ダンジョン準備
お久しぶりです。
精神力が回復したので復帰します。
あの俺の輝かしいロマン追求の冒険に相応しくない、陰険な策謀のあった日から数日経った。
唐突に事件に巻き込まれたせいで失われた休日を補給して、十分に休息を取って俺はまた活動を開始する事にした。
少し前にジョンとダンジョン探索について話した事を覚えているだろうか。
俺はあれからジョンに、次にダンジョン探索に行く時連れて行くように頼んでおいた。
今日はその準備に使う日だな。
といっても基本的な冒険セットは頼んだその日に、ジョンに古い物を譲ってもらったから、今日するのは別の準備だ。
俺がこの旅に出た目的の1つ。
スキル合成を行う。
ステータスと念じれば、俺のステータスが俺だけに見える様に眼前に広がる。
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ヒトゥリ
種族:メタ・イヴィルドラゴン
称号:孤独な者 群れの主 勇者喰い
ユニークスキル:天業合成 異界之瞳 飛躍推理
スキル:竜魔術 爪牙技 剣技 魔工熟練 棒技 はめ込み 消音 欲望の繭 腐食魔法 跳躍 運搬 格闘技 生活魔術 賞味 掃除 洗濯
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王都に来てからの数週間で俺は様々な経験をした。
あの誘拐事件は日常の中で起こったイレギュラーで、むしろ俺の目的であるスキルを習得する事に関しては日常の生活の方が重要だった。
日々の魔道具製作で『魔工』は『魔工熟練』へと進化した。
工事などによる『運搬』やごろつきへの対処で使う『格闘技』、そして人間文明に溶け込むための『生活魔術』『掃除』『洗濯』、手の込んだ料理を味わうための『賞味』、これらはあの樹海で棲んだままでは手に入れられなかったスキルだろう。
これまで生活を送ってきて、この世界の文明にも慣れてきた。丁度良い機会かもしれない。
もうスキルに頼らずとも生活は十分にできるし、俺には必要ない。
これらを使って新しいスキルを獲得する時が来たのだ。
というわけで『天業合成』の時間だ。
今回使うのは、この街に来て新しく手に入れたスキル達だ。
「まずは『運搬』と『跳躍』、『格闘技』と『賞味』から……さて何が出るかな」
もはや慣れ親しんだ自分の力が消失し変化していく感覚。
ステータス画面を確認すると『静電気』と『湿潤魔術』が追加されていた。
オーラから貰ったスキル本で確認してみると、『静電気』は微弱な電気を身体の一部から発生させる効果で、『湿潤魔術』は大気中の水分の操作を行う魔法に関する知識を得て、無詠唱でそれらを使える効果だった。
『静電気』は力が弱い為に一般的には使い道がないとされ、『湿潤魔術』は水分の操作ができるといっても、その力は『属性魔法・水』の下位互換だ。
といっても俺にとってはどちらも当たりだ。
俺は里で魔法については簡単な物以外はほとんど学ばなかったので、電気を発生させたり水の操作はできないのだ。
そして何と言っても、これらのスキルの使い道を考える事こそ俺の求めるロマンの追求だ。
「さて、最初の2つは当たりを引けたな。次の合成は少し今までと手法を変えてみるか」
俺が念じると、『生活魔法』『掃除』『洗濯』の3つがステータス画面から消える。
そう、俺は今回の合成で素材に3つのスキルを使用した。
これまでに何度か合成を試していたが、どうやら合成素材のレア度や世間で言われる有効度は、合成で出てくるスキルの質とはほとんど関連していないようだった。
スキルの質が関係ないのなら、量ならばどうだろうか。
はたしてその結果が、今俺の目の前に現れた。
『土耐性』と表示されていた。
土の属性を持つ存在に対する耐性……つまり土の精霊とかヴィデンタスとかの直接攻撃や土属性の魔法がある程度弾かれるようになる効果だ。
「悪くないな……」
思わず呟いたのはスキルの効果に対してではない。
スキル3つでの『天業合成』でこの結果が出た事に対してだ。
所謂、耐性スキルと呼ばれる存在には更に2つの主分類がある。
それは苦痛、恐怖、呪い、石化、狂化、睡眠、麻痺、腐食……といった心身に現れる影響に対する【状態異常耐性】と言われるスキル群。
そして火、水、風、土、時空、夢……といった世界を構成する物の属性に対する【属性耐性】と言われるスキル群。
変わり種の耐性スキルを除けば、全ての耐性スキルはこの2つのどちらかに分類されるそうだ。
勿論耐性スキル以外にも、こういった分類がある。
しかし、俺が先程手に入れた『静電気』や『湿潤魔術』はその主分類の更に下位に位置するのだ。
『静電気』は『電気操作』、『湿潤魔術』は『属性魔法・水』のごく一部の権能を使っているに過ぎないのだ。
まあ難しい話は抜きにして、要するに俺が言いたいのは、素材にするスキルを3つにした途端により上位のスキルが出るようになったという事だ。
下位のスキルだったら、多分『泥耐性』とかが出ていたんだと思う。
これがただの偶然なのか、それとも量をつぎ込めば良いスキルが出やすくなるという事なのかは、まだ分からない。
でも、これからの合成の方向性を決める良い結果が手に入れられた。
これからはより多くのスキルを集めて、3つ以上のスキルをまとめて合成する事になるだろう。
「さて、準備も終わった事だし明日に備えて今日はもう寝るか」
俺は宿の硬いベッドの上に寝転がって目を閉じた。
こんなベッドでもあの岩の上で寝ていた頃に比べれば、まだ快適だ。
こういった文明の快適さに知識、スキル、食事……そしてスリル。
樹海からこの街に来て本当に良かったと思うのはこういう時だ。
明日のダンジョンに想いを馳せている内に、いつの間にか俺は眠っていた。