無能テイマーの追放回避大作戦
追放されるわけにはいかない!
まだ剣と魔法が世界を支配し、銃が少しずつ発展し始めた頃のこと。
魔物と呼ばれる凶悪な動物達が跋扈する世の中で、戦えない人々を守っているのは、冒険者と呼ばれる人達だった。
その冒険者が頼り、荒事慣れしている彼らに仕事を斡旋する組織こそ、冒険者ギルド。
そして私の就職先でもある。
私の名前は、マナリ・マナリ。誇り高きノーム族のテイマーにして、冒険者登録してから10年の大ベテラン。
「マナリ・マナリ!てめーはクビだ、この無能テイマーが!!」
そしてたった今、パーティーから無能の烙印を押された、ベテランの役立たずである。
「リーダー・ロイド。その評価にはいささか納得がいかない。私を無能と評した理由を説明してほしい」
「いちいち説明しないとわかんねーのか!?」
「わからん」
わかっていれば質問などしない。
「こ、こいつ……!!」
「ま、まあまあリーダー、落ち着いて」
どうどうとリーダーを宥めにかかっているのは、私の少し後でパーティーに参加した破壊魔法使い、サルゴン氏だ。圧倒的な破壊力で魔物たちを殲滅してくれる、私から見ても有能な冒険者である。今では立派な参謀兼側近だ。
「マナリさんがこういう性格だってのは、リーダーだって分かってるじゃないですか。悪気は無いんですよ」
「そうだぞリーダー・ロイド。これこそが私だ」
「イヤお前が言うなお前が!!俺から無能呼ばわりされた自覚ねーのか!?」
「まあまあまあ……!マ、マナリさんも、もう少し穏便な言葉を選んでください!いつも言葉が足りないんですよ!」
ふむ、言葉が足りないか……なら少し言葉を足すとしよう。
「ではもう一度、平たい言葉で言い直そう」
「このやろ……!」「リーダー抑えて、話進まないですから!」
「私は今でもパーティーに貢献したいと考えている。行く宛のなかった私を拾ってくれた、リーダー・ロイドへの恩返しがまだ終わってないからな」
「は……?」
「故に、リーダー・ロイドからみて足りないと思う部分を、すぐにでも改善したい。どうか私の足りない部分を、1から教えてほしい」
私がペコリと頭を下げると、リーダーから発せられていた怒気が、急激に小さくなったのを感じた。
「ほら、リーダー。マナリさんは純粋に、改善点を知りたいだけなんです」
「くそっ……!こいつのこういう所が、特に嫌いだ!これじゃ俺が悪者じゃね―か!」
「リーダー・ロイド」
「わかったようるせーな!いいか、一度しか言わねぇぞ!3日経っても改善されなかったら速攻で新人を雇い入れる!!テイマー以外の新人をな!!」
「分かったから早く言ってくれ。3日しか無いなら時間が惜しい」
「き……さ……ま……!!」
「マナリさんは、すぐにでも直したいだけですから!マナリさんも、リーダーが言い終わるまでしばらく黙っててくださいね!?」
サルゴン氏が言うなら、そのとおりにしたほうが良いのだろう。私はテイムモンスターを一時拘束する時に使うテープで、口元を覆った。これで反論したくても反論できまい。
「もごっ」
よし、話してくれ。聞く準備は万端だ。
「……リ、リーダー。準備良いみたいです」
「絶対バカにされてるだろこれ……くそがよ!いいか、改善すべき点は3つだ!いや本当は無限にあるが、とにかく今から言う3つは即改善しろ!!致命的だからな!!」
無限のところを3つまで絞ってくれたのか。リーダー・ロイドは優しいな。
「まず1つ!てめーは火力が無さすぎる!操作型テイマーが現地モンスターしか操作できないのは知ってるが、犬程度の大きさしか操作できないのはどういうわけだ!?そんなんで大型モンスターと戦える訳ないだろ!」
いや、狼までなら行けるぞ。……などとは流石に言わない。今は口が塞がってるのも理由の一つだが、ご指摘の通り、それは操作型テイマーの明確な弱点だからだ。
同じテイマーでも懐柔系テイマーであれば、熊クラスの魔物を子供の頃から育てることで、あちこち連れ回すことが出来る。テイムモンスターをロストした時点で育て直しになるが、その分連れ回す戦力は絶大なのだ。
しかし操作系は、どう頑張っても狼クラスが限界だ。自分が持つ魔力だけで魔物の体を操るので、あまり大きいと魔力不足で操れないのだ。
「2つ目!てめーは単独戦闘力が無さすぎる!魔物を魔法でテイム出来るまでに俺等がフォローしなきゃいけねーし、魔物操作以外に使える魔法が無い!おかげでテイムモンスターをロストしたら、また俺等がお前の介護をしなきゃいけないじゃねーか!!」
ふむ、これも反論しにくい指摘だ。
操作型テイマーの利点は、テイムモンスターをいくらでも現地調達出来ることだが、逆に言えば現地まで行かないと調達できない。
操作中はずっと魔力を使って操り続けるので、あまり長時間は維持できないのだ。そしてモンスターを操作することに全魔力を集中するので、テイム中は他の魔法を使う余裕もない。
「3つ目!いいか、これが一番大事だ!すぐ直せ!ていうか今日から直せよ!お前はいつも、一 言 足 り な い !俺にも分かるように、常に平たい言葉で話せ!省略するな!専門用語を使うな!俺が理解できない時に憐れみの目で見るな!わかったかあああああ!!」
「リーダー落ち着いて!本当に血管切れちゃいますから!マナリさん、わかりましたか?」
「もがっ」
うむ、よくわかった。私は説明が終わったと判断して、口に当ててたテープを外した。ちょっと痛かった。
「どうやら私はリーダー・ロイドに、多大な迷惑を掛けていたようだ……深く反省している」
「ああ、全くだ!てめーというやつは!!」
「リーダー・ロイドの言うとおりだ。私は火力貢献に乏しく、一人では何も出来ない。得意のテイムさえ独りで出来ないくせにリーダー・ロイドに生意気な口をきく、この道10年などと誇るのはおこがましい、最低な役立たずだ」
「はっ!?おぉっ!?い、いやいやまてまて!俺は何もそこまで言ったつもりは」
「3日で直そう」
「……あ?」
「それさえ直せばリーダー・ロイドの側で働けるというのなら、是非も無い。私に任せておけ、必ず3日で直そう」
私の宣言に、何故かひどく狼狽するリーダー・ロイドに対し、サルゴン氏は眉間を抑えながら首を横に振っていた。
「お待ち下さい、マナリさん」
「待つ気はない。今は時間が惜しい」
「駄目です、話は途中です。3つ目はともかく、1つ目と2つ目の改善をどうやって評価するのか、まだ決めてないではありませんか。クリアラインは明確にするべきです。リーダー、何を以て改善されたと見做すのですか?」
なるほど……言われてみればそうだ。直しようがない部分も多いから、気合でエレファントクラスを単独テイムするしかないかと思っていたが。
「……ううむ」
「どうした、リーダー・ロイド。なんでも言ってくれ、必ず達成するから」
「お前は黙ってろ、調子狂うから。そうだな……ちょうど盗賊団のアジトを鎮圧する依頼が入っているな。相手は100人規模だが、これを3日以内にお前一人でクリアしろ。そうしたら認めてやる」
「リーダー!?それは流石に」
「黙ってろサルゴン。出来るな?マナリ」
なるほど、それなら分かりやすい。
「もちろんだ、リーダー・ロイド。必ず私一人で、そのアジトとやらを壊滅させて見せよう」
明確な目標が出来た私は、準備をすべく冒険者ギルドを後にした。まずはアジトの情報を集めないといけない。
「……リーダー、いくらなんでも言い過ぎですよ」
「全部事実だろうが。あいつ一人死ぬならまだしも、あいつが足を引っ張る役立たずなままじゃ、俺等全員が死にかねない。冒険はゲームじゃねえんだぞ」
「それは……しかし、あのアジトをリーダーなら一人で落とせるんですか?」
「俺じゃ無理だな。普通に剣が途中で折れて、返り討ちだよ」
「なっ!?自分では出来ないことをやらせるんですか!?」
「専門家の集まりなんだから、お互いに出来ないことがあって当たり前だろうが」
「貴方って人は……!」
「……ふんっ!いざとなりゃ、俺等でケツモチすりゃいいんだよ。全員でやれば、退路くらいは確保出来るだろ」
一日目。
「無理ゲーだな、これは」
私は盗賊のアジトを一望できる高台から、独り言ちた。これはアジトというより、もはや要塞だ。
「周辺を囲うのは、丸太の先を尖らせて並べた障壁か。火攻めをしようにも、見張りが多過ぎて着火できないな」
ざっと見るだけで見張り台に10人、門番4名、巡回で10人だ。頑張って火矢を当てたところで、すぐに消火されるだろうし、こちらの位置がバレてしまうだろう。
それに、ここに火をつければ周辺の森にも引火してしまう。流石にそれは出来ない。
「100人規模と言ってたが、この大きさとなると維持のために、その倍は居ると見ていいな。もっと無理じゃないか。土下座すれば、リーダー・ロイドも許してくれるだろうか?」
……いや、駄目だ。これ以上、彼を失望させたくはない。
「ん?あれは」
行商人と思しき一団が、荷車と一緒にアジト内へ入っていく。しかし金も物資も山積みの集団が、襲われずに中へ入れるはずがない。
「この周辺の安全を保証する代わりに、金品を納品させてるのかな。そうでないとあの規模は維持できないものな。……なるほど、行商……か」
そして私は、操作系テイマーだ。ならば、あのアジトを落とす方法は、一つしか思い付かない。
「一度戻ろう」
そしてそのためには、リーダー・ロイドから金を借りる必要がある。
「リーダー・ロイド。私を抱いてくれ」
「ぶっ!?」
「急に何を言い出すんですか、マナリさん!?」
「サルゴン氏でもいいが」
「はい!?」
「アジトを落とす算段が付いたが、荷車と物資を買う金が必要なんだ。私の体ならいくらでも差し出すから、どうかお金を貸してください」
「…………お前、俺らのことをなんだと思ってるわけ?」
「テイマーにソロでの要塞陥落を指示する無茶振りブラックパ――」
「わかった金は貸すからそれ以上言うな」
二日目。
私は行商人が好む旅人の服に身をまとい、大量の酒と食料を載せた荷車を引きながら、アジトの前を横切ろうとした。
「おい、止まれ!!」
野太い声で呼び止められて、心臓が飛び出るかと思った。私は小心者なのだ、叫ばれたら死んでしまうかもしれない。
「お前、いつものキャラバンじゃねーな。よそ者か」
「……し、新人なんです。先輩から、ここにご挨拶に伺えと、言われまして……」
ついでに陥落させてこいとも……。
「……女、いや子供か?世も末だな」
お前が言うなよ、盗賊さん。
「よし、お前の顔は覚えておいてやるよ。荷車を置いて、さっさと帰りな」
「は、はい!ありがとうございます!」
「おい、いいのか?そいつが本物の行商人かなんてわからねえぞ」
「本物だよ。見ろ」
門番の男が、荷車に入ってた酒のラベルをなぞった。そこには商人ギルドのマークが入っている。
「ギルド公認の交易品だ。貴族しか飲めないような高級品だよ。こいつを卸せるのは正規職員だけだ」
「よく知ってるな」
「元職員だからな、俺は」
残念、ハズレ。それは冒険者ギルドを通じて、商人ギルドから相場の10倍で買い取った、裏商品です。私の給料一年分が軽く飛びました。
「次は俺の分も持って来い。歓迎してやる」
「し、し、失礼します!」
ああ、心臓に悪い……!さっさと退散、退散!
「ん?くそ、まただ」
「うお、ネズミか?しっしっ!」
「昨日からやたら見るんだよ。地震でも起きるのかな」
「はっ!くだらねぇ」
――そして、三日目の朝。
「今日が最終日だ、マナリ。落とせるんだろうな?」
「任せろと言ったぞ、リーダー・ロイド。準備は万端だ」
「……マナリさん。いざとなればすぐに加勢しますからね」
「サルゴン氏は心配症だな。まあ私に任せておけ」
私は二人に森の茂みに隠れるように指示し、左胸を抑え、息も絶え絶えになりながら門番へ近付いた。
「ん?お前確か、昨日のガキ……」
「はあっ……はあっ……!あっ……」
「お、おい!?」
力無く倒れた私を、地面に体が触れる前に門番が抱きとめた。
「何があった!?」
「……ぐ、軍に、追われました……!盗賊の、仲間だろうと……アジトの弱点を教えろと……!」
「なんだと!?あいつら裏切りやがったのか!」
軍と協力関係にあったのは初耳だ。結構根深い問題なのかもしれない。
しかし、私の任務は国の闇を暴くことではない。今はアジトの陥落が最優先。
「荷車も、奪われ……ごめんなさい、お酒も、これだけしか」
流石にあの酒は二本も買えないので、瓶の中身は安酒である。
「おい、軍はどのあたりにいる!?」
「待て、消耗が激しい。まずは中で休ませて、体力が戻ってから聞き出そう」
「……わかった。おい、背負うぞ」
大きな背中だ。この人にも家族がいて、子供がいて、こんな風に背負ってあげたりもするのだろうか。
その門番は、思ったよりもずっと丁寧に、私をベッドに乗せてくれた。
「汚いベッドだが、床よりはマシだろう。2時間したら様子見にきてやるから、少し寝てろ」
「はあ……!はあ……!」
「……よく休めよ」
息切れの演技もしんどいものだ。特に、犯罪者に一抹の良心を見出してしまった後となれば。
「はあー……さてと」
気持ちを切り替えて、仕上げと行きましょうか。失敗すると私が死んじゃうので、どうか上手く行きますよーに。
「もうすぐ昼だぞ……マナリのやつ、大丈夫かな。随分あっさりと中に入ったが、出てこないじゃないか」
「心配なら、こんな無茶なテストにしなきゃよかったんですよ」
「うるせぇ。……ん?おい、なんかアジトの様子がおかしいぞ。……なんだ!?何が起こっている!?」
「アジトから盗賊が、一斉に逃げ出している!?」
「サルゴン!!先頭の馬に乗ってるあいつを見ろ!!指名手配書の!!」
「盗賊の頭目!?」
「馬ごとでいい!!魔法でやっちまえ!!」
「はいっ!!」
誰もいなくなったアジトの真ん中で、私は背中を伸ばした。ああ、くたびれた。寝てるだけというのも疲れるものだ。
「マナリ!」
おお、迎えに来てくれたのか。やはりリーダー・ロイドは優しいな。
「どうだ、リーダー・ロイド。見事アジトを陥落させたぞ。これで私の追放は無しだな」
「そんなことはどうでもいい!」
「むっ!?どうでもよくはないぞ!こんなに頑張ったのに!」
「ああん!?」
「まあまあ……二人共落ち着いて。リーダー、聞きたいことがあるんですよね?」
「はっ!?す、すまん……お前が無事で良かった。もちろんテストは合格だがよ……一体何をしたんだ?尋常じゃなかったぞ、あれは」
うん、確かにあれは想像以上の騒ぎだったな。作戦は大成功だ。しかし、残念な点が一つある。
「いや私の方こそ謝らないといけない。リーダー・ロイドの指示通りにアジトこそ奪ったが、指摘された大火力も、単独戦闘能力も改善できていないんだ」
「どういう意味です?」
「私はアジトの中に入った後――」
――さて、まずは……森で千切ってきた木の実を潰して、肌が見えてる部分へ斑に塗り付ける。うむ、我ながら実に気持ち悪い柄だな。あと臭い。はながまがりそう。
次に、アジトに隠れているネズミを数匹テイムして、適当に走らせる。狼クラスを操るのは一匹が限度だが、ネズミ程度の大きさなら、数匹同時に操るのは造作もない。
「うわっ!?またネズミか!?」
「最近本当に多いな。食料庫とか大丈夫なのか?」
念のため、これを門番がくるまで続ける。ちょっとずつ、数を増やしながら……つ、続け……るぅ……!?
「うっぷ!げろげろー……」
魔力を消費し続ける上、視界が10個くらい重なって見えて、物凄く気持ち悪い。過去最高レベルで酔う。早く門番さんに見つかりたい……。
「げろくっさっ!げろー……」
「おい、どうした?うわっ、げろくっさ!!」
あ、やっと来てくれた。病気の演技……は、いらないかも……。
「は、離れて、ください……!これは……感染症です……!近寄れば、あなたにも感染っ……げろげろー……」
「感染症……!?まさか、ネズミが持ってきたのか!?だとしたら、やべーぞ!?」
私よりも顔面を蒼白させた見張りが、転げるようにして部屋から飛び出していった。
「おい!ネズミが感染症を持ってきた!!感染ったら死ぬぞ!!全員逃げろーー!!」
「――後はお二人がご存知のとおりです」
「ネズミ数匹で、アジトを陥落させたと言うのですか!?」
「いえ、実際には金も使いました。でも頭目には逃げられましたし、無駄遣いだったかもしれません。やっぱり私は肝心なところで役に立ちませんね」
「……頭目は、サルゴンが始末した」
「流石はサルゴン氏」
「いえ、あれは偶然です……」
「そうだ、たまたま俺等の方角に逃げてきたから、それを不意打ちで仕留めただけだ。正直、想定よりずっと敵の数は多かった。俺等三人が正面から挑んでいたら、まず頭目には逃げられていただろう。……すまなかった、マナリ」
「リーダー!?」
あのリーダー・ロイドが……私に頭を下げている!!これは現実か?記憶してる限り、初めてじゃないだろうか。
「どうやらお前が使えないのではなく、俺の使い方が悪かったようだ。優れた道具も、使い手がヘボじゃ意味がない。追放は撤回するから、これからも俺のパーティーに残ってくれないか」
「言われるまでもなく、そのつもりだ。これからもよろしく頼むよ、リーダー・ロイド」
「ああ、よろしくな」
よしよし、一件落着だ。借金を抱えてしまったが、パーティーに残れたんだから、まずは良しとしないと。
しかし課題は残ったままだ。低火力と、単独戦闘能力か。今回は騙し討ちとペテンで乗り切ったが、今後もリーダー・ロイドの足を引っ張らないよう、この課題をどう克服していくかが問題だな……。いっそのこと、破壊魔法を頑張って習得してみるか?暴発する未来しか見えないけど。
「……あの、マナリさん」
「なんだろうか、サルゴン氏。ちょっと今考え事をしてるんだが」
指先から熱線を発射するとかどうだろう。かっこいいのではないか。問題は指先が確実に焦げることだが。
「アジトを落とした手腕、お見事でした。でもマナリさん程の知恵者なら、ソロでも活躍されてたんじゃないですか?」
「買い被りだよ。リーダー・ロイドの言う通り、今も昔も私は無能なテイマーさ」
「……マナ・リベルタス」
「っ!」
………。
「ちょうど10年前、とある街に伝説級モンスターであるフェンリルの子供を従えていた、ノーム族の女の子がいたそうです。彼女はソロでありながら、数多くの戦果を挙げていた。そして8年前のある日、フェンリルと共に姿を消した」
「テイマーの間じゃ有名なおとぎ話だな」
「マナリさん、貴方は――」
「サルゴン氏」
「はい」
「あれはおとぎ話だ。サルゴン氏が知っての通り、私は君より少し早く今のパーティに参加しただけの、無能テイマーに過ぎん。そして私は操作系だ」
「……そう、ですか」
「それにもし仮に、私が過去にマナちゃんだったとして、今の私とはなんの関係もないだろう。今は今、過去は過去だ」
「……マナリさん?」
……余計なことを思い出してしまいそうだ。これ以上は話すべきじゃないな。
「君を頼りにしてるよ、サルゴン氏。これは本当だ。二人であの短気で粗野な、優しいリーダーを支えようじゃないか」
「……そうですね。マナリさん、ありがとうございます。改めて、よろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼むよ」
私は無能なテイマー、マナリ・マナリ。
操作できるのは狼クラスまでで、一人じゃ戦えない弱いベテラン冒険者だ。
おまけにいつも言葉が足りなくて、リーダー・ロイドを怒らせてしまう。
だが、行く宛のなかった私を拾ってくれた彼に恩返しするまで、絶対に追放されないよう努力を続けるだろう。
「……あのガキ……生きてやがったのか……!」
その結果、新たな火種が生まれようとも。