第29話 兄、ダンジョンの第二階層のボスに挑む。
【異世界生活11日目 15時頃】
今日も北東のダンジョンの攻略。
昨日のゴブリン討伐の効果もあり、昨日ほどは苦戦せずに第二階層まで来ることができた。
昨日カミラが言っていた通り、俺達の倒す数にダンジョンコアの修復が間に合っていないのだろう。
というか、俺達はレベルが高すぎる、もっと難しいダンジョンを攻略すべきレベルらしく、完全にオーバーキルだそうだ。実際、昨日も狩り過ぎてレベルの上昇が半端なかった。
ちなみに今朝確認したメンバーのレベルは、
タイヨウ レベル57
カミラ レベル50
エリー レベル49
ミユキ レベル45
フブキ レベル45
本来ならここはレベル20前後のパーティが協力し合いながら進むレベルのダンジョンだそうだ。
まあ、俺の目的は効率よくレベルを上げることではない。あくまでも、妹で勇者のあてなの先回りをして魔物を倒し、妹を危険な目に会わせないのが俺の今やることだしな。
まあ、カミラやエリーはレベルをどんどん上げて早く自分の町に帰りたいだろうが。
それと、俺のスキル『妹のために一緒に戦う』、要は経験値の重複効果なのだが、これがかなりのチートスキルというやつのようだ。妹と認識した仲間としか経験値を重複できないという面倒臭い縛りがあるがそれがクリアされれば入ってくる経験値は普通の冒険者の数倍になる。
妹達はどんどん強くなれると嬉しそうだが、俺は微妙な気分だ。たくさんの幼女をこき使ってダンジョンに挑ませ、レベルを上げるおっさん。世間の目も気になって仕方がない。
そんなこともあり、順調というか、余裕でダンジョン攻略も進み、とうとう第二階層のボス部屋に到着する。
「なんか、ここだけ立派じゃないか?」
俺はそう呟く。
岩肌丸出しの洞窟のようなダンジョンの中にいきなりお城の中のような立派で大きな扉が鎮座する。
「そうだね。ちょっと浮いているね」
カミラも呆れる。
「まあ、ダンジョンを管理している精霊が下からの魔物の上昇と私達冒険者の侵入の両方を抑えるために設置したボスとボス部屋ですからね。きっと力の入り方も違うんだと思います」
エリーがそう言ってほほ笑む。
まあ、このボスが弱すぎると、下の階層からオークとかいう魔物が溢れて、上の階層のゴブリンが駆逐されてしまい、オークだらけのダンジョンになってしまう。
そうならない為に精霊やダンジョンコアが安全装置として設置したのがこのボスとボス部屋と。
もちろん俺達への試練の部屋でもあるらしい。
「とりあえず、俺達のレベルなら入っても死なないレベルの魔物だよな? ボスって」
俺はあまりの知識のなさにカミラにそう聞く。
「多分大丈夫だと思うよ。前の勇者の活躍を描いた絵本、『勇者の冒険』にもレベル20くらいが対象のダンジョンって書いてあったし」
カミラがそう言う。
カミラが前に貸してくれた勇者になる為のHOWTO本みたいな絵本にそう書いてあったらしい。
「なら、行ってみるか」
俺はそう言って、大きな扉を押し開ける。扉自体、結構重いが、魔法が掛かっているのか動き出すと、スムーズに開いていく。
「何もいないよ?」
フブキがボス部屋に入り周りを見渡すが何もいない。
お城の大広間というか、金持ちの家の大広間みたいな広い部屋が広がるが中には何もいない。あまりの広さにカミラの明かりの魔法でも隅々まで照らせないが、魔物がいる気配すらない。
家を2階分ぶち抜いたような構造で、2階部分には窓のような装飾も見える。
ミユキが警戒しながら、部屋に入り、最後にカミラが部屋に入ったところで、扉が勝手に閉まりだす。
「うん、閉じ込められたね」
カミラが笑いながらそういう。
なにが面白いのか分からないが。
「何か来ます」
エリーがそう叫ぶと、
突然、部屋が明るくなり、天井をぶち抜いたような2階部分の窓が割れ、巨大な何かが降ってくる。
そして左右の同じような窓も割れて、似たように何かが複数降ってくる。
巨大なゴブリンだ。
ゴブリンのくせに、結構立派な鎧を纏い、巨大な鉄鎚を持った明らかに今までと違うゴブリン。
そして左右から降りてきた魔物もゴブリン。正面のゴブリンと比べると若干小さいが、それでも今までのゴブリンよりでかく、全身鎧に立派な両刃斧と丸盾を装備している。それが4体。
「カミラ、こいつらはなんだ? 強いのか?」
俺は小盾を構え、目の前の巨大なゴブリンに対峙しながら聞く。
「うーん、鑑定結果からすると、正面のゴブリンがゴブリンロード。レベル40。周りの取り巻きはゴブリンナイト。レベル35ってところだね。ホブゴブリンよりちょっと強いくらいかな?」
カミラがそう言って一番手前のゴブリンナイトに対峙する。
こちらが5人で、向こうも5体。自然と1体1の態勢が出来上がる。
「おいおい、どこがレベル20向けのダンジョンだ? 強すぎるだろ?」
俺は対峙するゴブリンロードとかいう魔物をちらちら警戒しながらカミラに文句を言う。
「たぶん、私達が強すぎたから、ダンジョンコアも一番強い奴を出してきちゃった感じじゃないかな?」
カミラがそう答える。
マジか・・・。
俺はそう心の中でつぶやき、対峙する巨大なゴブリンを下から見上げる。
全長3メートル越えの巨大なゴブリン。ゴブリンって小鬼だよな? 小鬼の『小』は何処にいった? 『小』は?
他のメンバーが対維持するゴブリンナイトとかいう奴らも3メートル近い。ホブゴブリンをさらに大きくした感じだ。
「とりあえず、1人1殺でいきましょう。」
エリーがそう言って構える。
女神官で見かけは可憐な少女なのに物騒な事言っている。
俺は諦めるように「はあ」と息を吐くと俺の対峙するゴブリンロードと向き合う。
「強化魔法をかけます。獣の王、そして獣の神、黒獅子王よ。我が聖なる力を供物とし・・・」
エリーがそう言って魔法をかけようとしたところで、後ろから大きな音がする。
左後ろを振り向くと、エリーがゴブリンナイトの巨大な斧で攻撃され、それを避けるのが見える。魔法詠唱を中断されたようだ。
そして、俺の対峙するゴブリンロードも手に持った巨大な鉄鎚を大きく振り回す。
俺は慌てて、バックステップで避ける。
おいおい、こんなのが直撃したら死ぬぞ。
「きゃあ!」
エリーのさらに左の奥の方から悲鳴が上がる。
ミユキがゴロゴロと床を転がるのが見える。
「ミユキ! 大丈夫か!?」
俺はゴブリンロードに注意を払いながらそう声をかける。
「だ、大丈夫です。盾で受けたので、ケガはないです」
そう言ってフラフラと立ち上がるミユキ。
これは様子見していい状態じゃないな。
壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁扉扉扉扉壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
壁 壁
壁 ゴブリン 壁
壁 ロード 壁
壁 壁
壁 タイヨウ 壁
壁 壁
壁 ゴブリン ゴブリン 壁
壁 ナイト エリー フブキ ナイト 壁
壁 壁
壁 壁
壁 ゴブリン ゴブリン 壁
壁 ナイト ミユキ カミラ ナイト 壁
壁 壁
壁 壁
壁 壁
壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁扉扉扉扉壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
俺は目の前のゴブリンロードに集中し、ゴブリンロードは巨大な鉄鎚を上段に振り上げると、床に叩きつける。
俺は、サイドステップで紙一重で右に避け、ゴブリンロードの鎧から露出した二の腕に全力でメイスを叩きつける。
「ギャァァア」
嫌な叫び声を上げて後ろに2~3歩よろけるゴブリンロード。鉄鎚を引きずりながら床から引き抜き、構え直す。
俺も、メイスと盾を構え直し、ゴブリンロードに対峙する。
「カミラ、魔法でなんとかならないか?」
俺はカミラにそう声をかける。
「あー、無理。魔法詠唱する余裕ないっぽい。最悪、無詠唱魔法でなんとかするけど、無詠唱魔法は使った後が大変だから最後の手段だよ」
カミラがそう説明してくれるが何を言っているかさっぱりだ。
無詠唱魔法ってなんだよ?
「とりあえず、ミユキちゃんとフブキちゃんは私がフォローしますので、タイヨウお兄さんは一番大きい奴を何とかしてください」
エリーがそう言って、ミユキの対峙していたゴブリンナイトの顔面を兜ごと殴りつけ床に倒すと、自分の対峙していたゴブリンナイトに対峙し直す。
ミユキもその間に態勢を取り直す。
フブキの方は、のろまなゴブリンナイトと俊敏な彼女、相性がいいようで、楽しそうにゴブリンナイトのまわりを駆け回っている。
他のメンバーは何とかなりそうだな。
ゴブリンロードも図体はデカいが攻撃が効く。
鎧も全身鎧ではなく、太ももや二の腕、腹の部分など露出も多い。
ゴブリンロードはもう一度、鉄鎚を振り上げると俺に向けて上段から叩きつける
「ガァン」
大きな金属音をたてて鉄鎚をメイスで殴り、鉄鎚の軌道を変えながら俺は左に避ける。
ああ、力負けもしてないな。レベルアップやステータスという仕組みは良く分からないが、少なくとも俺にも常人離れした力が身についているようだ。
そんなことを考えながら、ゴブリンロードが切り返して横に振るってきた鉄鎚をバックステップで避け、そのまま敵の懐に飛び込み、腹にフルスイングでメイスを叩きつける。
「ウグゥゥォ」
ゴブリンロードがうなり声を上げながら屈みこむ。
その隙を逃さず俺は、メイスを上段に振り上げゴブリンロードの右二の腕にメイスを叩きつけ、もう一度振りかぶり、今度は右太ももにもフルスイングで一撃。右ひざをつくゴブリンロード。
そして、苦し紛れに鉄鎚を振り回し、俺は急いでバックステップ。鉄鎚の範囲から避ける。
腹、両二の腕、右足に全力の一撃を食らわした。
ゴブリンロードも満身創痍で俺を近づけさせまいと鉄鎚を振り回す。
俺の目の前を鉄鎚が通り過ぎたところで、もう一度飛び込み、鉄鎚をメイスでフルスイング、鉄鎚が勢いを増して、ゴブリンロードが切り返せなくなる。
そのまま、さらに踏み込み、右の二の腕を何度もメイスで殴りつける。
ゴブリンロードの二の腕が変な形に曲がり、鉄鎚を握れなくなる。
左手だけで握った鉄鎚が俺を襲うがバックステップで避け、先ほどと同じように鉄鎚をいなし、今度は左二の腕を何度もメイスで殴りつけ、ゴブリンロードがとうとう鉄鎚を落とし、右足で俺を蹴り飛ばそうとする。
俺は下がりながら、右足をメイスで叩きつけ、露出したゴブリンロードの右足の指が何本か折れる。フルプレートみたいな鎧じゃなくて本当によかった。
「ギヤァァァ」
ゴブリンロードが叫び声をあげ、尻もちを付く。
そして、立ち上がろうとしたところで顔面にメイスをフルスイング。
ゴブリンが叫び声をあげ、俺は構わずにもう一度フルスイング。
顔、首、肩、鎧から露出した肉の部分を何度も殴りつけ、やっとゴブリンロードが動かなくなる。
振り向くと、エリーに助けられながらゴブリンナイトを倒すミユキ。そして、カミラが横で楽しそうに眺めながら、本人も楽しそうに戦い、最後にゴブリンナイトの首に致命傷を与えるフブキ、双子の二人の勝利も確認でき、戦闘が終了する。
そして、魔物の体も着ていた防具も、持っていた武器も砂が飛び散るように消えていく。
「えー、おっきい鉄の防具持って帰りたかったのにぃ~」
フブキが本当に悔しそうにそう叫ぶ。
「多分、この魔物達はダンジョンコアが作った疑似生命体だったんだろうね。生き物だけど生き物じゃないみたいな?」
カミラがそう言う。
そして、消えていった魔物の体や装備の代わりに、ゴブリンナイトのいたところには人が使うのにちょうどよさそうな丸盾と両刃の斧が2個ずつ。俺の倒したゴブリンロードのいたところには手ごろな鉄鎚と宝石のような物が落ちている。
「なんだこれ?」
俺は少し警戒しながら宝石をつつき、害がなさそうなので拾ってみる。
「お、いいね、それ。小さいけど魔導石だよ。魔道具の原動力になる宝石」
カミラがそう言って俺の手を覗き込む。
確かにカミラの魔法の杖についている宝石と似ているな。大きさは格段に小さいが。
「結構いい値段で買い取ってもらえますが、タイヨウお兄さんは防具が揃っていないので防具強化に防具に装着するのがいいと思います。鍛冶屋さんに持っていくと魔導石つきの防具とか加工してもらえますよ」
エリーがそう言う。
「そんないいものなのか? 分け前とか考えないといけないな」
俺はそう言って、雪豹族の双子やカミラを見る。
「私たちはいいよ。代わりにこれ頂戴ね」
そう言って嬉しそうにゴブリンナイトがドロップした丸盾を抱えている。
「私は魔法石多めで手を打とう」
どや顔で偉そうに言うカミラ。
「私はタイヨウお兄さんが強くなってくれると嬉しいですし、夫婦になれば共有財産になるのでいいかなって」
エリーがそう言って照れる。
とりあえず、後半は聞かなかったことにしよう。
そんな感じで、俺が魔導石を貰い、鉄の丸盾と両刃斧はフブキとミユキに。ボスからドロップした鉄鎚はミユキにあげることにした。
ミユキが今使っている鉄鎚は鍛冶にも使える武器と道具兼用って感じだったのに対し、こっちの鉄鎚はより戦闘向けで強いらしい。
この戦いの戦利品でミユキとフブキの荷物が結構いっぱいになってしまった。
「とりあえず、軽く第三階層を見たら時間もいいころだろうから帰ろうよ」
カミラがそう言うので、ボス部屋の先にある階段をめざす。
ボスを倒したことで扉も開くようになり、入ってきた扉とは逆の扉を開けて、部屋を出ると、いつもの岩が向きだした洞窟のようなダンジョンに戻り、すぐ目の前に下りの階段が見つかった。
そして、階段を降りるとさっそく、オークらしき魔物が部屋いっぱいにたむろしていた。
「ブヒー」
「ブホッ、ブホッ」
オークが騒ぎ出し、大変なことになる。
「ミユキちゃんは荷物を見ていて」
フブキがそう言ってリュックをその場におろすと楽しそうにオークの群れに飛び込む。
俺も慌ててフブキに続き、エリーとカミラも続く。
「オークもゴブリンと大して変わらないかな? ちょっと大きくて強いだけ? 皮下脂肪が厚くて攻撃が通りにくいから気を付けてね」
カミラが俺にそうアドバイスする。
たしかにブクブク太った腹の辺りはメイスで殴っても跳ね返されそうだ。
「ゴブリンよりどれくらい強いんだ」
俺は慌てて聞き返す。目安は欲しいからな。
「ゴブリンの平均レベルが25に対して、オークはレベル30強。ホブゴブリンと同じくらいかな?」
カミラが鑑定スキルを使っているようで、オークを観察しながらそういう。
とりあえず、手近にいたオークにメイスで殴りかかる。
首をフルスイングで殴ったが、オークが大きくよろけただけで致命傷にならない。確かに肉厚で攻撃が通り難そうだ。
1発では致命傷にならず、メイスを振り上げて、脳天を殴りつける。
白目をむいて倒れるので、もう一度脳天を叩き、とどめを刺す。
こいつらもホブゴブリン同様、1撃では仕留められそうにないな。
そんなことを考えていると、目の前で余裕そうに1撃のもとゴブリンの首を切り裂くカミラ。武器とオークの相性がいいのだろう。長柄槍斧によく似た武器がオークの首の肉を頸動脈ごと上手く切り裂く。
逆に俺のメイスは相性最悪だ。厚い脂肪で攻撃が通らない。
「タイヨウお兄さん、この武器の方がいいと思います」
後ろの方で荷物番をしているミユキがそう叫びながら、さっきのボス部屋で拾った両刃斧を振っている。
確かに、使い方次第ではあっちの武器の方がよさそうだ。
俺は急いでミユキのところに戻り、
「悪いな、借りるぞ」
と声をかけ、斧を受け取る。
そして、手近なオークに走り寄り、斧で斬りつける。
オークの武器は粗末な鉄の穂先が付いた木の槍と木の板を組み合わせたような粗悪な盾、槍しか持っていないオークと盾と槍両方持っているオークが混在している。
俺が今対峙しているオークは槍だけ持っているオーク。
両刃の斧で槍ごとオークの左腕を叩き斬り、怯んだところで、首に一撃。
脛骨で斧が止まって、首を両断とはいかないが、一撃で致命傷に至る。
確かにメイスよりこっちの方がよさそうだな。
素早い魔物なら、少し軽いメイスの方が戦いやすいが、鈍重で動きの遅いオークなら、この両刃の斧のほうが重いが攻撃力があって皮下脂肪も切り裂けるので戦いやすいかもしれない。
俺はそんなことを考えつつ、斧の使い方に慣れる為にも次々とオークを倒していく。
そんな感じで20体近くいたオークを全て倒し、ダンジョンの第三階層を進む。
ミユキは荷物の番と後方の警戒だ。
同じようなオークの溢れる部屋に出くわし、オークを倒しつつ、上の階の半分くらい歩いたところで
フブキのリュックサックもいっぱいになり、帰りの時間も考えるとこれ以上先に進むのが厳しくなる。
「今日はこのあたりで帰りましょうか?」
エリーがそう言う。
フブキもかなり疲れていそうだし、ミユキも荷物が重そうだ。
「そうだな。徐々に魔物の数も減って、ダンジョンを進むスピードも上がってきたし、今日はこの辺で仕切り直して、明日もう少し進もう」
俺はそう言って、今日のダンジョン攻略を切り上げる。
妹で勇者のあてながこのダンジョンを攻略するのが15日。
残り3日でこのダンジョンを攻略できるか。時間的にギリギリの戦いになりそうだ。
次の話に続く。




