での仕事を終えて移動するまで15日くらい滞在するだろうと俺達は目算している。
「そうしたら、出来上がり次第、私が届けに行きますね。それまで、担保代わりにフブキちゃんを持っていってください。鎧と交換で引き取りに行くまで」
ミユキがそう言って笑う。
「何言ってるの? ミユキちゃん?」
フブキが驚いてミユキの顔を見る。
「フブキちゃん、タイヨウお兄さん達といるのが楽しいでしょ? そして、フブキちゃんの夢は私達のお母さんみたいな剣士になりたい。もう少しお兄さん達について行ってもいいんじゃないかな? 鉄くずも当分は困らなそうだし」
ミユキがそう言い、フブキも爺さんも驚く。
そしてフブキが俺と爺さんを交互に見るので、俺は爺さんを見る。
「フブキ、隣の街までだからな。その先は危険すぎる。隣の街で帰ってくるなら、半月程度なら行ってもいいぞ。ただし、危険な事はするなよ。ワシが天国で娘夫婦に叱られる」
爺さんがそう言って笑う。
そして俺の意見は無視か?
いや、爺さんの顔色を伺った時点で賛成していたのか、俺は。
「タイヨウの兄貴、一緒に行ってもいいかな?」
フブキがきらきらした目で俺を見つめ、雪豹族独特の太い尻尾がブンブン揺れている。
「しょうがないな。爺さんが言う通り、次の街までだからな。あと、危険なことは絶対しないと約束しろよ? フブキに何かあったら、俺が爺さんに殺される」
俺は仕方がないのでそう言って容認する。
「まあ、乗合馬車の空席がなかったら諦めろよ」
俺はそう付け足す。
そんな感じでフブキが仲間として次の街までついてきてくれることになった。
ミユキも来たかったみたいだが、あくまでもミユキの夢は爺さんみたいな鍛冶師になること。戦士や冒険者になることではない。ミユキは爺さんのもとで鍛冶の修行を続けるそうだ。
俺とカミラとエリーはミユキと今日でお別れになるので別れの挨拶をする。
その後、昨日の爺さんとの約束通り、薪割りも手伝い、駄賃として、鉄製の脛あてと篭手のような物を貰い、防具が充実する。
それと、今日ダンジョンで拾った両刃斧と長柄槍斧も爺さんが砥ぎ直してくれたのだった。
俺は最後にもう一度爺さんにお礼とお別れを言って鍛冶屋を出る。爺さんは無反応だったけどな。この偏屈じじいめ。
まあ、この鍛冶屋に爺さんとミユキには色々お世話になったな。本当に感謝しかない。
【異世界生活14日目 朝】
そして、翌日。俺とカミラとエリーは早起きし、次の町に行く準備をする。
俺は、昨日の魔法石の精算もして、ダンジョンクリアで金貨も手に入れたので預金をしておく。
銀貨も数が増えると結構な重さになるので使う分だけ残し貯金する。貯金は金貨3枚に銀貨90枚。手持ちは銀貨28枚。ダンジョンクリアのおかげで王様から貰った支度金、金貨2枚と銀貨10枚を回復した上に全財産で計算すると金貨2枚分稼いだことになる。
しかも鍛冶屋の爺さんのおかげで中古品ではあるらしいが装備も充実した。これでジャケットの下に鎖帷子でも着れば熟練の冒険者の仲間入りだ。
そういえば、ミユキに昨日の魔法石の精算の分け前渡せないな。まあ、フブキに渡しておけばいいか。
とりあえず、3人で朝食を食べていると、旅の荷物を抱えたフブキも酒場にやってくる。
フブキは朝一で傭兵ギルドに来て、乗合馬車の護衛の仕事を貰えたようだ。そのままフブキも合流し、俺やエリーと一緒に乗合馬車と商人の馬車の集団を護衛しながら次の北の町に向かうのだ。
俺達4人は朝食も終わり、酒場で飲み水の湯冷ましを多めに貰い、非常食のパンとベーコンも買い足しておく。
その後、酒場を出て、途中で食べるお昼ご飯を自炊する予定なので、食材を買ってから、乗合馬車と合流するために、馬車の乗り場の中央にある広場に向かう。
そこで、人だかりができているのに気づく。
「なんだろうね?」
カミラやフブキが不思議そうに人だかりに寄っていく。
俺やエリーも仕方なくついて行く。乗合馬車の出発にはまだ時間もあるしな。
「何があるんだ?」
俺は人だかりの最後尾にいるおばちゃんに聞いてみる。
「ああ、町長の家に勇者様御一行がご宿泊されているんだよ。それで、朝から勇者様が庭で剣の稽古をしているみたいで、みんな見物に集まったってところさ」
人のよさそうなおばちゃんがそう教えてくれる。
妹のあてながいるのか?
俺は少し慌てて、人だかりを分け入るように進み、最前列に出る。
そして、少し大きな屋敷の庭、鉄製の柵と植木に阻まれてよく見えないが、植木の隙間から確かに剣士風の人物が巻き藁の人形に向かって木刀を振るっている姿が目に入る。
光を浴びて赤髪にも見える鮮やかでつやのある茶色い髪の毛を後ろに束ねた女性。見慣れたあの髪は確かにあてなだ。
元気そうにやっているようだな。俺は目頭が熱くなる。
そのまま声をかけて屋敷の中に入っていきたい気分だが、妹のあてなが手鏡に残した「逃げて」の言葉の意味の真相が分かるまではあまり表立った行動はできない。
俺は声を掛けたい気持ちを押さえ、人だかりを抜け、最後尾まで戻る。
「妹さんには会えました?」
エリーがそう聞いてくる。隣にいるフブキは首をかしげる。
「ああ、顔だけは見れた。元気そうだったよ」
俺はそう答える。
「私も見れたよ」
カミラが自慢げにエリーにどうでもいいことを言う。
今は妹のあてなが元気そうだったのを確認できただけでもいい。
とりあえず、また、アテナの行く先に先回りしてあてなの障害になりそうなものを少しでも減らす。もちろん、魔王も邪魔ならば俺が倒す。
弱くて何のとりえもない俺がどうやって魔王を倒すか作戦も思いつかないが、とりあえず、北に向かい続けて、レベルを上げる。
レベルを上げてどうにもならなかったらその時は改めて考える。今はとにかくがむしゃらに動くしかないしな。
俺はそんなことを考えながら、乗合馬車に向かって歩き出すのだった。
次話に続く。




