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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
嵐の前:一時の平穏
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外伝:少女達の訓練

 早朝、まだ聖先輩が起きる前に私の訓練は始まる。

 野営地のはずれの、空きスペース。そこが私達の訓練場になっていた。

 そこでいつも、私と聖先輩はレインちゃんに戦闘訓練をつけてもらう。


 けど、この早朝のほとんど誰もいない時間帯は私とレインちゃんだけの秘密の訓練の時間だ。

 聖先輩には内緒にしてほしいと頼んだ時、レインちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、理由は聞かずに頷いてくれた。

 そんな優しいレインちゃんだけど、訓練の時だけは私が今まで接してきたどの先生よりも厳しくなる。


「レインちゃん、それではお願いしますね」


「分かったのだ。それじゃあ……行くのだ」


 レインちゃんの姿が一瞬揺らいだかと思うと、私の真横から訓練用の手甲をつけたレインちゃんが跳びかかってくる。

 持っていた杖で防ごうと、体をよじるけど、まったく追い付かずに吹き飛ばされてしまう。


「遅いのだ! スキルを持ってない魔法使いは、詠唱のために身を守らないといけないのだぞ! もっと素早く動くのだ!」


 レインちゃんの叱責を受けながら、私は草の上を転がる。


「倒れる時は、ちゃんと受け身を取るのだ! エリーの魔法は優秀だけど、戦闘中に自分の怪我を治していたら、その間に仲間が死ぬのだ!」


「うっ……はい!」


 転んだ拍子に付いた朝露を振り払って、レインちゃんを見据える。

 握った杖に力を込めて、詠唱をした。

 私の故郷の星々を模した、私だけの天体魔法の詠唱。

 星に興味があった私だから作れた、望郷の魔法。


「「『天体魔法・明星の軌跡(ダウンジャーニー)』」


「だから甘いのだ。1対1で魔法を使う時は、相手を怯ませてからにするのだ!」


 レインちゃんが魔力光を紙一重でかわしながら、近付いてくる。

 その速度は、おそらく聖先輩の全力よりも速い。

 いつもなら、これで終わり。

 うかつな私が一本取られて負け。

 でも、今日は違う。


「それは幻影ですよ」


「な……」


 レインちゃんの腕が私を透過する。

 杖を構えたままの私の姿が、揺らいで消える。


「『天体魔法・双虚衛星(キロン・テミス)』、私そっくりの幻影を2つまで出現させる魔法を、最初に殴られた時に入れ替わる様に使ったんです」


「……見事、なのだ」


 レインちゃんは、後頭部に突き付けた杖を感じ取ると、素直に手甲を落とした。

 いつもわがままで子供っぽいのに、こういう勝負に潔い所は彼女らしいなと思う。


「やられたのだ~。いつの間にそんな魔法覚えたのだ? というか、そんなに魔法が得意なら、近接戦闘の訓練なんて必要ないと思うのだ。ユニークスキルの治療もできるし、後ろで待っていれば、大抵やられる事はないのだ……なんで、そんなに戦いに拘るのだ?」


 そのまま、地面に転がったレインちゃんが私を見上げながら疑問をぶつける。

 当然の疑問だと思う。

 だって皇国でも、この連邦の皆も私に求めてくる事は同じで、『極白癒手』による治療だけだった。

 本当なら高校受験の時よりも努力して、スキル無しで天体魔法を習得する事も、私に求められていなかった。

 でも間違いなく、私個人には必要だった。


「……それは、私のせいで聖先輩があんな目に遭ったからです。私が自分の身も守れなかったから。皆が離れ離れになったんです」


 元々戦場に出ても傷ついて行く皆を見ているだけで、後ろにいる自分が嫌だった。

 そんな中でドラゴンに襲われて、皆大怪我を負ってしまった。

 竜輝先輩は腕を片方失くして、聖先輩は失敗の責任を負わされて皇国を追い出された。


 あの時私が気を失っていなければ、竜輝先輩の腕はくっつけられたはずだ。

 あの時自分の身さえ守れていれば、怪我をした皆も相手のドラゴンも治せたはずだ。

 そうすれば、任務を達成できて聖先輩が追い出される事もなかった。


「私が弱いから、誰も助けられなかった! だから今度は――」


「それは違う」


 レインちゃんの声が、私の声に被さる様に浴びせられた。

 いつの間にか沈み込んでいた顔を上げると、少し怒ったような顔のレインちゃんが目に入った。


「それは違うのだ。エリーは優しいのだ。スキルも心も、いつも人のためになろうと頑張っていて、皆のために強くなろうとしているのだ」


 レインちゃんが私の手を取り、撫でる。

 その手は泥に汚れていて、日本に居た頃とは大違いだった。

 それでもこの子は『綺麗な手』と、満足そうに呟いてから手を離した。


「友や家族のために強くなろうとする者は立派だと、父さまも言っていたのだぞ! だから私も強くなるのだ!」


 陽の光に照らされ始めた草原に、レインちゃんの声は良く透った。

 小さい体で胸を張って、力強く自信にあふれている声で、皆のためにと健気に言い放った。

 その姿は訳が分からないくらいに前向きで、頼もしい。

 そんな彼女のこちらに向ける青い瞳が、あまりにも綺麗で、私は力が抜けて思わず笑ってしまった。

 

「な、なんで笑うのだ。我は何かおかしい事を言ったのだ?」


「ううん、何でもないですよ。ほら、もう日が昇り始めてます。聖先輩を起こしてきて下さい。私は少し怪我をしたので、自分の顔を治さないといけませんから」


 思わず笑ってしまったのを誤魔化すために、聖先輩を起こす権利を譲る。

 いつもは私の役目だけど、訓練をしてもらってるし、今日は特に助けてもらったから。

 私の言葉を聞くと、レインちゃんはそれまで不安そうだった顔が、急に花開く様に笑顔になる。


「我が起こして来てもいいのか?……分かったのだ!」


 そしてレインちゃんは喜んで走っていく。

 途中でぴょんぴょん飛び跳ねて、鼻歌まで歌いながら。


「あ、ちょっと待って! 顔のここ、汚れてますよ。……はい、取れました」


 大きな声で呼び止めた後、近付いてレインちゃんの顔にはねた泥を拭う。

 うん、これで綺麗になった。

 じっと顔を見る。私とよく似た表情。


 この表情を、私は知っている。

 この子は私の仲間で、先生で、でもライバルだ。


「ありがとう、エリー! 行ってくるのだ!」


 そう、だから。

 例え戦場に居たって、汚れて傷ついた顔で、好きな人には会えないよね。

この小説を楽しんでくれたら幸いです。


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