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第2話 兄、とりあえず動いてみる。

「勇者様は会いたくないってよ! 無能なお兄様」

そう言って門番の兵士たちが俺を馬鹿にするようにヘラヘラ笑う。


 そして、対応に出てきた、身なりのいい男が同じ内容の事を少し丁寧に言い、動物の皮でできたような布? 羊皮紙に文字が殴り書きされたものを俺に向けて放り投げる。そして、兵士達と同じように俺を笑う。


 俺は妹の状況を確認するために、妹が連れていかれた王様の城らしき建物をめざし、城壁の正面にあった門の前までたどり着いたところで門番らしき兵士達に止められた。

 そして事情を説明したところ、兵士たちは対応してくれたのだが、結果こうなった。


 投げ捨てられた羊皮紙を見ると、

『無能な兄は足手まとい。二度と私に近づくな』

妹の、あてなの手書きの文字で書かれていた。

 あてなが子供だったころから見慣れた文字だ。俺が見間違うはずがない。


 城の連中に無理やり書かされたのか? その割に兵士や対応で出てきた身なりのいい男に演技をしている素振りや何かを隠している素振りは見えなかった。


 俺は何が起きているのかも分からずにトボトボと今来た道を歩く。どこに行ったらいいのかもわからない。



 こうなったら、子供のころによくやった、家庭用ゲームのRPGの真似事でもしてみるか。

 運よく言葉は通じるようだし、文字もなぜが現地の文字にフリガナのように日本語のルビがついてくれる。なんだか良く分からない光の文字だ。


 俺はまずは街の住人、人のよさそうな人間に声をかけ、この世界の事、勇者のこと、この街で生活する手段など聞いてみる。歩いているうちに、人の集まる大通りの市場のようなところも教えてもらえた。


 とりあえず分かったことは、ここは明らかに、元いた世界とは違う世界。日本なんて国を知る人間はいなかったし、俺も聞いたことのない地名や国名が出てくる。

 どこかヨーロッパの片田舎に飛行機が不時着したのならよかったが、明らかに生活水準や文明が違いすぎる。ヨーロッパはヨーロッパでも、かなり昔の時代に来てしまったような印象。もちろん昔のヨーロッパにタイムスリップしたわけでもなさそうだ。


 そして、さっき会ったのはやはり、この国の王様。そしてここはその王様が治める王国らしい。周りにも似たような国が幾つかあるそうだ。

 そして、周りを囲んでいた聖職者風の服を着た連中も実際に聖職者のようで、この世界は光の女神とかいう神様に作られた世界で、その女神様を崇める教会がさっき追い出された教会ってことだ。


 そして勇者。

 勇者というのは、この世界に危機が起きた時に、女神様がお使いくださる、とても強い人間のことで、この世界とは違う世界から呼ばれた強い人間のことを指すらしい。

 過去にも何度か勇者が現れたことがあるらしいが、それは10年以上前、それより前は言い伝えで伝えられるレベルのとても昔のことらしい。妹のあてなが言っていた通り、頻繁に勇者というものが現れるものではないようだ。

 そして、勇者は、この世界では女神がお使わされた神の使徒ということで、敬われ、大切に扱われるそうだ。そのあたりは安心だ。

 

 ただし、10年以上前に現れたという、先代の勇者らしき存在は、魔王を退治しに行って行方不明になったとのこと。多分、魔王に倒されたのだろうということだ。俺は急に妹が心配になった。


 ちなみにこの世界には魔王という存在がいるらしい。このあたり、まんま、俺が子供のころにやったRPGと一緒だな。そして、その魔王を倒すのが勇者の使命。このあたりも全く一緒だ。

 今この王国は魔王を中心とした軍勢、魔人族とよばれる種族と戦争中で、長い戦争が続き、現在、前線で兵隊たちが睨み合う膠着状態とのことらしい。先代勇者を失い打つ手を失ったってところか。


 だが、そうなると、このままでは妹が勇者として魔王と戦わされ、戦争も再開し、妹の命の危険性が出てくる。最悪、命を落とす可能性もあるだろう。前の勇者が倒せなかった魔王。妹が勝てる可能性があるか分からない、というより俺は戦いで俺の可愛い妹が怪我をするなんて許せない。

 何か妹を救う方法を考えないといけないことが分かった。

 といっても、俺に力がないことも、今までの流れや雰囲気で分かっているのだが。


 そして、生活についてだが、とりあえず、俺が貰ったお金は金貨らしきものが2枚と銀貨が10枚。ちっぽけな皮袋に小さな貨幣が12枚で、けち臭い王様だと思ったが、金貨1枚が平民1人の稼ぎの3カ月分。贅沢しなければ半年以上暮らせる金額らしい。

 ちなみに金貨1枚は銀貨100枚の価値だそうだ。

 

 とりあえず、働くなら、人夫として日雇い労働、荷運びや荷下ろし、土木関連、主に体を使う労働を斡旋してくれる労働者ギルド。

 商人として商売をしたいなら、商業ギルド。

 何か技術を持ち、物を作るのが得意なら、工房ギルド。

 戦うのが得意なら傭兵ギルド。城壁や城を守る兵士を斡旋したり、王様の依頼で街の周りにいる魔物を倒す仕事を斡旋したり、戦場で戦う兵士を募る組織らしい。

 大きく分けて4つのギルドがあり、よそ者がこの国で働くならとりあえず、このどれかに顔を出すのがよいそうだ。ようは仲介手数料で組織を運営している仲介業者みたいなものらしい。


 というか、傭兵ギルドの話を聞いた時に、この世界、城壁の外には魔物がいるという事を知らされた。

 このあたりもまんま、RPGの世界だな。


 俺は、城を守る兵士と聞いて、傭兵ギルドが気になった。勇者になれなくても、普通の兵士としては雇ってもらえるかもしれない。そうなれば妹と会う機会も生まれるかもしれない。俺はそう考えて、傭兵ギルドという仲介業者? 組織のある建物に行くことにした。


 実際のところ、他の3つのギルドで働いたとしても妹を救う事につながる道が思いつかなかったしな。


 それに、今の俺はほぼ、手ぶら。海外旅行の途中という事で、ラフな格好をしていたので、この世界でも悪目立ちするような格好ではなかったが、荷物を全て空港で預けたのは失敗だった。

 俺の手持ちは、この世界では使えないであろうクレジットカード、そして同じく使えないであろう、ユーロと円の紙幣の入った財布。そしてパスポート。

 スマホまで荷物と一緒に預けてしまったのは失敗だったな。まあ、スマホがこの世界で使えるとは思えないが、面白グッズとして高値で売れたかもしれない。

 そして、妹が別れるときに俺に渡した二つ折りの鏡。これは現在の俺の一番の宝物だ。

 

 というか、傭兵ギルドに行く前に着替えを買おう。悪目立ちはしていないが、明らかに奇異の目で見られている感じはある。それに替えの下着も欲しいしな。

 あとは宿も探したいが、まあ、そのあたりは傭兵ギルドで聞いてもよさそうだしな。


 とりあえず、街の人に聞きながら、一般的な洋服屋を紹介してもらい、その店に入る。

 この世界、量産が当たり前の世界ではないので洋服は仕立てらしい。平民も金持ちも自分の身分に合った素材と手法で仕立ててもらい、平民はそれを長く大事に着る。

 着られなくなった服を売ったり買ったりする古着屋みたいなものもあるらしいが、さすがによく分からない世界で人が来た服を着るのは気が引けたので、仕立てをしてもらう。

 庶民向けの仕立屋なので、客もおらず、仕立ても最低限なものなので、すぐに作れるという事なので店で待たせてもらい、平民らしい服を、ズボンとシャツとジャケットを上から下まで1セット、替えの下着を3枚仕立ててもらう。

 それと、洗濯する時に困りそうなので服をもう1セット注文しておく。

 値段は銀貨6枚。もう一セットの方は銀貨5枚で受取の時に支払うことになった。


 ついでに、試着室みたいなもので着替えさせてもらう。ゴムがない世界のようで、下着が紐で結ぶタイプだったのが少し気になったが仕方ない。

 

 着ていた服を持ち歩くのに困りそうだったので、店で飾ってあった出来上がりのかばん、デニム生地のような厚い生地でできた丈夫そうなバックパックのようなものも購入する。色々使えそうだしな。

 このかばんは銀貨3枚。銀貨は残り1枚になってしまった。

 そして、仕立てを待つ間かなりの時間を浪費してしまったが、店長らしき、おっさんから色々情報も得られたので良しとしよう。

 それと、この世界、治安は割と悪くはないそうだが、よくもないとのことで、仕立て屋のおっさんが、使い古しだが護身用のナイフをサービスでくれた。襲われたときに脅しぐらいにはなるだろうとのこと。


 あとは靴が欲しいが、まあ、今履いている革靴もカジュアルでそのままジャングル探検にいけそうなショートブーツタイプの革靴だったので、落ち着くまではこのままで大丈夫だろう。


 とりあえず、簡単な情報収集と着替えができたので、最初の目的地、傭兵ギルドに向かおう。

 

 次話に続く。

 冒険者ギルド? 冒険? 冒険者ってなんだよ? ってなりそうだったので傭兵ギルドにしました。

 傭兵ギルドなら、王様からお金をもらって兵を集めたり、正規兵では割高になってしまうような仕事を下請けする下請け会社兼人材仲介業者。これならギルド経営も何とかなりそうなので冒険者ギルドではなく傭兵ギルドにしました。

 まあ、名前や経営が曖昧だったので傭兵ギルドにしただけで、内容的には冒険者ギルドと一緒です。

 実際、冒険者も所属しているので。お金で何でも請け負う何でも屋+人材仲介業者って感じです。


 最初の3話くらいはもたもたするかもしれませんがその後はテンポよく進む予定なので飽きずに読んでもらえるとありがたいです。


 本日もお読みいただきありがとうございます。次回もぜひお読みください。

 ブックマークや☆もらえると作者やる気が増します。感想ご意見もお待ちしております。

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