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三題噺もどき2

夜の昼食

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくななじゅうろく。


※少し前に書いた「夜の朝食(https://ncode.syosetu.com/n2307ie/)」の吸血鬼さんの話―のつもり※

 


「……」

 パチ―と、パソコンのエンターキーを押す。

 にらめっこをしていた画面から視線を外しながら、かけていた眼鏡を雑にとりはずす。

 ブルーライトカットというやつだが、これが仕事をちゃんとしてくれているのか否かはよくわからない。この仕事を始めたタイミングで必要だろうからと買って、ずっと使っているから裸眼のままの状態を経験したことがないもので。

「……」

 つるをたたむことなく、適当に机の上に置く。

 どうせすぐ使うのだし、それぐらいいいだろう。

 ぐりぐりと目頭あたりをもんでみる。気休め程度にしかならないが、そういうのも大事ということだ。

「……」

 なんとなく霞んでいるような視界。

 夜目は効く方だし、目は悪くもないからたいして影響はないだろうと踏んでいたのだけど。

 眼鏡をかけて居ようといまいと、にらめっこの時間は短くした方がいいのだろうなぁ。

 しかし、集中できるときに一気にやりたい―というかやらないとできないタイプなので、基本長時間になってしまうのだ。

「……」

 ようやく戻ってきたような気がする視界の端に、壁にかけてある時計を入れる。

 長針は真上、短針は

 かなり長時間張り付いてしまっていたようだ。

 起きて、朝食を食べて、仕事を始めたから……あぁもうそろそろ昼食の時間だ。

「……おや…」

 見計らったようなタイミングで、リビングの方から足音が聞こえてくる。

 小さめの……というと怒られるが、実際自分に比べると小柄だし軽いからそうとしか言いようがない。

 かけてこないあたりが、見た目にみあった、らしさはないな。

 まぁ、実年齢はそれなりに上ではあるはずなので、小さいとか言うと傷つくのかもな。

「……んん“」

 椅子に座ったまま、ぐっと背伸びをする。

 年齢なんて気にするようなものでもないはずなのだが、同じ姿勢でいるのはやはり良くないなぁ。体がこわばってしまって仕方ない。

「……終わりましたか?」

「ノックをしろ、ノックを」

「はぁ……今更ですか」

「……そうだけどな」

 ノックもなしにガチャリと開けられた扉の先に、1人の少年が立っている。

 少年……という程小さくはないのだが、小柄で身長も低めのものだから、そう思ってもこちらに非はないと言わせてほしい。

 一応、主従関係ではあるのだけど……まぁ今更だな。

「ん……今日はカレーか」

 扉が開かれたことで、外の空気が室内に侵入してきた。

 それに混じって、ふわりとスパイシーな香りが漂ってきた。

 カレーの独特ないいにおいってやつだ。

 あれは、ホントに、不思議なくらい食欲をそそるよなぁ。

 本場で食べたものは正直口に合わなかったが、この国に来てから食べたカレーはものすごく口に合ったのだ。

 あと、作りやすくていい。固形のカレールーの素を入れるだけで作れるんだから。

「ルーの期限が近くなってたもので……」

「あー……すまんな?」

「いいえ別に?今更ですよ」

 にしては、ご機嫌が斜めに見えるのは何だろうな。

 たまにこうしてやらかすのだ。期限を確認して食材は買えと言われたし、言ってはいるから気にしないといけないとは思っているのだが。

 正直、腹に入ってしまえばいいと言う感覚が、まだ残っていたりするもので。

 仕事に追われてしまったりすると、忘れる。

「それより、もう食べますよね?」

「ん?あぁ。」

 これ以上機嫌を損ねると、夕食に何が出てくるかわからないので、さっさと動くことにしよう。

 正直、食事ぐらい、自分で作ろうと思えばできるのだが、なぜかそこは譲ってくれないのだ。

 作る楽しみもあるにはあるから、たまには作らせてほしいものだが。

 ―コイツのご機嫌とりというのも、なんだかおもしろいが、これも今更だ。

「……なんですか?」

「いやいや何でも、早く頂こう」

 固まった体をどうにか動かし、椅子から降りる。

 んー節々が痛い。

 なんとなく伸びをしつつ、扉へと向かう。

 出てくるのを確認しないと満足しないのか、扉の横で待っている。今日は、いつもより長時間こもってしまったから、心配でもさせてしまっただろうか。

「……鍋見てくるので、早く来てください」

「んん……」

 部屋の外に出て、扉をパタンと閉じる。

 つい数秒前まで力が入っていたのか、部屋の外に出た瞬間力が抜けた感覚がした。

 部屋の中だと、やはりスイッチの切り替わりがしづらいのだろう。

 今更になって、くぅと鳴り出した腹もその証拠だろう。

「……」

 リビングへと向かっていくと、香りが強くなっていく。

 あー、ホントに腹が減ってきた。

「……あ、ご飯はよそってくださいね」

「はいはい」

 コンロにかけられた鍋を、くるりとおたまでかき混ぜながらこちらに声を飛ばしてくる。

 くつくつと煮込まれたそれは、食欲をそそるには十分すぎるほどの出来だった。

「……うまそうだな」

「美味しいんですよ」

「……まだ食ってないが」

 食器棚の中から、二人分の皿を取り出す。

 すぐ近くに置かれているしゃもじを手に取り、一応水で濡らしておく。

 くっつきにくいと言うのが売りのものだが、念の為だ。というか、もう癖だなこれは。

「お前のはどうする?」

「自分で入れます、ルーも自分で入れますか?」

「ん?あぁ、入れるよ」

「あんまり入れすぎないでくださいね……夜ごはんも兼ねてるので」

「了解了解」

 冷凍庫にうどんが入っていたはずだから、夜はカレーうどんだろうか。

 なんてことを考えながら、白米をさらによそっていく。

 ある程度盛ったところで、鍋の元へと向かう。

「どうぞ」

「ん、ありがとう、お前も入れてこい」

 おたまを受け取り、軽く混ぜる。

 人参にジャガイモ、玉ねぎに肉。

 具材がある程度入るようにおたまで掬い、白米の上にかけていく。

 完全に混ざるのはあまり好きではないので、白と茶が半々になるように。

「福神漬けいります?」

「あぁ、出しておこうか」

 おたまを渡し、皿を一度テーブルに置く。

 座る前に、もう一度キッチンへと戻る。

 棚の中から小皿を取り出し、冷蔵庫を開ける。

「…あれ」

「切れてました?」

「いやぁー……あ、あったあった」

 奥の方に仕舞い込まれていた福神付けを引っ張り出し、適当に小皿に盛る。

 ……これぐらいあればたりるだろ。

 お互い「カレーには福神漬け」が染みついてしまっているから、これがないとな。

「お茶入れときました」

「ありがとう」

 二人分の皿が並ぶ机。

 二人分の椅子。

「なんか見ますか?」

「んーこの時間何もしてないからなぁ」

 座りながら、テレビのリモコンを操作する。

 時間が時間のせいで、深夜ニュースとかしか、していない。

 ドラマの類はあまり興味もわかないし、お笑いとかバライティーもあまり惹かれない。

「特にないなら見ていいですか?」

 そういえば、最近お気に入りの番組か何かができたと言っていたな。

 珍しく興味をひかれたようで、何よりだ。

 あんなに染まるまいとしていたくせに、今じゃ私より染まっている。

「……なんです?」

「いや、はい、リモコン」

 ポチポチとテレビを操作していく。

 お目当てが見つかったのか、テレビの画面はある番組が流れ始める。

 満足げにリモコンを机の上に置き、それを私は確認し。

「では……」

「「いただきます」」



 お題:カレー・おたま・テレビ

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