第21話 兄、双子の妹育成計画。
【異世界生活7日目 朝】
道案内役をお願いした雪豹族の双子の育成を始めた俺達。
彼女たちはダンジョンまでの道案内を任せるにはレベルが低すぎたからだ。
そして、町の外周、魔物に浸食された第三層の石垣、そのあたりがレベル上げにちょうどよさそうということで、半壊した石垣に沿って反時計回りに回って双子のレベル上げをする。
北東のダンジョンがある森の中にはもっと強い魔物がいるらしいからな。
午前中はこのルートでぐるりと街の周りをまわってお昼になったら休憩、レベルの上り度合いを見て森に入るか決める感じだ。
そんな感じで、石垣と開拓途中の森を拓いた平原の間を歩いてく。
荒れた小麦畑からはスモールラット、そして森からはスモールラットという餌を求めてレッサーウルフが出てくる。特にレッサーウルフの経験値が雪豹族の双子たちには美味しいのだ。
双子たちも上手に戦えているようだ。
俺とエリーで左右から挟み、オオカミ達に囲まれないように調整しながら、双子のミユキとフブキ、2人で1匹のレッサーウルフを倒す状態を作ってやる。
双子はまず、防御力重視のミユキが盾でレッサーウルフを足止め、横から素早さ重視のフブキが自慢の双剣でレッサーウルフを滅多切りにする。
ミユキは戦鎚使いで、1撃の攻撃力と重さはあるが、手数が少ない。
逆にフブキは双剣使いで、手数は多いが攻撃が軽く、1撃ごとのダメージが低い。オオカミの硬い体毛を撫でているような状態でなかなか致命傷に至らない。
まあ、そこは双子で上手くやっているようで、レッサーウルフがミユキに気を取られている場合はフブキが手数で攻めて、運よく致命傷に入るのを狙い、レッサーウルフがフブキに気を取られ出した場合は横からミユキが首や背骨、致命傷になりそうな所を戦鎚の重い1撃で粉砕する。
いいコンビネーションだ。ただし、森に入るまでには1対1で魔物を倒せるようになって貰いたい。
そんな感じでレベル10未満のスモールラットやたまに出てくるスモールリザードを倒しつつ、レベル15前後のレッサーウルフを主に狩っていく。
そして、フブキはスモールラットを追いかけまわすのが好きなようだな。雪豹族の特徴でもあるらしい太くて立派な尻尾を楽しそうに揺らしながら巨大なネズミを追っかけまわす姿は、変な性癖に目覚めてしまいそうだ。俺は犬より猫派だからな。
いや、あくまでも犬に比べると猫派なだけであって、犬耳のエリーが嫌いなわけじゃないぞ。
町の東から、町の北、大きな街道を跨ぎ、魔物を倒しながら町の西までぐるっと巡回してきたところで、面倒臭いことになる。ミディアムラットの群れだ。
「西の森の方がレベルの高い魔物が多いのかもしれませんね。逃げますか?」
エリーが俺にそう聞いてくる。
確かに乗合馬車でこの町に来る途中もミディアムラットに襲われたのは西からだ。このもっと先に何かあるのかもしれないな。とりあえず、双子が低レベルなうちは近づかない方がいいかもしれない。
「フブキ、今、レベルいくつだ?」
俺はミディアムラットを警戒しつつそう聞く。
「えっと、さっきレベル19になった所だよ」
フブキが嬉しそうにそう言う。
短時間でレベルが4つも上がったのか。予想以上に成長しているな。俺の妹限定スキル、意外と有能。
「レベル19、二人ならいけるか」
俺はそう呟く。
そしてエリーがちらりとこっちを向き指示を待っている。
「とりあえず、倒すぞ。俺がミディアムラットを抑えるから、エリーはミユキとフブキが2対1で戦える状態を維持してやってくれ。それと、フブキ、調子に乗ってミディアムラットを追っかけまわすな。ミユキから離れるなよ。ミユキはいつも通り冷静に対処しろ。」
俺は3人にそう指示を出す。
「分かりました」
「はい」
「もう、私だってそんな馬鹿じゃないし。あんな大きいネズミ追いかけまわさないよ」
エリー、ミユキ、フブキがそう返事をする。フブキに関しては文句だらけだが。
まあ、ネズミのデカさが小型犬の大きさから中型犬の大きさになると怖さも倍増するからな。
「スモールラットとは強さがけた違いだ。注意して戦え。フブキとミユキは絶対2人で1匹相手にしろ。わかったな」
俺は双子に再度注意喚起する。ミディアムラットはレベル平均21越え、ランク2の強敵だ。
「タイヨウお兄さん、一応、補助魔法を使いますね。獣の王、そして獣の神、黒獅子王よ。我が聖なる力を供物とし、力をお貸ししたまえ! 『獣よ奮い立て』!」
エリーがそう言って、神官魔法を詠唱する。
仕組みはよく分からないが全身から力が沸きだしてくるきがする。
「エリーの姉貴、凄い!」
なぜかフブキが興奮する。戦闘狂の何か琴線に触れたのだろう。
そして、姉貴ってなんだよ?
「くるぞ」
俺はそう言って、ミディアムラットの右半分を相手にするような陣取りをし、左から少しミディアムラットが抜けるよう調整する。
ミディアムラットは全部で10匹。
俺は右の5匹を足止めするが、左の5匹が素通りし、ミユキやフブキたちを襲う。
「くそっ、流し過ぎた」
俺はそう叫び、右手に持ったメイスを地面にドスンと突き刺し、腰に付けた護身用のナイフを抜くと左を抜けようとしたミディアムラットに向けて投げる。
運よく1匹の横腹に刺さり、もんどりを打つ。
初めてナイフを投げたが運よくうまく当たったものだ。まあ、一番近いネズミを狙ったし、的がデカかったからよかった。
俺は気を取り直し、メイスを握り直し、目の前のミディアムラット5体に対峙する。
結構ヤバイな。
この世界の戦闘、結構リアルで、数が物を言う世界だ。レベルが低い格下の魔物でも数がいると轢き潰される。
まあ、昨日のミディアムラット200体相手にした戦いに比べれば楽なものだ。エリーの補助魔法もあって体が軽いし自由に動ける気がする。
そして、5体が一斉に襲ってくる。
俺は一番先頭のミディアムラットの攻撃を盾で受け、その隣のミディアムラットの脳天をメイスで殴りつつ、バックステップで間合いを取る。左右からも別のミディアムラットがくるので、右のミディアムラットの横っ面をメイスで殴り、右に全速力で走り反転。構え直す。
残りは3体。何とかなりそうだ。
俺は3体を警戒しつつ目の前に見えるエリー、ミユキ、フブキの3人の様子も確認する。
エリーが率先してミディアムラットを倒し、最初の予定通り、双子たちは二人で1匹のミディアムラットと戦えているようだ。
1匹仕留めたあと、エリーが2匹を相手にし、双子が1匹を囲んでいるのが見えた。
上出来だ。
そんなことを考えていると、俺が対峙するミディアムラットが再度一斉攻撃してくる。
さっきと同様、真ん中のミディアムラットが真っ先に襲ってくるので、盾で受けつつ、右のミディアムラットを上段からフルスイング。脳天をメイスで叩き、地面に叩きつける。
そのまま右に抜け、振り向きながら、左手に持ったバックラーで右の1体の横っ面を殴り、怯ませ、突撃してくる左の1体をメイスでフルスイング、横っ面を叩かれ、左に吹き飛ぶ、ミディアムラット。
その勢いのまま上段に構え直し、バックラーで殴り飛ばした最後の1体もフルスイングで地面に叩きつけ、戦闘終了。
何も考えないでフルスイングで殴りつければ敵が動かなくなる鈍器。刃物を扱ったことない俺には最適の武器だったようだ。素人には鈍器。武器屋のおやじには感謝だな。
まあ、将来的にはカッコイイ長剣を振り回して、いかにも勇者みたいな戦いをしてみたい気もするが、剣を習う余裕は金銭的にも時間的にもないしな。
エリー達の様子を見ると、最後の1匹をエリーが双子たちに任せて、双子がわちゃわちゃと頑張っている。エリーもいるし大丈夫そうだな。
俺は最初にナイフを投げたミディアムラットが立ち上がるのが見えたので、急いでとどめを刺しにいき、ついでにナイフを抜いて、魔法石を体内からとり出す作業。
魔法石は大抵の魔物が、胸腺のあたり? 心臓の斜め上くらいにあるみたいだ。
横隔膜の方からナイフと手を突っ込んで取り出すか、肋骨を開いて切り出すかの2択って感じだ。
魔物が大きくなると、骨が固いので、肋骨の下の方から、横隔膜をナイフでこじ開けて手を突っ込むのが一番早いとり方のような気がする。
そんな感じで、魔法石を抜き取り、残り5体の魔物の魔法石を取る作業をしていると、双子の戦いも終わったようで、向こうでも魔物の解体が始まる。
残り2体の解体になったあたりで、
「タイヨウお兄さん、手伝いますよ」
そう言ってエリーが残りの1体を解体してくれる。
「やったよ、タイヨウの兄貴、レベル21になったよ」
フブキが嬉しそうにギルドカードを見せてくれる。
「よかったな。ただ、レベル21以降はレベルアップに必要な経験値が跳ね上がるから、今の魔物みたいなランク2、少し強い魔物を倒さないとなかなかレベルが上がらなくなるからな。ただし無理はするなよ」
カミラと夜の魔物狩りをしたときに聞いたアドバイスの受け売りだが、俺はそう教えてやる。
そして俺は散々無理をさせられた。
というか、カミラが昼間の魔物狩りも手伝ってくれたら一番楽なんだがな。
「私もレベルが一つ上がって38になりました」
エリーも嬉しそうにそう報告してくれる。
ちなみに俺はレベル43、レベル41越えということで、レベル21を超えたあたりよりさらに必要な経験値が増えている。この世界のレベルアップというシステム、20上がるごとに必要な経験値が増えてレベルが上がりにくくなり、もっと上位の敵を倒さないといけなくなるようだ。
まあ、俺の場合レベル上げより、まずは北東のダンジョンの魔物を狩りまくり、妹で勇者のあてなを危険な目に会わせないことが最大の目的だけどな。
そして、4人でもランク2、ミディアムクラスの魔物を倒せることが分かったので、そのまま西の森周辺を散策し、ミディアムラットの群れを幾つか倒し、お昼まで魔物狩りを続けるのだった。
次話に続く。
こっそり、犬耳妹と猫耳妹に囲まれたワンニャンカーニバルです。
以降、ただの余談ですので、読み飛ばしてくださいw
経験値計算式を本文で説明すると飽きられそうなので、記述しませんが、結構、お兄さんの妹スキル、経験値共有の効果は馬鹿でかいです。
実際、最後のミディアムラットの戦いですが、そのスキルがなければ、ミユキとフブキの手に入れた経験値は551(ミディアムラットレベル21の1匹分)ずつ。レベルが19に上がる程度しか入手できません。
それが経験値共有スキルにより、お兄さんの経験値がそのまま妹たちにも同量入るので、3857も経験値が入っています。ミディアムラット6匹分の経験値が共有され、7匹倒した計算になります。
地味にチートなスキルです。
ちなみにお兄さんの方も、妹3人が倒した4匹分がフィードバックされるので2204の経験値がただで手に入っています。
それと、ランクアップする(レベルが21、41、61~)ごとに必要経験値が跳ね上がります。
レベル19→20になる時と、レベル20→21になる時では必要経験値が5倍に跳ね上がります。
同じようにレベル39→40になる時と、レベル40→41になる時に必要な経験値は5倍に、レベル19→20になる時と、レベル40→41になる時に必要な経験値を比較すると25倍も差があります。
お兄さんはレベル10台の雪豹族の双子より、25倍頑張らなきゃいけない感じです。
こっそり経験値計算しっかりしている小説ですw