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短編

その香りの正体は

作者: 猫宮蒼



 ――これは既に全て終わった後の話である。



 メリュティエ商会は大陸一の商会として名高い。

 初代が破竹の勢いで築き上げ、二代目以降はコツコツと信頼と実績を積み上げて、そうして今や大陸中でその名を知らぬ者はいない、という程の一大商会だ。

 とはいえ、顧客の大半は平民であり、貴族相手となると伝手が無かったこともあり精々が平民に近しい男爵家だとか子爵家あたりが時折……といった程度の、平民にとっての身近なものであり、貴族からすれば名前は知っているけれど利用する事は滅多にない、そんな立ち位置であった。

 生活必需品の多くを取り扱っているので、この商会がなくなれば多くの民が困るだろう事は確かである。他の商会もそれら生活必需品を扱っていないわけではないが、それでもやはりメリュティエ商会が圧倒的に群を抜いていた。


 さて、そんなメリュティエ商会の一人娘であるマレットは、つい最近婚約破棄をしたばかりである。

 平民でありながらもその財は下手な貴族よりも持っているので、跡継ぎになれない貴族の三男四男あたりに狙われ、同じ商売人としての平民などからも狙われ、とまぁ、それなりに引く手数多であったマレットの婚約破棄というニュースは、それこそ平民貴族問わず広く知れ渡る事となってしまった。


 婚約破棄となると女性側に非がなくともどうしても瑕疵のような見方をされる事もあるのだが、むしろそんなものはなかったかのようにマレット宛てにこれでもかと次のお相手に是非どうですか!? とばかりに届いた釣書に関してはマレットの父でもあるガットンがとてもいい笑顔で燃やしていた。ほうら明るくなっただろう? いや今は昼間なのでそんな物燃やさなくても充分明るいです。


 ちなみに婚約破棄をする事になってしまった元婚約者の家は貴族である。

 貴族相手に平民であるマレット側から婚約破棄をできるのか? と思われがちだが、相手有責なので何も問題なかった。


 お相手は伯爵家の次男。婿入り予定だった。

 マレット自身が貴族になるわけではなかったが、夫になる相手が貴族の家の出であるならば、これから先他の貴族の家とも商売の付き合いを広げる事ができるのではないか、そう思ったからこそマレットの父はその婚約を結んだのだ。

 ちなみに、伯爵家の財政は若干傾き気味であったので、金銭援助を目的としていたのもあっただろう。


 さて、ここまでくると婚約破棄した原因は貴族の次男がさぞクソだったからだろう、と思われがちだが、実際のところは割と円満な破棄であった。

 まぁ、逃した魚は大きかったとか色々伯爵家では言われる事になるだろうけれど、その程度で済んでいるならマシな方だ。本来ならば慰謝料だとかを払う事になっていたかもしれないので。


 金銭の援助を目的として結婚してほしい、とかいう相手はそれこそ沢山いるが、マレットの父のガットンとて誰彼構わずというわけではない。穴の開いたバケツで水を掬い続けるような行為など無駄以外のなにものでもないし、援助して立て直せる見込みがあるならいざ知らず、そうでもない単なる金食い虫などいくら貴族だからとて、可愛い娘をくれてやる理由にはならない。

 くれてやる、というか、この場合婿入りなのでヒモを飼う気はない、と言うべきか。



 婚約を破棄する事になってしまった伯爵家の次男、ニジェール・パリンストンの為人ひととなりを聞かれたならば、可もなく不可もなく、と彼を知る友人の子息や令嬢は答えただろう。

 少なくとも悪い噂はなかった。

 女を下に見て見下すわけでもなく、女に手が早いわけでもなく、金遣いが荒いわけでもなく。

 能力的に優れているかと問われると即座に頷かれるようなこともない、平凡で、害のない存在。


 無能というわけでもないのでさっさと家を出ていけ、と追い出されるような素行でもなく、またこぞって周囲から望まれるような優秀さもない。どこまでも凡庸な男であった。


 婚約が結ばれたのは二年前。

 マレットが十五歳の時の話である。

 この国での成人は十八歳なので、婚約をして問題がなければ三年後、マレットが成人した時に結婚する事になっていた。


 パリンストンは伯爵家で、特に過激な思想も持ち合わせていなかったし派閥間をするすると上手く移動していたからか、周囲に政敵がみっしり……! という事もなく。

 それなりに横にも縦にも繋がりのある家だった。

 長男――ニジェールの兄であるミゲルは優秀で、これなら次の跡取りは心配がないと言われる程。まぁ難を言えば、金がない。これに尽きた。


 贅沢をしたから金がないのではなく、領地内でのあれこれが不幸にも重なった結果の資金難。

 どうにか持ち直したけれど、結果として金がない。という状況がパリンストンの財政の傾きの原因であった。

 しかしどうにか立て直しつつある状況なので、失った資金は数年のうちにどうにか回収できる。更なるトラブルに見舞われるような事でもなければ。

 例えば大陸を未曽有の災害が襲ったりだとか、ある日いきなり魔王とやらが現れて世界を征服しようとしたりだとか、はたまた伝説の竜がある日いきなり大陸を襲いにやってきただとか、流行り病で領民どころか大陸中の人間がバッタバッタと死んだりだとか。

 そういう事でもない限りは、最終的に使い果たした金は回収できる。


 ただ、回収可能であってもそれは数年後という少しばかり長い目で見なければならないものだ。今すぐ回収しようとなれば税収を上げる事になるので、領民が再び苦しむ。折角どうにか乗り越えた危機で、伯爵家とその領民たちの絆はちょっと上がりつつあるのにそんなところで安易に税金上げますとか一瞬で伯爵家と領民たちの間には深すぎる溝が出来上がるだろう。


 そういう事情であったので、ガットンはマレットとの婚約を結んだわけだ。

 領民の多くは平民でもあるので、彼らが貧困にあえいで大勢が死ぬような事になれば最終的に顧客が減る事にもつながる。どこか一つに肩入れする気はなかったが、それなりに人との繋がりが広く、敵と呼べるようなものが表立って自己主張しているようなところでもないパリンストンの家となら、繋がっても問題なかろう、そう判断したわけだ。

 ガットンも生まれながらの商人であるので、勿論パリンストン家については彼なりに調べている。

 調べた結果と己の勘と、周囲の反応。そういったあれこれからニジェールならばマレットを不幸にする事もあるまい、そう、信じていたわけだ。


 実際は婚約破棄となったわけだが。


 二人の仲は良好であった。

 少なくともガットンの目から見た二人は良好にしか見えなかった。

 マレットは整った顔立ちのニジェールにほのかに頬を染めていたし、金目当てとはいえニジェールもマレットに悪い感情を持っている様子はなかった。

 使用人や商会の人間といった周囲に人の目がある状態の時に二人でいる時などは、まだ距離感を掴み切れていないもののそれでもゆっくりとお互いに歩み寄ろうとしている風にしかみえなかったし、その光景はなんとも微笑ましいような甘酸っぱいような、見ている者たちの胸をむずむずとさせるものであったのだ。

 兄ミゲルが優秀なせいでニジェールの評価はそこまで高くはないが、一般的な貴族としての能力は持ち合わせている。学ぶ事を拒絶するでもなく、向上心・向学心ある青年であったからこそガットンはこの男が婿にきたとして、マレットと二人で今後は商会を一層盛り立てていってほしい――そう思っていた。


 まぁ実際は婚約破棄となったわけだが。


 お互い最初の頃は歩み寄ろうとして、というよりはお互い知らない事の方が多すぎるという事でそれこそ警戒する小動物みたいで、これはマレットが結婚できる年になるまでに打ち解けられるだろうか……と不安もあったのだが、それでも一年が経過する頃には大分マシになっていたのだ。

 だがしかし、更にその一年後に婚約破棄。去年だったらこんな事になるなんて誰も思っていなかっただろう。いや、こうなる事がわかっていたなら、もっと別の方法を模索できた、とも思うのだが。



 最初の一年は本当に距離の詰め方がじれったく、使用人たちが偶然装ってちょっとラッキースケベな展開狙ってみますだとか、商会で働いてる者たちがちょっとやらしい雰囲気にしてみましょうだとか、それこそ余計なお世話を発動させようとしていたのだ。

 それくらい初々しい二人であった。


 ガットンは婚約者同士の逢瀬に割り込むなど無粋な事はしないでおこうと思っていたが、それでも気になってちょいちょい様子を窺ったりしていたのだ。

 最初の頃はお互い自己紹介だとか、自分の好きな物とか相手の好きな物とかを聞いたり……というあまりにも古風な見合いか? と言いたくなるような会話ばかりが続いていた。

 その後は好きな本の話題になり、そこからお互いの好きな本の内容だとか感想だとか。

 あまりにも健全過ぎて使用人たちがテコ入れしようとした気持ちはわからんでもない。


 初っ端からいきなり身体の関係を持てとまでは言わないが、それにしたって今時のお子様だってもうちょっとこう……さぁ!? とガットンは言いたくなった。

 そもそもマレットが幼い頃に母が死に、そこからはガットンが男手一つで育ててきたわけだが、そんな状況でありながらもマレットはとてもお淑やかに育ってくれた。

 もっとこう、ガットンに影響されて男勝りになっていてもおかしくはなかったというのに。


 ある意味でガットンの子育ては成功していたと言えなくもない。親に反発ばかりして男の家に転がり込んで父親もわからぬ子を産み落とすような事になっていないだけでも大成功と言える。

 だがしかし、ここまで奥手すぎると結婚してもこれ、本当に子どもとか生まれる? という疑問すら出てきていたのだ。

 まぁ婚約は破棄されたのでそんな心配杞憂に終わってしまったが。



 最初の頃はお互いにゆっくりと、テーブルを挟んでお茶をしながら会話をしてお互いの理解を深めていこうとしていたから特に問題はなかった。強いて言うなら初々しすぎて使用人たちがじれったさを感じていたくらいか。ついでにその報告を聞いていたガットンもじれったさを感じていたが、まぁまだ婚約段階だし? とこの時点では余裕があった。


 だが、いつまでも同じように毎回お茶をしながらのお話ばかりでいいわけもない。

 ちょっと町にでも繰り出して、買い物だとか観劇見てくるだとか、そういうデートとかしておいでとなるのはある意味で当然の流れであったのだ。


 今まではニジェールがマレットの所へ訪れていた。

 マレットが嫁入りするのであればパリンストン家にマレットが出向いていただろうけれど、ニジェールが婿入り予定だったので彼の家に行くという事はまずなかった。


 最初のうちは問題なかった。

 相変わらず初々しさあふれる二人であったけれど、兎にも角にも街へ繰り出しいくつかの店を見て回ったりして、途中疲れたらお洒落なカフェで休憩したりとまぁ一般的な恋人のデートと呼べるものをやっていた。念の為こっそりと二人の様子を確認させるために使用人をつけていたのだが、これはその使用人からの報告である。


 メリュティエ商会の店もそれ以外の商会の店も気にせず二人気になった店を目についた端から見ていたようだ。その合間合間で、二人はお互いの好みに関して情報を深めたりして、第三者から見る限りお似合いの恋人であった。


 まぁ婚約破棄したんだけど。


 問題が出てきたのは、何度かデートを重ねたあたりからだ。

 ニジェールが待ち合わせ場所に遅れるようになってきた。

 最初はマレットを迎えに家までやってきていたのだが、マレットが待ち合わせ場所で合流したいと言い出してからは街の時計塔の下だとかのわかりやすい場所で待ち合わせるようになった。

 迎えに来てもらうのもいいけれど、どうせなら目一杯お洒落して待ち合わせの場所で待ってるドキドキ感を味わいたい、なんて気持ちもあったのだ。


 遅れるといっても最初の頃は精々五分程だとかの、それほど気にならない時間だった。

 それくらいなら途中で道に迷った人に道を尋ねられたりする事だってあるだろうから、マレットは特に気にもしていなかった。これが大事な商談がある、だとかであれば時間厳守でお願いしたいがデートである。目くじら立てて怒るほどのものではない、と思っていた。

 何度かデートを繰り返していくうちに、ニジェールの方も随分と打ち解けるようになってきていた。

 明るく陽気な雰囲気で、楽しそうにマレットと行動する。ただ、デートに毎回遅れるようになってきたのも同時であった。


 五分ほどの遅刻が十分になり、そこから徐々に時間がどんどん遅くなる。

 気付けば、一時間以上待つ事もあった。


 マレットは最初、ニジェールに何かあったのではないか、と心配もしていた。

 けれども遅れてやってくるニジェールは遅れてきた事に対して真摯に謝罪をしてくれていた。謝るなら次は遅刻するな、とマレットは内心で思いもしたけれど、別段デートが嫌でわざと遅れてきている、というわけでもないようだったのでなんだかんだで許してしまった。

 マレットもニジェールの事は嫌いではなかったのだ。半ば政略結婚みたいな部分があったとはいえ、それでも二人はお互いに悪感情を持っていたわけではなかったので。


 けれども、何度も遅れてやってくる、というのはどういう事なのだろうと思った。

 もしかして他に女が……? とマレットはまずそちらの線を疑った。

 それとなく調べてみたけれど、しかしニジェールに女の影はない。

 デートの前に友人の家に立ち寄ったりする事はあったようだが、その友人は男で、尚且つその友人の家で別の女と会っている、という事もなさそうだった。

 次男で将来的に婿入り予定とはいえ伯爵家の人間の友人だ。身元はハッキリしていたし、後ろ暗い事は少なくともマレットやガットンが調べた時点ではなかった。


 ただ、デートを重ねていくたびに、マレットが気になった事がある。

 最初の頃は特に何もなかったはずだが、デートを重ねていくたびに、ニジェールが遅れてやってくるたびに、ふと彼の匂いが気になった。最初の頃はこんな香水つけていなかったはずだ。別に不快なにおいではないけれど、一体何の香水だろうか。どこかでこれと似た香りを自分も嗅いだ気がするが、マレットはそれがどこであったかを思い出せなかった。ガットンに聞いてみようにも、匂いの説明というのは案外難しい。

 どこかで嗅いだとは思う、がしかし、それがどこでだったかを覚えていないので、似ている匂いで例えようにもどう説明していいかわからない。

 知っている花の香りに例えられればまだいいが、そういう匂いとはまた違うのだ。


 ニジェール本人にどんな香水を使っているのかとそれとなく問いかけても、ニジェールは香水は特に変えていないと言っていた。では、この匂いは……? 香水ではないのなら、一体何の匂いなのか……


 この疑問は案外早めに知る事ができた。



 一時間以上の遅刻をするようになってきたニジェールに、流石にこれはどうなんだろうと苦言を呈するようになったマレットに、ニジェールはとても申し訳なさそうに謝ってくれた。けれど、この謝罪も既に何度目か……となっていて、マレットはその謝罪がなんだかとても薄っぺらく感じてしまったのである。

 最初の頃は使用人がこっそり後をつけて様子を見ていたようだけど、それだって毎回というわけではなく早々にそういった見張りはなくなった。ニジェールが五分程度の遅刻をしてきた頃はまだいたけれど、十分くらい遅れるようになってからは既にこっそり見ていた使用人はその役目を本来の仕事に戻るように言われていた。


 そうこうしているうちに、そろそろ婚約して二年になろうという頃。

 二人は観劇へ行く事になった。

 今まではニジェールが遅れてやってくる事もあったからか、時間ピッタリに間に合わなければいけないような催しはマレットが何となく避けていたのだが、今回ばかりはどうしても、となったのだ。

 ポーラ歌劇団。王家もその実力を称賛する大陸の人間なら誰だって知っているような劇団の、二十周年を祝ってのイベント。決められた時にしか上演しない演目で、滅多に見る事のないそれを、今年はお祝いという事で特別に上演する事になったからこそ、マレットはどうしてもそれが見たかった。

 一年に一度その演目をやるならまだしも、大体三年に一度とかなのでマレットは今まで見た事がなかったのだ。前回その演目があった時は身の回りがごたごたしていて鑑賞するような余裕はなかったし、そこから六年前は父の周辺での人間関係がごたごたしていた。更に九年前まで遡れば、そもそもその頃はマレットはまだ演劇だとかに興味を持っていなかった。


 興味を持ったころにはお目にかかれる機会がとんとなくて、見たいなぁという欲だけがスクスクと育っていたのである。

 だからこそ、この機会を逃すはずがなかった。


 ニジェールも観劇は嫌いではないらしいので、それなら是非、と約束をして。


 そうして、ニジェールは当日観劇に来なかった。

 観劇に来ていた客の大半は恋人たちであったり夫婦であったりと、それはもう幸せそうな男女の組み合わせが多かったのだがそこにポツンとマレットは一人で鑑賞をする羽目になったのであった。

 観劇が実のところ嫌いだったのかしら……とマレットは思っていた。

 とはいえ、まぁ、そんな事よりも見たかった劇だ。今の今まで長年お預け食らっていた事もあって、演目自体はとても素敵なものだった。公演中はマレットも時を忘れるほど夢中になって舞台を見ていた。


 だが、それが終わった後。


 なんだか途轍もなく虚しい気持ちに襲われたのである。


 途中で遅れてやってくるでもなく、最初から最後に至るまで来なかったニジェール。

 見に行く前はお互い楽しみだなんて話していたのにいざ当日になってドタキャンとくれば、何かあったのかと心配もしたしどうせまたいつものやつね、と悪態をつきたい気持ちにもなった。


 これが最初のデートでニジェールが来なかった、というのであればマレットも中座してニジェールに連絡を取ろうとしたかもしれない。けれども、毎回遅刻してきてその挙句遅れてくる時間がどんどん増えていくような状態であれば、何かあったのかしら……? と心配だけをするようなこともなくなってしまった。


 どうしたものかな、と思う。


 ニジェールは婿入りして将来的には商会を盛り立ててもらわなければならない。跡継ぎはマレットだが、ニジェールは決してお飾りの夫なんてものではないのだ。

 だが、商売人というのはお金にも時間にもきっちりしていないといけない。

 信用も信頼もどれだけ積み重ねたところで、そこがきちんとしていないと積み重なる以前にあっという間に崩壊するのだから。



 その後謝罪の手紙がニジェールから届けられ、今回の埋め合わせを、となったのだがこの時点でもうマレットはニジェールの事を信用などしていなかった。埋め合わせ、そう言って何度も遅れてやってきた男の言葉のどこを信じればいいのだという話だ。


 マレットは父にニジェールとの婚約はもうだめかもしれない、と伝えた。最初の頃の初々しさ、お互いにゆっくりと歩み寄っていく様しか知らなかったガットンは一体何事かと問うた。まぁそうだろう。上手くいってるものだと思ったのにその娘の口から駄目かも、と言われたのだ。

 最初のうちはほんの数分の遅刻程度だったのが、まさか先日のデートで行った観劇を完全にすっぽかされるだなんてマレットだって思っちゃいなかった。そしてガットンもその話を聞いて大いに驚いたものだ。


 観劇の演目はガットンもよく知っているある意味で恋の話であった。懐かしいなぁ妻と昔見に行ったなぁ、と優しい思い出に浸れるエピソードの一つだ。

 今見るともしかしたら古臭い話ととられるかもしれない。けれど、時代が変わってもそれでもなお変わらぬ良さを持ち続ける話はあるのだと、是非行っておいでと送り出したはずなのだが。


 まさかのすっぽかし。


 観客たちは恋人やそれに近しい間柄の者たちが大半だろうそこに、たった一人の娘。しかも隣の席は空白。明らかにすっぽかされたのだとわかるような中でそれでもマレットは一人その劇を最後まで見届けてきたのだ、と聞いて。

 ガットンはなんだか自分の思い出まで汚された気分になった。

 ニジェール含めたパリンストン家の人たちは貴族でありながらもそれなりに話の分かる人たちである、というのがガットンの見解だったが、もしや自分の見る目が曇ったかとも思い始めた。

 一体どういうつもりだろうか。


 これがマレットがニジェールが気に入らなくて適当に彼の悪評をでっちあげようとしている、というのであればまだしも、観劇にたった一人、明らかに一緒に来る予定の相手がいなかっただろうマレットなど、ちょっと調べればすぐに事実かどうかは判明する。実際マレットの知り合いも丁度観に来ていたのだ。彼女の隣の空席を見て、何かあったのかと思っていた一人である。


 そうやって調べていくうちに、ニジェールがマレットとの逢瀬をどうも軽んじているように思えてしまって。ガットンはまずパリンストン家にどういうつもりか真意を問いただす事にした。まさか何の考えもなしにこちらを軽く扱っているというわけでもないだろう。

 ところがパリンストン家もその話は寝耳に水だったらしく、向こうもいたく驚いていた。ガットンは一瞬演技か? とも疑ったが、貴族でありながら平民であるガットンにこれでもかと頭を下げてくる様子から演技の可能性も低いな……と思い直した。


 ニジェールの両親と兄があいつに問いただしてくる! といきまくも、それを止めたのはマレットだった。

 どうせ、ここで問い詰めたところで反省しているという様子を表にだして、しばらくはしおらしくしているとは思うがきっと心の奥底からの反省はしないのではないか。そう疑っていたからだ。


 だからこそ、この埋め合わせは次の機会に、というニジェールの手紙の内容からマレットは早速次のデートの約束を取り付けた。そこに、ガットンやニジェールの両親をこっそり伴う事にして。



 既に結論は出ているので今更だが、これが切っ掛けで婚約は破棄される事になったのである。



 約束の時間になってもニジェールは来なかった。

 いつもこうなんですよねぇ……と慣れたように言うマレットに顔色を悪くしたのは勿論ニジェールの両親である。跡継ぎではないといえども、彼にもきちんとした教育は受けさせていた。だからこそ、まさかこんな相手を軽んじるようなことをしでかしているとは俄かに信じがたかったのだ。けれども実際ニジェールの姿はない。


 今回マレットがニジェールを呼び出したのは、ポーラ歌劇団よりは気楽に鑑賞できるリリー劇団の公演であった。別に演目に関してマレットがどうしても見たいと思ったわけでもなく、そこそこの観衆が集まるからこそお忍びスタイルになったニジェールの両親――パリンストン夫妻が紛れても目立たないだろうと思っての事だ。

 結局のところ、ニジェールは演目が始まった最初から終わりを迎えるまで、姿を見せなかったのである。


 パリンストン夫妻はこれに当然激怒した。確かに相手は平民だけど、財政難で困っている家を立て直すべく援助されているのはこちら側である。

 そりゃあ援助されたついでにこちらの貴族の繋がりだとかから、新たな商売を、という向こうにとってもそこそこ美味しい条件をつけてはいるが、だからこそどちらが上だとかではないのだ。持ちつ持たれつ。


 大体今の今まで二人が上手くいっていると信じて疑っていなかったものの、では今ニジェールは一体どこで何をしているのか。

 パリンストン夫妻はニジェールの居場所を突き止めよと使用人たちに指示を出し、見つかり次第そりゃもう最大級の雷を落とすつもりであった。これで行き先が別の女の所だとかであったなら、間違いなくニジェールの命はなかったであろう。



 ニジェールがいたのは、友人の家であった。パリンストン家からそこまで離れていない子爵家の、ニジェールにとってそれなりに仲の良い子息。女の家でなかった事にニジェールは首の皮一枚でギリ生存できているが、しかし事と次第によってはこの先の保証は何もない。


 本来家族間の事なのでパリンストン夫妻だけが子爵家に行くつもりであったが、当事者という事もあってマレットとガットンもまた共に行く事になった。

 そうしてネイロン子爵家のロイド――彼がニジェールの友人である――は、パリンストン夫妻とガットン、マレットを見てあっちゃーとでも言い出しそうな顔で天を仰いだのであった。


 健やかな寝息を立てて眠っているニジェールは、別段情事の後だとかそういうわけではなかった。これでロイドが浮気相手であったなら、まぁ間違いなくパリンストン夫妻が何をしでかすかわかったものじゃない。うっかり自分の命も危険に陥っていると察したロイドは、すべてをお話しします……と真剣な顔をして話し始めた。本来弁明すべきであるニジェールは相変わらず眠っているので。



 ニジェールにとってマレットは自分の理想を煮詰めたような女の子であったらしい。見た目も声も性格も、マレットを構成する何から何まで否定するべき要素は一点もなく、しかもそんな相手が婚約者に、となった事でニジェールはそりゃもう天へ昇りかねないくらい浮かれていたのだとか。

 ロイドは言う。

 あいつの惚気がとても鬱陶しくて何度殺してやろうかと。

 別にどちらかに懸想しているとかではない。ただ、程度の問題だ。

 最初のうちはそうかそうかとニジェールの話を聞いていたロイドだって、限度を過ぎればそろそろ鬱陶しいなと思うのは仕方のない話である。


 最初のうちはお家の中でお茶会っぽい感じでお話するだけだったから、まだ大丈夫だった。

 だが、外に出てお互いデートをしようとなった途端、ニジェールは緊張のし過ぎで眠れなくなり、また好きな相手に失望されたらどうしようという不安などから思わずロイドの家に駆けこんだのだという。


 これからデートなんだけど、どうしたらいい!?


 そう聞かれてもロイドからすれば知らんがな、かもしくはおう頑張れ、としか言いようがない。

 だがもう緊張しすぎで心臓はバクバク、右手右足が同時に出るくらいにポンコツと化しているニジェールを、そのまま送り出すのはな……とロイドも思ったようで。

 なのでまぁ、ほんの気付け程度にとロイドはニジェールに酒を出した。

 酒といっても度数は低く、ここいら一帯のお子様だって水みたいに飲むような代物だ。それをほんの一口程度。まぁ平民の間ではそれなりに出回ってるけど、身分が上の貴族が口にするかとなると恐らくはしないだろう。そういった家はまず間違いなく普通にワインとかブランデーが出る。


 少量のアルコールによって、ニジェールはふわふわとした心地になってそのままデートへ出向いて行った。

 ニジェールは普段ワインを嗜んだりもしていたので、あの程度のアルコールで酔っ払って前後不覚にはならないだろうとロイドも思っていたし実際ほんのちょっと遅刻してしまったもののどうにかなったらしい。

 ロイドの家に立ち寄らずまっすぐ待ち合わせ場所に行ってれば遅刻なんてしなかっただろうに。


 ロイドとしてはそう思っただけで、まさかこの後とんでもない事になるなんて思ってもいなかったのだ。


 次にロイドの家にニジェールがやって来たのは、またもマレット嬢とのデートがある日であった。当日に、唐突にやってくるな。いくら友人とはいえ事前連絡なしで来られると何かあったのかと思ってビックリする。そう言ったもののニジェールは軽い謝罪をしただけで、またあの飲み物が欲しいと言い出した。

 流石にちょっとした景気づけに家でワインだとかブランデーだとかを飲んでから外に出るわけにもいかないのはニジェールも理解していたらしい。

 かといって、ロイドの家で飲んだ酒を我が家にも、なんてことはできない。パリンストン家でそんな酒だけど貴族の中では酒扱いもされていないような代物、持ち込めるわけがなかったのだ。ニジェールが欲しいと言ったところで、酒なら家にワインやブランデーがあるだろう、で一蹴されてしまう。自分で購入したとして、使用人から父、もしくは兄あたりに知らされれば面倒な事になるかもしれない。それくらいはニジェールでも想像できてしまったからこそ、ロイドの家に行って貰っていたのだろう。


 最初のうちはまだその程度の話で済んでいた。

 しかし、元々度数の少ない酒。何度も続けて飲むようになれば酔う事だって少なくなる。アルコールに耐性がないだとかであればともかく、ニジェールは家ではワインを嗜むくらいの事はしていたので。とはいえ、滅多に口にする事はなかったからこそ、度数の低い酒でほんのり酔うことができていたわけだが。


 ニジェールにとってマレットの存在はそれはもう共にいるだけで天にも昇りそうな気持ちになる相手なのだが、同時に何かやらかして自分の情けない姿を見せる事を嫌がった。好きな相手にはいつだって自分が素敵に見えるようでありたい。男も女もそういった見栄は少なからずあるので、だからこそロイドは突き放す事ができなかった。


 だが、段々酔えなくなってきたニジェールは酒量が増えた。度数の低い酒をパカパカ飲むよりは、ちょっと度数の強い酒に変えれば良かったのかもしれないが、ワインやブランデーの匂いはすぐにバレるとニジェールが嫌がった。ロイドが出した度数の低い酒は子供も飲める程の、まぁ、なんていうかほぼ水みたいなものだ。アルコールの匂いもそうきつくない。だから多めに飲んだとしてもニジェールが身に着けていた香水の匂いに紛れてほとんどわからない。


 まぁロイドとしても気持ちはわからないでもなかったのだ。

 これから好きな女とデートするという時に、相手が酒の匂いをぷんぷんさせていたらどう思われるかなど。軽く酔った状態じゃないと緊張してとてもじゃないがマトモに相手とやりとりもできない、というのもどうかとは思っていたけれど。


 だがしかしこれからデートなのだと言いながらロイドの家にやってきて、そうして酔うまで酒を飲む滞在時間が増えてきたのが気にかかっていた。待ち合わせは大丈夫なのかと問えば大丈夫、と既にほろ酔いだったニジェールがニカッと明るい笑顔を浮かべていうが、不安がなかったわけじゃない。けれども口出しはできなかった。ロイドはあくまでもニジェールの友人ではあるけれど、マレットとは何の接点もないのだ。いきなりそんな相手がマレットの所へ訪れてあれこれ言うわけにもいかない。


 ほろ酔い状態のニジェールがロイドの屋敷から出ていった後は、まぁ何とかうまくやってるだろう、とロイドも思っていた。だがしかし、一度心配になってこっそりと後をつけた事がある。

 ご機嫌状態のニジェールはそのまま町で他の友人と出会い、ロイドが割り込む間もなくその友人と遊びに行ってしまったのだ。本来の目的であるマレットの事は完全にすっぽ抜けていた。


 流石にアレはどうなんだろう。問題しかないんじゃないか。

 酒を提供した自分にも何かあったら責任を取れと言われるだろうな……と思ったからこそ、この次にニジェールが来た時ロイドは心を鬼にして彼に酒を出さなかった。

 だがしかし、ほんのちょっと目を離した隙にニジェールは勝手知ったる何とやらとばかりに自分で酒を用意して飲み始めてしまったのである。


 そうしてご機嫌状態に酔っぱらって、そこでやめておけばいいのに隣にあった別の度数がやや高い酒を飲み、すっかり潰れてしまったのである。


 その潰れたのが、マレットと観劇に行く予定の日であったのだろう。


 更に次のデート予定日もまた似たような事をしでかしてしまった。

 ロイドがニジェールを家の中に入れなければ済む話だったのかもしれないが、子爵家の人間が跡取りでないとはいえ伯爵家の人間を無下にできるはずもない。

 前回とは別の場所に酒を置いて隠すようにしていたというのに、ニジェールはやはり勝手知ったる何とやらとばかりに探し当て、そうして勝手に酒盛りを始めてしまったのである。マレットに対する盛大な惚気とともに。

 だがしかし、ニジェールのマレットに対する想いをこんな場所でのたまったところで、デートに関して度重なる遅刻、そしてドタキャンをしている以上その気持ちがマレットに伝わるはずもない。

 お前いい加減にしろよ、と言ってはみたものの、果たしてどこまで伝わっているのやら……



 と思っていた矢先に今回のパリンストン夫妻とマレットとガットンの来訪である。



 もういっその事ニジェールが他の女に浮気してた方がまだマシだったのではないか。ロイドはそう思い始めていた。

 最初は良かれと思っての事だが、最終的にこんなことになってしまった以上責任はロイドにもある、と頭を下げれば、パリンストン夫妻もガットンも、ロイドが悪いわけではないと言ってくれたことがロイドにとっての救いであった。

 マレットはちょっと何言ってるかわかりませんね、という顔をしていた。


 何気にマレットはどれだけ酒を飲んでも酔った事がなかったので。


 だがしかし、ある時から香っていた匂いの正体が判明した事でマレットも納得したらしい。これがワインやブランデーの酒精であったならもっと早くに原因を突き止めていただろう。しかし平民の間で広まっているほぼ水レベルの酒。確かに匂いはほとんどない。かすかに香る程度。余程の量を飲まない限りは酒の匂いがプンプンする、なんて事もないので、ニジェールの思惑通り彼のつけていた香水に紛れていたためわからなかった。


 ニジェールが香水を身に着けていなければ、もしかしたらマレットもわかったかもしれない。



 女と浮気していなかった、というのは大きな安心の一つだが、しかしこんなんではやっていけるはずもない。ニジェールがあまりにも酒に弱いという事実をパリンストン夫妻も知らなかった。家で飲んでいる時は確かにほんのちょっと舐める程度でしかなかったけれど、酔った姿を見せた事がなかったので。


 商会では別に何かにつけて飲み会をするわけではないが、しかし付き合いというものはある。そこで酒を飲んでべろんべろんの前後不覚状態になられて、その合間に不利な条件での契約を結ばれてしまうかもしれない事を考えれば、こういった場面で酒に弱い事がバレて良かったのかもしれない。だがしかし、会合での付き合いで酒を一滴も飲まないわけにもいかない。マレットがニジェールのかわりに全ての酒を飲むにしても、マレットだって常にニジェールに張り付いているわけにもいかない。


 それに、商会が取り扱う商品の中には酒も含まれている。

 今年の出来を確認する、だとかで味見をする事だってあるのだ。

 対等な付き合いの場で飲まない事は可能だが、相手が格上の場合はどうしたって飲まなきゃいけない事もある。


 いくらニジェールがマレットの事を愛していようと、それだけではどうにもならないのだ。

 最初の頃の初々しい二人きりのお茶会程度なら二人きりと言いながらも使用人だとかが周囲にいた。だからまだ、ガッチガチに緊張しなかったのもあるだろう。

 けれども二人きりになる逢瀬の場合、ニジェールはこの時点で色々と限界を迎えている。


 それでなくとも遅刻に遅刻を重ね、更にはドタキャンだ。


 いくらニジェールがマレットを心の奥底から愛していると言ってもこれでは流石に……


 と、当の本人であるマレットも思っていたし、ガットンやパリンストン夫妻も思っていた。


 正直この場でする話でないのはわかっていたが、それでもパリンストン夫妻とガットン、マレットはロイドの屋敷で婚約破棄に関しての話し合いを開始してしまった。

 浮気をしていないといっても、悪いのは明らかにニジェールである。婚約破棄に関しての慰謝料だとかの話し合いもし始めたが、ガットンも流石にパリンストン夫妻が不憫に思えてきたのでパリンストン家の伝手を使わせてもらう事を条件に慰謝料などは大分減額した。伝手を使わせてもらうので、その分の使用料的な感じで資金援助も続けると太っ腹な事までも。


 多額の慰謝料を払うよりは全然マシである、という事でパリンストン夫妻とガットンの話し合いはとても穏便に終了した。マレットも了承済みである。


 だって、いくら自分の事が好きだって思っていても、だからデートに遅れてくるのはどうかと思うし、ましてやドタキャンなんて以ての外。埋め合わせをすると言ったってその埋め合わせ自体がマトモに行われた事もない。

 いつかは自分と二人きりという状況に慣れてくれるかもしれないが、それがいつになるかはわからないし、毎回酒を飲んで素面じゃない状態でというのもマレットは嫌だった。自分もお酒を飲んでほろ酔い状態であるならまだしも、自分だけが素面で、というのは単に酔っ払いの相手をしているだけにすぎないのだから。


 というかだ、そんな状態で結婚したとして、子作りとか果たしてできるのだろうか。

 流石に口に出せなかったがマレットはそう思ってしまった。

 だってお茶会の時はまだ周囲に人がいたから、二人きりといってもまぁどうにかなっていたのだろうけれど、結婚してそういう事をする時は間違いなく二人きりなのだ。酒に酔った男とそういう事をするのはちょっとな……とマレットは思ってしまうし、かといって彼が自分と関わるのに酒の力を借りなくなるまで待つ、となると果たしていつまでかかるかわからない。

 一年程度で克服できるならまだしも、下手したら十年経っても……なんて事だって有り得るのだ。


 最悪すっかりおばあちゃんになってから、なんて事もある。そうなった場合、子供を作るどころの話じゃない。


 マレットだってニジェールの事は好ましいと思っていた。いたのだけれども。

 流石にこれは、ちょっと……となってしまう。


 なのでお酒に酔って彼が気持ちよく眠っているのを見ながらも、婚約破棄に関して異議を唱えなかった。

 何が何でも彼と結婚したい! と思えるまでの熱量はまだ育っていなかったのだ。



 さて、そうしてニジェールが酔いから醒めて起きた時には婚約破棄がなされていた。

 眠っている間に一体どんな夢を見ていたのかは知らないが、ニジェールにとって理想の女性との結婚という現実も夢のように終わりを迎えたのである。


 勿論ニジェールは反論したのだが、パリンストン夫妻やガットン、マレットに今までの事を言われてしまえば返す言葉もない。そもそも目覚めた時にはもう終わった話になってしまっているのだ。それをひっくり返せるだけの何かをニジェールは持ち合わせていなかった。



 いっその事緊張しっぱなしであろうとも、不様を晒そうともマレットに縋りついておけばまだ他の未来があったのかもしれないが、どちらにしてもとっくに終わった話である。

 婚約破棄されてしまったニジェールですが、お酒が入らなければマトモなので(とか言ってる時点で漂う駄目駄目臭)、婚約破棄後いきなりお家を追い出されたりはしていないけど、その後の生活はとても大変な事になってそう。

 とりあえず不憫に思わないでもなかったのでもしかしたらガットンが下働きとして雇ったりするかもしれない。婚約は破棄されたけど、今後の働き次第ではワンチャンあるかもしれないがその可能性はとても低い。一応お酒さえ飲まなきゃ真面目でお仕事もきっちりできる人なので、どこまでも転落する人生とかそういうのはギリギリで回避できるかもしれない。

 ニジェールくんの今後は基本的に想像にお任せ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 下戸の身からすると、酒での失敗はしたくないものですね。 飲酒運転なみの失敗をしないといいのだけど、彼。
[良い点] 途中について挟まれる『もう婚約破棄されたわけだが』のツッコミが最高でした。 これ、すごくありそうな話でもありますね。 [一言] 酒飲んで約束忘れて友だちと遊びに行って約束忘れた段階でこりゃ…
[良い点] 酒は飲んでも吞まれるな [一言] 「それさえなければいい人」は「それがあるからダメな人」なんですよね
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