複合スキル
落ち着いた俺は一旦ステータス画面を表示する事にした。
エクシードスキルの特性は、ミュウの講義で理解できたが、そもそも俺は自分の持っているエクシードスキルの効果すら知らない。
浸食されたステータスがどうなっているのかも。
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ヒトゥリ
種族:アジ・ダハーカ
称号:孤独な者 群れの主 勇者喰い 邪龍
エクシードスキル:回帰欲求・腐食
ユニークスキル:天業合成 異界之瞳 邪龍毒血 千業万魔
スキル:
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うわ……。
想定通りというか、何だか凄い事になってるなあ。
スキルはあの時、衝動のままに全部合成しちゃったから、ほとんど無くなっているし。
それに『飛躍推理』は、『欲望の繭』から逃れられずに取り込まれたみたいだ。
残念だったが、その分スキルも増えている。
『邪龍毒血』と『千業万魔』だ。
ユニークスキルが増えてるのは、種族がアジ・ダハーカとかいうのに進化したせいだろうか?
効果は……。
『邪龍毒血』は流れ出した体液を濃厚な毒液に変化させる。
毒の効能は麻痺、腐食の2つ。
幻覚を見せたり、病気にしたりはできないって事だ。
体液の毒液への変化は、体から出て時間が経ち過ぎるとできなくなる。
『千業万魔』は特殊なスキルだ。
業はスキルを、魔は魔法を表していて、名前の通りに膨大な量のスキルと魔法を自動的に蒐集してくれる。
目で見たり、名前と効果を知ったスキルを使えるようになるのだ。
ただし俺は蒐集したスキルと魔法の詳細を知る事ができない。
なので効果や発動条件の特殊なユニークスキルは、近くで見て体験して更に俺自身が理解しないと使えもしない。
その上エクシードスキルに関しては、蒐集すらできないらしい。
少し試してみようか。
「『人間化』して……この木と石でいいか」
『千業万魔』によるスキル『道具作成・熟練』で石斧を作る。
オーラから貰ったスキルブックで存在を知っていたので、これは使う事ができた。
次に、聖の『天賦武術』を意識して軽く押し当てる様に斧を振るう。
石斧は木にめり込み、硬質な細胞を引き裂いていく。
しかし残り木の皮一枚という所で止まってしまった。
「これぐらいか、それじゃあ次は『斧術』だ」
斧を引き抜いて、『千業万魔』で『斧術』を発動。
先ほどと同じ様に石斧を木に押し当てる。
今度は効果がはっきりと出た。
「お? おお……」
斧はあっという間に木を切断した。
横に真っ二つに割った後、斧は俺の手からすっぽ抜けて飛んでいく。
2本目、3本目と木々を引き裂きながら樹海の奥に消えていった。
明らかに『天賦武術』を使おうとした時より、腕力や腕の動きが良かった。
『斧術』が発動した証拠だ。
やはり俺は単純なスキルは使えても、ユニークスキルは使えないんだろう。
ただスキルを集めるだけでは使えない。
知識も併せなければ、使用はできない。
難しいユニークスキルを獲得したな。
ああ、でもスキルを集めるスキルなので、【天業竜】の生まれ持つスキルと似ているかもしれない。
「最後にこのスキルか。ミュウ曰く異常なスキルらしいが」
と、呟いて『回帰欲求・腐食』の説明を開く。
その説明は今まで見たどのスキルよりも長く、そして理解し難かった。
分かりやすく要約すると、こんな感じだ。
発動すると、自分と身に着けている物だけを数秒前に戻す。
記憶等の精神的な部位は戻らないが、怪我は治るし、体力も魔力も回復する。
更に戻った時の数秒間の間に、俺は何かを腐食させていた事にもできる。
数秒前に戻す効果の副産物として、過去も見えるみたいだ。
これは、『飛躍推理』と似た効果だな。
代わりに使えるだろう。
「ああ、そうだ。これを使えば正気を失ってからの俺が何をしていたのか分かるかもしれないな」
俺は検証の為に破壊された木々を後に、再度洞窟の中に入った。
破壊された木々や飛んでいった石斧は……。
まあ大丈夫だろう。
どうせ野生動物と魔物と、俺の眷属くらいしか住んでいないんだ。
誰かに当たって死んだりはしない……はず。
そう祈っておこう。