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第26話 兄、ダンジョンに入る。

【異世界生活10日目 朝】


「カミラ、起きろ。朝だぞ」

俺はそう言ってカミラを叩き起こそうとする。


「もう! 起きているよ! 毎朝、叩き起こされていたら嫌でも朝型になるよ」

カミラが嫌そうにそう文句を言う。

 先に起きていたエリーがほほ笑む。


「それに、今日は、念願のダンジョンに行けそうだしな。今日からカミラも付き添いだけの無駄足じゃなくなるぞ」

俺はそう言ってやる気を出させる。

 

「それはそれで、面倒臭そうだけどね」

カミラは面倒臭そうにそう言う。


 実際、一昨日と昨日、1日森の魔物を駆除することで、だいぶ魔物と遭遇する数が間隔が減った気がする。

 しかも昨日の午後は北東のダンジョンが目の前に見えるところまで来たが、ゴブリンに追われ、ゴブリンを倒すころには日も暮れタイムアウト。

 今日は午前中にダンジョンまで行ける気がする。それくらい森に巣食うゴブリン数は減らせたと思う。


「本当は、森の中にあるゴブリンの集落とか潰せればいいんでしょうけどね」

エリーがそう言う。

 エリーやカミラの話では森で襲ってくるゴブリンはダンジョンから湧いているのではなく、森の中に集落を作っていてそこから襲いに来ているのだろうとのことだった。


 ダンジョンから生まれたゴブリン、そして増え過ぎてダンジョンから溢れると、森に集落を作り暮らし出す。そして、森の食料でも足りなくなるくらいゴブリンが増え過ぎると、町を襲い始める。

 うーん、ダンジョン。よく分からない存在だ。


 とりあえず、毎朝定番の井戸で体を拭いて、防具をつけ、ギルドで魔法石を換金、酒場で待っているとカミラとエリーが準備を整え合流する。

 朝食を食べ、軽く打ち合わせをして、鍛冶屋に雪豹族の双子を迎えに行く。


「おはようございます。ミユキちゃんとフブキちゃんいますか?」

いつものようにエリーがそう挨拶をして半開きの鍛冶屋に入っていく。


 鍛冶場に火が入っていて店に入ると気持ち熱いが、鍛冶師の爺さんが生き生きしていてなんか職人気質の爺さんが真剣に何かに打ち込む姿は見ていて心地よい。小気味よい金槌の音がする。


「ああ、お前達、今日も来たのか」

爺さんがそう言って金槌を打つ手を止める。

 そして、双子の孫たちを呼びに行ってくれる。


「おはようございます。タイヨウお兄さん、エリーさん、カミラさん」

そう言ってミユキが鍛冶屋の奥から出てくる。


「今日もよろしくね。兄貴、姉貴」

フブキは今日もフリーダムだ。


「そういえば、今日あたり、ダンジョンに入ることができそうなんだってな?」

鍛冶屋の爺さんがそう声をかけてくる。


「ええ。順調に魔物が減っているので、今日の午前中もうまく魔物を減らせられればそのままダンジョンに挑戦してみようかなって」

俺は爺さんにそう答える。


「そうか、ダンジョンに挑むには装備が貧弱過ぎるだろ? 犬耳族の嬢ちゃん、これを持っていくといい。昔なじみの武闘家が使っていたものを調整しておいてやった。金属製でうるさいかもしれないが、防具としてはもちろん、武器としても役立つと思うぞ」

爺さんはそう言って、鋼鉄製の篭手のようなものと、脛あてのようなものをエリーに勧める。


「なんか凄いですね」

エリーが申し訳なさそうにそう言って手に取る。篭手のような物を手に取る。


「そいつは、獣王の爪(ビーストファング)。鋼鉄製の篭手(ガントレット)にナックルの機能を持たせた武器だ。こぶしを握れば、拳骨、中生指節関節の部分に棘のついた拳を守るナックルパーツが来る仕組みだ。しかも篭手の部分は近接で矢を射られても弾き飛ばせる、盾代わりにもなるような武具だ」

鍛冶師の爺さんがエリーにそう説明する。


装備(つけ)てみてもいいですか?」

エリーがそう聞き、爺さんが頷く。

 エリーが普段身に着けている皮の手袋の上に装備する篭手のようだ。サイズ的にはそれでぴったりとはまる。


 そう言えば一昨日の昼あたりに鉄くずを渡しに双子達と鍛冶屋に寄った時、やたらエリーの装備の事を聞いたり、サイズの事を聞いたり、計ったりしていたのはこの為だったのか。


「知り合いの使い古しの骨とう品みたいな武具だが、よかったら使ってくれ」

爺さんが昔を懐かしむようにそう言う。


「なんか凄いです。鉄製で重いはずなのに、しっかりと腕に吸い付いて、重い防具を身に着けている気がしないです」

エリーがそう言って、一見篭手のような獣王の爪(ビーストファング)という武具を身に着け、こぶしを握る、

 爺さんが言っていたとおり、こぶしを握ると、殴る部分に棘のついたパーツがスライドする仕組みだ。しかもそのパーツが篭手につながっている仕組みなので硬いものを殴っても拳が壊れることがなさそうだ。

 そんな感じで素人の俺でもわかるよくできた武具だった。


「脛あても似たようなもんだ。防具にもなるし、蹴る時には鈍器にもなる」

鍛冶屋の爺さんがそう説明する。

 平らな脛あてではなく、左右3か所波打つようにとがった部分がある。これは蹴られたら痛そうだ。

 

「足の甲までは武装が付いているから守られているが、つま先はむき出しだから、つま先でけるような攻撃は避けろよ」

鍛冶屋の爺さんはそう付け足す。

 足の甲にも別パーツで動きの邪魔にならないような尖ったパーツが付いている。

 ただ、爺さんが言う通りつま先はむき出しだ。多分、足首の動きを阻害しないような工夫だろう。 


「あと、これはおまけだ。ただの鉄の胸当てだけどな」

爺さんがそう言って、中古の鉄製の胸当てをカウンターに出す。


「私がエリーさんのサイズに合わせて調整したんですよ」

鍛冶師見習いでもあるミユキが少しどや顔でそう言う。

 そういえば、ミユキがやたらエリーのサイズを測っていたな。


 そして、何もなかったように爺さんは鍛冶作業に戻っていく。

 俺の防具はないのかよ。


 そんな感じでエリーの装備が大幅に強化され、いつも通りダンジョンにつながる小道をめざし北東の森に向かって移動する。


 ちなみに、昨日までのゴブリン退治でみんなかなりレベルが上がっている。


タイヨウ レベル51

カミラ  レベル47

エリー  レベル46

ミユキ  レベル41

フブキ  レベル41 


 とりあえず、森まではフブキとミユキが雑魚狩りをしてレベルを上げる。

 エリーは何かあった時の為に双子についている。


 俺とカミラは並んで、荒れた小麦畑の中にある農道を歩く。


「そういえば、カミラは防具とかつけないのか? 中に着込んだ鎖帷子以外は」

俺はそう聞く。

 まあ、俺の元の世界の知識からしたら魔法使いが鎖帷子を着込んでいる時点で違和感満載なんだが。


「うーん、そうだね。私は魔法剣士だけど、自分のイメージ的には魔法使い寄りの魔法剣士って感じだから、外見も魔法使い寄りにしたい感じかな? そうは言っても、手袋にも靴下にも、帽子や服にも魔道具が付いていて魔法石を消費することで一時的に防御力を上げる魔法が掛かっているんだけどね。ぶっちゃけ、全身鎧フルプレートより硬いよ?」

カミラがそう言って笑い、日よけマントの間から手を出し、手袋のすそについた四角い宝石のような物を見せてくれる。

 言われてみると、帽子やニーソックスにもそんな感じの宝石が付いていたな。


 こいつ余裕あるなと思ったらそんなズルい装備を身に纏っていたのか。

 一番装備が貧弱だった俺はがっくり肩を落とす。

 装備を整えるにもなかなかお金が貯まらないしな。何より損得無視で妹のあてなの為に魔物狩りをしている時点で金が貯まるわけがない。


 町の最外周の壊された3つ目の石垣を越え、途中、レッサーウルフやスモールラットやスモールリザードを倒しつつ、森に入り、今日も100体近いゴブリンを倒し、何度か進撃と後退を繰り返し、何とか森の奥にある北東のダンジョンの入り口に着く。


【異世界生活10日目 昼】


「やっと着いたな。少し無理をして進撃したから、お昼になっちゃったけどな」

俺は目標のダンジョンにつくことができた満足感からそう感想を漏らす。


「よかったですね。タイヨウお兄さん。それで、お昼ご飯ですが、どうします? もう少し進んでからダンジョン内で食べるか、今ダンジョンの外で食べるか。どっちにします?」

エリーが俺にそう聞いてくる。


「そうだな。ここで少し休憩しよう。カミラも俺も『危険感知』のスキルみたいなものが使えるから交代で見張りをしながら昼食を食べてしまおう」

俺はそう提案する。


「そうしたら、お兄ちゃん、先に見張りお願いね。ミユキちゃん、フブキちゃん、向こうに行こう」

カミラがそう言って双子達と森の中に入ってしまう。

 ああ、そういう事か。

 その後、双子とエリーが入れ替わり、カミラとエリーが戻ってきて、昼御飯を食べる。日持ちのするパンとベーコンを適当に切って食べる。

 

 カミラとエリーの食事が終わったので、俺と雪豹族の双子が昼食をとり、最後に俺も森に入って用を足す。

 危険感知のスキルはこういう時に役立つな。用を足している間に魔物に襲われるとか考えただけでもぞっとする。


 俺がダンジョンの入り口そばまで戻り、休憩終わり。早速ダンジョンに入ってみる。


 ダンジョンの中は本来、真っ暗だが、カミラの魔法の明かりで明るく照らされる。

 中は自然の洞窟のような作りで、人が横に2人並ぶと少し窮屈に感じるくらいの狭い通路が続いている。 


「中は自然の洞窟って感じだな。というか、ダンジョンってどうやってできているんだ?」

俺はダンジョンを警戒しながら進み、ぼそっとそんなことをつぶやく。

 俺はよく考えると、ダンジョンが何かも分からずに入ってしまっているもんな。


「えっと、ダンジョンというのはこの世界を作った光の女神様が精霊に命じて作らせたものと言われています。こことは違う世界の神様が、この世界に生き物の魂をどんどん送ってくれるらしいのですが、その中には悪い魂も混ざっていて、それが魔物になるそうです。そして、その魔物が町を襲わないように閉じ込めたのがダンジョンの始まりと言われています」

エリーが神官らしい講釈をしてくれる。


「そして、増え過ぎるとダンジョンから溢れて、森に棲んでいたゴブリンみたいになっちゃうわけ」

カミラがそう付け足す。


 ときどき、フブキとミユキがスモールラットやスモールバットを倒しつつ、ダンジョンを進んでいく。

 何故か双子がやる気満々なので、先頭をまかせ、2列目に俺とエリー、最後尾にカミラが続く。


「というか、悪い生き物なら、最初からダンジョンに出口を作らないで閉じ込めておけばいいのにな。光の女神様が神様だっていうのならできるだろうに」

俺はエリーとカミラの話を聞いて素朴な疑問をもらす。


「ダンジョンに魔物を閉じ込めることも、ダンジョンを管理する精霊達ならできないことはないのですが、それをやってしまうと、魔物が共食いを始めて、どんどん強くなり、ダンジョンを管理する精霊が抑えきらなくなってしまうそうです。なので、適度に外に出して、人間や私達、神に仕える種族が魔物を倒し、魔物の魂を浄化する。それによって悪い魂の管理と浄化がなされていると聞いています」

エリーがさらに神官らしい答えを教えてくれる。


「良い魂の者が悪い魂の魔物を倒し、女神に還すことで魂が浄化されるそうで、それをしないとどんどん悪い魂が増えてしまうそうですよ」

ミユキがそう付け足して教えてくれる。


「じゃあ、魔物狩りをサボっている王様はダメダメじゃないか」

俺はそう言って呆れる。


「そうだね。戦争にうつつを抜かして、お金が無くなって、魔物を倒す依頼もできなくなっている。ダメダメな王様だね」

カミラがそう言って笑う。

 エリーと双子は困った顔をしている。一応、獣人も今は王国の国民だもんな。

 そしてカミラは双子には内緒だが魔人族の国の住人だしな。


「まあ、それもあって、王様はちょうど召喚された勇者様にレベル上げついでにそのあたりの仕事もさせようって魂胆なわけよ」

カミラがそう付け足す。 

 

「なるほどな。だから教会の聖職者っぽいおっさんも絡んでいたわけか」

俺は王様の隣にいた腰ぎんちゃくみたいでダメ人間そうな聖職者の顔を思い出す。


「というか、勇者様を召喚したのがこの世界の創造主で教会の崇拝の対象、光の女神様だしね」

カミラが呆れてそう言う。


「そうなのか?」

俺はそう聞き返し、カミラはさらに呆れる。

 お前も女神様に召喚されたんだろ? みたいなかんじで無言で睨まれる。

 そうは言われても、俺は勇者じゃないみたいだし、何にも知らないんだよな。妹のあてななら何か知っているのかもしれないが。


「しーっ、そろそろゴブリンが出てきそうだよ。おしゃべりは終わりだよ」

カミラがそう小声で言い、魔法の明かりを暗くする。

 みんな緊張して、変に意識して、無口になる。


 明かりが暗くなり、逆に通路の先が明るく見える。ゴブリン達が明かりを灯しているのだろうか?

 そして、慎重に明るい方に近づいていくと、通路がひらけ、少し広い空洞が見えてくる。


 俺は意識を集中すると、洞窟の壁の向こうに10体以上の魔物の気配を感じる。


「15~6体ってとことかな?」

カミラも『危険感知』のスキルを使っているのだろう。小さい声でそう呟く。


「どうしますか?」

エリーが聞いてくる。


「敵が気づいていないようだ。不意打ちで一気に叩き潰そう」

俺はそう答える。


「弓矢には気を付けてね。あいつら、ダンジョンでも無駄に弓矢使うし、仲間の事気にしないから、混戦でも矢を撃ってくるからね」

カミラがそう皆にアドバイスする。

 

 俺は先頭にいたミユキとフブキと入れ替わり、先頭に立ち、


「俺が先で突っ込むから俺の後ろについてきてくれ。部屋に入ったら俺は右から攻めるからエリーは左から、ミユキとフブキはエリーのフォローを。カミラは適当に。各自散開してゴブリンを倒す感じで」

俺はそう指示する。

 そして、思い出したように日よけマントを脱ぎ、自称マジックバックの中に詰め込み、代わりにいつもの武器、槍斧魔法杖(マジックハルバード)を取り出すカミラ。

 こいつ、ダンジョンでは陽の光がないから戦う予定だったのを忘れていたな。


 まあ、カミラもいれば楽勝だろう。


          岩    岩

      岩岩岩岩岩    岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩

    岩岩         ゴブ        岩  

   岩   ゴブ  ゴブ     ゴブ      岩 

 岩岩  ゴブ  焚火 ゴブ  ゴブ  ゴブ     岩

      ゴブ   ゴブ  ゴブ 焚火        岩

    ゴブ                      岩

 岩岩    ゴブ       ゴブ         岩

   岩     ゴブ   ゴブ            岩

    岩岩岩岩           岩岩        岩  

        岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩  岩  俺      岩     

                      岩 エリー フブキ 岩

                      岩 カミラ ミユキ 岩


「いくぞ」

俺はそう言い、ゴブリンのたむろしている部屋に突入。部屋の中を確認し、すぐさま左の一番近いところにいたゴブリンの頭部にメイスでフルスイング。首が変な方向に曲がり、ゴブリンが吹き飛ぶ。

 それに合わせて、エリーも逆方向、右の先頭にいたゴブリンに向かって突撃し、新しく手にいれた、篭手のような打撃武器、獣王の爪(ビーストファング)でゴブリンの左頬を右ストレート。拳に付いている3つの棘が、ゴブリンにクリーンヒット。ゴブリンの顔が歪に変形する。

 獣王の爪(ビーストファング)怖すぎる。

 そして、エリーは間を置かず、コマのように周り、次のゴブリンに飛び蹴りを食らわせる。

 うん、獣王の爪(ビーストファング)だけじゃなくて突起物のついた脛あてもヤバイ。首に蹴りを受けてゴブリンの首がくの字に曲がっている。


「ほら、お兄ちゃん、エリーちゃんに見とれてないの」

カミラがそう言って俺に向かって襲って来た次のゴブリンの脳天を槍斧魔法杖(マジックハルバード)でカチ割る。

 俺は慌てて、気を取り直し、別のゴブリンにメイスで殴りかかる。


 ときより飛んでくる矢を盾で受けながら、どんどんゴブリンを狩っていく。

 雪豹族の双子、ミユキとフブキもだいぶレベルが上がったのでゴブリン相手にだいぶ余裕も出てきているようだ。ミユキもフブキも、もう一人でも戦えそうだな。


 そんな感じで、みんなレベルも上がっているし、ダンジョンの中という事でカミラも積極的に戦闘に参加できるようになり、あっという間にゴブリンの一団を駆除してしまう。

 至近距離からの弓矢はちょっとうざかったけどな。


 とりあえず、周りの通路から増援が来ないかカミラに警戒してもらいながら、俺達は倒したゴブリンから魔法石の取り出しとゴブリンの使っていた粗末な武器を解体し鉄くずを回収する作業をする。


「ダンジョン攻略はこんな感じかな? 私もお兄ちゃんも『危険探知』みたいなスキル? 敵の接近に気づいたり、罠を見つけたりすることができるから、どんどん進もう」

カミラがそう言い、ミユキとフブキが嬉しそうにカミラについて行く。

 なんだかんだ言ってカミラは魔物狩りが好きだからな。先陣を切ってどんどん進み始める。


 そんな感じで、俺達の初ダンジョン攻略が始まる。


 次話に続く。

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