【食エッセイ】百年梅干しを食べてみた
皆さまは「百年梅干し」というものをご存知でしょうか?
私は知らなかったですッ!(迫真)
しかしある日、母親が紀州に伝わる珍味こと「百年梅干し」を持って来てくれたのです。
タッパーの中には、何やら塩の結晶がみっちりとついた梅干しがたくさん入っています。
「○○家のお母ちゃん(母の叔母)が亡うなってよ」
とバリバリの和歌山弁で母は語ります。
「蔵を整理しよったら、腰の高さの甕いっぱいこない梅干し出て来たんやんか。漬けたん昭和より前やて。○○家にもうたさかい、あんたにも分けたげるわ」
そういうわけで私は百年梅干しを手に入れたのです!
昭和より前に漬けた梅干しを──
さて、この百年梅干し。味が非常に気になるところですね!
見た目はしぼんだ梅、干し梅に近いです。そこに、これでもかっ!ってほど四角い塩の結晶がついています。
そのまま齧ったら、何て言うか──塩です。完全な塩でした。あとから例のクエン酸の感じが追って来ます。
どう食べたらよいのか分からず母に電話すると──
「水で戻したらええ」
とのことでした!そんな感じでいいの?
何だか原始的ですが、早速水に入れ一晩置いてみました。
そうすると……
あれ?
ちょっとふっくらしてるー!
齧って見ると……
普通に梅干しー!(驚愕)
百年前の梅が、水に浸けると再生しました。えー?何これ?梅干しって、永遠の命を手に入れてるの??
「非常食にもなるで」
なるほどー。百年梅干しは、紀州の皆さんの非常食だったわけですね。
「昔はそれが財産の一部だったそうやで」
そうか、これは形見分けなのか……
「しょっぱすぎんのやったら、水にはちみつ溶いてもう少し寝かせたらええわ」
百年後に、味の調節も可能ッ……!
すごいぞ百年梅干し!
でも、そうやって戻してもまだまだしょっぱい。かなりの塩分なのだろう。
そういうわけで、私はマヨネーズに百年梅干しを刻んで梅マヨディップにした。
まさか百年前のご先祖様も、この梅干しがマヨネーズなどという舶来モノ(?)に混ぜこぜにされているなどとは夢にも思うまい。
それから百年梅干しをネットで検索してみたところ、このような梅はかなりの高級品だったということが判明。
もっとも古いものでは、室町時代に漬けた梅干しもあるそうな。
私はその宝物の梅干しのタッパーを、台所の下らへんで保管することにした。
東日本大震災を経験し、南海トラフも心配される今の時代、備えあれば憂いなしだ。
百年梅干しよ……しばらくうちの台所で、非常事態に備えておいてくれよな……!
それから三か月後。
「○○家のお姉ちゃん(母のいとこ)が梅干しくれたんで持って来たんよ」
何やらプラスチック製の小さな甕を持ってうちへやって来た母。
中を見てみると、お馴染みの梅干しがある。
「これも百年もつように漬けてあるらしいから、非常食にしたらええわ」
わーお!
百年梅干しもう百年ぶん追加ー!!
「今食べてもうまいでー」
そりゃそうでしょうねえええええ!
私の子どもたちも梅干しが大好きだ。半分くらい味わったあと、私は再び台所の下の、百年前の梅干しの横にそれを並べた。
百年先輩の梅干しと並ぶ若い梅干しは、一体今どんな心境だろうか。
時は令和。
梅の和歌から取られた素敵な元号の時代。
たとえブクマをゴリッゴリにはがされても、私はこの梅干しとともに令和という時代を強く生きると心に決めた。