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第16話 兄、北の町に移動する。

【異世界生活5日目 朝】


 教会の朝6時を告げる鐘が鳴る。俺はベッドの上で目を開くが、少し疲れが残っているのを感じる。

 昨日もスパルタだったからな。

 今日はいつもより1時間早い起床だ。


「おはようございます。タイヨウお兄さん。今日は起こせませんでした。残念です」

エリーがそう言って挨拶してくる。いつもは鐘の音より1時間長く寝させてもらってエリーに起こしてもらっていたもんな。


「おはよう、エリー。今日の乗合馬車の出発は8時だったもんな。急いで準備しよう」

俺はそう挨拶を返す。普段着に着替え、井戸に体を拭きに行こうとする。 


「カミラちゃん、起きて。今日は隣の街まで移動するんでしょ。起きないと置いていくよ、一緒に湯あみ行こ?」

そう言ってエリーがカミラを引きずるようにたたき起こす。


「う~ん、置いて行ってもいいよぉ、もう少し寝たい」

カミラがそう言ってエリーの腕からすり抜けると、二度寝しようとする。


「どうせ、馬車で1日中寝るんだろ? 我慢して起きろ」

俺はそう言って、枕でカミラを叩き起こす。


「うーん、ここに妹に手を上げる暴力兄貴がいるよ・・・」

そう言って、カミラがごろんと二度寝をしようとする。

 俺は面倒臭くなって、カミラのわきの下に手を入れると無理やりベッドの横に立たせる。


「実力行使反対だよ・・・」

カミラが眠そうに目をこすりながら文句を言う。

 

「エリー、後は頼むな」

俺はそう言って、井戸に向かい、体を拭いて頭を洗い、部屋に戻り、着替えと装備を整える。

 そして、荷物は全て、昨日、商店街で買った大きい鞄に入れる。馬車に乗せて運ぶ用の荷物だ。

 馬車で移動中は食事が出ないそうなので、自炊用の鍋やポット、簡単な食器、食材なども買って鞄の中に詰めてある。

 非常食や日常使いそうな道具などは、いつもの少し小さめなバックパックに入れ、そちらは馬車で移動中も背負う予定だ。


 エリーとカミラが湯あみから帰ってきたので、俺は先に酒場に向かう。

 おっさんが部屋にいたら着替えづらいだろうしな。


 妹たちの準備が手間取りそうなので、先にギルドにいって、昨晩の魔物狩りの精算をしておく。

 中魔法石27個と小魔法石56個、午前中の魔物狩りで余った分5個も混ぜて、銀貨4枚と小銀貨3枚になる。


 酒場に戻ると、エリーとカミラがいたので合流。宿屋の女将に鍵を返して、宿の解約をする。

 そして、朝食を3人で食べる。

 ついでに、カミラにさっき精算した銀貨を半分渡しておく。 


「お兄ちゃんがいると、魔法石が精算できて助かるよ」

カミラが嬉しそうに銀貨を受け取る。こいつは訳ありで傭兵ギルドのカードが作れないらしい。


 カミラは昨日着ていた日よけのマントを深々と被っている。

 俺とエリーは頭と肩を覆うような日よけフードを昨日買って着ている。頭への直射日光を避けつつ、戦闘に支障が出ないような簡易マントみたいなもんだ。 

 エリーの側には俺のかばんと似たような大き目な鞄といつも背負っている小さめなバックパックが置いてある。

 カミラはいつも通り、自称マジックバッグの小さいポーチしか持っていない。

 ちなみに、このポーチ、他人が無理やり奪おうとすると、雷撃に襲われる防犯トラップ付きらしい。うん、触らないようにしよう。 

 

 食事が終わると、ちょうどよい時間なので、乗合馬車の集合場所、中央広場に向かう。

 王国からの通達が書かれている掲示板も気になって確認するが、特に新しい事は書いていなかった。昨日の勇者のお披露目が無事に終わったことが書き足されていたくらいか。


「なあ、エリー、そういえば、この掲示板みたいなのって、この町にしかないのか?」

俺は気になってエリーに聞いてみる。


「えっと、たしか、他の街にもありますよ。ただ、報道官と呼ばれる人が、乗合馬車に乗って移動しながら書いていくので、この首都から離れるごとに1日掲示が遅れる感じだったような気がします。私の住んでいた町にもありましたが、ここからかなり離れていたので遅れて情報が届いていた感じでした」

エリーがそう教えてくれる。

 あくまでも自分の町にもあったから他の街にも多分あるだろうくらいの推測らしいが。

 まあ、時差はあっても、妹のあてなのニュースも別の街で手に入るといいのだが。


 そんな感じで時間をつぶしていると、ギルドに言われた集合場所に馬車が何台も集まってくる。

 乗合馬車と商人の馬車が集まって移動する感じらしい。


 俺達もそこに向かうと、他の傭兵ギルドのメンバーらしい戦士っぽい奴らも集まってくるのでお互いに挨拶をしていく。


「兄ちゃんは子連れか?」

他の護衛のギルドメンバーが冷やかすようにエリーを連れた俺にそういう。


「違います! 婚約者です!!」

エリーが反論する。


「いや、妹だ」

俺はさらに反論する。


「そ、そうか。まあ、宜しくな」

エリーの気迫と俺のそこは突っ込むなオーラに気圧され去っていく戦士っぽい奴。


 俺と、エリー以外にも警備の仕事を請け負ったギルドメンバーが7人いるようだ。4人パーティと3人パーティ。皆、定期的にこの仕事を受け持っているらしい経験者のようだ。

 パーティの中には女性も2人いたので、エリーが混ざっても安心そうだ。


 カミラは乗合馬車の乗客として、お金を払って乗車する。

 ついでなので、俺とエリーの大きな荷物も一緒に乗せて、荷物の番もしてもらう。まあ、乗合馬車の移動中は逃げるところはないので、盗む人間はいないと思うけどな。

 

 次々と乗客が集まり、馬車に乗り、定刻になったようで、先頭の馬車から声がかかり、馬車が動き出す。

 馬車の数は乗合馬車が2台、商人の馬車が3台、それを俺とエリーを含めた9人の戦士で囲んで守る感じだ。 

 常連らしい4人パーティが左右の前を担当し、俺とエリーは左の後ろの方を、もう一つの3人組のパーティは右と後ろを担当する。


 馬車がゆっくり進み、それに合わせて俺達も徒歩で続く感じだ。


 町の大通りを北に進み、いくつか門をくぐって、町の外へ。そこからは北に伸びる街道をひたすら北上する感じだ。

 街道は町中の大通りのような石畳の舗装はされていないが、整備は定期的にされているようで、土むき出しのがたがたな道ではあるが、馬車が進む分には問題なさそうなしっかりした道だ。


「よろしく頼むぞ、新入り」

歩いていると、そう言って声をかけてくる俺より少し年上のおっさん。元の世界の年齢だと俺と同じくらいか俺の方が年上って感じか? 転生したときに若返ったからな、俺。


 なんか、このおっさんは、警備の常連で、いつも警備のリーダー的な役割をしているらしい。色々気を使ってくれる。まあ、強さ的には俺と同じくらいか少し強いくらいか? 装備も俺よりちょっといいくらいの装備だ。

 まあ、俺よりかなり強かったらこんな仕事はしないだろうしな。もっと危険も少なく疲れない割のいい仕事はありそうだし。


 そのおっさんとダラダラ話ながら、街道を進み、おっさんが他のメンバーにも挨拶して回っていく。

 ちなみに、出発前にエリーが「婚約者だ」と喧嘩を売ったのがこのおっさんだ。

 まあ、人のよさそうなおっさんだし、悪い奴ではなさそうだ。

 

 そんな感じで、知らないおっさんと話たり、エリーと話しながら街道を北に歩き続ける。

 ぶっちゃけ、これだけ大人数の移動なので、魔物も警戒して近づいてこないし、盗賊はもっと山の方や田舎の方にしか出没しないそうだ。

 さすがに首都周辺で盗賊をやる馬鹿はいない。隠れ家になりそうな所がないし、首都が近いので、正規兵にあっという間に駆除されると。

 比較的安全な警備の仕事らしい。

  

 魔物が出ても、知能が低いオオトカゲ、レッサーリザードやミディアムリザードが何も考えずに街道に出てきて、先頭の戦士達に狩られる。その程度の戦闘しか起こらない。


 お昼前、行程の半分ほど行った所で、お昼休憩になる。

 お昼ご飯は各自持参といった感じだ。


 俺は、乗合馬車の自分の荷物を取りに戻り、昨日買っておいた食材と、キャンプセットのような、簡易フライパンとポットと食器、昨日拾っておいた薪を荷物からとり出し、たき火を起こして調理を始める。

 

「カミラ、たき火に火をつけてくれ」

俺はカミラにそう声をかける。


「もう、日差しが苦手だって言ってるのに」

日よけマント姿のカミラがもそもそと馬車から降りてきて魔法で火をつけてくれる。


「魔法石よ火の精霊の力に変わり、魔法の力となれ。『火起こし(メイクファイヤー)』」

そう魔法を唱えると、いつもの武器とは違う、護身用の小さい魔法杖から火が出て薪に火が移る。


「魔法は便利でいいな。ありがとうな、カミラ」

俺はカミラを褒める。


「もう、魔法石だってただじゃないんだからね」

カミラがそう言って手を出してくるので今朝、ギルド精算で余った小さい魔法石をあげる。

 カミラは魔法の杖の先に付いた魔法石を近づけると、小さい魔法石がにゅ~っと大きい魔法石に吸われる。充電式みたいなものらしい。


「それと、ご飯できたら馬車に持ってきてね」

カミラがそう言って馬車の中に帰っていく。

 隣にいたエリーがしょうがないなって顔をして笑う。


 火がいい感じになってきたので、油を引いて温めたフライパンに昨日、市場で買ってきた肉と野菜を放り込む。

 現地で調理するのが面倒臭そうだったので昨日のうちに野菜を洗って、皮を剥いて、食べやすい大きさにして、蓋つきの食器に詰めておいたのだ。なんか気分はキャンプだな。


「タイヨウお兄さん、料理もできるんですね」

エリーが興味深そうにそう呟く。


「ああ、うちは早くに両親が亡くなっているからな。妹のあてなが子供のころから、俺が男手一つで育ててきた。炊事洗濯掃除、一通りできるぞ」

俺はそう言って、フライパンを振ってサイコロステーキ入りの肉野菜炒めを作る。


「昨日の包丁さばきも上手でしたけど、フライパンの扱いも上手ですね」

エリーが尊敬のまなざしで俺を見る。

 まあ、フライパンというよりダッチオーブンっぽい鉄製の、鍋とフライパンの中間みたいな調理器具を振って、焦げないように野菜炒めを炒める。


 そして、炒め終わったら、塩胡椒をふり、もうひと炒め、鉄製の食器に分けて、ケチャップっぽい調味料とソースっぽい調味料を混ぜてソースを作り上からかける。

 ちなみに、この世界、ケチャップ、ソース、マヨネーズ、それっぽい調味料もあるし、塩はもちろん、胡椒の産地もこの国にあるらしく、安くはないが、庶民が贅沢すれば買えるくらいの値段では売っている。


「なんか美味しそうですね」

エリーが嬉しそうにそう言う。

 ケチャップとソースを炒めたいい匂いがする。


「遅いよ! お兄ちゃん。待てないから来ちゃったよ」

カミラもそう言って馬車から出てくる。匂いに釣られたな。


 俺は、ポットでお湯を沸かして、お茶も入れてやる。この世界、紅茶もあるようだ。砂糖も値段高めだが流通しているようだしな。

 基本、元の世界に近いものは一通りあるが、値段が高い。そんな感じか。 


 それと、丸い大きなパンを輪切りにして3人で分ける。


「なんか、凄く豪華な食事ですね」

エリーが紅茶を受け取り楽しそうにそう言う。


「砂糖もあるぞ」

俺はそう言い、陶器製の小瓶を妹たちに回す。


「お兄ちゃん、贅沢だねぇ~。これなら、宿屋の酒場で食べないで、お兄ちゃんに毎日食事を作ってもらった方がいいかもね」

カミラがそう言って、美味しそうにサイコロステーキをかじる。

 確かに生活費を抑えるために自炊もいいかもしれないな。


 ちなみに肉だけは腐りそうだったので、カミラのアイテムボックスに入れてもらう。なんかよくわからんが、アイテムボックスに入れると食材が腐りにくいらしい。 


「野菜も食えよ」

俺はカミラにそう言い、野菜炒めも食べさせる。


「ふふっ、いいお兄さんですね」

エリーがそう言って笑う。

 俺達は本当の兄妹(きょうだい)じゃないけどな。


 昼食も食べ終わり、カミラはさっさと馬車に戻る。

 余ったお湯でフライパンを流し、そこらへんに落ちている枯れ草をたわし代わりにして洗い、最後に水で流して、たき火で軽く空焚き、油を薄くひいてフライパンをしまう。

 鉄製なので、濡らしたままにすると錆びそうなんだよな。

 食器も水で洗い、布でよく拭いて鞄に詰める。

 ちなみに水は大き目の革製の水筒をもう一つ買って湯冷まし水を多めにつめて持ってきた感じだ。あまり無駄にはできない。


 洗い物をしていたら、なんか、あてなが小さかったころの子育てを思い出した。俺は社会人になりたてて、あてなは小学生で生意気な時期だったし、母親を失ってショックもあったろうし、あの頃は大変だった。

 俺は食器を片付けながら昔を懐かしむ。


「こんないいお兄さんだったら、あてなさんも幸せだったんでしょうね」

となりでかたづけを見ていたエリーがそう言ってほほ笑む。


「だったらいいけどな」

俺はそう答え笑う。

 再婚相手の連れ子のあてなにとって、俺は血のつながらない義理の兄だったからな。正直邪魔だったかもしれないが、俺にとってあてなは唯一無二の可愛い妹だったのは間違いない。


 なんか思い出に浸ってしまったきがするが、気を取り直し、荷物を担ぐと、馬車に戻っていたカミラの隣に荷物を置いて、警備に戻る。


 1時間ほどの休憩が終わり、再び馬車の集団が動き始める。ゆっくり、人が歩くスピードで。


 その後は特に大きな戦闘もなく、いや、1度だけ、レッサーウルフの大きな群れに襲われた。

 10頭近い狼の群れに囲まれ、何とか撃退することができた。少し怪我をした戦士もいたが、包帯を巻く程度で何とかなったようだ。


 そして、夕方、日が暮れ始めたころに隣の街に到着した。

 今夜はこの町のギルド支部にある宿屋で1泊して、明日も乗合馬車の警備を続け、目的地の冒険者の町、キッシュに向かう。


 次話に続く。

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