第11話 兄、敗戦の処理と幼女と魔物狩りリベンジ
【異世界生活2日 夕方】
「エリーちゃんも私たちの部屋に引っ越せばいいよ。私のベッド一人じゃ広すぎるし、一緒に寝よ?」
一通り自己紹介や、事情の説明をし合ったあとカミラがそんな提案をする。
「そうだね。明日以降の宿代も馬鹿にならないし、今日はシーツを血だらけにしちゃって、これからお洗濯しないといけないしね。お邪魔しちゃおうっかな?」
エリーがそう言って、今日から俺達の部屋に居候することになった。遅い昼食も終えたので、とりあえず、俺達の部屋に戻る。
俺は今日の午前中、調子に乗って、実力以上の狩場に進んでしまい、レッサーウルフという魔物に囲まれて死にかけた。
そのおかげか、なぜか、押しかけ女房状態の新しい妹が加わったのだ。
「えっと、タイヨウお兄さん、汚れた服を出してくださいね。洗って、破れたところも繕っておききますから」
そう言って、エリーは俺の血だらけになった服を今から洗ってくれるそうだ。
気が利くし、いいお嫁さんになりそうだな。俺みたいなおっさんにはもったいない。
俺の汚れた服を持って部屋を出ていくエリー。
ちゃっかり、カミラも自称マジックバック(本当はスキル『マジックボックス』)から汚れた服を出してエリーに渡していた。
「俺は、替えの服を仕立屋に注文してあって、それを引き取りに行くんだが、カミラはどうする?」
俺はカミラにそう聞く。
「うーん、今、4時くらいだから、6時には帰ってくるんでしょ? ここで待ってるよ。夜も魔物狩りに行くんでしょ?」
カミラが当然のようにそう聞く。
「魔物狩りって、こんなに怪我しているのにか?」
俺はそう言って左腕をまくって、戦争映画で見た弾痕のように窪んだ大きな傷を見せる。
「もう、しょうがないな。『治癒魔法』」
カミラがそう言い、両手を俺の方に向ける。
カミラの体が光り、その光が手に集まると、その光が俺の方に移ってきて、自然と体が温かくなる。
そして、気づくと、傷口の強張りというか痛みというか、違和感のようなものがすうっと消える。
「傷口見てみなよ」
カミラがどや顔でそう言うので、慌てて、左腕の二の腕についた大きな傷を見ると綺麗に消えていた。
服の上から足のももの辺りを触るが、痛みもないし、食いちぎられてくぼんだようになっていた傷跡が綺麗になっているようだ。
「お前も神官なのか?」
俺は慌てて聞き返す。
「うーん、ちょっと違うかな。それと、エリーちゃんには魔法使い見習いって事になっているから、今の事は内緒にね。買い物に行ったら、町で野良ヒーラーさんに治療してもらったとでも言っておいて」
カミラがそう言う。
本当に謎の多い幼女だ。そして、野良ヒーラーってなんだよ?
というか、エリーのぺろぺろの努力が無駄になった気がして、彼女が可哀想になってきた。
「ああ、それと、なんか、新しいスキルが手に入ったんだが、これ、なんだかわかるか? まあ、名前の感じで大体の予想はできるんだが」
俺はそう言って、ギルドカードを取り出し、カード裏のスキル一覧を見直す。
カミラは『鑑定』スキルとかいうのを持っていて、それで他人のスキルが覗けるし、スキルの意味も分かるらしい。
「ああ、また『妹の為なら』のスキル、枝が伸びているね。なになに? 『妹の為なら』『死ねない』ね。まあ、名前の通りだね。HPが10%を切ると、MPを消費して自動治癒と自分にバフがかかる、ステータスが一時的に上がるみたいね。鍛冶場の馬鹿力って感じ? まあ、回復って言ってもHP10%を維持するだけのお察しの治癒力みたいだし、MPが尽きると終わりみたい。まあ、最後に力を振り絞って逃げられたらいいなくらいのスキルだね」
カミラがそう言って笑う。
そうは言っても昨日の怪我は致命傷に近かったし、自動治癒がかからなければ血が垂れ流しになって死んでいただろうしな。まあ、ありがたい、最後の命綱って感じで重宝しそうだ。
とりあえず、レッサーウルフに襲われる前までの魔法石が鞄の中に残っていたのでギルドの受付で換金する。
「おかえりなさい、タイヨウさん」
ギルドの受付のアイナさんが笑顔で迎えてくれる。
「ああ、ただいま。悪いんだが、今日も魔法石の換金お願いできるか?」
俺はそう言って、鞄の中から大量の魔法石を取り出す。
「今日は昨日以上に凄い量ですね」
アイナさんがそう言って驚く。
「ああ、レベル20になっていたから、思わず乱獲してしまったよ。魔物の濃度も濃かったしな。あと、新しく買い替えた武器が予想以上に体に合ったようだ」
俺はそう言って、左手で杖のようにして持っていたメイス、俺の相棒を褒めるように右手で叩く。
「凄いですね。魔法石が282個もありましたよ。銀貨9枚と小銀貨2枚ですね」
アイナさんの後ろからいつものおっさん(通称係長)が出てきて、後ろで数え直して、代わりに銀貨を持ってくる。
「武器の新調で散財したから助かるよ」
俺は銀貨を受け取り、ポーチに入れて、そう言って笑う。
「そういえば、昨日少し気になったんですが、タイヨウさんは、普段、私服の上から鎧を着ているんですか?」
アイナさんがそう聞いてくる。
「ああ、そうだけど、普通は違うのか?」
俺は気になって聞き返す。
「まあ、人によって違いますし、予算の都合とかもあるので、様々ですが、初心者の方でも、鎧の下は、柔らかくなめした革製の長袖の服とかズボン、厚手のテント生地のようなものでできた服を着ますね。で、レベルが上がるとそれが鎖帷子になったりします」
アイナさんがそう言う。
「なるほどな。確かに、さっき、レッサーウルフに二の腕を噛まれて死にそうになった」
俺はそう言って思い出す。確かに二の腕やふともものところがもう少し厚手の生地だったり、皮製だったりしたならば、あそこまで肉を食いちぎられなかったかもしれないな。
「レッサーウルフ!? だ、大丈夫だったんですか?」
アイナさんが驚く。
「ああ、なんか野良ヒーラー? とかいう人がいて助けてくれた。昨日着ていた服はかなり破れたけどね」
俺はカミラに言われた通り適当に誤魔化す。
「野良ヒーラー? ああ、通りすがりの神官さんって事ですね。それは運がよかったです。魔物狩りをする神官さんって少ないですからね。まさに神に感謝です」
アイナさんがそう言って笑う。
アイナさんの話では神官は普通、教会に篭って神様にお祈りしているものらしく、俺達みたいな冒険者が怪我した場合は、教会に行ってお布施を払って治療してもらうのが普通だそうだ。しかも結構お金をとられるらしい。
そんな感じで、午前中の魔法石を換金してもらってから、昨日、服の仕立てを注文したお店に向かう。
魔物狩り時の服装か。相談した方がいいかもな。
俺は仕立屋に着き、お願いしていた普段着の予備を受け取り、銀貨5枚を払う。
それと、自分が冒険者の初心者であることを説明し、服の相談をしたところ、この店でも冒険者用の服は扱っていることが分かった。
「なるほど。冒険者さんでしたか。それでしたら、破れにくい、馬車の幌にも使われるようなテント生地でできたズボンとジャケットがお勧めですね。もしくは、今後、鉄板鎧などを着られる予定でしたら鎧下、ウール生地で中綿の入った服などもお勧めですね。あとは、革製のジャケットとズボンを鎧の下に着る人なんかもいますね」
仕立屋のおっさんが色々教えてくれる。
「どれがお勧めだ?」
俺はよく分からないので聞き返す。
「単独での防御力の高さは牛革のズボンとジャケットでしょうね。ただ、動きやすさならテント生地がお勧めですし、鎖帷子や、鉄板鎧を装備する予定なら鎧下でしょうね。まあ、テント生地でも鎧下の代替にはなりますが、緩衝材の意味もあるので将来的には鎧下をお勧めしますね」
そういって、店の奥に展示されている3着を見せてくれる。
一品物でサイズは合わないが一応、袖を通してみる。
うーん、皮のジャケットは確かに防御力が高そうだが、肘が張って動きにくそうだ。しかも洗えなそうだしな。鎧下はなんか偉そうだ。これの上に鎧代わりの皮の貫頭衣、初心者丸出しの装備を着たらちょっとかっこ悪いかもな。
結果、テント生地のジャケットとズボンを2着ずつ作ってもらう。
上下銀貨3枚ずつ、銀貨12枚だった。結構な出費だ。まあ、午前中みたいな目には会いたくないしな。明日仕立て上がるそうなので夕方取りに来よう。
とりあえず、宿屋に戻ると、カミラとエリーが楽しそうに話をしている。
洗濯物はエリーの部屋に干してあるそうだ。
俺は、ベッドの布団も少し血まみれにしてしまっただろうから、銀貨を3枚エリーに渡して詫びておく。足りなかったら、明日俺が払うからと言って。
そして、夜の6時になったので、今度はカミラと二人で魔物狩りに出かける。
「お兄ちゃん、リベンジマッチだよ。レッサーウルフとレッサークーガ、狩りまくるよ」
カミラがそう言ってやる気満々だ。
俺としたら、当分はオオカミの顔なんて見たくないんだけどな。
「なんか、まだフラフラするからお手柔らかにな」
俺はそう言って、やる気満々のカミラについて行く。
「ああ、それって、MPが枯渇しているからだろうね。午前中死にかけて、MPで無意識にスキル使いまくって生き残った感じっぽいし」
カミラがそう言って笑う。
『妹の為なら死ねない』のスキルの弊害らしい。
「だから、もう一度、レッサーウルフに噛みつかれまくったら、死ぬからね。MP不足でスキル発動しないし」
カミラが怖い事を言う。
というか、そんな状況で、レッサーウルフ狩り、しかも死にかけた西門の先に行こうとするなと言いたい。
そんな感じで、カミラに引きずられるように、事故現場まで連れていかれ、集まってくるレッサーウルフ達をカミラと俺の二人で狩りまくり。リベンジを果たす。
俺は皮手袋や革靴を噛みまくられて生きた心地がしなかったが、カミラは楽しそうだ。
町の西にある街道を西に向かってに進み、レッサーウルフの群れ、6匹前後を5組倒して。西の街道での狩りは終わり。これ以上行くと、もっと強い魔物が出るそうだ。
カミラがいると、明かりを気にしないでいいのは助かるな。
魔法で杖を光らせたり、光の玉を出したりしてくれてあたりが明るく照らされる。まあ、反面、魔物を呼び寄せている気もするが。
途中、カミラのレベルが22になったそうだ。本当かどうだか知らないけどな。
レベル22にしては強すぎるだろう。それが俺の印象だ。
その後すぐに俺もレベル22になるがどう考えても同じレベルな気がしない。
レッサーウルフより強い魔物と戦うのは御免なので、一度街道を東に戻り、昨日の夜や午前中歩いた森にそって西の街道から東の街道まで丸く回るルートを通って、魔物狩りをし、東の街道、南に流れる川の橋を渡るルートに変更する。
この後、東の橋を渡って肉食獣天国で魔物を狩りまくるそうだ。
襲い掛かってくるスライムやスモールラット(大きい)やスモールバット(大きい)を倒しながら進んでいく。
スモールリザード(大きい)は昼間活動する魔物らしいな。夜は出てこない。代わりにスモールスネーク(大きい)がたまに出没する。
しつこいようだがスモールと名前がついているが、巨大な魔物の中で小さいという意味で、決して小さい魔物に襲われているわけではない。
「お兄ちゃんもだいぶ、コウモリにも対応できるようになったね」
カミラが俺をからかう様に言う。
昨日は重いこん棒を振り回して全く当たらなかったからな。
「ああ、反省して、もう少し使いやすいメイスに買い替えたからな」
俺はそう言い返し、襲い掛かってくる小型犬くらいありそうなスモールバットをメイスで叩き、翼を折って、地面に叩き落す。そして、もう一撃、とどめを刺す。
そんな感じで俺も魔物狩りにはだいぶ慣れたし、良い武器も手に入ったので、苦戦することなく、東の街道に到着する。
そして、カミラがもう1レベル上がり23に。
「やっぱり、お兄ちゃんと一緒に戦うと戦い易いし、『妹と一緒に戦う』のスキルのおかげで経験値もダブルカウントだから美味しいね」
カミラが本当にうれしそうにそう言って笑う。
この喜び方とレベルの上がるペースからすると、レベル23というのは本当なんだろうか? もしかして俺だけ弱いとか?
俺は逆に俺の才能がないのかもしれないと心配になる。
まあ、明日の昼間にエリーと魔物狩りをして様子を見よう。
「よし、お兄ちゃん、ここからが本番だよ。さっきの西の街道以上に東の街道はレッサーウルフやレッサークーガが出るらしいからね。さあ、ワンニャン祭りの始まりだよ!!」
カミラのテンションがおかしい。
そして、そこから夜の12時まで、ボロボロになるまで、ほぼ休み無しで、オオカミやヒョウの魔物と戦わされるのだった。
カミラは魔法使いのくせに前線で武器を振り回して喜ぶ戦闘狂だったらしい。
というか、魔物狩りの間、光の魔法以外の魔法使ってねえ。
次話に続く。
あまり影響ありませんが、今まで、西と東間違っていましたw イメージしていた町の周辺の地図を描いてみたら、ああ、西門と東門逆じゃん。って気づきまして、急遽、最初から東と西を書き直しました。
死にかけたのが東門から西門になって、ワンニャンカーニバルの通りは西門から東門になった感じです。
大した影響はないと思いますが一応ご報告です。申し訳ありません。