第22話 兄、双子の妹のレベルを上げる。
【異世界生活7日目 昼】
その後もダンジョンへの道案内役の雪豹族の双子の育成を続け、お昼になったので一度町に戻り昼食を食べる。今日は宿屋の酒場ではなく、双子お勧めの安くてうまい、街でも有名な食堂らしい。
双子と、俺とエリーの4人で昼食を食べながら休憩と午前中の反省会だ。
「兄貴って、本当に凄いんだね。カミラが言っていたとおり経験値が余計に入るみたい。あっという間にレベル25だよ」
フブキが羊肉のリブステーキを、骨の部分を手づかみで頬張りながら嬉しそうにそう言う。
羊肉の野菜炒め、ジンギスカンのようなものを食べているミユキも俺の方をみて嬉しそうに笑う。
「これなら予想以上に早くレベルが上がって、ダンジョンの案内ができるようになるし、ダンジョンに行けるようになれば鉄くずがいっぱい手に入りますね」
ミユキがフォークを置いてそう言ってもう一度嬉しそうに笑う。
「私もレベルが3つも上がってレベル40になりました」
エリーも負けずとそう言い嬉しそうな顔をする。
「そうか、エリーはレベル40か。そこからレベルを上げるのは結構大変だぞ。必要経験値がさらに5倍に跳ね上がるし、ここら辺の敵だと格下になるから数を倒してもなかなかレベルが上がらなくなる」
俺はそう答え、頑張れよと応援する。
実際俺のレベルも午前中だけでは一つも上がらなかった。
「レベルが上がりにくいと言っても、これからタイヨウお兄さんは北東のダンジョンの魔物を狩り尽くすんですもんね。それに付き合うんですから知らないうちにレベル60くらい、いっちゃうんじゃないですか?」
エリーがそう言って笑う。
旦那の仕事を手伝う有能な嫁ポジションを狙っているらしい。というか、双子に有能な嫁だと見せつけたいらしい。ちらちらと双子の視線を確認している。
「レベル60あれば、フブキと2人でも鉄くず拾いにいけそうですね」
ミユキがそう言って喜び、フブキは微妙な顔をする。
よく分からないが何か思うところがあるんだろう。相談したくなったら乗ってやればいいか。
「午後はどうするか。ダンジョンまでの道のりの掃除をさっそくやってみるか? ミユキもフブキもまだ、余裕はない感じだがミディアムラットに対して1対1でも戦えるようになってきたしな。それとも町の西でミディアムラット狩りを続けてもう少しレベルを上げるか?」
俺は昼食も半分以上済み、午後の計画を立てる。
「難しいところですね。2人の強さ的にはこのあたりに出没する魔物くらいなら大抵一人で相手することができるくらいにはなりましたが、森に入るとなると、また別の話です。視界が狭くなり、魔物に気づかないうちに近接される危険性も出てきますし、待ち伏せもあり、いきなり真横の茂みから、魔物に襲われるなんてことがあるくらい、森と平原では戦いの難易度が違いますからね」
エリーがそう言って難色を示す。
実際、俺も森の中で戦った経験はない。今までの戦いはあくまでも平原での戦いや、森から平原に魔物が出てくるところを待ち構えて倒すくらいで、森に近づくことすらまだしてなかったな。
「そうなると、今日は西の森の手前、視界のいい場所でミディアムラットやミディアムリザードを倒して二人のレベルを上げられるだけ上げるか。そして、明日からカミラも混ぜて、実際にダンジョンに向かってみる。そんな感じでどうだ?」
俺はエリーにそう答える。
「そうですね、二人のお爺様より、無茶はするなとい言われていますし、今日は無理をせずに着実にレベルを上げていきましょう」
エリーも賛成する。
フブキはちょっと不満そうだが、何かあったら俺達も困るし、爺さんが怖いしな。
それに、カミラがなんだかんだ言って色々謎スキルを持っているから、初めて森に入る時はカミラも一緒に入ったほうがいい気がする。
そんな感じで、午後も夕方5時まで4時間近く、魔物狩りを続け、町に帰るころにはフブキのレベルはレベル32になっていた。レベル15からレベル32。頑張りすぎだろ?
俺はやり過ぎた感がしたが、双子達は、特にフブキはホクホク顔だ。
フブキの剣技も力や鋭さが増して、動物の毛皮の硬さに負けないようになってきたしな。
そして、西の森の魔物も結構減らせられたので、妹のあてながこの町に来るときに危険な目に会いにくくなったような気がする。
日が暮れる前に町に帰り、傭兵ギルドに寄って魔法石の換金をしておく。
ランク2の魔法石が120個で銀貨12枚、ランク1の魔法石が104個で銀貨3枚と小銀貨2枚。
これを予定通り3等分して分ける。ミユキとフブキはレベルアップの指導料もあるので2人で1人分になっている。まあ、実際魔物を倒したのは俺が一番多いしな。
「ミユキちゃん、フブキちゃん、魔法石のお金、半分で大丈夫?」
そう言ってエリーが2人に銀貨5枚と、割り切れなかった小銀貨2枚をおまけで渡す。
「大丈夫です。というか、もらえなくても当たり前くらいの仕事しかしてなかったし、本来必要のない魔物狩り、私達のレベルアップに付き合ってもらった立場なので、本当は貰わなくてもいいかなって思っています」
ミユキが申し訳なさそうにそう言う。
「そうだね。レベルが32に上がっただけでも十分な報酬だよ」
フブキが嬉しそうにそう言う。
「それと、銀貨がもう1枚あれば、銀貨6枚で傭兵ギルドのギルドカードが作れるけど、銀貨1枚貸すか?」
俺はミユキに一応聞く。彼女は工房ギルドのカードしか持っていないからレベルの確認やスキルの確認ができないのだ。
「私も返してもらうけどね」
フブキがそう言って笑う。
「もう!」
ミユキがそんなフブキに腹を立てる。
「じゃあ、お願いします。明日の取り分から引いてくださいね」
フブキがそう言うので、俺は銀貨1枚を貸し、フブキは傭兵ギルドの受付で登録とカードの作成をお願いする。
そして出来上がった真新しいカードを嬉しそうに俺に見せてくれる。レベルはフブキと同じレベル32だった。
「二人とも、夕食を食べていくか?」
俺はそう言ってギルドの隣の直営の酒場を指さす。
「ううん、大丈夫。家でお祖父ちゃん待っているしね」
ミユキがそう言う。
「そうだな。爺さん心配していると思うぞ。早く帰ってやりな」
俺はそう言って、明日の約束をして双子と別れる。
「ミユキ、フブキ、家まで送ろうか?」
すぐに、俺は少し心配になりそう聞く。
「大丈夫ですよ。フブキと2人だし、外はまだ少しだけ明るいですし、急いで帰れば暗くなる前に帰れます。それにレベル32で武器を持った子供2人ですよ? 並大抵の大人では相手にならなくなっちゃいました」
フブキがそう言って笑う。
確かに日暮れ時だが、まだ陽の光は残っている。
そして平民でレベル20越えはそうそういないらしいな。小さい子供がたった1日でそんな強くなっていいのだろうか?
まあ、RPGのゲームシステムみたいな世界だからまあ、いいか。
俺は考えるのをやめた。異世界とかよくわからないしな。
「それじゃあ、また明日宜しくお願いします。お、お兄さん」
ミユキが恥ずかしそうにそう言って、駆け足で家に帰っていく。
とりあえず、宿の部屋に戻り、カミラと合流して夕食をとる。朝に換金した、昨夜の魔物狩りの魔法石代も渡しておく。
そして、3人で夕食を食べながら、明日の予定を決める。
「雪豹族の双子、今日の魔物狩りでレベル32になったから、明日さっそくダンジョンまでの道のりを挑戦してみるぞ」
俺は何も知らないカミラにそう伝える。
「へえ~、結構早かったんだね。明日か明後日ぐらいまでかかるかな?って予想していたんだけど」
カミラがそう感想を漏らす。
「ああ、西の森にいい感じにミディアムラットが沸いてくれたからな」
俺は言葉少なくそう答える。
「ミディアムラットかぁ、レベル15の女の子達に結構無理させたね」
カミラがそう言って笑う。
「もちろん最初からじゃないぞ。最初はスライムやスモールラット、レッサーウルフである程度レベルが上がったからミディアムラットと戦ってみた。ちゃんと正しい順序は踏んでいる」
俺はそう弁明する。
というか、本当にいい順番で魔物が出てきてくれたおかげで予想以上に早くレベルが上げられた。
ぶっちゃけ、俺も明日くらいまでかかるかなとは予想していた。
「まあ、そんな感じで、明日は予行練習みたいな感じで北東のダンジョンに向かって森の中を進んでみようと思う。多分、ギルドの受付の人の話だと、ダンジョンは放ったらかしだったらしいし、そこまでの道のりも魔物だらけで、ある程度数減らさないとダンジョンに到達すらできなそうだけどな」
俺はそう言う。
「だったら、ある程度魔物が減って、ダンジョンに入れるようになったら私を呼んでよ。昼間じゃ、日除けマントが邪魔で戦闘できないしね」
カミラがそう言って、明日の昼間も寝る気満々だ。
「なあ、どうせ、カミラの事だから、森の中でも安全に戦えるスキルみたいなの持っているんだろ?」
俺はあまり他人に聞かれないように耳元でそう内緒話をする。
「まあ、無い事もないけど。『危険感知』スキル? でも、お兄ちゃんも多分似たようなスキル覚えられるよ。『妹の為なら』『注意を払う』みたいな? 妹が危険な目に合わないように周りに注意を払う感じを想像すれば新しいスキルが手に入ると思うよ」
カミラが興味なさそうにそう言う。
「そんな都合がいいわけ・・・」
俺はそう言いかけてなんとなく妹のあてなと危険な森に入るイメージをしてしまう。藪から肉食動物が出てこないか? 毒蛇がでてこないか? みたいな感じだ。
そうすると、ギルドカードがブルブル震える。マジか?
俺は慌ててカードを取り出すと、周りから覗かれないようにこっそりカードケースを外し、裏のスキル一覧をみる。
確かにまたスキルの枝が伸びて、『妹の為なら』から枝が伸び、その先にはカミラが言った通り『注意を払う』のスキルが追加された。
「そのスキルは、周りを警戒することにより自動でスキルが発動。周りに魔物が隠れているとそのあたりが緑色に光りだして見えたり、罠とか毒とかにも反応して妹にとって危険な物があると、緑に光り輝いて教えたりしてくれるんだよ。まあ、MPは使わないけど、体力と精神力を結構使うから、時々休まないと倒れるよ」
カミラがそう教えてくれる。
こいつは『鑑定』スキルとかいう奴で俺のレベルはもちろん、スキルまで自在に覗かれてしまう。
しかもまだ見たことないスキルまで教えてくれるのだ。いったい、こいつの目には、俺の何が見えているんだ?
「とりあえず、明日は、朝から付き合ってあげるよ。『危険感知』のスキルの使い方見せてあげる。あと、たまに魔法使う予定だから、その分の魔法石はお兄ちゃん持ちだからね」
カミラがそう言う。
手伝ってくれるのはありがたいが、一方的な要求に少しイラっとする。
とりあえず、夕食も終わり、明日はカミラを含めて5人でダンジョンまでの道のりを開拓というより魔物の数を減らす作業をする。『危険感知』のスキルの使い方を習いながら。
夕食後は軽く夜の魔物狩りに出かけ、昨晩同様、南の街道近辺の魔物を駆除する。
そして明日の朝は早くなりそうなので、夜の10時には宿に帰ってきて就寝する。早く寝ないとカミラが朝、起きようとしないからな。
次話に続く。