第25話 兄、森のゴブリンと戦う(後半)
【異世界生活8日目 朝】
北東のダンジョンをめざしその手前にある森の魔物の駆除をしていた俺達。
森は国の財政難のせいで、ほったらかし状態だったので魔物が溢れていた。
そして、今、俺達の目の前には大量のゴブリン。50体以上はいるんじゃないか?
「これはマズいな」
俺はそう呟く。
「お兄ちゃん、弓矢で穴だらけになっちゃうね」
カミラが笑ってそう言う。
おいおい、笑い事じゃないぞ。
「何とかならないか?」
俺はカミラに振り向きそう聞く。
「必要なら何とかするけど? この前のミディアムラットの大群の時みたいに壁作るみたいな?」
カミラがそう提案してくれるが、
「炎の壁はダメだろ? 森が焼き尽くされるし、俺達も巻き込まれる危険性がある」
俺は慌ててカミラの提案を却下する。
「もちろん、そこらへんは考えているよ。炎がダメなら氷? 氷の壁で砦を作ろうか? もちろん、魔法石は貰うけどね」
カミラがそう言って手を出す。
「成功報酬だ」
俺はそう言い、カミラが出した手を、おあずけとばかりに叩く。
「もう、ケチ。じゃあ、行くよ。水の精霊よ、魔石の力を魔法の力に変え、力を貸したまえ。『氷の壁』かける3枚」
カミラが日よけマントの下から護身用の短い魔法の杖の先を出し、そう魔法を唱えると、空気が少し冷気を含み、粉雪のようなものが光りながら降り注ぎ、地面から氷の壁がせり出すように出来上がっていく。そしてカミラの目の前に氷の壁が間隔を開けて2枚、その後、その隙間を隠すようにもう1枚氷の壁が出来上がる。
というか、魔法詠唱の最後。そんな適当でいいのか?
「正面に入り口作ったから、そこでミユキちゃんとフブキちゃんが防衛、お兄ちゃんとエリーちゃんは茂みから回って防衛ね。ゴブリンの弓矢の射線に入らにように気を付けてね」
カミラがそう言う。
なるほど、ゴブリンが真っ直ぐ攻撃できないようにしたわけか。
これなら壁に隠れながらゴブリンを攻撃すれば何とかなりそうだ。
俺はエリーと目配せしそれぞれ右と左の藪に走る。
藪 ゴブ ゴブ ゴブ 藪
藪 ゴブ ゴブ 藪
藪 ゴブ ゴブ ゴブ 藪
藪 ゴブ ゴブ 藪
ゴブ 藪 ゴブ ゴブ ゴブ 藪 ゴブ
氷氷氷氷氷氷氷氷 氷氷氷氷氷氷氷氷
エリー 藪 ミユキ フブキ 藪 俺
藪 氷氷氷氷 藪
藪 カミラ 藪
俺は氷の壁に隠れて、ゴブリンが近寄ってきたところで殴りかかり、また氷の壁に隠れる。
まるで、お互いモグラたたき状態だ。
まあ、カミラの氷の壁のおかげでゴブリンは思う様に弓矢を使えないし、一斉に襲われずには済んだ。
ただし、俺とエリーのポジションが少し無理をしないとゴブリンになだれ込まれる危険性がある。
よし、行くか。
俺は心の中でそう呟き、少し溜まり過ぎてしまったゴブリンに向かって飛び込み休まずにメイスを振るい、ゴブリンを3体倒す。
そして、そいつらの後ろから矢が飛んでくるのでそれを盾で受けて後退し、また氷の壁に隠れる。
そして、またモグラたたきのように飛び出しては1体倒し、氷の壁に隠れ、ゴブリンが向こう側に貯まりだすと、一気に3体倒し、また矢を避けながら全力で氷の壁に戻る。
俺がゴブリンを10体近く倒したところで、頭の中に声が響く。
「お兄ちゃん、エリーちゃん、マズいよ。あたりからゴブリンが集まりだしているよ。囲まれちゃうとマズいから、10秒数えたら一斉に走って逃げるよ。少し下がって仕切り直す感じでいくよ」
カミラの声だ。魔法による通信?
俺は周りの気配を探ると確かに俺達を囲むように魔物の気配が近づいてくる。『危険感知』のスキルで遠くに緑の光が見える。
俺は急いで心の中で10数えながら、最後に追加で1匹倒し、10数え終わり、全速力で走り、藪を抜け小道に出る。先にカミラとミユキ、フブキが見える。
「タイヨウお兄さんも無事そうですね」
エリーがそう言って俺の後ろを走ってきた。
そのまま全力で走り、カミラたちに追いつき、一緒に森の入り口近くまで走る。
「ゴブリンたち、小道に集まりだしたね。そろそろいいかな?」
カミラがそう呟く。
「どうするんだ?」
俺は走りながらカミラに聞く。
「もう一度、ここに氷の壁で砦を作るよ。さっきの繰り返しだね。それでだめだったら、もう1回下がって、平地で炎の壁で焼き尽くすよ」
カミラがそう言う。
「大丈夫なのか? 火なんか使って?」
俺はカミラに聞き返す。
「森の中じゃなけりゃ大丈夫でしょ? 最悪、燃え広がったら雨でも降らせるよ」
カミラがそう言って、もう一度氷の壁を3枚出し、さっきと同じような砦を作る。
俺とエリーはさっきと同じように藪を越え、氷の壁の端に走る。
そこからさっきの繰り返しだ。
というか、さっきよりゴブリンの数が増えているじゃねえか。
そこからひたすらゴブリンを減らす作業。
30体くらい倒したころだろうか。ゴブリンが戸惑いだし、顔を見合わせると、1匹、1匹と逃げ始める。最後は俺が逃げるゴブリンに追い打ちをかけ、5匹倒し戦闘終了となる。
「ふう。疲労で死にそうになったよ」
俺はそう言って笑う。
「『24時間戦える』のスキルで疲れ知らずなくせに」
カミラが呆れ顔でそういう。
気持ち的に疲れたって感じだ。
「私は疲れましたよ」
エリーがそう言って疲れた顔をする。
「落ち着いたら、魔法石の回収と鉄くずの回収をしましょ?」
ミユキがそう言う。
そうだな。折角ゴブリンをこれだけ倒したんだ。取れる物は取っておこう。
とりあえず、周りを警戒しながら、まずはこのまわりのゴブリンの解体と魔核、魔法石の回収、ミユキとフブキはゴブリンの武器を回収し、鉄くずの部分だけ切り取りリュックにつめていく。
それが終わったら、最初の戦場に戻り、同じように魔法石と鉄くずを回収する。
残念ながらこの戦場の武器はゴブリンが撤退しながら少し回収されてしまったようで全部は回収できなかった。
「とりあえず、お昼近いし、昼飯を食いに帰るか。無理にダンジョンに行って帰り道さっきみたいな目にあったら帰れる自信がないしな」
俺はそう提案する。
「そうだね。森の中の魔物の密度が下がらないとちょっとダンジョン攻略は危険だと思うし、お昼ご飯食べたらゴブリンも態勢を整えてもう一度襲ってくるかもしれないしね」
カミラも賛成らしい。
「だったら、鉄くず、まだ少ないけどお祖父ちゃんのところに届けてもいいかな? お祖父ちゃん喜ぶと思うし」
ミユキがそう聞いてくる。
「そうだな。昼御飯を食べる前に寄って行こう」
俺はそう言って笑う。
ミユキとフブキの爺さんへの愛情は、はたから見ていても気持ちがいいな。
「エリー、頑張ってもらったのに悪いが、一度仕切り直しだ。予想以上にこの森の魔物の濃度が濃すぎるみたいだ」
俺はそう言ってエリーに謝る。
「ダンジョン攻略は明日以降ですかね」
エリーはそう言って笑ってくれる。
そんな感じで、一度町に戻る。
鍛冶屋に行って爺さんに鉄くずを渡す。
爺さんは迷惑そうな顔をしていたが、多分嬉しいのだろう。
ミユキとフブキも嬉しそうだ。
そのまま、昨日行った双子お勧めの食堂に行って昼食を食べる。
カミラはいつもより美味しいご飯に大満足のようだった。
「そういえば、カミラ、ありがとうな。カミラがいなかったらあの数のゴブリンを捌けなかった」
俺は昼食を食べながらそうお礼を言う。
「その分、魔法石は貰うからね。あと、魔法石を換金したお金もちゃんと分配してもらうからね」
カミラがどや顔でそういう。
「魔法石は俺の分け前の半分やるよ」
俺は仕方ないのでそう言う。
「だったら、私の分からも引いてください」
エリーがそう言い、
「そんな事言ったら私達も渡さないとダメだよね?」
フブキがミユキの顔を見ながらそう言い、ミユキも頷く。
「そう言われると困ったな。じゃあ、とりあえず、魔法石の配分は俺とエリーが1に対して、カミラが2、ミユキとフブキは最初の話し合いの通り2人で1って感じの分配でいいか?」
俺はそう言い、エリーと双子が頷く。
「なんか私一人悪者になってない?」
カミラが不満そうにそう言い、みんなが笑う。
「カミラはもう少し可愛らしい態度や会話ができれば幸せになれると思うぞ」
俺はカミラにそう言って笑うが、他のメンバーには不評だったようだ。セクハラするおっさんとみられたか?
「まあ、カミラちゃんのおかげで効率的に魔物を倒せたしね。午後も頑張って、明日にはダンジョン攻略できるように森の魔物を減らしまくろう」
フブキがそう言ってやる気になるが、こいつは魔物狩りが相当楽しいらしい。カミラやエリーに負けないくらい戦闘狂だ。
まあ、1日でも早くダンジョンに潜り、ダンジョンにいる魔物も減らしておきたいのでメンバーがやる気になってくれるのはうれしいが。
そして、なんだかんだ言って、ゴブリンはレベル25、しかも倒した数が膨大なので経験値効率は良かった。
午前中の戦闘だけでも俺達はそれぞれレベルが上がっていた。俺は口頭で一応レベルの確認もしておく。
タイヨウ レベル45→46
カミラ レベル43→45
エリー レベル42→44
ミユキ レベル32→36
フブキ レベル32→36
昼食を終え、午後も再度ダンジョン手前の森の魔物狩りを始める。
ゴブリンも態勢を整えたようで午前中と同じように待ち伏せから始まり、量による一斉攻撃、そして最後は包囲するように全方向からの攻撃。
午前中と同じようにカミラの魔法でゴブリンの一斉攻撃をくじき、1対1で戦える状況でゴブリンを減らしていく。
そんな感じで、森の中で一進一退の戦いをゴブリンとくり広げ、気がつくと、日が暮れてきた。
「もうすぐ日が落ちるな。魔法石と鉄くずを拾ったら帰ろう」
俺はそう提案し、みんな賛成する。
ゴブリンとの戦いは休みなく続いたためみんなへとへとのようだ。
俺だけは『24時間戦える』のスキルの効果で疲れ知らずみたいだけどな。
まあ、1日中ゴブリンを倒しただけあって、5人というか実質4人で250体近いゴブリンを倒し、午後もみんな結構レベルが上がった。雪豹族の双子に関してはレベル40の大台に乗った。
タイヨウ レベル46→48
カミラ レベル45→46
エリー レベル44(レベルアップ無し)
ミユキ レベル36→40
フブキ レベル36→40
そのまま、町に向かう帰路につき、東門から町に入る。鍛冶屋は街の東にあるので、先に雪豹族の双子を家に送ることにする。
「魔法石の分け前は明日でいいか?」
俺は今日拾った魔法石の精算が済んでいないので気になって聞いておく。
「ええ、大丈夫ですよ。それに、鉄くずがいっぱい手に入ったのでそれだけでも満足なくらいなんですけどね」
ミユキが嬉しそうにくるっとターンすると、鉄くずでいっぱいになったリュックサックを、見せてくれる。
そして、リュックサックの下の辺りから垂れ下がる雪豹らしい肉厚で太い尻尾がふりふりと嬉しそうに揺れている。思わず握ってみたくなる太さとむっちり感だ。
俺は、理性を保ち、その欲望をこらえる。
「それじゃあ、兄貴、姉貴、また明日ね」
フブキがそう言って手を振り、鍛冶屋に入っていく。
「疲れが残らないようにゆっくり休めよ」
俺はそう言って手を振り返す。
その後。俺とエリーとカミラ、3人で宿屋に戻り、夕食を食べる。
「お兄ちゃん、今日の夜の狩りはどうするの? 私もさすがに今日は寝たいかな。明日も朝から参加させられそうだし」
カミラが夕食を食べながら聞いてくる。
「そうだな。俺としたら『24時間戦える』のスキルのせいで少し戦い足りない気はするから適当に西の森周辺でソロ狩りでもするさ」
俺はそう答える。
「タイヨウお兄さん、1人じゃ危険じゃないですか?」
エリーが心配そうに聞いてくる。
「なんだかんだ言って、レベル48になったからな。無理をしなければ一人でもなんとかなるだろう」
俺はそう言う。
エリーも昼間の狩りでつかれているだろうし、付き合わせるわけにはいかないしな。
「しょうがないな。親友のエリーちゃんの為に、可愛いカミラちゃんが、いい物を貸してあげよう」
カミラがそう言うと、短い方の護身用魔法杖を出して魔法の詠唱を始める。
「おいおい、酒場で魔法はマズいだろ?」
俺は慌てる。
カミラは問題ないような顔で詠唱を続ける。
「光の精霊よ、魔法石の力を代償に光の霊獣をお貸したまえ。『霊獣召喚』!」
カミラが少し周りを配慮して小さい声でそう唱えると、魔法の杖からふわりふわりと光の玉が出てきて、徐々にその光が形を成していく。
なんだこりゃ? ひよこ? いや、太ったニワトリ?
何か良く分からないが光る丸い鳥が机の上に現れる。メロンくらいの大きさの丸い鳥だ。
「なんだこれ? ニワトリか?」
俺は首をかしげる。
「どう見たってニワトリでしょ? というか、光の霊獣。精霊の力を借りて召喚したの」
カミラが半ギレしてそう言う。
いやいや、デザイン的にニワトリと断定できるようなものじゃないぞ。というか、この世界のニワトリはこんな形をしているのか?
「カミラちゃん、凄い!! 霊獣使いもできるんだ!」
エリーが興奮する。
「霊獣使いってほどじゃないけどね。魔法使いの延長として、生活に使えるくらいの弱い霊獣が召喚できるくらい?」
カミラが照れながらそういう。
「で、これはなんだ? 何に使うんだ?」
俺はついていけず、率直に聞いてみる。
「まあ、要はちっちゃい精霊みたいなもの? 光の霊獣だから明かり代わりになるし、明かり代わりに使って。あと、魔物に囲まれて困ったら強い光を発するように命じれば目つぶしにも使えるよ。ただし目つぶしは1回使ったら霊獣消えちゃうけどね」
カミラがそう言い、ニワトリ? に何か命令すると俺の頭の上を飛びだす。
こいつニワトリのくせに飛ぶのかよ。というか、なんかうざいし、周りの視線が痛い。
そんな感じで、カミラから閃光弾代わりの太ったニワトリ、もとい、光の霊獣を借りて、もしもの時の為に回復薬も1つ借りて夜の魔物狩りに出る。
そんな森での魔物狩りと夜のソロ狩りを次の日も繰り返し、北東のダンジョンに挑めるようになったのは2日後の異世界に来て10日目の事だった。
次話に続く。
魔物狩りは繰り返しになるので最後1日スキップしました。




