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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
共存の東諸国:馬鹿と狐狸
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内紛

「……なんだったんスか、今の! 体中土でドロドロッス! 一揆? 反乱? どちらにせよロクでもないことしようとしてるに決まってるッス!」


 よろよろと白黒の髪を薄汚れさせたフェイが立ち上がり、馬達の消えて行った方向に唾を吐く。

 こんな田舎じゃ一揆も反乱も起こす相手がいないと思うが……。

 考えなしに言葉を吐くところはフェイらしい。


「確か祭りとか言ってたな」


「祭り? この季節の祭りといえば収穫祭か何かかしら」


 マリーが首をかしげる。


「そんなとこだろ。それにしては負けるだのと大きな声で叫んでたのが気になるが……。どちらにせよ俺達にはあんまり関係ない事だろ。俺達はここに異世界帰りの話を聞きに来たんだから」


 だからこの里で何が起きてようが俺には関係ない。

 明日の朝にでも里長に話を聞いて、そしたら俺の目的は終わり。

 次はマリーの為にフラウロスの痕跡を辿らないと。


「私は参加するよ! 祭りだなんて絶対に面白いに決まってる。辺境の里の奇祭なんて参加しないと絶対に損だよ!」


 半ば眠りかけていたクリエも馬族の起こした騒動のせいで、叩き起こされたらしい。

 俺とマリーの会話の間に首を突っ込んで主張する。


「私も興味あるッス。なんせ客人の事を踏みつけるくらいに熱心なんすからね! ……ていうか祭りって言うからにはこの里の伝承とも関係あるんじゃないッスか、ヒトゥリ様?」


「そりゃ一理あるけど……」


 珍しくクリエに同調するフェイに諭された。


「だけどやっぱり俺は興味ないな。明日になれば俺は里長を探しに行く。気になるならお前達だけで見に行けばいいさ」


 旅に出た頃の俺なら同行した。

 だが今の俺にそんな余裕はない。

 聖の事、マリーの事、そして俺を追ってきている勇者レイオン。

 対処すべき事案が山積みだ。


「ヒトゥリ様……」


「ヒトゥリさん……」


「……」


 俺の言葉に三者三様に反応を返すのを見ながら、俺は貸し出された寝床に入った。

 ミュウがどう考えているのかは知らないが、あいつは俺の事に興味はないだろう。

 どうせフェイの考えに同調するはずだ。


 3人は俺が寝た後も話をしていたが、俺はその会話にも参加する気になれなかった。



 翌朝、俺は宣言通りに里長を探し回っていた。

 だが一向に里長は見つからない。

 それどころか、誰も見当たらない。

 

 考えて見ればおかしなことだ。

 時間にして昼前、俺がいる場所は田畑で、だとすればこの時間帯は農民が農作業をしていて然るべきだろう。

 俺達を泊めてくれたリーダーと呼ばれた男――馬も結局帰ってこなかった。


「何か……あったのか?」


 俺は畦道の真ん中で立ち尽くし、顎に手を当てた。

 昨晩の出来事、帰ってこない家主、昼なのに誰もいない里、魔物達の集落……。

 俺の頭の中に電流が走る。

 点と点が繋がり、線で結ばれる。

 俺の800億を超える脳内ニューロンが答えを弾き出す!


「皆、祭りの準備で忙しいのか!」


 田畑の狭間で、閃きの声が木霊する。

 俺の導き出したこの答えは、概ね正解の気がする。

 盲点だった。

 

 魔物には領主が居ない。

 だから治めるべき税金がないし、そこまで真剣に田畑を整備する必要もない。

 収穫量に頭を悩ませる必要もないし、いざとなれば魔法で食料も調達できるだろう。

 

 だとすればあそこまで必死になっていた祭りとやらに、里総出で一日中かかりっきりになっていてもおかしくない。

 

「ああ、しかしどうするかなぁ」


 里人全員が祭りの準備をしているのなら、里長も勿論そこにいるのだろう。

 そこに行って異世界帰りの伝承を聞いて、それで終わりと行きたいところだが、問題が1つ。

 ほぼ確実にフェイ達もそこにいるという事だ。

 

 昨晩あんなにセンチメンタルな心持ちで『祭りは見に行かない』と語った俺が、後から遅れて祭りの準備の会場に行くのは微妙に気恥ずかしい。

 合理的に考えれば多少の間違いぐらいは鼻で笑って、さっさと会場に行くべきだろうが。少しくらい心の準備をしたっていいだろう?

 

「ふぅ……」


 俺は場所を移し、林の下の手ごろな大きさの岩に座り息をつく。

 うん、ここで少し休んだら向かいの山に見える神社に向かおう。

 祭りって言ってたし、準備もそこでやるんだろう。



 風が何かの独特な甘い花の香を運んでくる。

 数日前のオアシスの強い日差しとは変わって、もう腕を捲ろうとは思わない。

 代わりに風の中に少し冷たい空気が混じり始めている。

 木々の影になった土は少し湿って、虫や蛇たちをのさばらせている。

 目の前の田畑の風景と相まって、なんだか本当に日本に帰ってきたみたいだ。

 

一度『欲望の繭』に飲み込まれ邪竜になってから俺の髪は完全に黒く戻ってしまった。

 竜魔法での人間化なので少し弄れば、またコモンドラゴンの頃の赤髪に戻れるだろうが、何故か俺は元に戻す気が起きなかった。

 虐殺の戒めか、それとも聖との絆のつもりなのか、俺自身にも判別はつかないが、それでもこの髪の変色に俺は意味を見出している。


 ……それにこの髪と顔を見れば転生者が同郷だと思って近づいてくるかもしれないしな。


「あれ? あなたこんな所で何してるの? 旅の人だよね」


 声に釣られ顔を向けると、およそ10代前半ほどの少女が自身の青白い髪に触れながらこちらを見ていた。

 人間、ヒトだ。

 魔物ばかりが住むこの村では珍しい。


「もしかして耳が聞こえない? 困ったなあ、念話なんてあたしできないんだけど」


「あ、悪い。少し考え事をしていただけだ。俺はヒトゥリ、お前と同じ人間で旅人だ」


「あたしは……あたしはアカリ。初めまして、ヒトゥリ」


 うっかり無視してしまっていたのを謝罪すると、少女は――アカリは朗らかな笑顔で俺に手を差し出した。

 その冷たい手を握ってようやく俺はこの少女に違和感を覚えた。

 周りに誰もいない。

 元々いない里人はともかく、旅の同行者さえ。


「アカリはその歳で1人で旅をしているのか?」

 

「その歳って……もしかしてあたしのことを子供だと思ってる? そんなにあたしが幼く見える?」


 思わず疑問を口にすると、アカリは膨れっ面になってしまった。


「違うのか? 14歳ぐらいだと思っていたが……俺の故郷だとその歳はまだ子供だぞ?」


「違うよ失礼な! あたしはこう見えても成人してるし、好きな物は酒と宴会! 多分あなたより長生きだよ!」


「そうなのか。それはすまなかった」


 そりゃ俺は実年齢1歳未満だからな――言葉を飲み込んで、黙って頭を下げる。

 身長も顔も子供っぽいのだが、彼女の場合はその上雰囲気までもが幼い。

 元気というか無邪気というか、裏表なさそうな性格がこの短時間で伝わってくる。

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