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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
平穏の国セラフィ王国:商人と公務員達
28/118

悪党の巣に突撃

ヘッチュンヘプチュ。ヘッチュチュンヘッチュ。

 分からん。

 何も分からん。

 シャルロが俺のことを本当に信用しているのかどうか、信用していないのならこの件で商会からの信用を完全に得る前に始末するのが最善だとか、そういうのはもうどうでも良い。

 後ろから刺される事よりも、俺がそれに気を取られてプラムの救出に失敗する方が嫌だ。

 だからもう気にしない事にした。

 パンを飲み込んでそう決意した。


「隊長。報告します。救出対象のプラム・フィランジェットは現在あの建物内部にはいません」


 うわびっくりした。

 人が決意を決めた所にいきなり現れるなよ。

 思わずそう口に出しそうになったが、飲み込んだパンのおかげでそれは抑えられた。

 シャルロの背後に現れた黒塗りの人影が、報告をしている。

 おそらくこいつがシャルロの言っていた部下なのだろう。

 姿が見えないのはスキルのせいか?


「内部にいないとは? 悪党共の拠点はここではなかったの?」


「いえ、隊長。プラム・フィランジェットを誘拐した犯人達はここにいます。ただ、プラム・フィランジェットは我々の到着するよりも前に、移送されたようです」


「待て、プラムがここにいない? それじゃあ早くプラムを探しに行かないとまずいんじゃないか?」


「いえ、ヒトゥリさん。移送先は分かっています。隊長、こちらです」


 シャルロの部下がシャルロに紙片を渡した。

 俺からは紙片の中は陰で見えなかった。

 というよりも、見えないように渡している。

 やはりこいつら俺の事を信用していないのでは?


 シャルロは紙片を見て、少し笑ったかと思うとそれを握りつぶして部下に返した。

 そして部下はそれをしまった。

 まだ俺が見てないんだがな……。


「君は念の為プラム嬢の安全の確認をしてくるんだ。ヒトゥリ君、私達はあの建物に突入だ。……もう人質はいない。殺さない程度に好きに暴れられるよ。害虫狩りの時間だ」


 シャルロは剣を抜いた。

 呪文を呟き風をまとう。

 スキルに頼らない詠唱による魔法の発動か。

 スキルが無ければ魔法の発動には詠唱の記憶や、世界の構成への理解が必要になる。

 長い詠唱を伴う魔法は剣士が戦場で使えるような代物ではないが、戦闘前に使えばそれは……。


「先に行くよ」


 ――剣士を風に変えた。


「おい、待て! ……速すぎる」


 シャルロの姿が、建物の中へと消えた。

 慌てて後を追い、俺も同じ扉から中に入る。

 足を踏み入れた途端に、何かを踏みつけてしまった。


「なんだこれ……ああ、人間か」


 シャルロの倒した悪党だ。

 息はあるようだが気絶させられ、その上立ち上がれないように脚を斬られている。

 本当に()()()()程度なんだな……。

 建物の中をシャルロの残した痕跡を辿って進んでいると、向こう側から誰かの足音が聞こえる。

 シャルロの物ではない。

 焦って不規則な駆け足の音だ。


「なんなんだよ! 一体何が来てんだ! 俺達以外全員死んだぞ!」


「知らないわよ! どうせあのガキを助けに来た奴でしょ! 命を懸けるほどの金は貰ってない! 黙って逃げて!」


 男と女の2人組。

 どちらも同じ様な見た目をした悪党で武器は持っていない。

 飛び込んできたシャルロが取りこぼした奴らか。


「誰だ! ……退け!」


 先頭を走っている男が俺に気付いて殴りかかってくる。

 どちらにせよ見逃す気はなかったが、攻撃してくるというのなら少しは強めに無力化してもいいよな。


「この……ぐおぁ!」


 殴りかかってきた男に足を掛け、その勢いを活かして地面に顔面から叩きつける。

 派手な音と共に木製の床を突き抜けて、男の上半身が埋まる。

 怯んだ女の方に大きく踏み込んで近づき、拳を腹部に叩きつけてやる。


「ぐえぇ」


 カエルの潰れるような声と共に、これで女の方も無力化完了だ。

 この調子だとまだあと何人か取りこぼしがいそうだな。

 気を付けて進もう。

 不意打ちを受ける方ではなく、悪党共に逃げられる方に。



 あれから3回ぐらい取りこぼしを見つけて眠らせた後、ようやく俺はシャルロに追いついた。

 見つけたというよりも、シャルロがいる場所は嫌でも分かった。

 探している最中ある時から、建物の中に叫び声が響いた。

 最初は他に捉えられている人が悪党共に恐怖して叫んだのかと思ったが、すぐに違うと分かった。

 明らかに苦痛による絶叫、最初は威勢が良かったのに段々と慈悲を懇願するように弱弱しくなっていく、荒くれ者特有の口調による悲鳴。

 俺がホールのようになっている、広い奥の部屋でシャルロを見つけた時、彼女は悪党のボスらしき男を拷問していた。


「やあ、取りこぼしの処理ありがとうヒトゥリ君。もう少し待っててくれるかな? この男から色々とお話を聞いている最中だからね」


 幾つかの透明な風の剣で壁にはりつけにされている悪党のボスの肩を斬りつけながら、振り返りもせずにシャルロは言った。

 表情すら見えない彼女の声色は普段と変わりなかった。


「なあ、おいシャルロ。やりすぎだ。 話を聞くくらいならそんな事しないでもいいんじゃないか?」


「やりすぎ? どこが? この男はプラム嬢を誘拐し、王都一の商会から金品をせしめようとした悪党だよ。これくらい当然の罰だ」


 悪党のボスの叫び声の中、シャルロの声は不思議なほど俺の耳に通る。

 俺はまた一歩シャルロに近づいた。


「罰は……こいつを捕まえた後に与えればいいじゃないか。それにシャルロが与える必要もないし……」


「君は分かっていない!」


 ざくりと、また悪党のボスの体に刃が通された。

 急所以外を狙っているせいか、男の声はまだよく響いた。


「分かっていないんだ! こいつみたいな悪党がこの国をどんなに貶めているのか!」


 叫んだシャルロはこちらを振り向いた。

 日が沈み、明かりも灯らない、天窓から月明かりだけが差すこの部屋でその表情は見えないが、怒り、憎しみ、恨み、そんな感情が彼女の顔を覆っている事は伝わってきた。


「この国は大陸の貿易の中心だ。この王都では帝国、連邦、神聖国と南の港では外の大陸と貿易を行いこの国は栄えている。しかしその分、悪党も栄えるんだよ。麻薬などの禁制品や軍事用の武器の密輸、奴隷商なんて最悪な商売で私腹を肥やしている奴らが大勢いる! そんな奴らにかどかわされて、商人も貴族も、一般市民でさえもが犯罪に手を貸している! こいつみたいな悪党が! 善良な人々を悪の道へと引きずり込むんだよ! こいつらは害虫だ! この国をじわじわと食い潰していく害虫なんだ!」


 シャルロはそこまで一気にまくし立てた。

 そうして息継ぎをすると急に冷静になったのか、落ち着いた様子で続けた。


「害虫は放置すると増え続けるんだよ。だから害虫は根絶やしにしないと、この国が駄目になる前にね。そのためなら私は非道な事でもやると決めているんだ。――だから、まずはこいつの裏にいる人間をしっかりと吐かせないと」


 覚悟の籠った言葉だった。

 正直その決意と論理は俺には理解できないが、少なくともシャルロはそれに命を懸けてもいいと考えているのだろう。

 何も言えない俺を見てシャルロは剣を握りしめて、振り向いた。


「心を痛めて人を殺す必要はないさ。代わりに俺が殺してやるからな」


 男の声が聞こえた。

 俺の声ではない。

 勿論悪党のボスでもない。

 では誰か。

 

「なっ――! いつの間に殺した!」


 シャルロの叫びでようやく気付いた。

 悪党のボスは壁にはりつけにされたまま首から血を流していた。

 明らかに致死量を超える量だ。

 すでに死んでいるだろう。

 まさか俺がシャルロに気を取られている一瞬で殺したのか? 

 だが、悪党のボスは俺とシャルロの直線上にいる……つまり俺の視界には常に悪党のボスが映っていたはずだ。

 それなのに気付かなかった?


「そこだ!」


 シャルロが悪党のボスの真横に剣を振るうと、もやが晴れてローブを着た男が現れた。

 気が付かなかった。

 そこにもやがあった事にさえ。

 ローブの男はシャルロの剣を小刀で防ぎ、振り払った。


「まさか見破られるとは……なぜ分かった?」


「……隠密をしたいのなら音くらい隠したらどうだい? バレバレだよ」


 距離を測りながら、双方がにらみ合う。

 俺も廊下に繋がる扉を塞ぐように立つ。

 

「そうか、次からは改善しよう。まあ――もう会う事はないだろうがな!」


 男は素早く後退し、シャルロとの距離を取った。

 そしてそのまま、壁にしがみつき軽い身のこなしで壁を走る。


「窓だっ!」

 

 男の目指す位置を察したシャルロが飛びつこうとするが、男はすでに天窓から逃げ出していた。


「逃してしまったか……」


 シャルロがそう呟いて、忌々しそうに天窓を見上げる。

 

「ああ、それにこれを見ろ」


 俺は廊下からそれを持ち上げシャルロに見せる。


「なんだいそれ……って、ああ。そうだよね」


 廊下に落ちていたシャルロが気絶させた悪党の1人――その死体だ。

 あのローブの男の目的が口封じなら、悪党のボスやこいつだけでなく俺達が今までに無力化してきたこの建物の悪党全員が殺されているだろう。

 つまり、シャルロの言っていた()()()()()()を証言できる人間はもういない。

 完全に手詰まりだ。

この小説を楽しんでくれたら幸いです。


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