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第2-1話 悪夢に沈む街


 リュカが住んでいるのは、世界でも屈指の国土と権力を誇る、水と緑の豊かな国アクナウィリディス。リュカの目的地であるワンドラントは、大国アクナウィリディスを南へ出た隣国にある小さな街だ。


 早朝、アクナウィリディスを南へ出た列車が隣国に入ってすぐに魔物と歪魔(デスペラ)の襲撃を受けた。そのため、ワンドラントへ辿り着いたときには、夜もすっかり更けた頃だった。


「ヤーマン、リュカ! ひっさしぶりだなぁ!」


 街へ着くなり、背の高い黒人の青年が真っ白な歯を見せながらリュカを出迎える。嬉しそうに腕を回わしてきた彼からは、海のような香りが漂ってくる。


「ダニエル、うるさい」


「堅っ苦しいな! ダニーでいいって言ってんだろ!」


 ダニエル・シュミット。魔法協会南支部のSランク魔法士で、《海魔封士(マギア・バリテントゥマル)》の称号を持つ魔封士だ。


 浅黒い肌、刈り上げた髪、背はリュカより頭一つ分以上は高い。がっしりとした体型で、白い騎士のような制服の上からでも、鍛えられた筋肉が窺えた。


 余談だが、『ヤーマン』はダニエルにとって「よぉ」と声を掛ける程度の、軽い挨拶らしい。


 魔法士は各支部に五人以上の部隊があり、一人で任務に就くことはない。それは、万年人員不足の魔封士も同じだ。こちらには部隊などないが、基本的に二人以上で行動するのが常である……が、よりによってこの男か。


 大声で笑い声を上げるダニエルに、リュカの声は聞こえないらしい。


「ん? お前、また細くなったか?」


 失礼な。お前がデカイんだ。


「ちょっと、あなた。兄さまにそんなベタベタと触って……なんて羨ましい! もう少し適度な距離を保つのが礼儀ではなくて?」


「おぅ、アリスか。ヤーマン!」


「ヤーマン、ではなく、兄さまから離れてってば!」


「アリス、痛い! そんなに引っ張るな!」


 グイグイと引っ張るアリスと、なぜか離そうとしないダニエル。

 そんなやり取りをしている間にも、夜はどんどん深まっていく。


 二人を宥めつつ、リュカたちはどうにかワンドラントの入口に立った。


「余計な時間を取った。もう帰りたい」


「ダニエルのせいよ! わたしは悪くないもん!」


「久しぶりのダチとの再会だ。いくら時間を取ったって足りねぇよ!」


 全く話が噛み合ってないわけだが。

 口を挟めばまた無駄に時間を取ってしまう。ここはスルーしておこう。


 ワンドラントは高いレンガの塀で囲まれており、塀の上からは時計塔が細く伸びているのが見えた。


 リュカは本部に、ダニエルは南支部にそれぞれ連絡を入れ、一同はワンドラントに足を踏み入れる。


 特に何も感じないままに街へ入ると、そこでは住人たちが穏やかな生活を送っている気配が窺えた。住宅からは暖かな明かりが漏れ、時折美味しそうな匂いが風に乗って流れてくる。


「ん〜? なんかフツーだな」


フツーだったなら(・・・・・・・・)わたしたちが(・・・・・・)派遣される(・・・・・)はずがないでしょう(・・・・・・・・・)?」


「アリスの言う通りだな」


 そのとき、ザザッと通信機である羽を象ったイヤーカフスにノイズが走る。


「なんだ?」


 その言葉は、通信司令室に向けたものだった。しかし、聞こえたのか聞こえなかったのか。やがて、ノイズはプツッと音を立てて途切れる。


「どうした、リュカ?」


「通信司令室からの連絡が途切れた」


 リュカの方から掛け直しているが、全く反応しない。


「何の用かは知らないが、一旦外へ出て掛け直してくる」


 街の外で掛けたときはいつもと変わらなかった。もしかしたら、街中は通信機と相性が悪いのかもしれない。


 そんなことを思いながら、リュカは街の外へと一歩を踏み出す。境界線を跨ぎ、赤い瞳を正面へ向け、彼は驚きに目を丸くした。


「リュカ? 忘れ物か?」


「今、街を出たはずでは……?」


 どうなっているんだ?


 街の外へ出たはずなのに、リュカの目の前にはアリスとダニエルがいる。いや、そうではい。街の外へ出ることなく、街の中へ戻ってきているのだ。


「まさか!」


 ダニエルが何かを察して駆け出し、街の外へと出て行く。しかし、出て行った瞬間、再びリュカたちの前に現れた。


「何てこった! 街から出られなく(・・・・・・・・)なったぞ(・・・・)!」





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