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第17話 兄、さらに北の町に向けて。

【異世界生活5日目 夕方】


「小さい町だな」

それが俺の第一印象だった。

 俺達が、護衛している乗合馬車は、目的地のキッシュの町、冒険者が拠点とする町の手前、中継地点の街に到着する。


「まあ、中継地点ですしね。あくまでも馬車や徒歩移動をする際に、夜を明かすための宿場町って感じです」

隣を歩いていたエリーがそう言う。

 大きい町の間にこういう町が点々としているらしい。

 まあ、魔物の駆除や宿場町の防衛をする人は必要だし、そういった人やその家族が暮らせるように最低限に整備された家屋や店や市場、そして市場に並ぶ食品を作る為の畑や牧場。

 コンパクトに必要最低限のものが集まった町。そんな感じだ。

 流通が不完全なので、食料などは地産しないとリスクになるのだろう。


「今日は、ここで一泊する。明日も護衛頼むぞ」

そう言って、馬車の集団の先頭を走っていた乗合馬車の御者、リーダーらしき人がそういう。

 乗合馬車の乗客も一度降りて、宿泊、もちろんカミラも馬車から降りてくる。


 俺達もココで一泊して、明日も朝の8時からこの馬車の護衛をする感じだ。他のメンバーも同じように次の街まで仕事は続く。


 宿屋は傭兵ギルド直営の宿が1軒と個人経営の宿が幾つかあるようだ。もちろん商人ギルドの宿もあるのだろうな。商人の乗った馬車は別のところに移動していく。


「ほら、タイヨウお兄さん、この町にも掲示版はありましたよ」

エリーがそう言って、この町の役場みたいな建物の壁に設置された黒板を指さす。

 確かに、首都の町と同じようなニュースが書かれた大きな黒板があった。

 まあ、町の規模に合わせて大きさは変わるのだろう。首都に会った黒板よりかなり小さい。書かれた内容は一緒だが。 


「これで、どこに行っても勇者の情報は手に入るってことね」

カミラが俺の後ろからそう声をかける。


 とりあえず、この町の傭兵ギルドに向かい、宿を借りる。ツインの部屋が空いていたのでいつも通り3人でツインの部屋を一つ借りる。宿代も一緒で銀貨1枚と小銀貨2枚だった。

 宿屋の女将が怪訝そうな顔をするので、俺はカミラとエリーを指さして、

「俺の妹と妹の友達だ」

俺はそう説明する。

 運よく、カミラとは髪色が似ているし、この国では珍しい黒髪なので疑われることは少なそうだ。


「私は婚約者です」

エリーが余計な事を言う。

 そして、宿屋の女将がまた怪訝そうな顔に戻る。

 そうならない為に遠回しな説明をしたのにエリーは・・・。


「友達のお兄ちゃんにあこがれる少女って感じってことで」

カミラが笑いながら女将にそう言い、女将が笑って見逃してくれる。

 宿が変わるたびにこんな茶番をやらないといけないのか。面倒臭いな。


 エリーはいつもどおり納得がいかないのか、頬を膨らませている。

 

 とりあえず、荷物を部屋に置いて、早めの夕食を食べに酒場に下りる。

 雰囲気は昨日まで泊まっていた宿と同じ感じだが規模はかなり小さい。酒場も建物自体の規模も3~4分の1くらいの広さかな? 


 とりあえず、テーブルを一つ借りて、夕食をとる。


「お兄ちゃん、夜の魔物狩りやるんだよね? 今日も」

カミラが興奮気味にそういう。こいつは、1日馬車で揺られていただけなので元気が余っているようだ。


「まあ、『24時間戦える』の効果のおかげで、疲れはそれほどでもないから行けるが、明日も早いから、早めに上がるぞ」

俺はそう言い、仕方ないので付き合ってやる。


「4時間、10時上がりって感じかな?」

カミラがそういう。


「私は明日のお昼ご飯の買い出ししておきますね」

エリーがそういう。

 

「昨日と同じ食材で頼む。あと、ジャガイモがあったらジャガイモを2つ頼む」

俺はそう言って、銀貨を渡す。

 二人には色々手伝ってもらっている立場なのでお昼の食材費と宿代ぐらいは俺が払わせてもらう。


 夕食後、俺とカミラは町の外に魔物狩り、エリーは買い出しに行く。


「そういえば、北に行くほど魔物が強くなるって言っていた気がするが、大丈夫なのか?」

俺は北門に向かって進むカミラにそう聞く。


「ああ、次の町、キッシュの町までは周りにいる敵は同じくらいの強さの魔物しかいないから大丈夫だよ。ミディアムラットやミディアムバットくらい? レベル31以上の魔物はもっと北に行かないといないよ」

カミラがしれっとそう言う。

 レベル21越えの魔物、いつものスパルタじゃねえか。


 そんな感じで、明日進む予定の北の街道を先行して歩き、魔物狩りをした。

 カミラの言う通り、レベル21越えのランク2の魔物。毒はあるし、噛まれれば感染する柴犬大のコウモリが健在だ。さすがにミディアムスパイダーのクモの巣攻撃には慣れて、避けられるようにはなったが、それでも今夜も結構命がけのスパルタ狩りだった。


 カミラ本人は馬車に一日揺られて暇だったのか、体力が余っていたのか、いつも通り、楽しそうに武器の長柄槍斧(ハルバード)モドキを振り回して魔物を蹴散らしていた。

 

 今日もスパルタ魔物狩りのおかげで、俺のレベルは36から38になった。カミラもレベル34から37になったそうだ。

 今日は明日も早いので早めに宿に戻る。まあ、早いと言っても、カミラが一人で盛り上がって、宿屋について寝るころには深夜の0時近くになっていたが。


 

【異世界生活6日目 朝】


 今日も教会の6時の鐘で目を覚ます。


「タイヨウお兄さんおはようございます」

「ああ、おはよう」

俺が目覚めるのと同時にエリーも起きていて挨拶を交わす。


「エリーは朝強いな」

俺は何気なく聞いてみる。


「そうですね。私の場合、お母さんが教会で働いていて、家が教会の敷地内にあったので、私も小さいころから神官見習いとして修業ってほどでもないですけど、教会で働く人に準じた生活をしていたので、規則的な生活をしていたんです」

エリーがそう教えてくれる。

 

「カミラにも見習わせたいな」

俺はそういて笑う。


「私の場合は、病気の事もあるから夜型にしているだけだよ」

カミラが不満そうにそう言いながら体を起こす。まだ少し眠そうだ。


「今日は一人で起きられたんだな」

俺はからかう様に言い笑う。


「昨日の昼間、馬車で寝過ぎて熟睡できなかっただけだけどね」

カミラが不満そうにそういう。

 多分、今日の昼間に眠くなって寝る気だろう。


「さっきの話だけど、結局、早起きしても一緒なんだよね。日焼けで日中は外に出られないから、朝から引きこもるか夜から引きこもるか、あとはこのマントを着て暮らすか、それだけの違いしかないんだよね。まあ、お母さんと一緒に暮らしていた時は早起きさせられていたけどね」

カミラが不満そうにそう付け足す。

 彼女は彼女なりに色々大変なんだろうな。


 その後、昨日と同じように、俺は井戸で水浴び、エリーとカミラは宿屋の浴場みたいなところで湯あみし、俺は先に出発して、ギルドの受付で昨夜の魔物狩りで手に入れた魔法石の換金をしておく。

 ギルドの受付も少し小さくて、首都は窓口が3つあったが、ここは窓口が1つだった。

 昨日手に入れた魔法石はランク2の魔法石が26個、銀貨2枚と小銀貨3枚


 換金も終わり、酒場で待っていると、2人も降りてくる。

 俺はカミラに昨日の分け前を渡し、朝食を頼む。


 そして、昨日と同じように、集合場所というより、昨日の解散場所に集まり、馬車の警備の仕事が始まる。

 昨日カミラが言っていたとおり、キッシュの町よりさらに先に行かないと強い魔物は出ないそうだし、昨日同様、こちらの人数が多いので魔物も警戒してめったに襲ってこないらしい。


 実際、お昼までは何も起きずに、昨日同様、お昼ご飯を俺が作って妹たちに食べさて出発。


 しかし、お昼過ぎ、目的地も近くなって気が抜けていた時にそれは起きた。


「お兄ちゃん、変な気配がするよ。気を付けて」

珍しくカミラが馬車から顔を出しそう俺に声をかける。

 

 エリーもそれを聞いて周りを見渡す。そして、  

 

「西の方から何か来ます! しかも沢山!」

エリーがそう言う。

 ここは見晴らしのいい草原で、西のはるか遠くに大きな森が見える。

 俺には遠くに緑色の森が広がっているな。くらいの認識しかできなかった。


だが俺は、カミラとエリーの異変への反応を信じ、

「おい、リーダー、西の方角から何かが大量に向かってきている! 警戒態勢!!」

俺はそう大声を上げる。

 リーダーと言われて、先頭の馬車の御者が振り向き、前を守っている4人パーティのリーダーも俺の方を振り向く。


「全員、警戒態勢。西側に陣形を組め。で、何かってなんだ?」

警備隊の実質的なリーダーもしている4人パーティのリーダーのおっさんがそう叫び、4人が西側に陣取る。


「東は私が警戒する、リーダーとアキは西側に回って」

3人組のパーティもそう言って動き出す。リーダーとアキと呼ばれていた戦士がこっちに回ってくる。まあ、どっちがリーダーでどっちがアキだか知らないが。


 そんな感じで東を1人で警戒、西を8人が横に並んで陣形を組む。


「なんだありゃ?」

戦士の一人がそう呟く。


「ミディアムラットの大群です。200匹以上いると思います」

エリーがそう言う。

 俺には遠すぎて、砂煙の下に何かが動いているくらいにしか見えない。ただし、その砂煙の長さが尋常じゃない。


「ヤバイヤバイ、無理無理」

4人パーティの女魔法使いがラットと聞いて騒ぎ出す。

 まあ、中型犬の大きさのネズミだ。見た目も気持ち悪いので、気持ちも少しはわかる。


 そして砂煙が近づいてきてそれがミディアムラットと視覚で認識できるようになった時にはもう遅い、数がヤバすぎるのだ。

 そんな200匹以上の中型犬大のネズミが全速力で俺達に向かって走ってくる。

 俺達は8人、一度に1人頭25匹を相手にしなくてはいけない。しかもレベル21越えの魔物だ。これは確実にあっという間に轢き潰される。


 俺とエリー以外の警備の6人とも完全に戦意を失いつつある。


「カミラ!! 何とかならないか?」

俺は振り向き大声を上げる。


「もう、しょうがないな。倒した敵の魔法石全部を私が貰っていいなら手伝ってもいいよ」

カミラが余裕な顔で俺と警備のリーダーでもある4人パーティのリーダーに聞こえるようにそう言う。


「何言ってるんだ、お前も死ぬぞ」

なんか、4人パーティのリーダーがキレる。

 まあ、言われてみるとそうなんだが。


「ああ、私達だけなら大丈夫。最悪、エリーちゃんの結界魔法もあるし」

カミラがそう言って俺の側に寄ってくる。

 そうは言っているが、こいつはタダ働きが嫌なだけなんだろう。きっと最後は何とかする。そんな人がいい奴な気がするんだよな。錯覚かもしれないが。


「あー、くそっ、魔法石でも何でも持っていけ。ただし、誰も死ななかったらだからな」

4人組のリーダーが自暴自棄になってそう叫ぶ。


「商談成立だね」

カミラが嬉しそうに笑う。

 そして、町の中でよく持っている、自称護身用の魔法杖、小さい魔法杖を構える。


「魔法、使いまくるよ。火の精霊よ、魔法石を魔法の力と化し、力を貸したまえ。『炎の壁(ファイヤーウォール)』!」

続けて、カミラがそう言い、魔法を詠唱。ミディアムラットの目の前に巨大な炎の壁が現れ、魔物の進行を抑え、火に飛び込んだネズミはあっという間に焼かれていく。


「火の精霊、お願い。『炎の壁(ファイヤーウォール)』! 『炎の壁(ファイヤーウォール)』! 『炎の壁(ファイヤーウォール)』!」

カミラが面倒臭くなったのか適当に魔法詠唱をして巨大な炎の壁がさらに3枚現れ、横に4枚並んだ炎の壁でミディアムラッドが焼かれていく。


「もういっちょ、『炎の壁(ファイヤーウォール)』!! って、あれ?魔法石切れかな? もう、しょうがないな」

カミラがもう1枚炎の壁を出そうとするが、不発に終わる。

 そして、小さい魔法の杖を日焼け避けのマントの下に隠すと、いつもの長柄槍斧(ハルバード)に魔法杖が付いたような武器をマントの中からにゅ~っと出すと、


「火の精霊よ、どんどん行くよ。力を貸して。『火矢(マルチプル)の連撃(ファイヤーアロ―)』!!」

カミラが気を取り直し、長柄の魔法杖にも見える武器で魔法を適当に詠唱、斧の中心についた魔法石が赤く光り、炎でできた矢が次々と炎の壁の間から抜けてきたミディアムラットを吹き飛ばし、焼き尽くしていく。


「すごいな」

俺は呆気にとられる。


「お兄ちゃん、サボってないで戦闘準備。仕留めそこなったミディアムラットはお兄ちゃんたちに倒してもらうからね」

カミラが面倒臭そうにそう言う。


「お兄さん、私も魔法使いますね。獣の王、そして獣の神、黒獅子王よ。我が聖なる力を供物とし、力をお貸ししたまえ! 『獣よ奮い立て(ブレイブビースト)』!!」

そう言って、エリーも神官魔法らしい魔法を唱える。

 そして唱え終わると同時に周りに光の雨が降り注ぎ、体の底から力が湧き上がる。


「ステータス上昇の神官魔法です。少しですが戦いやすくなるかと」

エリーがみんなに聞こえるようにそう言う。


「お兄ちゃん、これ以上やると、魔法石が尽きるから終了するね。残りは100匹もいないから、お兄ちゃんとエリーだけで行けるでしょ?」

カミラがそう言って長柄槍斧魔法杖(マジックハルバード)を下ろす。


「何言っているんだ? いつもみたいにカミラも戦えよ。戦うの好きだろ?」

俺はそう言ってカミラを見るが、


「ああ、私は無理。マントがはだけちゃうと、肌が出ているところ日焼けしちゃうから」

カミラはそう言って日が当たらないように注意しながらマントを少し広げ、俺の方に太ももをちらりと魅せる。

 そして、俺の顔をみてエリーが仕方なさそうな顔をして笑う。

 周りの奴等は「何言っているんだこいつら?」って顔で俺とカミラを見比べる。


「しょうがないな。それじゃあ、エリー行くぞ。カミラが大口叩いた分のしりぬぐいをしないとな」

俺はそう言って、炎の壁のないところからあふれ出したミディアムラットの群れに向かって走り出す。

 なんか、異常に体が軽い。これなら、ミディアムラットの50匹くらい倒せそうな気がする。


 走り出す俺の後ろを慌ててついてくるエリー。

 今日は旦那を立てる良妻ってポジションか? 他人の目があるせいか、いつものように魔物に向かって走り出さないエリー。

 しょうがないので俺が全速力で走り、先頭のミディアムラットの頭をメイスでフルスイング、右に大きく跳ね飛ばし、そのまま右に左にメイスを振り回し巨大なネズミたちを左右に跳ね飛ばし道を作る。


 俺のすぐ後ろで、エリーが、俺の横をすり抜けたミディアムラット達を自慢の拳で右に左に殴り飛ばす。

 抜けていったネズミたちは、他の連中に任せるとしよう。さすがにそれくらいはやってもらわないとな。


 そこからは左右に移動しながら、1匹でも通り抜けさせないように陣取りながらミディアムラットをメイスで仕留めていく。

 体がものすごく軽いし、メイスも気持ち軽く感じる。

 巨大なネズミの化け物を1発で仕留められるような重さのメイスなんだが、今は中学校の授業で使った竹刀でも振るように左右に自在に振り回せる。


 エリーも軽いステップで左右に動くと広範囲のミディアムラットをメリケンサックのような武器をつけた左右の拳で殴り飛ばし、魔物の頭を一撃で粉砕している。そして魔物を倒すごとにどんどん動きが良くなっていく。


 無我夢中に戦い、気づいた時には左右に広がっていた炎の壁も消え、その周辺には焼き焦げたミディアムラットの死骸。

 そして俺とエリーの周りには頭を叩き潰された大量のミディアムラットの死骸が転がっている。


 振り向くと、他のパーティのメンバーが呆けているのが見える。


「どうしたんだ?」

俺は戦闘が終了したことに気づき、4人パ―ティのリーダーに声をかける。


「どうしたじゃねえよ。お前ら化け物か? 嬢ちゃんの魔法も凄かったが、お前らも、取りこぼした魔物に飛び込んだと思ったら、まるで巨大な竜巻か台風に巻き込まれたように魔物達が次々吹き飛ばされていくんだぞ」

リーダーのおっさんが少しドン引きした顔でそういう。

 多少誇張しているのだろうが、他の奴らからはそんな風に見えていたのか。


「まあ、俺達だけで倒したわけじゃないしな」

俺はおっさんたちのまわりにも魔物の死骸が転がっているのを見てそう言って笑う。


「ほぼ、お前達だけで倒したようなものだよ」

そう言っておっさんがもう一度呆れる。

 周りの戦士達も呆れ顔だ。


「す、すまないが、魔法石の回収を手伝ってもらっていいか? カミラが報酬もらえないとキレそうだしな」

俺はそう言って、リーダーのおっさんに頼み、自分も腰に付けたナイフを抜くと、手近なミディアムラットの腹を裂いて魔核、魔法石を取り出し始める。


「しょうがないな。そういう約束だったし、ぶっちゃけ、嬢ちゃんに命を助けられたようなものだしな。魔法石の回収はサービスな」

リーダーのおっさんがそう言って他のメンバーにも声をかけて魔法石を集め始める。

 ちなみにカミラは他の警備のメンバーが魔法石をネコババしないように監視をしているが、自分は何もしないで突っ立っている。

 警備のメンバーたちも、カミラの魔法がなければ全滅確実だったので文句も言えず、黙々と魔法石を集める。

 

 そして、カミラの前に山積みにされたランク2の少し大きい魔法石。200個以上ありそうだ。

 

「ええっと、お兄ちゃんとエリーちゃんは半分くらい倒してくれたし。50個ずつあげるね」

カミラがそう言うので、俺とエリーは渋々50個ずつ、拾って鞄に入れる。

 こいつは最初に約束させたとおり、魔法石を総取りする気のようだ。


「なあ、おっさん」

俺は申し訳なくなって4人パーティのリーダーに声をかけるが、


「まあ、貰っておけ。実際お前達に助けられたしな」

おっさんが困った顔でそう言い、周りのメンバーも仕方なさそうな顔で頷く。

 俺は申し訳ない気持ちで魔法石50個を受け取る。換金すれば銀貨5枚。結構なおこずかいにはなる。

 エリーも申し訳なさそうに頭を下げる。


 そしてカミラは満足げに、魔法の杖についた魔法石にその山積みになった100個以上の魔法石をどんどん吸わせている。

 にゅ~っと吸われて、魔法石自体が消えて、杖についた魔法石の輝きが増し、色も濃くなっていく。

 小さい魔法の杖と長柄槍斧魔法杖(マジックハルバード)の両方でそれをやり、残った魔法石は腰に付けたポシェット、自称マジックバッグに放り込んでいく。


「マジックバッグ持ちね。そりゃ強いわけね」

4人パーティのメンバーの魔法使いの女がそう呟く。

 マジックバッグは希少な品らしいからな。しかも、こいつの場合、マジックバッグに見せかけたマジックボックスというスキルらしい。さらに希少度は跳ね上がる。

 

「ふう、久しぶりに魔法の杖の魔力がどちらも満タンになったよ。赤字にならなくてよかった」

カミラが作業を終え、長柄槍斧魔法杖(マジックハルバード)をにゅ~っと自称マジックバッグに入れ、魔法石も全部拾って詰め終わり、そう呟く。


 そして、何もなかったように乗合馬車に戻るカミラ。

 俺達も呆れながらも警備に戻り、馬車が動き出す。


 大変なことが起きたが、結局定刻通り、夕方には目的地の冒険者が集まる街、キッシュの街に到着するのだった。


 余談だが、俺とエリーの動きが良かったのはエリーの神官魔法のおかげかと思ったが、それより、カミラが魔法でやっつけたミディアムラット100匹分の経験値を俺の『妹の為なら一緒に戦う』のスキルで経験値を共有したことでレベルが38から41に上がったおかげだったらしい。

  

 最終的には俺のレベルは38から42に。カミラのレベルも37から41に。エリーのレベルは26から37に上がっていた。

 俺の経験値共有のスキル、地味に凄いな。


 次話に続く。


 今回、カミラは魔法石がもらえなかったとしても最低限警備のメンバーが死なない程度には手助けしてくれたと思います。口は悪いが、基本はいい子なので。


 ちなみに、主人公の経験値共有のスキルですが、あくまでも妹(と認識した相手)とお兄ちゃん(主人公)が経験値共有できるだけなので、カミラが倒して得た経験値はエリーには共有されません。

 逆に主人公が倒した敵の経験値は二人に共有されるので、主人公が魔物を倒すのが経験値的には一番効率がいい感じです。

(カミラが途中で魔法を止めて、主人公が倒せるくらいの数をわざと残したのはそのあたり計算してのことかもしれません。そうしないとエリーだけレベルが極端に低くなるので)


 それと、兄妹の距離が一定量離れる(一緒に戦わない)と経験値共有のスキルが無効になるので、宿屋で留守番しているエリーには夜中の魔物狩りの経験値は入っていなかった仕組みです。

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