第24話 兄、森のゴブリンと戦う(前編)
【異世界生活8日目 朝】
「この森の中にゴブリンが満載か。骨が折れそうだな」
俺はそう言ってため息を吐く。
「もちろん、レッサーウルフや、ミディアムラットやミディアムリザードなんて魔物も出てくるだろうけどね」
雪豹族のケモミミ娘、フブキが楽しそうに言う。
「とりあえず、フブキとミユキはレベル32になったんだよな? ゴブリンの平均レベルは25だから1対1なら苦戦することはないか」
俺はそう言って、他のメンバーのレベルも聞いて確認する。
タイヨウ レベル45
カミラ レベル43
エリー レベル42
ミユキ レベル32
フブキ レベル32
俺とエリーは多少魔物に囲まれても対処できるレベルだろう。
そして、カミラなんだが、昼間は日焼けでやけどするからと日焼けマントを着込み、魔法による補助以外は戦闘参加不能と。
「ここからの作戦だが、前衛は、俺とエリー。ミユキとフブキは後方でカミラを守ってくれ」
俺は各自にそう指示する。
「え~、私も最前線で戦いたいよ~」
フブキが不満を漏らす。
「伏兵とかいたり、後ろから回り込まれたりしたら退路が断たれるだろ? その時の為の秘密兵器だ。それにカミラが接近戦できないし、飛び道具、投石器や弓矢の対応ができないからな。守ってやって欲しい」
俺はそう言う。
まあ、カミラは一人でも何とかしそうだけどな。魔法で矢を落としたり、魔物に囲まれたりしても魔法で焼き払いそうだ。森ごとな。
それと、道に人がいてくれた方が、ゴブリン達も遠距離武器で戦うか、近寄ってくる俺達と近接武器で戦うか迷いが生じそうだしな。
言っちゃ悪いが、ゴブリンを迷わせるためのまとというかおとりだ。
もちろん、おとりと言っても近接戦をする俺やエリーより格段に安全性は高い。
「もう、しょうがないな」
フブキが残念そうにそう言う。
「もう少しレベルが上がったら、前線で戦わせてやる」
俺はそう言ってフブキに笑いかける。
安心してゴブリンと戦わせるにはやはりレベル40台にはなって欲しい。
「まあ、最前線で戦わなくてもお兄ちゃんのスキルで、経験値が入るから楽してレベルはあげられるしいいんじゃない? まあ、戦闘に参加している感じは出さないとダメだけどね」
カミラが適当な事を言う。
まあ、俺が倒した分の経験値は妹たちに共有されるらしいから嘘ではないんだが、楽してって言うのはちょっとやめてくれといいたい。
「じゃあ、行くぞ」
俺はそう言い、北東のダンジョンにつながっているらしい、森の中の小道に足を踏み入れる。
2~3人しか横に並べない狭い道だ。
そんな森の中の小道を少し歩くと、
「魔物がいるよ」
カミラがそう言う。
「もうかよ? 早すぎるだろ」
俺はカミラにそういう。
実際森に入って2~3分歩いただけだ。
「左右の茂みにそれぞれゴブリンが6体、合計12体って感じかな?」
カミラがそう呟く。
俺も茂みに集中すると、俺の特殊スキル『妹の為に警戒する』、要は危険を感知するスキルが発動し、確かに茂みのなかに並ぶように6体ずつ魔物らしき存在が確認できる。
魔物が潜んでいそうな所が緑色に光るのだ。
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
ゴブ 藪 藪 ゴブ
木 藪 藪 木
藪 藪
木 藪 藪 木
藪 エリー 俺 藪
木 藪 ミユキ フブキ 藪 木
藪 カミラ 藪
木 藪 藪 木
「エリー、敵の位置は把握できるか?」
俺は隣に立つエリーに確認する。
「耳と鼻には自信があります。気配で大体の位置は把握済みです」
自慢げにそう言うエリー。
さすが、犬耳族といったところか。こうして話している間も耳がせわしなく音を拾う為に動いている。
そして、体臭は気をつけないとな。自分から鼻がいいと言う女の子とかっておっさんにしたらなかなか怖い存在だ。
「じゃあ、予定通り、ミユキとフブキはここでカミラを守りつつ、周囲に警戒。俺は右の藪から攻めるからエリーは左の藪を頼む」
俺は全員にそう指示をする。
そしてそれと同時に飛んでくる大量の石と粗悪な矢。
「大丈夫か! エリー!?」
俺は小盾で石や矢を受けつつ、エリーを気遣う。
俺の横でメリケンサックをつけた両手、左右のワンツーで石を叩き落し、チョップで矢を逸らす。
「この距離なら余裕ですね」
エリーがニコッと笑う。
俺は少しひいた。飛び道具を素手で撃ち落とす少女って・・・。
「ミユキ、フブキ、後は頼んだぞ。できれば危なくならない程度にゴブリンの気を引いてくれ」
俺は雪豹族の2人にそうお願いし、真横に移動、藪に飛び込む。
藪の裏側から木の影を利用しながらゴブリンに近づく作戦だ。
エリーも左の藪に飛び込む。
「いいなぁ、私もあれやりたい」
後ろの方からフブキのそんな声が聞こえる。
俺はそんな声を無視して全速力で木を縫う様に走り、ゴブリンに近接。右手に持ったメイスを上段にふりあげ、ゴブリンの脳天に叩きつける。
「ギャギャ!!」
「ギャワ!」
藪に隠れていたゴブリンが騒ぎ出し、遠距離武器を捨て粗悪な鉄の手斧に持ち替え始める。
俺はその隙を見逃さず、2体目のゴブリンに駆け寄りゴブリンの横っ面を殴り飛ばす。
そして、その倒れるゴブリンのすぐ横をすり抜け、矢が飛んでくる。
「あぶねえ」
俺はとっさに小盾で受け、尻もちを付いてしまう。
こいつら、仲間がいるのに飛び道具とか容赦ないな。
とりあえず、急いで立ち上がり、盾を構える。
ゴブリン達も藪の裏で横に並び飛び道具を構える。弓持ち3体に、手斧持ちが1体。
くそう、相手に態勢を整えさせてしまった。
藪 木 木
藪 ゴブ
藪 ゴブ ゴブ ゴブ
藪
藪 俺 木
そんなことを考えている間にも矢が飛んでくる。
1発目を盾で受け、2発目は、サイドステップで避ける。ステータス補正で避けられたが、普通の人間が近距離から飛んでくる矢を避けるなんて普通できないぞ?
そして、少し遅れて3発目が飛んでくるが冷静に盾で受ける。
俺は、敵が弓をつがえている間に急いでゴブリンに駆け寄る。
それに合わせて、手斧持ちのゴブリンが襲ってくる。
俺は小盾で手斧を受け、メイスでゴブリンの脳天を叩く。もう1体倒した。
そして、それと同時に「ビン」と、弓の弦をはじく音。
俺の視界に2体のゴブリンが目に入る。
「やべえ」
俺はそう叫び盾と右手で顔と首をかばい、肘で胸を守る。急所を庇う様に丸くなる。
そして左横腹と右腕に痛みが走る。痛え! 矢で射られた。
俺はガムシャラにゴブリンに襲い掛かり、矢の刺さったままの右手でメイスを振るい、右のゴブリンのこめかみをフルスイング、首が変な方向に曲がり、大きく横に吹き飛ぶ。
左のゴブリンが後退しながら弓矢をつがえるのが見えるので俺は、左手に持った小盾で弓矢に殴りかかるようにしながら飛び込み、矢を弓ごと吹き飛ばし、その勢いでメイスを振るい、ゴブリンの首のあたりに命中。メイスの回転に巻き込む形になり、ゴブリンが俺の左に前のめりに倒れる。
「ビン」
もう一度、弓の弦を引く音がし、俺は慌てて盾で顔を隠す。
運よく矢が盾に当たり、あらぬ方向に。
あぶねえ。俺の全身から冷や汗が出る。
そういえば、もう1体いたな。1体は他のゴブリンが邪魔で攻めあぐねていたようだ。こいつがモタモタしてくれたおかげで助かったな。
冷静にその残りのゴブリンを確認。
矢筒から矢を取り出し弓に次の矢をつがえようとしているが遅い。
俺は全力で飛び込み、メイスで横に薙ぎ、弓矢を叩き折り、落ち着いて上段に構え、最後のゴブリンにとどめを刺す。右の藪は戦闘終了だ。
そして、矢の刺さった部分が急に痛くなる。
戦闘が落ち着いて、反対側の藪をみるとエリーは先に戦闘を終わらせていて慌てて俺の方に駆け寄ってくる。
「タイヨウさま、大丈夫ですか!!」
エリーはあまりの慌てようにお兄さん呼びを忘れている。
「ああ、大丈夫だ」
俺はそう言ってとりあえず、藪から小道に出る。
「結構やられたねえ」
カミラが呆れ顔でそう言ってくる。
「こいつら、仲間とか関係なしに矢を撃ってきやがる」
俺は悔しくてそう言う。
「まあ、こいつ等、アホだからね」
フブキがそう言って笑う。
俺としては笑い事じゃないんだけどな。
「お兄ちゃん、回復薬使う?」
カミラがそう言う。
そういえば、こいつ、人前では回復魔法が使えるのは内緒だったな。
「悪いな。くれ」
俺はそう言って地面に胡坐をかくと、盾を地面に置き、カミラに左手を伸ばす。
「タイヨウお兄さん、私、治療しますね」
エリーが慌てて俺の横に立膝をつき傷を見てくれる。
「少し痛いけど我慢してくださいね」
エリーがそう言って、思い切り右手に刺さった矢を抜く。ぶちっと音がしそうなくらい思い切りだ。
「いてえ!!」
俺は思わず、右手の傷を抑える。
エリーは落ち着いて俺の右手の手袋を脱がすと、カミラから受け取った回復薬を垂らす。
傷口が泡立ち、傷が塞がる。
「この世界の傷薬は凄いな」
俺は驚く。
「これはかなりいい回復薬ですよ。薬草で作ったような傷薬ではこんな早く回復しません。多分、神官が回復魔法を込めてある魔法薬ですね。解毒効果もありますよ」
エリーが回復薬の入った瓶をまじまじと見る。
というか、俺、毒も喰らってたのか?
「それ、高いからね。あとで返してもらうよ」
カミラがそう言って笑う。
「出世払いで頼む」
俺はとりあえず、ボケで流す。
この世界、回復薬には薬草で作った塗り薬のような即効性のない傷薬と、この瓶のような即効で傷が塞がる魔法のこもった魔法薬があるらしい。薬草を煎じた薬液に回復魔法を込めた物らしい。
「わき腹の方も抜きますね」
エリーがそう言い、思いっきり引き抜く。
「だから、いてえって」
俺は横腹を抑える。
「皮の防具を着ていてよかったですね。矢が皮膚と筋肉で止まっていましたよ」
エリーがそう言って、手際よく俺の着ていた服と鎧をめくり上げる。
貫頭衣のような簡易な皮鎧なので、横の紐をとくと簡単に脱げるのだ。
そして、腕の傷と同じように回復薬を数滴垂らす。
傷口が泡立って、泡が消えると傷も消えている。
そして、痛みも治まった。
「ありがとう、カミラ。助かった。エリーもありがとうな」
俺はそう言って残りの回復薬を返す。
こいつ、回復魔法使えるし、どうせこれも手作りで元手ゼロなのだろうな。きっと。
「それくらいの傷だったら傷薬と包帯でもよかったね。あまりに痛がるから結構重傷かと思ったのに」
カミラが呆れるようにそう言う。
元の世界では弓矢に撃たれた経験なんてないからな。そりゃ痛がるだろ?
「お兄さんもお祖父ちゃんに防具を作って貰ったらいいですよ。鉄くずが貯まったらの話になりますが」
ミユキがそう言って鍛冶屋の営業をしてくる。
確かに、装備が貧弱すぎるもんな。お金が貯まったら防具を買い替えようと思うのだが、お金が全然貯まらないのだ。
まあ、戸籍不明の外国人扱いでいい稼ぎどころがないし、お金目当ての仕事自体、選んでいないしな。
それに、お金を貯める前に北東のダンジョンの魔物を狩り尽くすことが先決だしな。
勇者に担ぎ上げられた妹のあてながこの先のダンジョンに来る前に狩り尽くさないといけない。7日後にはダンジョンに挑むらしいし、時間がない。
「時間がないし、次行くぞ」
俺は鎧と服を整え、皮の手袋をはめ直し、盾とメイスを装備する。
「こっちから行かなくても向こうから来たみたいだよ」
カミラがそう言って小道の先を指さす。
「マジか」
俺の目に映ったのは小道に溢れんばかりのゴブリンの群れ。見えるだけでも30体、いや、50体はいる。
狭い小道を競う様に俺達に向かって走ってくるゴブリン。
あまりのその数と勢いに俺は呆然とするしかなかった。
次話に続く。




