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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
悠久の源頭:邪竜覚醒と英雄鍛造
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すれ違い

「良くないだろ!」


 勇者のためにあてがわれた一等の部屋に、声が広がった。

 机が割れて、木片が床に転がる。

 

「ヒ、ヒジリ……どうしたのだ?」


 レインが心配そうに近づくが、聖の眼はこちらを捉えたままだ。

 よほど気に食わない事があったと見える。

 その理由は分かっているが……。


「俺は別にそれでいい。というより、元の世界に戻る手段があっても戻る気はない」


 聖が迫り、俺の襟を掴み上げる。

 首元を掴まれて少し窮屈だ。

 

「本気で言ってるのか……もう君は戻れないんだぞ! 何をしても故郷には! 君が本当はどんな人間で、何が好きで、何をしたい人間だったのか知ってる人はこの世界にはいないんだぞ!」


「いや、それは間違っているさ」


 聖の言葉にそう返して、腕を掴み返して捩じり離す。

 こいつは勘違いしている。

 俺が向こうの世界に戻りたいと。

 

「何もかも間違ってる。俺が向こうの世界に戻っても、俺を理解してくれる人は、お前が消えた日から存在しない。お前は俺があの日から10年間どんな生活をしていたのか知らないだろうが!」


 手を振り払い、押しのけた聖に更に言葉を続ける。

 聖よ、この世界は楽しいぞ。

 スキルがあり、訓練すれば報われ、俺を束縛する物もない。


「それにな、向こうの世界に俺を理解してくれる人はいない。こっちの世界にはいるんだよ! 俺を助けてくれて、俺がしたい事も、俺が何者なのかも理解してくれる仲間が!」


 お前には居ないのか聖。

 お前の隣にいるその子は違うのか。

 お前を心配そうに見ている後輩は違うのか。


 聖は横にいるレインを見て、振り返って絵里を見て、そして今にも吐き出しそうな顔で言った。


「僕は……僕はこの世界が嫌だ。だってこの世界で生きていくには、人を殺さないといけない。スキルだって、ただの人を殺すための道具じゃないか! 独だってそうだろ? この世界に来てから何人殺した? 自分よりもずっと弱い人や、帰りを待つ仲間や家族がいる人を何人殺した? 僕はもう……数えきれない。独、君は何人殺したんだ!」


「俺は……」


 誰も殺していない。

 生きていくのに必要なかったから。

 俺はドラゴンだから、俺はこの星のどこへでも自由に行ける翼を手に入れたから。

 目の前の脆弱な人間を前にして、そんな事は言えなかった。


 それでも聖の主張が間違っているのは分かる。

 誰かを蹴落としたり、誰かを貶めたり、誰かを見捨てたり。

 それは向こうの世界でもやらなければいけない事なんだ。

 俺はそうして、そうされて生きたんだよ、聖。

 そうやって疲れて、絶望して、やっと死んでこの世界に辿り着いたんだ。

 でも違うんだな。俺にとってここは楽園でも、お前にとってここは地獄なんだな。


「俺はそれでもこの世界が好きだ。あの地球になんて戻りたくない」


「……そうか独、君は随分変わってしまったんだな」


 俺達はあまりにも長い時間、お互いを知らなさ過ぎた。

 2年と10年、異世界で擦り減った聖と地球で擦り減った俺、その間には大きな溝ができてしまっていた。

 久しぶりの友との会合は、上等な部屋にただ重苦しい空気を漂わせるだけだった。



 俺達は場所を変えてシルバーウッドの外れまでやって来た。 

 レインの提案だ。


「狼獣人の間では、仲間や友人の間で諍いが起きて言葉では解決できない時、模擬戦の勝敗で解決するのだ」


 だから2人もそうすればいいと、レインは言った。

 俺にはどうもそれで解決できる問題には思えなかった。

 聖もそう思っているようだった。

 しかしそうする以外には方法も思いつかないので、気が進まないながらも俺達は模擬戦のために場所を移動したのだ。


「それではルールを再確認するのだ。武器やスキルや魔法は幾つでも使ってよし、攻撃は死なない程度に抑える、そして我が止めを掛けたら直ちに戦闘をやめるのだ。それと、ヒトゥリはドラゴンになるのは禁止なのだ。ルールは以上なのだ」


 青々と茂る平原で、俺と聖が向かい合う。

 俺の武器はグレイブ。

 聖の武器は聞いていたスキルの通り持っていた剣と、異空間に繋がる魔道具アイテムボックスの中にしまい込んだ多数の武器だろう。

 お互い準備は万端だ。

 グレイブの穂先を後ろに構え、聖を迎え撃つ構えを取る。


「準備は良し、それでは――始めなのだッ!」


 レインの号令と共に、聖が弾け飛ぶようにこちらに突っ込んでくる。

 中々に速い。

 少なくとも最初に戦った時とは比べ物にならない。

 だがシャルロよりは遅い。


散嵐夕薙(ストームスプレッド)』!


 風の属性魔法を応用した、相手の勢いを殺す薙ぎ払い。

 風の魔力が向かい来る力を削ぎ落し、やがてはこちら側から強い力で押し返す!

 薙ぎと共に放たれた暴風によって、聖が後ろに飛ばされる。

 

「くっ『属性魔法・大地隆起(ガイアアウェイク)』!」


 空中で身をひるがえした聖が、魔法により人の身長ほどに隆起した大地を足場に、跳ね返ってくる。


「無駄だ。『散嵐夕(ストームスプ)』ッ、足場が!」


 今の魔法は自分の足場を盛り上げるじゃなくて、俺の足場を崩す効果もあったのか。

 まずい、このままだと聖の攻撃を回避する事も守る事もできない。


「行くぞ独!」


 聖の刀剣の切っ先が俺の眼前にまで迫る。

 どうする?

 ブレスを吐くか、『噴炎』で逆噴射で逃げるか。

 どちらも駄目だ。

 すでに足場が崩されて後ろは地面、転びそうなこの体勢で回避する事を考えるな!

 ここで俺が取れる選択肢は1つ。


「『竜人化(ドラゴンスケイル)』!」


 金属と硬い魔力の鱗の削り合う音が骨身に響く。

 これで攻撃は防げた。


「僕の攻撃はこれからだぞ! 僕がどんな武器でも使える事を忘れてるのか!」


 聖の左手が刀剣から離れ、アイテムボックスに伸びる。

 取り出されたのは片手で取り扱える大きさの槌だった。

 そして、その槌が振り上げられ、刀剣を打ち付ける。

 何度も何度も、暴力的な音を打ち鳴らしながら、徐々に俺の魔力の鱗にめり込んでいく。


「くそっ! こんな小さな槌にそんな重量があるはずが……それも魔道具か!」


「そうだ、これには僕の地属性の『重量化』の魔力を籠めている。僕にとってはただの小さなハンマーでも、君には大岩を打ち付けられてるような気分だろ!」


 魔力の鱗にヒビが入る。

 このままだと、刀剣が鱗を突き抜けて俺の両腕を切断しかねない。

 やらせてもらうか……!


「なるほどな、確かに強力だ。だがもう俺も動けるぞ! 『炎纏』、『噴炎』、『属性魔法・無指向起爆(エクスプロージョン)』!」


「しまっ……」


 魔法の発動と共に、俺の体を中心に炎が出現・膨張し、瞬間的に熱せられた空気が聖を燃やし押し飛ばす。

 『炎纏』と『噴炎』による炎の即時展開と方向性の指定、消費魔力と時間の少ない『属性魔法・無指向起爆(エクスプロージョン)』による起爆。

 持ち直した足場を蹴り跳び上がり、吹き飛んだ聖を追う。

 今度はさっきみたいに態勢を整える隙は与えない。


裂空斬・改炎(エアダイブスラッシュ)


 『剣技』と『棒術』と『はめ込み』、そして身に纏った炎を利用した最大火力の物理攻撃。

 今まさに着地しようかという聖の頭上に、俺の影が映る。

 これで終わりだ。

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