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第30話 兄、鍛冶屋の爺さんにこき使われる。

【異世界生活11日目 21時頃】


「ただいま、お祖父ちゃん。今日も鉄くずいっぱいだよ」

ミユキが嬉しそうにそう声をかけ鍛冶屋に帰る。


「今日も遅くまで孫たちを連れまわしたようだな」

鍛冶屋の爺さんが俺を睨む。


「俺の目的があのダンジョンの攻略なんだから仕方ないだろ。本来ならダンジョンの中で野営して3日くらい潜り続けたいくらいだ」

俺はビビりながらもそう言い返す。


「もう、お祖父ちゃん! 私とフブキちゃんが疲れるからって、気を使ってくれて、毎日、野営せずに帰ってきてくれているんだから、お礼を言わなくちゃいけないくらいなんだよ?」

ミユキがそう弁護してくれる。


「私は3日くらいダンジョン篭ってもいいんだけどね。ミユキちゃんがダンジョンで寝るのビビっているし、鉄くず全部持ち帰るってうるさいし」

フブキが不満そうに言い、鉄くずいっぱいのリュックサックを下ろすと、戦利品の両刃の斧と丸盾をカウンターに置く。


「そうだ、ミユキ。この両刃の斧、貰っていいか? オークにはこいつの方が向いていそうだからな」

俺はそう言って、ダンジョンの第二階層のボス部屋の取り巻きがドロップした斧を見せる。


「ええ、鉄くずはいっぱいありますし、いいですよ。よかったら丸盾(ラウンドシールド)もどうですか?」

そう言って丸盾(ラウンドシールド)も勧めてくれるが、鍛冶屋の爺さんがくれた小盾バックラーの方が、いざというときに武器を両手で扱えるなど汎用性が高いのでそのあたりを説明し、断っておく。

 片手で剣を扱う様になればこの丸盾(ラウンドシールド)でもいいんだが、まだ先の話だ。


「お前、斧を使うのは初めてか?」

爺さんがそう聞いてくる。


「ああ。というより、メイス以外で戦うのは今日が初めてだった」

俺はそう答える。実際元の世界では武器を持って戦うなんてことはまずないし、斧を握るなんて趣味や職業の人間はいたとしても限られる。


「お前さん、どうせ、まだ寝ないんだろ? 夜も魔物狩りをしていると孫たちから聞いている。だったら、裏に積んである薪割りでもしておけ。斧の仕組みが多少は分かるだろうからな」

そう言って爺さんは裏口を顎でさす。

 というか、なんで俺が? 少しでもレベルを上げたいんだが。


「お兄ちゃん、薪割くらいしてあげたら? お兄ちゃん、今日のダンジョンでレベル60になっちゃったでしょ? ここから先はこの町のまわりの魔物くらいじゃレベル上がらなくなっちゃったし、夜の魔物狩りは焼け石に水だよ」

カミラがそう言う。

 マジか!?


 俺は慌ててギルドカードの経験値のところを見ると、確かにレベル41になる為の経験値が45万ポイント、いままでの5倍以上になっていた。

 レベル40になってから、レベルが上がりにくくなったと思っていたが、さらに上がりにくくなったのか。


「レベル60だと、もう1つ北に行った町、いや、もう2つ先の町のまわりにいる魔物ぐらいじゃないとレベルが上がりにくいじゃろうな」

爺さんがそう言う。

 

「強さ的にはそんな感じだろうね。まあ、お兄ちゃんの場合、特別なスキルがあるから経験値の取得率高いし、そこまで無理する必要はないだろうけど」

カミラもそう言って頷く。

 ぶっちゃけ、俺に『妹の為なら』とかいう訳の分からないスキルがなかったら、そしてカミラやエリーが仲間になってくれなかったらこんなに順調にレベルは上がらなかっただろう。


「まあ、タダでとは言わん。今から2時間、薪割をしたら、そいつをやろう」

そう言って、作業台の上にのっている胸鎧ブレストプレートを指さす。


「いいのか?」

俺はそう聞き返す。この世界の武具は結構高いし、鉄製となると、安くはないはずだ。


「ああ、そいつも中古品だ。わしが鍛冶屋を休業する前に店に残った売れ残りだし型も古い。今みたいな粗末な装備でダンジョン攻略を続けられて、孫たちをケガさせられても困るからな。明日もこの時間に帰ってきて薪割をしろ。そうしたら、明日も何かくれてやる」

爺さんがぶっきらぼうにそう言う。


「それでしたら、さっき拾った魔導石をつけてもらった防具を作って貰ったらどうですか? 中古品でも魔導石が付けばかなり防御力は上がると思いますよ」

エリーがそう言う。

 エリーに中古品と言われて爺さんの眉がぴくっと動いたがスルーしておこう。


「魔導石を拾ったのか? 見せて見ろ」

爺さんがそう言うので、拾った魔導石を見せてみる。


「なるほど、立派な魔導石だが小さいな。胸鎧ブレストプレートに付けるには小さすぎる。そうだな、明日の薪割を条件に、頭の防具、額当てでも作っておいてやろう。全装兜フルヘルムをかぶれるほど熟練の戦士じゃないようだしな」

爺さんが嫌味を込めてそう言う。魔導石が小さくて悪かったな。そして、熟練じゃなくて悪かったな。戦士歴2週間弱の素人だよ。


 そんな感じで交渉の結果、今夜は魔物狩りに行かずに2時間薪を割ることになる。2時間というより、2時間くらいで割れるであろう薪を爺さんに指示された感じだが。


「鉄くずが手に入って鍛冶屋を再開できるようになったのはいいが、木炭の在庫が減って困っていたところだ。ちょうどいい」

爺さんはそう言って鍛冶工房に戻っていく。

 なるほど。鍛冶屋の裏には大きな窯もあって、木炭も作っているようだ。


 俺は渋々、薪を割る作業をする。さっき拾った両刃の斧を使って。


「かこーん。かこーん」

黙々と薪を割る俺。丸太のような木材を6~8等分くらいにする。

 夜に薪割りなんて近所迷惑な気もしたが、鍛冶屋の場所が町の東のはずれ、しかも住宅街というより工房の集まった地域なので、あまり音の事は考えないでよさそうだ。


「ああ、くそっ」

斧がまっすぐ木材に入らずに斧がぐるっと回転して斧の腹で木材を叩いてしまう。そして、まっすぐ当たっても、斧の重さが利用できていないのか木材の硬さに負けて刃が通らないこともある。 

 これはコツが必要だな。

 

 昼間のダンジョンの戦いでもあったが、刃をまっすぐ振り下ろさないと、斧がぐにゃっと回転して、斧の腹の部分、要は横の平らな部分で魔物を叩く形になり、ダメージがほとんどあたえられない攻撃などもしてしまった。

 多分、剣で戦ったとしても素人の俺は同じようなことが起きて、ダメージを与えられなかったり、最悪剣が折れてしまったりする可能性もある。

 俺にはまだ刃のついた武器は早いのかもしれないな。

 そんなことを考えながら黙々と薪を割り続ける。



 確かに、薪割りは斧を理解するにはいいかもしれないな。

 俺はかなりの薪を失敗しながらも割り続け、少しだがコツをつかみだす。刃が逸れることも減ってきたし、腰の入れ方や斧の振り方、遠心力の意識のしかたなどなんとなくだが掴みだしてくる。


 これって、将来的に剣を使って戦うときにもいいんじゃないか?

 なんか映画か何か、時代劇で侍は巻き割りが得意みたいな事言っていたような気がするしな。本当かどうかは知らんけど。

 もしかしたら、薪割と剣術にはつながるものがあるのかもしれない。


 そんな感じで、何とか今日のノルマの薪を割り終わり、爺さんに報告に行く。


「ああ、その調子で明日も頼むぞ。今日の駄賃だ。そいつを持っていけ。それと、斧はこっちのを持っていけ。かるく砥いでおいてやった」

そう言って鍛冶屋の爺さんが昼間ドロップしたもう一つの両刃斧を無造作に渡され、あごで胸鎧ブレスプレートを指す。

 なんか、腹立つが、爺さんの言った通り、少し斧の使い方が分かった気がする。

 

 そして、なぜか、胸鎧ブレスプレートは俺の体にぴったりだった。



【異世界生活12日目 21時頃】


 次の日も同じようにダンジョンを攻略し、3階の最奥にいたオークリーダーという少し強い魔物を倒し、4階まで到達。時間切れで、退却し、鍛冶屋に雪豹族の双子を送った。

 そして、今夜も鍛冶屋の爺さんに言われた薪割をする。

 

「かこーん。かこーん」

俺はひたすら今日のノルマの薪を割る。

 先に寝ているであろう双子達を起こさないように気持ち音に気を付けながら。


 なんか、斧の使い方が上達しているのかもしれない。

 薪を割るのを失敗する確率が減ったし、変な力が入らずに、斧の自重を活かして自然に振れるような気がする。

 そんな感じで、同じ時間で昨日の1.5倍くらいの薪を割ることができた。

 というか、爺さん、こっそりノルマ増やしてやがったな。


「爺さん、薪割り終わったぞ」

俺は何とかノルマの薪割りを終え鍛冶屋の爺さんに報告に行く。 


「薪を割る音も良くなってきたじゃないか」

爺さんが鍛冶作業を続けながらそう言う。


「おかげさまでな。少しは斧の使い方が分かった気がする」

俺は爺さんにそう答える。


「孫たちに聞いたんじゃが、ダンジョン攻略もだいぶ進んだらしいな」

無関心そうに聞いてくる鍛冶屋の爺さん。視線は火床ほどで熱せられた金属を見つめたままだ。


「ああ、明日には第4階層の最奥にいけるかもしれない」

俺はそう答える。実際、今日はダンジョンの最下層、第4階層の3分の1までは踏破できた。第3階層のボスらしき少し強いオークも倒したしな。


「そうか。とりあえず、今日の駄賃だ。額当てに魔導石を埋め込んでおいてやったぞ。知り合いの魔法使いに頼んで防御魔法が発動するように調整してもらってある。見かけ額当てだが、いざというときには魔法が発動して、全装兜フルヘルムと同じくらいの防御ができる。魔導石の調整代は孫のレベルアップの礼代わりだ」

そう言って鍛冶屋の爺さんがいつものように顎で作業台を指す。

 作業台を見ると、皮製の鉢巻きのような物に鉄の板のついた、ヘルメットというより、ラグビーのヘッドギアに似た防具だ。そして、鉄の部分には昨日渡した魔導石が埋め込まれている。


「魔導石の使い方は連れの魔法使いのお嬢ちゃんに聞きな。魔法石で魔力を補充しないとただの飾りだからな」

爺さんがぶっきらぼうにそう言う。

 カミラが魔法の杖に魔法石を吸わせていたやつだな。あの作業がこの額当てには必要なのか。明日にでもカミラに聞いてやっておこう。


「なんか、爺さん、悪かったな。防具も充実したし、薪割りのおかげで斧の使い方もうまくなった気がする」

俺はそう言って頭を下げる。


「何言っているんだ? 明日も来るんだろ? 明日の駄賃は鉄の脛あてと腕当てだ」

鍛冶師の爺さんが作業をしながらそう言う。

 よく見ると、火床ほどで熱せられているのは脛あての様にも見える。

 胸鎧ブレスプレートも俺達がダンジョンに行っている間に調整してくれていたんだろうな。


「ああ、明日も来るよ。多分、それで最後だ。明後日には次の町に行く予定だしな」

俺は爺さんにそう答える。


 たぶん、妹のあてな、勇者のご一行も明後日にはこの町に来るだろう。あまり城の連中とは顔を合わせない方がいいだろうしな。あてなの鏡に書いた「逃げて」というアドバイスが気になるし。

 せめて、お披露目会の時のようにあてなの顔だけでも見られるといいのだが。

 

 そんなことを考えていると鍛冶工房に沈黙が流れてしまう。

 

「とりあえず、明日もお孫さんをお借りします。それで、ダンジョンが攻略できてもできなくても最後になると思います」

俺はそう言ってもう一度頭を下げて鍛冶屋を後にする。爺さんが作ってくれた額当てを持って。


 多分明後日までダンジョンに潜ってもいいのだろうが、次の梅雨払いもある。この先、あてなが辛い目に合わないように先回りを続ける。それが無能で王様に追い出された兄である俺の、妹あてなの為にできる最大の助けになるものと考えているから。


 次話に続く。

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