第28話 兄、第一階層の最奥につく。
【異世界生活10日目 14時頃】
この先に、少し強い魔物がいるらしい。
「多分、ダンジョン第一階層に住むゴブリン同士の戦いで成長した進化種ってところだろうね」
カミラがそう言う。
ダンジョンを管理する精霊やその配下のダンジョンコアが関与せずに生まれた少し強いゴブリン。
それが目の前の部屋に待っている。そして、その先には2階に下りる階段。
「倒さなきゃ第2階層に行けないのなら倒して進むぞ」
俺はそう言い、エリーは神妙な顔で頷き、雪豹族で戦闘狂なフブキは楽しそうに笑う。
「とりあえず、鑑定してみたけど、ホブゴブリンだね。ゴブリンの強い奴。レベル30強ってところかな?」
カミラがそう言う。
こいつはレアなスキル、『鑑定』というのを持っていて、仲間のステータスはもちろん、敵のステータスも覗き見ることができる。
「レベル30なら楽勝だね」
そう言ってフブキが部屋に飛び込んでいく。
「馬鹿、勝手に行くな」
俺はそう叫び慌てて追いかける。
「もう」
双子のミユキも盾を構えてフブキを追いかける。
その後にエリーとカミラも続く。
ゴブリンらしき魔物が部屋に20体以上、そして、そのうち奥の方のやつはやたらでかい。5体デカいゴブリンが手ごろな岩に座り、偉そうにふんぞり返っていた。
「ミユキは右に向かえ。フブキのフォローだ。俺は左に向かう」
俺はそう言って二手に分かれる。
そしてエリーとカミラは中央に陣取る。弓矢を一手に引き受けるつもりだろう。
近くにいるゴブリンは粗悪な手斧や木の槍で向かってくる。そして離れたゴブリンは弓矢や投石器で遠距離攻撃。
エリーがおとりになってくれているおかげで飛び道具の飛来は少ないが、近接戦闘しながら近距離から狙ってくる弓矢持ちのゴブリンもいて気が抜けない。
エリーは部屋の真ん中で、鋼鉄の篭手で、投石を受けたり、矢をはじいたり、または拳で飛び道具を叩き落す。
俺は部屋を左から時計回りに旋回し、次々とゴブリンを倒していく。
逆に、フブキとミユキは右から反時計回りにゴブリンに挑みかかり倒していく。俺と双子とではレベル差があるので、双子2人で俺一人分くらいの戦力だ。
同じくらいのペースで左右のゴブリンが倒され動かなくなっていく。
「カミラちゃん、避けるよ」
エリーがそう叫び、左にサイドステップを踏む。
カミラは逆に右にステップを踏み、カミラとエリーがいたところを巨大な岩が高速ですり抜けていく。
「ドゴーン」
そして後ろの壁に岩がぶつかり、岩が砕ける。
「みんな、ホブゴブリンに気を付けてください。巨大な岩を投げてきます」
エリーがそう言うと同時に、俺の方にも巨大な岩が飛んでくる。
そして、俺とホブゴブリンの間にいたゴブリンを巻き込んで、ゴブリンごと岩が飛んできて、慌てて避けると、俺の後ろで「グシャッ」っと嫌な音がする。
「こいつ、加減を知らないのか? というか馬鹿なのか? 敵味方見境なしか」
俺は潰れたゴブリンをちらりと見てそう呟く。
「タイヨウお兄さん、左のゴブリンは私が倒すので、ホブゴブリンをカミラちゃんとでお願いします」
エリーがそう叫びながら俺と位置を入れ代わる。
「お兄ちゃん、ホブゴブリンの投石が面倒臭いから、隔離するよ。水の精霊よ、魔法石の力をもとに、魔法の力としたまえ『氷の壁』×2、そしてちょっと厚め」
カミラがそう言い、ゴブリンとホブゴブリンを分けるように厚い氷の壁が左右に2枚せり上がる。
というか、毎回カミラの魔法詠唱は適当だな。
そして俺とカミラはその氷の壁の間にできた入り口のような間隔に飛び込む。
うん、ホブゴブリン5体と俺とカミラ、VIPルーム状態だ。
「ぶっちゃけ、カミラが魔法で倒しちゃえばいいんじゃないか?」
俺は氷でできた部屋に飛び込みながらカミラに言う。
「お兄ちゃんが倒さないと、他の女の子達に経験値が分配されないでしょ。余計なこと喋ってないでさっさと倒す」
カミラがそう言い、右にいるホブゴブリン2体に、魔導石のついた長柄の斧のような武器、槍斧魔法杖で斬りかかる。
確かにカミラが倒してしまうとカミラが得た経験値は俺としか共有されない。
逆に俺が倒した魔物の経験値は5人で共有できる。経験値獲得2倍と経験値獲得5倍では後者の方がお得だ。まあ、俺自身のもらえる経験値自体は減るんだけどな。
俺は納得して、左のホブゴブリン3体にメイスで殴りかかる。
先頭のホブゴブリンは慌てて足元に転がっていた巨大なこん棒を拾い、俺に対峙する。
ホブゴブリンと言っても所詮は丈夫でデカいゴブリン。1発で倒せなれば3発殴ればいい。
俺は盾の持ち手ごと両手で握ったメイスで1体目のホブゴブリンに殴りかかり、ホブゴブリンは左手でガードするも、左手がくの字にひしゃげる。
ホブゴブリンが痛みで隙ができたので、そのまま、もう一度メイスを振り上げ、左足をフルスイング、ホブゴブリンの左ひざが関節とは違う方向に曲がり、よろける。
目の前にホブゴブリンの頭がきたので、そのまま、もう一度メイスを振り上げ、フルスイングで脳天を叩き潰す。
手数は必要だが、しょせんはゴブリンといったところだ。
すぐ後ろのホブゴブリンが岩を投げてくるが、射線は予測できるのですばやく避けて岩を投げると同時にホブゴブリンの真横に飛び込んで、左ひざ裏にメイスの一撃。膝カックン状態でホブゴブリンがよろけるので、野球のようにメイスを振りかぶると、そのまま、ホブゴブリンの後頭部をフルスイング。頭蓋骨がへこんでホブゴブリンが白目になってそのまま崩れ落ちる。
そして、倒される間際に投げた岩が氷の壁に当たり、一部が崩れる。
あたり所が悪かったら即死かもしれないな。俺は背中に冷や汗が流れる。
残り1体のホブゴブリンはあっという間に倒された2体を見て、後退るが、背中にはカミラが出した氷の壁。
俺はチャンスとばかりにホブゴブリンに上段から殴りかかるが、ホブゴブリンが腕をクロスして頭を守る防御の姿勢だ。
俺はあえて、フェイント。
メイスの軌道を縦から横に変え、がら空きになった、横っ腹をフルスイングで殴る。
「ウゴォォ」
ホブゴブリンが声にならない呻き声を上げながら腹を押さえて前かがみになるので、俺はそのままもう一度メイスを振りかぶって野球スイング。
ホブゴブリンの左頬をジャストミートして、首が嫌な音をして回り、カクンと顎が下がる。
多分致命傷だが、一応の為、もう1発殴っておく。
「お兄ちゃん、だいぶ時間かかったね」
カミラがいやらしく笑いながらそう煽ってくる。
「お前は2体相手だったからだろ。俺は3体相手だったし」
俺はそう言い訳する。
「でも、私は2体とも1撃で倒したし、お兄ちゃんが2体目に殴りかかった時には2体とも倒して観戦状態だったよ」
カミラが自慢げにそう言って俺をからかう。
こいつめ。生意気な。
「というか、他の奴等は? ミユキとフブキは大丈夫か?」
俺はそう言い、慌てて、氷の壁でできた小部屋から飛び出す。
そして、目の前にはちょうど、最後のゴブリンを倒すフブキとミユキがいた。エリーも倒し終わったようだ。
「私もホブゴブリンと戦いたかったよ」
フブキが少し悔しそうにそう言う。
「ホブゴブリンの投げてくる岩が危なかったからまた今度ね」
エリーがそう言ってフブキをなだめる。
みんなを見渡すが、今回は誰も怪我した人間はいないようだ。
「でも、ほんと、飛び道具には気をつけないと、レベル差があっても死ぬときは死ぬぞ、これ」
俺はそう言って、岩で破壊された氷の壁を見る。
「そうだね。数で囲まれたり、たくさんの飛び道具で遠くから攻撃されたりするとレベルが高くても死ぬときは死ぬからね。特に多対多の合戦なんかでは注意が必要らしいよ」
カミラがそう言う。
レベルはあくまでも少数対少数の時の力の差でしかないのか。
「まあ、私みたいに魔法の天才だと、そういう数の差とか、飛び道具の優位性とかもひっくり返せちゃうんだけどね」
カミラが突然どや顔になってそう言う。
「魔法を使える人自体少ないですしね。魔法を使う魔物も僅かです」
エリーがそう教えてくれる。
「というか、魔物に魔法なんて使われたら対処する方法しらないぞ」
俺はそう言って焦る。
俺が魔法を使えるわけじゃないしな。
「そこは気合だよ。近くに魔法の結界が張れる人がいなかったら、気合いだね」
カミラがからかう様にそう言う。
「まあ、まんざら嘘ではないですよ。防御に集中することで、体内のマナが防御に回るので、少しダメージを押さえられます」
エリーがそう言って笑う。
ちなみにマナというのはこの世界にある魔法の力というか精神力というか、よく分からない氣みたいなものらしい。MPはそれを数字化したものだとかなんとか。まあ、よく分からん。
とりあえず、気合を入れれば魔法が使えない人間でも薄いバリアーくらいは張れる。みたいなものらしい。
「もう少し時間があるから、2階の魔物も少し減らしておこ? そうすれば、明日には2階のボス、本命のボスも倒せると思うから」
カミラがそう言って、今いる部屋の先の通路に進み、階段を降りていく。
その後を慌てて双子がついて行く。地図を持っているのは双子だからな。というか、カミラ、こそっとダンジョンの構造知ってないか? 足取りに不安を感じさせない歩きだ。
まあ、よく分からない奴だからスルーしよう。どうせ、また鑑定スキルっぽい何かのおかげでダンジョンの構造が分かるとか言い出しそうだし。
そんな感じで、みんな2階につながる階段を降り、第二階層に足を運ぶ。
「なんか、代わり映えしない風景だな」
俺は周りの様子をうかがいながらそう言う。
「まあ、ダンジョンコアが掘った自然に近い洞窟らしいからね」
フブキがそう言って笑う。
ダンジョンを管理する精霊やダンジョンコアもそこまで手をかけられなかったってことか。
俺とエリーが先頭に立って歩き、2番目に並ぶ雪豹族の双子に地図で誘導してもらいながらダンジョンを進み、第一階層同様、大量のゴブリンを倒していく。強さは第一階層と大して変わらない。
たまにホブゴブリンが混ざっているので注意が必要だが、俺とカミラの『危険感知』のスキルで事なきをえる。
「そろそろ夕方になるから帰ろうか。帰りの時間を考えると、ダンジョンを出るころには日も暮れているだろうし、町に着くころには21時近くなっているかな?」
第一階層で歩いた半分くらいの距離を第二階層で歩いた辺りで、カミラがそう言う。
こいつは正確な時間も分かるらしい。いつもの鑑定スキルっぽい何かのおかげらしい。
「そうだね。私も疲れてきちゃったし、ダンジョンで野営するのもいいけど、まだ寝られる自信はないかな?」
フブキがそう言い、ミユキもブンブンと首を縦に振る。ミユキはダンジョンで野営は無理っぽい。
「まあ、ミユキのリュックサックも鉄くずでいっぱいだし、フブキのリュックも帰り道でいっぱいになりそうだしな。そろそろ頃合いかもな」
俺はそう言い、カミラの提案にのる。
ちなみに、カミラに鉄くずを運んであげる気はないらしい。自称アイテムバッグは容量の限界があるし重さまで軽くはできないからと言い張っているが多分嘘だ。
とにかく、アイテムボックスというスキルが使えるという事を俺以外には知られたくないらしい。
そこから、Uターンして、ダンジョンの今来た道を帰る。
途中、ゴブリンも出るが、行きでかなり減らしたので、残存兵力? 行きの時より数は格段に少ないし、戦闘にもだいぶ余裕はある。
とりあえず、この繰り返しで、ダンジョンに住む魔物を減らしながら最下層をめざすらしい。
ダンジョンコアも急に魔物を補充することもできないそうで1日や2日ではたいして増えないそうだ。
最初の状態に戻す為には最低でも1年以上ほったらかさないと無理だろうとのカミラの見解。本当かどうかは知らないがまあ、魔法使いの知識ってところか?
第一階層も順調に残った魔物を倒しながら戻り、入り口に戻るころには日が暮れていた。
「これなら、カミラも戦えるな」
日焼け嫌いのカミラでも日の落ちた夜なら日焼けマント要らずで戦える。
「代わりに私たちが戦えなそうだけどね」
そう言ってがっかりするフブキ。
ミユキとフブキのリュックサックは鉄くずでいっぱいだ。俺とエリーのリュックも魔法石が結構詰まっているが、戦闘には支障がない程度。
カミラに関してはドロップ品を運ぶ仕事を完全に放棄している。本人曰く、戦闘の要だから常に動けるようにしたいだそうだ。
まあ、緊急時の魔法には確かに助けられているので文句は言わないが、心の中では少しイラっとしている。こいつはお姫様のつもりか?
帰り道は、カミラの光魔法で明かりを出してもらい、森を帰る。
光に釣られて魔物が集まってくるのが少し面倒臭いが、明日以降が楽になると考えて、魔物を駆除していく。
そんな感じで森の中も魔物を倒しながら帰り、町に戻ったのはカミラの言う通り21時近くだった。
まあ、本当に21時かどうかは知らんが。カミラはそう言っている。
とりあえず、双子を家に送り、朝、渡し忘れた昨日の分け前の銀貨も渡して解散する。
鍛冶屋の爺さん、双子の祖父さんはリュックサックいっぱいの鉄くず、しかもリュック2つ分を見てびっくりしていたし、それを見た双子も嬉しそうだった。
「また明日もよろしくお願いしますね」
そう言って嬉しそうにミユキが見送ってくれる。
「明日も早いから、早く寝ろよ」
俺はそう返し、手を振って別れる。
「ミユキちゃんもフブキちゃんも鉄くずいっぱいで嬉しそうでしたね」
そう言うエリーも嬉しそうだった。
俺も笑い返す。
「今日も結構魔法使ったから、魔法石多めに頂戴ね」
そんな空気をあっさり壊すカミラ。
エリーも呆れ顔だ。
そんな感じで、宿屋に変える俺達3人だった。
次話に続く。
ダンジョンのスキップさせ方って結構難しいですよねw
同じような戦い繰り返し見せてもしょうがないですしね・・・。




