第14話 兄、妹たちに振り回される。
エリーの主人公の呼び方を『お兄さん』に修正、統一しました。『お兄様』はちょっとお嬢様っぽ過ぎるかなと思ったのでw
【異世界生活3日目 昼過ぎ】
俺は、カミラとエリー、二人の仲間に相談し、今後の行動を決めた。
明日行われる勇者のお披露目会で妹のあてなの姿を確認したら、北に移動を始める。
あてなの先回りをして、あてなが危険な目に合わない環境を作るのだ。
とりあえず、相談も終わり、カミラは部屋でゴロゴロ、俺とエリーは宿屋の酒場で昼食を食べてから、エリーには魔物狩りの再開を少し待ってもらい、一度仕立屋に行き、昨日頼んだテント生地の厚手の生地の服を取りに行く。何故かエリーも一緒だ。
「洋服仕立て直したんですね。折角、破れた服を繕おうと思ったのに」
大通りを歩きながらエリーがそう言い、がっかりする。
なんか垂れたイヌミミと尻尾が可愛い。
「あれは、町の人が着るような普段着らしいから、冒険者が着るような厚手の服を仕立て直してもらったんだ。もちろん、破れた服も繕ってくれたら、普段着として着られるから助かるよ」
俺はそう言ってフォローする。
折角血まみれだった服を洗ってくれたんだろうし、その努力には報いたい。
「ああ、そういうことだったんですね。確かにあの布地じゃ、レッサーウルフの牙を防げませんもんね」
エリーがそう言って機嫌を直す。
「エリーは服とか大丈夫なのか?」
俺は気になって聞く。
「ええ、町から避難する時に、最低限の着替えは持ってきましたし、神官服や武器防具を持って来たのは正解でした」
エリーがそう言ってほほ笑む。
たしかに、俺達の部屋に引っ越してきたときに結構大きな荷物を担いでいたもんな。
そんな会話をしながら、仕立屋に到着。注文しておいた厚手の生地のズボンとジャケットを二組受け取り、銀貨12枚を渡す。
なんか生成りのジーパンとジージャンみたいな感じだ。オオカミくらいの噛みつきなら何とかなりそうな、丈夫そうな服だった。
「これなら、レッサーウルフに噛まれても大丈夫そうですね」
エリーが出来上がった厚手の生地の服を見てそう言う。
「いやいや、俺が噛まれないように早めに助けてくれよ」
俺は呆れるようにそう言い、エリーは笑う。
「今日は妹さんとご一緒ですか?」
仕立屋のおやじがそう聞いてくる。
「いいえ、妻です」
エリーが全否定する。
そして仕立屋のおやじがドン引きする。
「妹だ! 妹!!」
俺は慌てて否定する。変態を見るような眼で見られるのは勘弁だからな。
そしてエリーが頬を膨らます。
俺は逃げるように仕立屋を出て宿屋に向かって歩く。
「もう、タイヨウお兄さん、何で妻って事を否定するんですか?」
そう、不機嫌そうなエリーに問いただされる俺。
「だって、エリーは未成年だろ? それに、俺はおっさんだし、他人から見たら変態だぞ?」
俺は必死に弁明する。
「というか、人間族の兄と獣人族の妹とか成立するのか?」
俺は仕立屋のおやじにそう聞かれて違和感がしたのを思い出し、エリーに聞いてみる。
「そうですね。獣人族と人間族の混血は進んでいるので稀にあります。獣人族の夫婦から人間の子供が生まれたり、獣人族と人間族が結婚した場合、どちらも生まれたりする可能性がありますしね。そして、獣人族は子供を大事にするので、耳や尻尾の生えてない子供でも大事な家族ですし、町の人たちも温かく迎え入れてくれます。ただ、人間の夫婦から獣人の子供が生まれることはないみたいですね。過去に獣人の血が混ざっていたとしても」
エリーがそう言って教えてくれる。
「私とタイヨウお兄さんの子供が獣人族だろうと、人間族だろうと心配はいりませんからね。きっと可愛いだろうし、大事に育てますね」
エリーが照れながらそう付け足す。
エリーは未成年だし、子供が生まれるようなことはおろか、キスすらしてないだろ。
俺はそう思って、心の中で呆れる。まあ、俺が寝ている間に全身ぺろぺろはされたのか。
まあ、あれは治療だ。ノーカウントだ、ノーカウント。
そんな感じで、獣人の生活の事などを聞きながら、一度宿屋に帰り、厚手の服に着替えて防具をつけ直す。これで二の腕やふとももなど、防具のないところを噛まれても重傷を負うことは減るだろう。
「この装備なら、レッサーウルフだろうと、レッサークーガだろうと大丈夫ですね。それでは、東の門に行きましょう。東の橋を渡って、カミラちゃんが言っていたわんにゃん祭り2日目開始です」
エリーが嬉しそうにそう宣言し、引きずられるように東門に連れていかれ、橋を渡り、肉食獣天国を引きずり回されるのだった。
カミラめ。余計な事を教えやがったな。
夕方、日が暮れるまで、東の街道でわんにゃん祭り2日目に付き合わされ、70匹近い、レッサーウルフとレッサークーガを倒し、最後に出たレッサーボアも倒して肉屋で売って昼間の狩りは終了した。
楽しそうにレッサーウルフを狩りまくるエリーに引きずり回されてかなりへとへとだ。この後カミラと夜も魔物狩りをするのに体力が結構ヤバイ。
そして、スパルタ狩りのかいもあったのか、昼間の狩りで俺のレベルは25から26に。エリーも23から25に上がった。
「カミラちゃんから聞いてはいましたが、本当にタイヨウお兄さんと一緒に戦うとレベルが上がるのが早い気がしますね。あっという間にレベルが2も上がっちゃいました」
宿屋に向かって帰りながらそう言って喜ぶエリー。
俺のスキル『妹の為に一緒に戦う』の効果で俺とエリーの経験値がお互いダブルカウントされるからな。どっちが倒しても経験値が手に入る。要は経験値2倍って感じだ。
宿屋に到着し、先にギルドで魔法石を精算する。拾った魔法石は102個と、やはりワーウルフを相手にすると魔法石の回収効率は悪いな。
ギルドで魔法石を換金したが、銀貨3枚と小銀貨2枚にしかならなかった。
ただし、今日はレッサーボアを2体倒して肉屋に卸したので、1匹銀貨12枚、2匹で24枚、エリーと半分こしてもかなりの収入になった。
夜の6時からは今度はカミラと夜の魔物狩りだ。
とりあえず、出かける前に俺とカミラとエリー、3人で酒場に行き、夕食を食べてから出発する。エリーは宿屋でお留守番。お洗濯と湯あみをして寝るそうだ。
実際、俺はスキル『妹の為に24時間戦える』で休まずに最長24時間戦い続けられるが、普通の人は半日、8時間程度が精いっぱいだ。
なので、俺はエリーとカミラ2交代制で魔物狩りをしている。少しでも早くレベルを上げて、妹のあてなを勇者という危険な使命から助ける方法を見出さないといけないしな。
そんな感じで、夜は、北の街道をひたすら北に進む。実際、明後日から北に向かって移動するのだが、この辺の魔物くらい倒せなくては次の街に行けないだろうとのことで、カミラのスパルタが始まった。
まあ、出てくる魔物はレッサーウルフやレッサークーガなので、苦労はするが、死ぬほどの危機感はなかった。なんだかんだ言って、俺もレベルが26になったしな。
しかし、そんな考えは甘かった。
「お兄ちゃん、ミディアムバットだよ。レベル21越えのランク2魔物の登場だよ」
カミラが楽しそうにそう言い、巨大なコウモリに、魔法使いの杖と長柄槍斧が合わさったようなカミラオリジナルっぽい武器、槍斧魔法杖で斬りかかる。
スモールバットもデカかったが、ミディアムバットはさらにでかい。
スモールがチワワくらいの小型犬の大きさだったのに対し、ミディアムは中型犬、柴犬くらいの大きさがある。それに合わせて翼もデカい
俺はコウモリのデカさにビビりながらメイスを振り回して距離をとる。
「お兄ちゃん、気を付けて。言ってなかったけど、コウモリ系の魔物に噛みつかれるとたまに、『感染』ってバッドステータスつくからね」
カミラが群れで襲ってくるミディアムバットを槍斧魔法杖軽くいなしながらそう俺に言う。
「ちょ、まて、『感染』ってなんだよ? 治療不可とか、死んだりしないだろうな?」
俺はさらにビビッて巨大なコウモリ達に向かってメイスをぶんぶん振り回し近づけさせない。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。まあ、『感染』っていっても、重い風邪みたいな感じだから、体にバイキンが入って、めまいや吐き気がして熱が出てフラフラになって動けなくなるくらい? まあ、私の『毒消し』の魔法で何とかなるけど、MP勿体ないから噛まれないようにね」
カミラが笑いながらそういうと、ミディアムバットを1匹、真っ二つに切り裂く。
「MP勿体ないとか言うな!!」
俺はそう叫んで、巨大なコウモリの翼を叩き折り、地面に落とす。
ああ、くそっ、とどめを刺す余裕がない。
俺は2匹目のコウモリを牽制しつつ、距離を置き、落ち着いたところで2匹目も地面に叩き落し、やっととどめを刺し、1匹目のとどめも刺しに行く。
さすがにレベル21越えの魔物だ。全く余裕がない。
俺は何とか大量のコウモリに囲まれないように、1対1の状況になるように逃げ回りながら、1体ずつ確実に倒していく。
それに対し、カミラは楽しそうに巨大なコウモリを叩き斬りまわっている。
「お兄ちゃん、今度はミディアムスネークだよ。絡みつかれたら逃げられないし、毒もあるからね」
「こら!、待て!!」
楽しそうなカミラに対し必死な俺。
全然ミディアムじゃねえ、ビックだよ、これ。ニシキヘビよりでけえ。
「次はミディアムスパイダーだね。粘着質の糸を飛ばしてくるから気を付けてね。もちろん、毒もあるからね」
「ぎゃー、糸が絡まった。カミラ、助けてくれ!!」
俺は軽自動車くらいありそうな巨大なクモの糸に絡まれ、噛まれる直前でカミラに助けられる。
そして、カミラの弱い火の魔法でクモの糸を溶かしてもらう。
ふう、死ぬかと思った。
というか、俺、今夜死ぬかもしれない・・・。
そんな感じでレベル21越えの魔物を倒しガンガンレベルがあがり、いつもより少し大きな魔法石を手に入れる。
ぶっちゃけ、カミラがいたから何とかなったが、俺とエリーだけだったら確実に巨大なコウモリに噛まれて『感染』して、巨大なヘビに噛まれて『毒』に冒され、巨大なクモの糸に絡み取られて、食べられていただろう。
うん、俺、よく生きていたな。
そんな無茶苦茶な狩りのおかげか、俺のレベルは26から一気に31に。カミラのレベルも25から31に上がったらしい。
というか、カミラが俺と同じレベルとはどう考えても思えない強さだ。しかも魔法を温存してやがる。
【異世界生活3日目 深夜】
時間は夜の12時。俺はへとへとになって、命からがら、町の宿屋に帰りつく。
「お兄ちゃん、いっぱい運動したからお腹空いたね。女将さん、牛肉ステーキ、パン多めで」
カミラは宿屋の酒場に着くなり、カウンターに座りそう注文する。
俺は、体を引きずり、カウンターに寄りかかるように座ると、
「俺は野菜スープとパンで」
そう注文してカウンターに突っ伏す。
動き過ぎと、死にかけたストレスで吐きそうだ。食事も喉に通らなそうだ。
「お兄ちゃん、よわよわ。そんなんで、魔王を倒すとかよく言えるよね」
カミラがジト目でにやけ、俺をからかうようにそう言う。
なんとでも言え、俺は飯を食ったらさっさと寝るぞ。カミラのスパルタ狩りには普通の人間はついて行けない。
俺は配膳された野菜とベーコンの入ったスープにパンを入れふやかして喉に無理やり流し込む。
お米があるのならおかゆが食べたい気分だ。うどんでもいい。
そんな身体状況、心理状況だった。
「もう、お兄ちゃん、病人みたいな御飯の食べ方しないの!」
カミラが呆れるようにそう言ってステーキを頬張る。
牛肉から滴る脂を見てるだけで吐き気がしそうだ。
とりあえず、カミラに言い返す気力もないのでカウンターに突っ伏しながら、黙々とスープでパンを流し込み、食べ終わると、酒場の外で歯磨きだけして、さっさと部屋に上がる。
「おかえりなさい。って、タイヨウお兄さん、どうしたんですか!? フラフラじゃないですか! 顔色も悪いですよ」
俺達の足音と扉の開く音で起きてしまったエリーが俺の姿を見て跳ね起きる。
「話は明日だ。とりあえず、寝かせてくれ」
俺は装備を床に脱ぎ捨て、服を脱ぎ、肌着だけになると、ベッドに倒れ込む。
「お兄ちゃん、だらしなすぎ」
後ろの方でカミラの楽しそうな声がして、俺は意識を失う様に眠りに落ちた。
明日は勇者のお披露目会。久しぶりに妹のあてなの顔が見られる。俺はそれだけを楽しみに、泥のように眠りにつくのだった。
次話に続く。
エリーの楽しそうに引きずり回すスパルタもヤバイですが、カミラのスパルタがさらにヤバいです。レベルも上がったので今後さらにさらにヤバくなりそうです。
明日は勇者のお披露目を見てから北に移動する予定です。
本日もブックマーク1名様ありがとうございます。やる気が出ます。
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